05 旅の仲間
階段は先が見えないぐらい、地下深くまで続いていた。
わたしたちは、指導官長様のあとに続いて、おそるおそる下っていく。
階段のなかは、手持ちのロウソクの明りが二つあるだけで、あとは真っ暗だった。一つでも踏み外したらと思うと、背筋にすぅと寒気が走る。
(それだけじゃなくて、この場所自体が寒いみたい)
わたしは、白い制服のケープをたぐりよせた。
階段は、頑丈な鉄の扉の前に続いていた。扉は、ずっと地下にあったとは思えないぐらい、錆びひとつ見当たらない。
「ここから先は、私は行くことができません。ひとりずつ、なかに入るように」
わたしは、ごくりとつばをのんだ。
(いよいよ、はじまるんだ)
ネイビーブルーの髪の男の子が扉を押すと、重い扉は、わたしたちを迎え入れるように、ぎぃ……と両側に開いた。
その先には、深い深い闇が広がっていた。まるで、いっさいの明りを許さないみたいに、親指の先すら目に見えない……。
わたしたち四人が全員、扉の内側に踏み入れた、そのとき、
後ろにあった扉が、ガシャンッと音を立てて、ひとりでに閉じた。それと同時に、ふっとロウソクの明りがかき消える。
「なっ、どういうことよ! 暗くて何も見えないじゃない!」
赤毛の女の子が、動揺したようにさけんだ。
「扉を開けて! こんな暗いなかじゃおかしくなる」
最後に入った、バイオレットの髪の男の子がこたえる。
「だめだっ。押しても開かない!」
「それじゃあ明りは? 明りはつかないの?」
今度は、ネイビーブルーの髪の男の子がこたえた。
「無理だろう。つける道具がない」
わたしもそれを聞いて、顔を青白くした。
(それじゃあわたしたち、こんな暗いなかに、閉じこめられたの……?)
「うそでしょう。そんな、どうするのよ!」
「このまま進むしかない。——ここからは、手をつないで歩こう。そうすれば、はぐれることはないだろう」
バシンっと音がなった。女の子が、ネイビーブルーの髪の男の子が差し出した手を、ふりはらったみたいだった。
「はあ? 絶対いや! それぐらいなら、このまま進むわよ。足音があれば、分かるでしょう」
女の子は強がっていたけど、その声はふるえていた。
「だが、道が一つだと決まったわけでないだろう。はぐれる危険性は、少ない方がいい」
「いやよ。あんたとは仲良くしたくない」
(? なんで、こんなに嫌がるんだろう)
不思議に思っていると、女の子はおどろくことを言った。
「あんた、第五王子でしょう? 王子だからって、命令なんかしないで」
(だ、第五王子~!?)
わたしは思わず、息をとめて、ネイビーブルの髪の男の子を見つめた。
ネイビーブルーの髪の男の子は、しばらくしてから、口を開いた。
「これは、命令ではないんだが……まあ、いいだろう。念のため、私が先に歩く。それでいいか?」
「ええ、好きにすれば」
歩き出す足音がすると、わたしは、続けて歩き出した女の子の腕を引いた。
こそこそと耳打ちする。
「ね、ねぇ、王子ってほんとなの?」
「うるさいわね。そのぐらい、自分で聞いたらいいでしょう。わたしに話しかけないでよ」
すると、先を歩いていた、ネイビーブルーの男の子が、ため息をついた。
「王子なのは、本当だ。声かけがわりに、自己紹介でもして歩こうか。——私は、レギウス・スチュアート。第二学舎の、第二等生だ」
(スチュアート。それって、王族の名前って、聞いたことがあるような、ないような……)
「……本当に、王子様なんだ」
「様なんて、つけなくてもいい。レギーと呼んでくれてかまわない」
案外、気軽に話せるのにほっとして、わたしは女の子の腕を離した。
「じゃあ、レギー。レギーはどうして、学舎に学びに来てるの? 王子なら、いくらでもお城で勉強できそうなのに」
レギーは淡々と答える。
「決まりなんだ。王子であっても、民と同じ目線に立たねばならならいときがある。広く民と触れるように、と」
「ほぇ~、王子も大変なんだね」
赤毛の女の子が肘でこずいてくる。
「ちょっと、あんまり気安く話さない方がいいわよ。仮にも王子なんだから。不敬を買っても、知らないわよ」
「大丈夫だよ。それに、そっちの方が、失礼なこと言ってるじゃない」
こそこそ話してから、わたしは胸をはった。
「じゃあつぎ、わたしね! わたしは、イェナ・タリストア! 第一学舎の、第一等生。でも、赤ちゃんのときからここで育てられたから、ここは、わたしの家みたいなものなの」
赤毛の女の子が、納得のいったように息をはいた。
「……そういうことか。どおりで、こんなに世間知らずなのね」
「え? わたし、そんなに世間知らず?」
「自覚がないなら、いいのよ」
ツンッとした様子で言うと、今度は赤毛の女の子が口を開いた。
「じゃあ、つぎはあたし。あたしの名前は、バージエ・ブラウン。第二学舎の、第一等生よ。勘違いしてほしくないから言っておくけど、あたしは貴族じゃないの。商家の娘よ」
わたしは、目を丸くした。
「商家の人は、第一学舎に入るんじゃないの?」
「試験を受けて合格すれば、第二学舎にも入れるのよ。こっちの方がやっぱり、学力の水準が高いし、勉強に費やせる時間も多いから」
「へ?」
わたしは耳を疑った。
うそ。さっき、試験を受けてって言った……? 勉強したくて、わざわざ試験を受けるの?
(なんだか、わたしとは遠い世界……)
「……はは、頭がいいんだね……」
「別に。試験は、学舎に入った後、ついてこれるかを試すためのものだもの。合格したって、あたしと同じぐらいの学力の人は、たくさんいるわ。それに、編入試験の方がずっと難しいのよ」
「へんにゅうしけん?」
聞きなれない言葉に首をかしげていると、前にいたレギーがため息をついた。
「だから、つっかかってくるのか」
「当然でしょう」
わけが分からなくて、見えない二人に交互に首をふる。
「ど、どういう話をしてるの?」
「編入試験——学年の途中から入るための、特別措置だっていうのは知ってるわよね? この王子様は、それを使って入ってきたの」
わたしはまだよく状況がのみこめなくて、目を白黒させた。
「えっとお……それってつまり、どういうこと?」
「だから、レギーは途中から入ってきてもついてこれるぐらい、成績が良いってことよ。そんなの、ムカつくでしょう?」
わたしは、う~んと頭をひねる。
「……そういうものなの?」
「そういうものなの! あんたには分からなくても仕方ないわ。見るからにそうだもの」
……なんだか、かなり失礼なことを言われた気がしたけど、わたしは気にしないことにして、気分を切り替えた。
「じゃあ次! あなたは? あなたはなんていう名前なの?」
後ろに向かって声をかけると、一番後ろを歩いていた、バイオレットの髪の男の子は、少ししてから、口を開いた。
「……ノーマム・ジョーンズ。第二学院の第一等生」
それだけ言って、ノーマムは口を閉じちゃったけど、隣にいたバージエは、ぎょっとさけび声を上げた。
「だ、第二学院ですって~!?」
ものすごい声に、わたしは耳をふさぐ。
「な、なに? どうしたの?」
「知らないの? 第二学院っていうのは、二年間の通常過程をおさめたうえで、さらに専門的知識を深めたい人が進む場所よ。変わり者の巣窟とも言われているわ」
わたしは目を点にした。
(変わり者の、そうくつ? 貴族舎と違う学舎があるってこと?)
バージエは、わたしがついていけていないのを、知ってか知らずか、補うように言葉を続けた。
「……第二学院に進むためには、第二学舎で、トップクラスの成績をおさめなきゃならないの。あんた、もしかしてそんな顔して、あたしより年上なわけ?」
「ちがう! 歳は十一だ。飛び級したんだ」
わたしは、絶句した。さすがのわたしでも、これだけは分かった。
(うそ、わたしと、同い年……)
ノーマムは、それこそ、わたしには想像もできないくらい、すっごく優秀みたい……。
さすがのバージエも、ここまで優秀だと、いらだったりはしないみたいだった。レギーに対する態度と比べて、隣からは、落ち着いた気配がする。
わたしは、これからの旅を思って、思い悩んだ。
(う~ん、なんだかわたし、すごい人たちに囲まれちゃったみたい……)




