10 雑談
(……試すって、一体、どういうことなの)
わたしはむっと眉を寄せた。どんな理由かは分からないけど、勝手に人のことをもてあそぼうとするのは嫌だった。
わたしたちの気持ちを代弁するように、レギーがたずねた。
「……口を挟んで申し訳ないのですが、試すとは、何を試していたのでしょうか」
「それはまだ、詳しくはお伝えできません。しかし、あなたたちならきっと、白き花を手に入れることができるでしょう。非礼のおわびに、花の近くまでお送りします」
バージエが体を前に乗り出した。
「ちょっと待ってください。あたしたち、飲まず休まずでここまで来たんです。どうか一晩だけでも、ここに泊めていただけないでしょうか」
シーレは、にっこり笑った。
「ええ、もちろん。もともとそのつもりでした。わたしたちは、試すことはすれ、害を与えるつもりはないのです。食事と湯舟、寝床の用意は整えてあります。一晩体を休めてから、また、わたしのところにおいでください。——ウェルダム。あとは頼みましたよ」
「はい。お任せください」
ウェルダムの言葉を聞くと、シーレの姿は空気に溶けこむように、ふっと消えてしまった。
わたしは、今見たことが信じられなくて、ごしごし目をこする。
「うそ。あの人はどうなったの?」
「心配ないよ。わたしたち精霊は、空気のようなものなんだ」
わたしは、まじまじとウェルダムを見上げた。なんとなく分かっていたことだったけど、はっきり言われると、またおどろいてしまう。
「……ここは、精霊の国なの? 他にもウェルダムみたいな精霊が住んでるの?」
「もちろんそうさ。今この瞬間にも、そのへんをうろついてるんだよ。見ようとしなければ見えないだけで」
「えっ」
わたしは目に力を入れてみたけど、なにも変わらなかった。
「そう簡単に、すべてを信じることはできないだろうからね。それでも、昔は当たり前のように見えていたみたいだよ。おおっと、長話しするよりも、まずは食事だね。君たちの口に合わせて用意したつもりだから、楽しめると思うよ」
***
ウェルダムの言ったとおり、食事は舌がとろけそうなくらい美味しかった。
お腹いっぱい食べて、大浴場なようなお風呂を貸し切って、それから、温かい布団に寝転がると、わたしは吐息をもらす。
「はぁ~夢みたい……」
ふわふわの布団の上では、どこまでも体が沈みこみそう。そのまま眠りの世界に沈みそうになって、わたしはあわてて飛び起きた。
「いけない、いけない。まだ寝ちゃだめなんだった」
「どうしてよ。あたしはもう寝るわよ」
ふわぁとあくびをして、そのまま眠りつきそうになるバージエの腕を、わたしは急いで引っ張った。
「だめ! ここで仲を深めなくっちゃ、どこで深めるの。わたしたち、いっぱい話さなきゃ」
「なにいってるのよ……もう、一日歩きどおしだったでしょう……」
「わーバージエだめったら。だって、明日になったらまた、それどころじゃなくなるでしょう」
無理やり引き起こすと、バージエは不機嫌そうにまぶたをこすった。
「もうなによ。なにがしたいわけ?」
「わたしたち、もっとお互いのこと知らなきゃだめだと思うの。強いきずなに、別れの涙。ときには喧嘩をするも、それがきっかけで熱い友情が生まれる……。それが仲間じゃない!」
こぶしを握りしめて力説すると、バージエはますます脱力したように肩を落とした。
「あきれた。どこの世界の話よ。あたしは寝る」
「わーだめったら~!」
わたしは、バージエを無理やり立ち上がらせると、レギーとノーマムのいる部屋に引っ張った。
「レギー、ノーマム、入るね~」
扉をたたいて中に入ると、窓のさんに座っていたレギーも、小さな麻袋を抱えていたノーマムも、とつぜん訪れてきた二人に、おどろいたようにふり向いた。
わたしは胸を張って、バージエに説明したことを繰り返す。
「——というわけなの。わたしたち、もっとお互いのことを知らなくちゃだめだと思うのよ」
わたしはうきうきと、クッションを並べて、着々と四人分の席をつくっていく。
しかし、レギーとノーマムはどうしたことか、そわそわと視線をさまよわせた。
「いや、その、私はこれから、外を散策してくる予定で……」
「お、俺も、今忙しいから……」
ぼそぼそつぶやく二人に、わたしが怪訝に思っていると、バージエがぽつりとつぶやいた。
「…………逃がさないからね」
その言葉にどういう意味があったのか、たちまち二人は腰を浮かせた。
バージエはにこにこと、クッションをたたく。
「ほら、なにしてるの。あなたたちの席はここよ」
(なんだ。自分の席が分からなかったのね)
わたしは納得すると、ようやく円に加わった二人に、こほん、とせきをした。
「それじゃあまずは……うんっと~……この旅に参加した理由から!」
「——そういう話なら、わたしは失礼するわ」
立ち去ろうとするバージエの腰に、わたしはあわててすがりつく。
「え? どうしてバージエ。待ってよ」
「気にしないで。仲を深める必要がないことを、思い出しただけよ」
「えぇ~! なんでよ~」
引きずられながら、わたしは必死に言い募った。
「もしかしてバージエ、言いたくない理由があるの?」
「っな、そういうわけじゃないわよ!」
「じゃあ、話してくれたっていいじゃない」
ぴたり、とバージエの足がとまった。
わたしはおそるおそる、腰にまきついていた手を離す。
様子をうかがっていると、ため息をついて、バージエはこちらをふり返った。
「……もう、いいわよ、じゃあいうわよ。わたしがここに来たのは、儲かるからよ。こんな美味しい話、見逃すはずがないでしょう」




