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08 消えた二人

 ノーマムの指示に従っていくつか食べれそうなものを見つけてくると、わたしたちはもといた場所に戻ってきた。


「レギーとバージエは、まだみたいだね」

「ああ。すぐに食べれるようにだけしておこう」


 けど、それからいくら待っても、二人はなかなか帰ってこなかった。

 わたしは、そわそわと落ち着きなくうろつき回る。


「どうしたんだろう。もしかして、なにかあったのかな」


 森のなかを見ると、木々の隙間が分からないくらい真っ暗になっていた。急速に不安が押しよせてくる。


「……わたし、探して来る!」

「あ、おい、ちょっと!」


 走り出そうとしたわたしの腕を、ノーマムがつかんだ。


「だめだ。もう森のなかは真っ暗だ。今行っても、はぐれるだけだ」

「でも、二人はどうするの?」

「ここで待つしかないだろう。帰ってこないようなら、朝になってから探しに行こう」

「そんなの、だめだよ! その間に二人になにかあったらどうするの? ここではなにが起こるか分からないのに」

「だけど——」


 わたしはノーマムの腕をふりはらった。


「わたしが戻らなかったら、探しに来なくていいから。ノーマムはここにいて!」


 日が落ちて、あたりはすっかり暗くなっていた。

 さっきは、あんなにすごいと思っていた木々も、今は見下ろされているようで、うす気味悪い。暗い森のなかには、何かが息をひそめていそう。

 後ろから肩をたたかれて、わたしは飛び上がった。


「きゃ~~~~~~!! やめて~食べないでぇ~~~!!」


 頭を抱えてくずれ落ち、ガタガタふるえるわたしの前に、だれかがしゃがみこんだ。


「きゃっ……」

「お、俺だ! 安心しろ」


 その声に、そっと顔を上げる。


「……ノ、ノーマム? どうして?」

「仕方ないだろう。一人で行かせるわけにはいかない」


 わたしはノーマムの顔をみて、だんだんと落ち着いてきた。


「……よかった。死んじゃうかと思った」 

「怖いなら、言えばよかったのに」

「いつもは、平気なんだもの。禁域だって思ったら、怖くなっただけ」


(でも、ノーマムが来てくれてよかった……)


 だれかがいるだけで、恐ろしさは引っこんでいくみたい。周りの木々も、今ではただの木に見える。

 ノーマムが、手を差し出してきた。


「早く二人を見つけよう。夜がふけると、体も冷えてくる」

「うん」


 それからわたしたちは、大声で、二人の名前を呼びながら探した。


「レギー! バージエ!」


 だけど二人は、一向に見つからない。不安が、どんどんふくらんでいく。


「どうしよう……」


 わたしは、冷えてきた指をこすり合わせた。自分でも、顔が青白くなっているのが分かる。


「——これ、見てくれ」


 ノーマムが拾いあげたものを見て、わたしは息をのんだ。


「それ! 制服のケープ!」

「ああ。多分、バージエが着ていたものだ。そこの木の根元に落ちていた。……それに、ここ。今気がづいたんだが、細い道になっている」


 ノーマムの視線の先を見ると、木の脇に、よく踏まれてできたような道があった。木と木の合間を縫うように、ずっと先まで続いている。

 わたしは、ふるえる指を手のなかに押さえこんで、先をみすえた。


「行こう。この先に、きっと二人はいる」


 ***


 道を歩いてくと、やがて、白くて背の高い建物が見えてきた。何本もの石柱が、天高く伸びていて、まるで神殿みたい。

 わたしたちは、木の根元から、そっと様子をうかがった。


「あれ、絶対あやしいよね。あのなかに、二人はいるのかな」

「かもしれない。……なあ、本当に行くのか?」

「もちろん! 放っておくわけにはいかないもの」


 けど、どこかノーマムの調子はおかしかった。


「どうして、そんなにまで必死になれる? 俺たちは、まだ知り合って間もないだろう?」

「間もなくても、放っておけないよ。友達、っていえるかは、わたしも分かんないけど、仲間だもの」


 わたしは、だれもいないのを確認してから、勢いよく飛び出した。

 白い建物がある場所と、わたしたちが隠れていた木の間には、大きな庭があった。

 庭には大きな池と、見たこともないぐらい背の高い植物が植えられている。

 植物の葉は抜いたばかりの剣のようにするどくて、茎の先には、ふくらんだドレスのような白い花がついていた。花びらの内側は、火が灯ったみたいに光っていて、あたりをやわらかく照らしている。


(これ、一体なんの建物なんだろう)


 花のかげにかくれていると、後ろからノーマムが追いついてきた。


「ねぇ、あそこ、扉があるよ。行ってみよう」


 わたしはためらいなく、柱で囲まれた廊下に足を踏み入れた。

 壁にゆいいつあった扉は、巨人が入れるんじゃないかと思うほど大きな扉だった。


「ん~~〜おんもいっ」


 体重をかけて押してもびくともしない。

そこに、かつ、かつ、とだれかが歩いてくる音がしてきた。

 わたしはあせって、ノーマムを呼んだ。


「ねぇ、ノーマム、力を貸して! 一人じゃ開けられないの」

「あ、ああ」 


 ノーマムの力が加わると、扉はその分軽くなって、ほんの少しだけすきまができた。


「ぬ~! もうちょっと、もうちょっと!」


 かつ、かつという音はすぐそこまでせまってきていた。顔を真っ赤にして押すと、ようやくひと一人分のすきまができる。わたしたちは急いで中にすべりこんだ。


「はぁ、危なかったぁ」


 肩で息をしながら、わたしは額にうかんだ汗を手でぬぐった。

 中も、外と同じように、白い石柱が延々と続いていた。

 真ん中にある通路の両脇には池があって、いくつもの池が、通路沿いに等間隔に並んでいる。池の中には、見たこともないぐらい大きな花がうかんでいた。


「ねぇ、ここってどういう場所なんだろうね。禁域にこんな場所があるなんて、変じゃない?」

「ああ。それは、俺も不思議に思っていた。精霊の国って、ことなのかもしれない」


 ノーマムも、いまいちピンときていないみたい。


「やっぱりここって、精霊の国なの?」

「さあ、俺にも分からない。正直、本当に精霊がいるのかどうか……」


 わたしは、ずっと先まで続く、通路の先を見た。


(そういえば、こういうとき、レギーがふるい立たせてくれたんだっけ)


心細くなりそうで、ぶんぶんと頭をふる。


「よしっ、とりあえず、この先に進んでみよう」


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