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7-1

周囲は、小高い山の中腹、人気のない広場だった。

山を一部削り、平地としたのだろう。断崖の斜面が場の南と北に広がり、町へと通じる道は糸のように細く頼りない。

 

ぽつんと立てられた建物は廃墟と化し、風化した遊具は触れれば崩れそうだった。

午後四時、そろそろ太陽が沈み始める時刻。風景は夕日とは異なる紅に染まっていた。秋口の紅葉が、幾重にもグラデーションを描きながら視界すべてを染め上げた。燃えていないのが不思議と思えるほど赤い。


暗闇と緑と白光のみを長く見続けた者にとってそれは、異常な世界だった。

船長も、懐かしさより違和感の方が強かった。果たして、紅葉とはこれほどまでに攻撃的な色合いだったろうか。

 

心動船は陸に打ち上げられたクラゲさながらに根を広げて横たわっていた。不定形ではないため平べったくなることはないが、近しいものがある。環境が根本的に合致しない場所へと放り込まれたものの悲哀だ。

 

降り立った船長はその違和感を振り切り、周囲を必死に見渡した。

おそるおそる降りる魔女と、真剣な顔で鼻を動かす聖女。

猫はこれ幸いにとばかりに逃げだそうとするが、根に捕まった。


「どこだ!」

「わたしの感知範囲にはない」

「猫――! ってクソ」

 

一端は逃げようとしていた猫だが、初めての風景に戸惑い、恐怖した。

どこにピントを合わせていいのかすらわからない。森に潜む菌類を観たかと思えば、真下にいたミミズの蠢きに飛び上がる。

魔女はおそるおそる外を眺める。


「えと」

「みっちゃんは下手に動くな! 触れたらヤバい」

「その名前を言うなぁ!」

「やっぱりそうだったんじゃねえか! いいからそこらのモンに触れるんじゃねえぞ! 俺たちがいまのあれに触れたら、向こうが吹き飛ぶ!」

 

境界面を通り現実世界に来たことは、混人、聖女、心動船、猫にとっては問題ないが、『聖域』は違う。より正確にいえば、どうなるかわかっていない。

だが、現実世界内に於いて精神的存在が無事にいる可能性は低い。一刻も早い救助が必要だった。


「クソ、どこだ――!」

 

周囲はほぼ水平。見渡す限りに他の気配はない。

木々の合間に放り込まれたとなれば絶望的だ。


「聖女! せめて位置方向わかんねえか!」

「なんか、すごくヘンな感じになってる! ぜんぜんわかんない――!」

 

意海に於いては明確な『名前の縁』も、現実世界ではそうではなかった。


「チ――ッ!」

 

森のどこかに入ったのか、それとも斜面下へと投げられたのか。

ここで選択を間違えれば、無駄に時間を浪費する。


「ハルちゃん――」

「魔女がセンをそのような名前で呼ぶことは好ましくない」

「おフネさんは黙ってて!」

「なるほど、では、みっちゃんは――」

「ウガァ!」

 

威嚇する魔女を無視して、船は静かに。


「わたしの得た記憶通りであれば、根の指す方面にくぼみがあったはずだ。感知範囲からも外れている。その位置は調べたのだろうか?」

「!」

 

魔女がハッとした顔になる。

船長は虚を突かれたその表情を認め。


「来い!」

 

三人で走り出した。

水平と思える場所にもゆるやかな起伏がある、一見するとわからぬその位置に、「彼女」はいた。

倒れ伏し、苦しげな呼吸を繰り返し、半透明になった裸体を晒す。まるで光で出来た雪をそっと固めて作ったようだ。触れれば呆気なく崩れてしまう。

生きているものであることを証明するのは、その口から流れる血の赤だけだった。


「フユちゃん!」

「聖女、おまえが抱えて船まで運べ! いいか、慎重にだ!」

「うん!」

「みっちゃんは来い! 時間勝負だ!」

「わかったけどその名前でよばないで!」

「断る!」

 

聖女は降り立ちフユを抱え上げる。

あまりの軽さに背筋が震えた。人の重さではなかった。


「ナ――ッ――」

 

その口が開き、言葉をしゃべろうとした。


「聞かない!」

 

その表情を理解し、聖女は叫ぶ。


「それ言ったらゼッタイ満足するつもりだ! だから、聞かない!!」


抱え、わずかにも揺らさないよう運んだ。



魔女と船長はわずかな時間も惜しんでコマンドを打ち込んだ。

通常とは異なる使い方を、心動船に強要する。


ハンモック上の壁面に、血で図形を描く。 

混者の血は聖女たちを傷つける、彼女たちが到着するより前にすべてを終えなければならなかった。

一人の手では間に合わないため、魔女に『接続』し情報を送り込むことで効率を上げた。


天井に図形を描く傍ら、船長は足首の血管を切った。そこから流れるものは下に彫られた形を伝い、意味を作る。忙しく小刻みな移動が溝を液体で満たし、図形として起動する。


心動船の内部が、すさまじい速度で作り替えられていた。

そうして作成されたものは、数十以上のハンモックだ、さながら百年の時を経た蜘蛛の巣の有様となったそこへ、『聖域』は運ばれた。


聖女は、異形の花とも見える場所の中心にフユを置いた。

とたんにそれは彼女を『包んだ』。外気より遮断し、現実世界とは異なる環境を作成した。

船長が参考にしたものは桐のタンス――分身体と交代する場所だ。


そう、現実世界とは、精神的存在を許さぬ世界だ。いくつかの適合種は猛威を振るうが、決して過ごしやすい環境ではない。

だからこそ、幾重にも展開されたハンモックは閉じて巨大な繭と化し、外から姿を見えなくさせた。


現実世界とも意海とも異なる環境の作成は、一か八かの賭であり緊急的な手段だった。

だが、ヒトガタの弱々しくも苦しげな声は、それで徐々に収まろうとしていた――




 + + +




「小康状態に移行」

 

船の言葉に、三人がどっと肩をなで下ろした。

近づこうとする聖女を船長は片手で押しとどめる。

船内は、殺人鬼が暴れ回ったような有様だ。むせかえる血臭も、聖女には良くない。


真っ赤に染まった手と足首にガーゼと包帯を丁寧に巻き付ける。血が滲み出さないことを確認してから、どうしていいのかわからぬ様子の魔女を手伝った。


「ほれ、貸せ」

「あ――」

 

不必要に大きくつけられた傷口に丁寧な処置を施す。

船内では、換気の音がやかましく響いた。


「……どうして、隠してたんだ」

「――」

 

魔女はうつむいた。すでにフードはかぶっていない。


「そんな、叱られた子犬みてえな顔すんな、別に怒ってねえよ」

「でも――」

「すげえ断片的だけどな、覚えてる」

 

びくりと肩が震えた。


「まあ、俺の記憶がどっか間違ってたんだろうな、けど、それでも保証してやる」

 

その頭に手を乗せ。


「『あいつ』はおまえを恨んでねえ」

「え」

「怒る対象を、そこで間違える『俺たち』じゃねえよ」

 

いい笑顔だった。

子供の頃を思い出させる。

横合いの壁も、保証するように震えた。


「たしかに、わたしが接種した情報もまた、似たようなものだ」

「――」

「あの『箱』の残骸より、そのような記憶を得ることができた。魔女、あるいは、みっちゃん、あなたに感謝さえしていた。最悪の事態は回避できたと」

「そっか、本人がそう言ったんなら、俺が怒る筋合いはホントにねえな」

「でも、でも――」

「それよりもだな」

 

船長はごく真面目な顔となる。

黙って見つめる、しん、とした静寂が五秒ほど経過し。


「おまえ、実はトイレ行きたくねえか?」


魔女も真面目な顔で。


「実はスゴク行きたいです」

 

強く頷いた。大酒を飲んだツケだった。


「内股でぷるぷる震えてねえで、そこらへんでしてこい」

「で、でりかしーは」

「ンなもん軍に求めるな」

 

魔女は内股で走って行った。




 + + +



 

心動船内部は順調に血の痕跡を吸収する。

聖女はおそるおそる中へと入り、繭のようにくるまれたそれに触れた。容態はまったく伺い知れ無い。


聖女は目を閉じ、ちいさくその名前を呼んだ。

船長は最悪を覚悟した顔で訊いた。


「どうだ?」

「あんまり、良くないみたい」

「そうか……」

 

船長は少し上を見上げ、外の魔女を伺う。


「……どうして、あんな風になったのか、そこら辺わかるか?」

「うん――」

 

うなずき、ただ真剣な目で、友達の様子を見た。


「フユちゃん、ぼくに殉教してほしくなかった。ここに来ちゃ、ダメだって――」

「そうか」

「それを伝えたかったんだって……」 


船長は黙って息をつく。

なにも言うことはできなかった。


死の間際に、友の行く末を気にかけ想うのを、責めることはできない。


「センチョ、フユちゃん、ちょっとまだ苦しそうだ」

「――容態が良くねえのは、急いで作ったもんだからだろうな」

 

船長は、船内後方の壁を見る。


「悪い、聖女、降りてもらえるか」

「? どうして」

「今からより完璧なもんにする」

「でも」

「もう一回、血を使う、おまえにかかったらことだ。あとその間、外の見回りしててくれ。ねえとは思うが、意物が来たらヤバい」

「ん、うん――」

 

不本意と不思議を混ぜ合わせたような顔で外へ出た。

外壁を完全に閉じ、船長は、静かに呼吸した。

血の臭いはない。それだけ心動船の空気清浄能力は高い。


振り返り、後ろを睨んだ。

船の中枢のある地点だ。


フユと呼ばれた聖女を包む繭は、現時点でこれ以上は手の加えようもなかった。

先ほどの言葉は、邪魔されず相対するための方便でしかない。

 

真剣な顔を変えぬまま――


「答えてもらうぞ相棒――『おまえは誰だ』」


鋭く糾弾した。




 + + +




「――センがなにを言っているのか不明だ。わたしはただの泰樹の種、心動船だ」

「それだ――」

「ふむ?」

「どういうわけか、おまえにその名前で呼ばれることに腹が立つんだ。最初からな」

「それはセンが狭量であることの印であり――」

「あとなァっ!」

 

喧嘩そのものの激怒を浮かべ、壁に手を当て言葉を重ねる。


「あのヘコみ、あれの位置をどうやって知った」

「……センは記憶力が悪いのか、破片より吸収した知識を元に――」

「ありえねえんだよッ!」

 

壁を殴りつけた。

その気になれば鋼鉄をも越える硬度を誇る壁は、ひび割れひとつ起こさないが、打ち付けた全力は心動船を揺らした。


「物質吸収することで知識情報を得る? ンなこと出来んなら、泰樹は端っから人間と契約結んでねえよ! おまえは俺や皆の血ぃ吸っただろうが、そっから情報得たことあったか? 一回もねえだろうがッ!」

「――」

「てめえ自身も騙すことのできねえ嘘言ってんじゃねえぞ」

「だが、それは――」

「ありえるとしたら、切っ掛けでしかねえ場合だ。俺はあの魔女のことをおぼろしにか覚えてなかったけどな、俺が『片方』を失ったこの場所でなら、思い出すことができた」

「そのことは必ずしも――」

「黙れ」

 

船長は思い返す。


「言い訳はもういい。俺の問いにただ答えろ」

 

失ってからの日々を。

己がただ一人しかいないことの、圧倒的な恐怖。

寂しさなどとは表現できない、魂そのものが凍えた。

耐えることができたのは、『片方』も同じだと信じたからだ。

いまも助けを求めていると、立ち上がりその手を掴まなければならないと信仰したからこそだ。

そして、失われたはずの記憶情報を持つ存在が、ここにいる。


「言え」

 

熱狂と狂気を目に押し込め。


「おまえは、誰だ」




 + + +




等山ハルトが最期に見たものがある。

距離感を失うほどの巨大な繁茂。太い幹と、ため込んだ陽光を放つ様子。


泰樹だ。

死に向かい、落ちる先に、それはあった。


そう、ここにいるのは、ただ一人明確な自意識を持つ船だ。他の兄弟たちの中には、誰一人としていなかった。泰樹ですらも。


その泰樹は、自分のことを『混種』と表現した。


混者とは、人が意海のものに影響を受けることで生まれる。

では、混種とは?

種が何に影響を受けたのか?


答えはもう、出ているようなものだった。

だが――認められるわけがなかった。


「センはなにかを勘違いしている」

 

鬼面を浮かべる船長の表情は、どこか決定的に傷ついた顔でもあった。


「わたしが、あなたの『分身』であるはずがない」

「……それが、おまえの答えか」

「ああ、そうだ。わたしは種だ、泰樹となるものだ」

 

捨てられ、否定されてなお、道を違えることはできない。

震える声は、そう宣言した。


「……」

 

船長は黙る。

何かを待つように。決心がつきかねているかのように。

指がこつこつと壁を叩く。

心動船は、その壁の組織を変化させた。

コマンドを描き突破するのを防ぐためだ。モザイク状に物質透過単位を変える。

船長の一挙手一投足に細心の注意を払い、どのような行動にも対処できるよう身構える。


「悪いが、それは認めらんねえ」

「!」

 

そうして、心動船はようやく罠にかかったことに気がついた。




「セン!」

「人間ってのは二つのことに同時に対処はできるが、三つ以上となったら相当怪しい。てめえが本当にただの心動船なら、気づけたんだろうけどな?」

 

現在、内部の膨大な作り替えをした直後だった。

いまも意識の半分は『聖域』の保護に回している。その上での船長との対峙だ。


「なにを――!」

「もう、詰みだ」

 

心動船は、ひょうたん型だ。前部に魔女が乗り、中間地点にハンモックがかかり、そして後部の『壁』に船長が座る。

心動船の中枢は、その座る場所よりさらに後ろだ。


「俺が素直にここでコマンド描いても抵抗されっからな、魔女に頼んで『外』から開いてもらうことにした」


たどたどしく血で『開放』のコマンドを書いている魔女の姿があった。

現在、血を限界まで吸い込んでいる状態だ。そして、誰よりも気を付けなければならない相手は内部にいた。


外部で行われたその動作を、完全に見逃していた。


「この――っ!」

「もう詰みだっつってんだろうがっ!」

 

根により排除しようとした動きを、船長の能力によりキャンセル。完全にとはいかないが、狙いを反らさせることには成功した。

最後までコマンドを書ききり魔女は入り込む。その侵入を排除する機構を心動船は持たない。


「う゛え!?」

 

おかしな叫びが壁向こうから聞こえた。


「おい、魔女、とっととこの壁開けろ」

「え、えええ……? うっそん?」

「おい?」

 

やけに混乱した声だった。

だが、壁はすでに組織変化を起こしている、こちらからコマンドで開くことはできない。


「ったく」

 

仕方ないとばかりに、手を開き、閉じた。

あらゆる世界をつなげるその『接続』は、五十センチもない距離を開いた。


「なんだよ――」

 

船長は、周囲の驚きが不服そうに。


「やっぱり『俺』じゃねえか」

 

等山春人ハルト春採ハルトに向けて言った。

そして、下半身と両手を曲壁にめり込ませた、胸像のような姿の『女の子』に触れた。




 + + +




「え、あの、ど、どゆこと?」

「あ、ぼくと、おんなじくらいの子だ」

「たぶんだけどな、俺と別れちまった時から成長がほとんど止まってんだろ。まあ、こうやって生きてるなら、些細なことだよな」

「いやいや、そういうこっちゃなくってですね!」

 

魔女は喜んでいいのか悲しんでいいのかわからぬ様子で、わたわたしている。


「なんだよ」

「どして女の子!」

「そりゃあ、元からこうだったしなぁ」

 

船長が悩んでいたことの一つだ。

自分が本当は男なのか女なのかがわからない。

戸籍などという便利なものは消失している。昔を知るものに訊いても、なぜか皆記憶が曖昧だった。

そう、船長の概念は、正確には『分身』ではなく『鏡合』だ。増えたのは『反対の概念を持つ自分』だ。


「ちがう、わたしは――」

 

まるで身動きしていなかった姿が、唐突にそうしゃべった。まるで精巧な人形に、唐突に魂が舞い戻ったかのようだった。

目を閉じたまま、歯を食いしばった表情。いつものように壁を振るわせるものではなく、喉から声を発する。船を経由しないそれは高く澄んだものだった。


「目は、開かねえのか」

 

不服そのものの、うなずき。


「そっか」


意海に漂った影響だろうなと把握する。

魔女はその声が昔通りであることに身悶える。


「おー」

「聖女、ためしに触ろうとすんなよ」

「だめか?」

「下手すりゃおまえの友達にまで影響出るぞ」

「むむ――」

「ぢゃ、ぢゃあ私ならば」

「魔女はなんかすげえ嫌だからヤメロ」

 

はあはあと鼻息も荒く接近する不審者を止める。


「……くぅ、初恋の相手が女の子だったなんて、ちょっとショックだったけど、考えてみればこれはこれでとてもスバラシイことなのでは――」

「よくわからんが、目ぇ覚ませ」

 

ため息をつきながら、船長はその少女に触れる。痛めつけられた瞼をそっとさする。

自分で自分を触っているような、あの楽しさはなかった。だが、膨大な安心があった。


「生きてたんだな」

「――」

「良かったよ、本当に」

 

常にしかめられていた顔が、ゆるんだ。

そこにいたのは、とんでもなく平凡な、ごく当たり前の青年だ。


「わたしは、認めたわけではない」

「それでも、おまえは俺だ。おまえの意志なんざ知らないよ」

 

声は不思議と優しく、満ち足りたものだった。

横合いで聖女はきょとんと瞬きした。

魔女はヘッドバンギングしていた。好きな者同士が触れ合っているこの光景を、どう処理していいのかまったくわからない。

猫はなにもかもを悟ったような顔で根に捕らえられたままだった。暇になったため毛繕いをする。ようやく奇妙な景色にも慣れた。これはこれで悪くない。

平穏なあきらめ顔は、しかし、即座に全身の毛を逆立てた鳴き声となった。

瞳孔を開き、真下を見る――そこから高速で浮上して来るものを視認した。




 + + +




猫の、その鋭い鳴き声に全員の顔が上がった。


「――ちいッ」


次に気づいたのは船長だ。

猫へと接続し、その情報を受け取った。


「え」

「な、なぬ……?」

 

魔女と聖女は気づいていない。

船は沈黙を続ける。

 

船の――ハルトの額を拳で小突き、情報を伝えた。

頑迷だった表情が変わった。浮かんでいた苛立ちが残らず消え去った。


「懲りずにまた来たみてえだぜ」

 

猫が見たのは、高速で迫る一本角と単眼の鬼。

彼らが見間違えるはずがなかった。『自分たち』を引き裂き、喰らったものだ。

 

自由になったことの歓喜がその体を浮かび上がらせ、長く閉じこめ続けた者たちを見つけ、さらに狂喜する。

本来これを撃退する心軍は機能を止め、移動の阻害すら行えない。


「猫を船内に戻せ! 魔女、聖女! ちっと狭いがポジションにつけ! 戦闘態勢に入る!」

 

船長は不安定な曲壁にあぐらをかいて座る。真上には裸の『自分』がいる。その右手が、するりと引き抜かれた。


「リベンジだ」


二人のハルトはそう言い、手を握り合った。

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