第14話:恐怖の「お経点検」――絶望する私を救った、心の恩人。
地獄の修行生活の中で唯一許される「里帰り」。
その切符を手にするためには、不可能とも思える過酷な試験を突破しなければなりませんでした。
絶望する私を救ったのは、同じ秋田の空気を知る、一人の先輩の「慈悲」でした。
永平寺での修行には、年に一度「長期他出」という期間があります。実家のお寺のお盆の手伝いのために、一時帰宅が許されるのです。
家族に会える、懐かしい地元に戻れる。
修行僧にとってはまさに「地獄に仏」のような時間ですが、そのためには高い壁を越えなければなりません。それが、恐怖の「お経点検」です。
ランダムに出題される膨大なお経を、完璧に暗記して唱えなければ合格はもらえません。
私はといえば、毎日の厨房仕事に追われ、暗記パンを欲しがるほど追い詰められていました。正直、合格できる自信なんてこれっぽっちもなかったのです。
しかし、運命の当日。
私の前に試験官として座った古参の和尚さんは、なんと同郷の秋田の方でした。
和尚さんは、私のガチガチに緊張した様子を見て、一番短いお経を課題に出してくれました。
必死に記憶をたどりながら、つっかえつっかえ唱える私。
普通なら「やり直しだ!」と一喝されてもおかしくない出来でしたが、その和尚さんは終始「うん、うん」と、私の拙いお唱えを優しく受け止めてくれたのです。
結果は……合格。
「毎日忙しい中、よく頑張ったな」
言葉には出さずとも、その眼差しがそう語っているようでした。
今でもその先輩とは、同じ秋田の住職としてお付き合いをさせていただいています。
あの時、寝る時間を削ってまで必死だった私を、形ではなく「心」で救ってくれたご恩は、一生忘れることはありません。
厳しさの影に、必ず誰かの慈悲がある。
修行は、そんな「目に見えない支え」に気づくための時間でもありました。
合掌
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あの時、試験官の和尚さんが見せてくれた「うん、うん」という頷きは、どんな立派なお説法よりも深く私の心に響きました。完璧であることよりも、必死に励むその過程を誰かが見ていてくれる。それだけで人は救われるのだと知りました。
明日は、人生で最も重みのある一言が、心の中から溢れ出してきたお話しです。




