第13話:修行僧を狂わせる「禁断のカレー」――それは究極の精進料理
質素な食生活が続く修行道場。しかし、ある特定の香りが漂う日だけは、修行僧たちの目の色が変わります。肉もニンニクも使わない「究極の精進料理」を巡る、修行僧たちの煩悩の記録です。
修行中の食事は、基本的には質素な精進料理ですが、たまに「ご馳走」が出る日があります。それが、みんなが大好きな「カレー」です。
ただし、そこはお山。お肉やお魚は一切入りません。それどころか「五辛」といって、ニンニク、ニラ、ネギといった香りの強い野菜も、修行の妨げ(情欲や怒りを増幅させる)になるとして禁止されています。
普通に考えれば、パンチの足りない「味気ないカレー」のはずです。
ところが、何ヶ月も俗世の味を断っている私たちにとっては、これこそが最高に懐かしい「娑婆の味」! カレーのスパイスの香りが厨房から漂ってくるだけで、お山全体の空気がそわそわし始めます。
いざ食事の時間になると、みんな無言で、しかし猛烈な勢いで平らげます。
普段は厳しい作法に則り、一挙手一投足に集中して食べる私たちですが、この時ばかりは食欲という本能が勝ってしまうのです。
中には、あまりの懐かしさに我を忘れて、五杯もお代わりをする強者もいました。
……まあ、その後にどうなったかは想像がつきますよね。案の定、お腹を壊してトイレに駆け込んでいました。
修行というのは、欲望をコントロールする訓練でもあります。
たかがカレー、されどカレー。
肉なしのカレー一杯に、これほどまでに心を揺さぶられ、失敗してしまう。そんな「人間の弱さ」を、私は同僚の背中(とトイレに続く廊下)から学びました。
合掌
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
お肉が入っていなくても、あの瞬間のカレーは世界で一番の美食に感じられました。欲望を断つはずの修行の場で、カレー一杯に振り回される自分たち……。情けなくも、どこか愛おしい思い出です。
次回は、カレーの余韻に浸る間もなく訪れる、生涯忘れられない恩を受けた、修行生活最大の壁ついてお話しします。




