第11話:使徒襲来!?――永平寺最大行事開幕!!
修行生活三ヶ月目。ようやく仕事に慣れてきた私を待っていたのは、お山が最も熱く、そして過酷になる「授戒会」という大行事でした。
今回は、お山が狂乱の渦に包まれる十日間のお話です。
上山して幾日が過ぎ、ようやく仕事のペースを掴んできたかな……と思った矢先、お山は「授戒会」という十日間ほどの大行事に突入します。
※授戒会とは在家の一般の人が永平寺の猊下(住職)から仏弟子(戒弟)の位を授けてもらう儀式。
この時期になると、全国から「お山のOB」である現役住職さんたちが、行事参列と後輩指導という名目でひっきりなしにやってきます。正に「使徒襲来」の様相。
お山の人口が一気に倍増するだけでなく、OBの和尚さんたちが連れてくる檀家さんの参拝団が、毎日すごい人数で宿泊します。
当然、その全員分の食事を作るのは、私たち小庫院(厨房)の役目。
ただでさえ死に物狂いの毎日なのに、そこへ「小庫院出身のOB和尚」たちが助っ人として加わるのです。
「おっ、頑張ってるな!」
「俺たちの頃はもっとこうだったぞ!」
ありがたいお言葉……ではあるのですが、正直、忙しすぎて気を遣う余裕など一ミリもありません。
手伝ってくれているのか、邪魔しに来ているのか分からないほどの喧騒のなか、私たちはひたすら巨大な鍋を振り続けました。
作っても作っても空にならないお釜。
次々と運び込まれる山のような食材。
終わりの見えない食器の山――。
極めつけは、ある晩のことでした。
深夜近く、山のような洗い物をようやく終え、疲労困憊でフラフラになりながら部屋へ引き上げようとしたその瞬間、OB和尚たちにガシッと呼び止められたのです。
「おい! 今から『いろんな形のおにぎり大会』をやるぞ! 米を炊け!」
……はあ? 死んでまうわ。
喉元まで出かかったその悲鳴を、私は必死に飲み込みました。修行中の身、許されている返事は「ハイ」の一言のみです。
抜け殻のような体に鞭を打ち、冷たい水で再び米を研ぎ、巨大なお釜で飯を炊き上げました。
しかも、それだけでは解放されません。
「お前も握れ!」と、謎のおにぎり大会に強制参加。
睡魔で霞む視界の中、30歳になった大の大人が深夜の厨房で、三角、四角、果ては「星形」のおにぎりを無心で握り続けるという、あまりにシュールな悪夢。
ようやく解放されて布団に倒れ込んだのは、開枕(消灯)もとっくに過ぎた時刻でした。
この「授戒会」を経験してからは、それ以降の「忙しい」はすべて生ぬるく感じるようになりましたね(笑)。
極限の忙しさと理不尽の中で、いかに自分を見失わずに目の前の役割を全うするか――。
今の私がどれほど多忙になっても動じずにいられるのは、あの十日間の記憶があるからでしょう。(……とはいえ、もう二度と星形のおにぎりは握りたくありませんが!)
合掌
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「OBの来山」というのは、修行僧にとっては非常に神経を使うイベントでもあります。厳しい指導と、時折混じる無茶振り。あの夜、眠気と闘いながら握ったおにぎりの温もりは、たぶん一生忘れられないでしょう(笑)。
次回は、そんな嵐のような日々の中でも日夜繰り広げられる頭脳戦のお話です。もしかしたら、これが一番きつかったかもしれません。




