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07 古代の道

 道の先は、進めば進むほど、険しくなっていった。

 傾斜はきつくなり、今では、よつんばいにならないと登れないほど。頭上にはりつく光るツタのおかげで、手元が見えるのが救いだった。


「きゃっ」


 頭上にいたバージエの片足がすべった。小石が、ぱらぱらと落ちてくる。

 わたしは、顔に小石があたるのをよけてからさけんだ。


「バージエ! 大丈夫?」


 けど、いくら経っても、応えは返ってこない。

よく見ると、バージエの足はがくがくふるえていた。


「……バージエ、もしかして具合が悪いの? さっきも、顔が真っ白だったし……」

「うるさいわねっ。大丈夫よ」


 先頭にいたレギーが、手を差し出した。


「つかまるんだ。そこは滑りやすい」

「いいって言ってるでしょう!」

「今は、気を張っている場合じゃないだろう?」


 レギーは、無理やりバージエの手をつかむと、引っ張り上げた。

 バージエははじめ、手をふりはらおうとしたみたいけど、最後は大人しく引っ張られていた。

 わたしは二人の様子にほっとしながら頭上を見て、あっ、と声を上げる。


「見て! 少し先、光が見える!」


 まだ点のように小さいけど、穴の先に白い光があった。

 わたしたちは、顔を輝かせる。


「行こう! もうすぐだ!」


 最後の段を登りきると、わたしはくたくたになって地面に倒れた。


「うぅ、もうだめ。歩けない……」


 空を見ると、もう日が傾いていた。どうやらわたしたち、半日以上、歩きづめだったみたい。

 草原の絨毯は、日の光をいっぱいに吸いこんでいて温かった。ここなら、今すぐにでも眠れそう……。


(天国……)


 そのとき、隣に立つレギーが、ぼうぜんとしたようにつぶやいた。


「そんな……」

「どうしたの?」


 レギーは口を開いて眼下を見つめている。

 わたしもふしぎに思って立ち上がり、同じ方向を向いて、歓声をあげた。


「わ~、すごい景色!」


 雲海の切れ間から見えるのは、どこまでも続く豊かな緑。それを横切るように、大きな川が流れている。周囲にある切り立った山々のてっぺんは雪をまとい、まるで、白い牙をむいているみたい。

 バージアが、ぽつりとつぶやいた。


「……ねぇ、これって」

「……ああ」


 レギーがのどを上下させた。


「……私たちの学舎は、ずいぶん高いところにあるが、それでも、山のふもとにある。でもここは、そこよりずっと高い。おそらく、山頂付近」


 わたしはびっくりした。


「え? わたしたち、そんなに歩いたの?」

「いや、おかしいんだ。気温も、何もかも。私たちの歩く速度で、ここまで来れるわけがない」

「じゃあ、なんで……」


 わたしは、バージエと話したことを思い出した。さすがに山頂まで登ったのは、作り話だろうという話。


「もしかして、わたしたちが通ってきた道は、古代の道……?」


 ***


 レギーはしばらく考えこんでいたけど、何かを決めたように顔を上げた。


「……ここで考えていても仕方がない。とりあえず、先に進もう」


 すかさずバージエがたずねる。


「でも、先に進むって、どこに行くのよ」

「それも、何か手掛かりがないか、探しながら歩くしかないな」

「こんなわけの分からないところで? それって危ないんじゃない?」


 二人は、難しい顔をして話しはじめてしまった。


(なんだか、最初より仲良くなったみたい)


 わたしは嬉しく思いながら、ぽつんと横に立って、二人の話が終わるのを待った。


(ノーマムも、なにか考えごとをしてるみたいだし、役に立たないのはわたしだけ、)


 じっと、終わるのを待っていたけど、だんだん我慢していたお腹の音が、おさえれなくなってくる。

 ぐぅぅぅぅぅ~ともの悲しい音が鳴りひびくと、みんなの視線が、いっせいにわたしに向いた。

 わたしはお腹を押さえて、力なくうったえる。


「ねぇ、とりあえず、食べるものを探さない?」


 バージエは、あきれたように息をはいた。


「……仕方ないわね。あたしもお腹は空いてたところだし、ちょうどいいわ。でも、食べられるものなんて、あるのかしら」

「探せばあるかもしれない。分担して探してみよう」


 そこで、植物に詳しいというノーマムと、ある程度の知識ならあるというレギーの二手で、分かれることになった。わたしはノーマムと一緒に探すことにする。

 森には、見たことのないぐらい巨大な木々が立ち並んでいた。地面の上では、背丈より大きい、むき出しの根っこがからまり合っている。


「……わあ~、すごい大きな木。ここって、禁域なんだよね」


 けれど、いくら待っても返事はない。

 不思議に思ってノーマムを見ると、ノーマムは目を輝かせながら、きょろきょろとあたりを見回していた。わたしは目をまたたかせる。


「……もしかして、ノーマムは、植物が好きなの?」


 ノーマムは、はたと動きを止めると、何事もなかったかのように歩き出した。


「べ、別に。植物は、俺が研究してる専門分野だから……」

「研究? ノーマムは、植物を研究しているの?」


 ノーマムはけげんそうに首を傾げた。


「ああ。もしかして、知らないのか? 第二学院は、研究者が集まる場所なんだ。研究者に師事しながら学ぶのが、俺たち学生だ。聖なる山は、昔の生態がそのまま残っていることが多いから、植物の研究はかなり活発なんだ」


 はじめて聞く話に、わたしは目を輝かせた。


「へぇ、すごい! それならノーマムも、将来研究者になるの?」


 すると、ノーマムは目をまたたかせた。


「そんな反応をするやつは、珍しい。研究者は変わり者が多いから、奇異な目で見られることが多いんだ。……イェナは、研究の道には進まないのか?」

「うん。だってわたしは、指導官か、保母になることが決まってるもの」


 自分で口に出して言うと、胸がずきりとする。

 けれどもノーマムは、予想外の言葉を返してきた。


「いや、研究者も立派な国への奉仕だ。今までめったに事例がなかったから、知られていないけど、孤児にも門戸は開かれているはずだ」


 わたしは、目をめいいっぱいに見開いた。


「え、そうなの?」


 とつぜん、目の前に、新たな可能性が開けてきた。とくん、とくんと、胸が波打つ。


「……で、でも、試験があるんだよね?」

「うん? ああ、そうだな。でも、第二学舎上位卒業者程度の学力があれば、問題ない」


 わたしは、がくりと肩を落とした。それって、わたしにとっては、果てしなく高い壁みたい……。


(……でも、自分にも他の道があるなんて、初めて知った)


 今まで知ろうとしなかっただけで、もしかしたら、他にも道があるのかもしれない。


「……わたし、もうすこし、考えてみる」

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