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11 わたしの未来

 思ってもみなかった理由に、わたしたちは、目を点にする。


「……儲かるからって、どうやって儲けるの?」

「そりゃあ、方法は色々あるわよ。百年に一度、こういうことが起こっているということを広めたり、それを脅しに使ったりね」

「えぇっ、もしかしてバージエ、秘密をばらしちゃうの?」

「当然よ。商人だもの。使えるものは使わないと。口止めだってされてないし」


 わたしは、まじまじとバージエを見上げた。


(こんな考え方をする人もいるんだ……)


「……バージエは、お金を集めて、何かほしいものがあるの?」

「それは……」


 バージエはちょっと言いよどんでから、早口でまくしたてる。


「立派な商人になって、早くとう様を助けるの。とう様、あちこち抜けてるから。あたしがいなくちゃつぶれちゃうわ」


 言い切ると、バージエはみるみる顔を赤くした。ばっと後ろを向く。


「バカみたいな理由って思ったでしょう! でも、でも、これがあたしなのよ」


 そのせわしなさに、わたしは目を白黒させる。

 ノーマムが、はぁ、と大きなため息をついた。


「うるさい。だれもそんなこと言ってないだろう。別にいいじゃないか、どんな理由でも」


 バージエは、ひょうし抜けしたようにノーマムを見つめた。


「……ありがとう」


 わたしはにんまりする。うん、うん、なんだかいい調子!


「じゃあ次! ノーマムは?」

「俺? 俺は……」


 ノーマムはほほをかいた。


「……まだ見たことがない植物が、見つかるんじゃないかと思って。禁域は、ふだんは人が踏み入らない土地だから、もしかしたら、太古の植物が、そのまま残ってるんじゃないかと思ったんだ」


 わたしは大きくうなずいた。


「ノーマムは、植物が大好きなんだものね! あのね、みんな、ノーマムは植物を研究してるのよ」


 レギーは納得したようにうなずいた。


「ああ、それで光るツタにも詳しかったのか。その袋も、もしかしてなにか関係しているのか?」

「あ、ああ。これは種だ。植物をそのまま持ち帰ることは難しくても、種ならいけるんじゃないかと思って」


 いつの間に、そんなに集めてたんだろう。麻袋は、両手におさまるぐらいの小ささだけど、ずっしりと重たそうにふくれていた。


「なるほど。そういうわけだったのか。すごいな。詳しい分野があるって」


 なんだか、いい感じに話が弾んできたみたい。わたしはうきうきと指名した。


「じゃあ次、レギーは? どうして参加したの?」


 レギーは、観念したように肩をすくめた。


「……私は、抜け出したかったからだ。今はまだ、楽な方だけど、城では、気を抜いてなどいられなかった。ここを抜けたら、またそんな生活が待っているだろうから。……だれのことも非難できないぐらい、身勝手な理由だよ」


 わたしは、びっくりして息をのんだ。


(……それって、わたしと、同じ理由)


 王子と孤児。こんなにも身分は違うのに、考えていることは同じだったなんて……。

 バージエが、ふんっと鼻を鳴らした。


「いいんじゃないの。あたしも、人のことが言えた義理じゃないもの。お互い様よ」


 わたしは大きくうなずいた。レギーに膝を寄せる。


「うん! そうだよ、絶対! あのね、わたしも同じなの。わたしも、この先もずっと、聖なる山で暮らしていくのかなって思ったら、一度くらい、自分の好きな道を選んでみたくなったの」


 レギーは、目を見開いてわたしを見つめ返す。それから、ふっとほほえんで、やわらかい笑みをバージエに向けた。


「ありがとう」

「ふ、ふんっ。いいのよ。王子に貸しができて良かったわ」


 わたしは、口元をほころばせた。なんだか、わくわくしてきた。この四人なら、これから起こることにも立ち向かえそうな予感——。

 わたしはばっと三人の手を取って、一か所に集める。


「わっ、なによ!」

「今、ここに友情が生まれたわ! これで、わたしたちに敵わないものはありっこなし! 四人で力を合わせて、絶対に約束の花を見つけるのよ! えい、えい、お~!!」


 ***


 まばゆい光が収まると、わたしたちは、花の咲き乱れる高所にいた。

 雲がずいぶん下に見えて、あたりを囲う山々も、化粧をほどこしたように白い。地面に咲く花はどれも小ぶりで、色とりどりだった。透けるような花びらが、風にやわらかく揺れている。


『道にそって進めば、おのずと、白き花のもとにたどりつけるでしょう。では、幸運を祈ります』


 頭の中にひびくようにシーレの声が聞こえると、ふつりと消えてしまった。


「……結局、肝心なことはなにも教えてくれなかったわね。ずるずるとここまで連れてこられたみたい」


 わたしはまばたきした。


(そうだっけ。ずいぶん優しくしてくれたと思ったのに)


 感じ方はひとそれぞれみたい。


「まだ、なにかあるんだろうな。注意はしておこう」


 レギーが歩き出したので、つられてわたしたちも歩き出す。

 白い小道は、花畑の間にあった。どうやら頂上に向かって続いてるみたい。


「なあ、ノーマム、この花もここでしか見かけないものなのか?」

「さあ、分からない。俺は、花は専門外だから……」

「ねぇ、植物の道に進もうと思ったのは、どうしてなの?」

「ちょっとイェナ、ノーマムをあんまり質問攻めにしないようにね」


 花畑を歩くのは、洞窟を歩いていたときよりずっと気楽で、打ち解けた雰囲気だった。わたしたちはおしゃべりしながら気ままに歩いた。


(……もう少しで、こんなふうにみんなと旅するのも、終わるのかな)


 ふと思いついた言葉に、さびしくなる。

 だって、これは仮初の時間なんだもの。無事、約束の花を手に入れることができたら、元の生活に戻らなくちゃならない。


(約束の花を見つけて、学舎に帰ったら、みんなはどうするのかな?)


 レギーは王子に戻るから、今と同じようにはしゃべれなくなるだろうし、バージエは、立派な商人になるために、勉強を頑張るんだろう。ノーマムも、持ち帰った種で研究を進めるんだろうし……。


(あれ? そうすると、こうして四人で集まっておしゃべりする時間は、もう来ないの?)


 よくよく考えてみると、みんなはただでさえ、貴族舎にいるんだから、会いに行くのだってむずかしい。

 それに気付くと、わたしはなぜだか、胸がしめつけられるように苦しくなってきた。


(あれ? どうしよう。やだ、もっとみんなと一緒にいたい。帰りたくないよ。だって、わたしは帰ったら、ただの生徒で、孤児に戻るんだもの)


 そうだった。どうして忘れてたんだろう。 

 わたしは、みんなのようになれないのに。みんなのように、学舎を出ても山を下りれないし、このさき一生、みんなと会う機会なんてないのに。


「…………イェナ? どうしたの?」


 足をとめたわたしに、みんながふり返る。

 わたしはうつむいて、ぎゅっと手を握りしめた。


「——やだ。こわいよ。この先に、行きたくない」


 バージエが、わたしの肩に手を置いて、顔をのぞきこんだ。


「どうしたのよ、急に」


 そのときだった。レギーがおどろいた声を上げる。


「見てくれ。地面がぬかるんできた」


 わたしははっと目が覚めて、足元を見た。

 さっきまで白かったはずの地面が、いつの間にか茶色に染まり、水が染み出してきていた。みるみるうちに地面がやわらかくなると、白い靴が泥まみれになる。

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