表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永平寺はブラック企業!? ――月給3000円、不眠不休の厨房で学んだ「完璧じゃなくてもいい」  作者: 蒼龍 堅明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

第18話:冬の永平寺――足を引きずり、刻み続けた「意地」

なんとか手術は無事に終えたが、リハビリの時間をとれない不完全な状態で、急いでお山に戻った私に与えられた役割は、二百人の修行僧の胃袋を支える「裏方のなかの裏方」でした。冬の厳しい寒さのなか、足を引きずりながら包丁を握り続けた、孤独な戦いの記録です。

手術を終え、ろくなリハビリもできないまま、私は再び「お山」へと戻りました。

 当然ながら、術後の足首で以前のように坐禅や正座を組むことは叶いません。老師との面談を経て、私は「大庫院だいくいん」へと転役することになりました。


 かつて私がいた小庫院しょうくいんが、主に「参拝客(お客様)」のための厨房だったのに対し、この大庫院は「修行僧」のためだけの厨房です。

 共に修行に励む約二百人の仲間の食事を、毎日三食、欠かさず作り上げる。そこには一瞬の停滞も妥協も許されない、小庫院とはまた違う独特の熱量がありました。


 折しも、季節は冬。

 雪に閉ざされた永平寺では、観光客の姿が消えた小庫院には閑古鳥が鳴いていたそうです。「あちらは静かでいいな……」と、隣の芝生を羨んでしまう自分がいたのも事実です。


 しかし、大庫院に休みはありません。

 私は術後の腫れが引かない足を引きずりながら、凍てつくような寒さのなかで、ひたすら漬物を刻み続けました。

 トトトトトトン、トン、トトトトトトン……。

 静まり返った厨房に、一定のリズムで響く包丁の音。


 足が痛む。指先が寒さで感覚を失う。それでも、仲間たちの空腹を満たすために、私は立ち続けなければなりませんでした。

 華やかな表舞台ではなく、誰にも見えない場所で、ただ黙々と「任」を果たす。


 あの冬、冷たい大根を刻みながら私が学んだのは、派手さのない「継続」こそが、誰かの日常を支えているのだという真理でした。


合掌

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

華やかな法要の陰で、誰かが薪を割り、誰かが米を炊いている。大庫院での経験は、私に「目に見えない支え」への感謝を教えてくれました。あの時刻み続けた大根の冷たさは、今も私の掌に刻まれています。


次回は、そんな冬の厨房で迎えた、新しい年の幕開けと、衝撃の新たな転役(移動)のお話しをします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ