第10話:床に散った魂の欠片――古参和尚の涙と「許し」
ある朝、厨房に響き渡ったのは、絶望の音でした。そこで目にしたのは、厳格なはずの先輩が見せた「意外な姿」。
今回は、小庫院(厨房)で起きた、血の気が引くような大事件のお話です。
私たちがそれこそ死ぬ思いで、朝早くから準備した数百人分の精進料理。
いよいよ配膳というその時、あろうことか給仕担当の古参和尚さんが、その料理を盛大にひっくり返してしまったのです。
ガシャン! という音と共に、床に散らばる料理。
一瞬、時が止まりました。「嘘だろ……」と愕然としながらも、私たちはすぐさま代わりの料理を作り直すため、再び猛然と火の前に立ちました。
その横で、さっきまで鬼のように厳しかった古参和尚さんが、涙目になりながら「すまない、本当にすまない……」と、何度も何度も私たちに頭を下げていたのです。
修行の世界では、古参は絶対的な存在です。新入りの私たちが口答えなど決して許されない、雲の上の人。でも、その和尚さんもまた、一人の人間でした。
一生懸命やっていたからこそのミスであり、その後の必死な謝罪の姿を見て、私の心にあった「勘弁してくれよ」というトゲは、スッと消えていきました。
誰にでもミスはあります。
地位が上がっても、経験を積んでも、失敗する時はする。
大切なのは、その後にどう向き合うか。
「私だって同じだ。明日は我が身だ」
あの日の厨房の匂いと、あの人の震える声は、今でもふとした時に思い出します。
完璧な人間なんていないからこそ、お互いに補い合って生きていく。
お山での激動の一日は、そんな当たり前で大切なことを、私に教えてくれました。
合掌
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あの時、床に散らばった料理を見て一瞬頭が真っ白になりましたが、先輩の涙ながらの謝罪を見て、「この人も同じ人間なんだ」と救われた気持ちになったのを覚えています。
次回は、使徒襲来!?永平寺が最も忙しくなる10日間のお話です。はっきり言って4にましたわ。




