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イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-  作者: 流右京
第三章

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第52話「サイドエピソード:軍勢」

※今回の話は、リアナ視点です。

深呼吸をすると、リアナは口を開いた。


「不敬を承知で――発言を許してください。私は、あなたたちが苦手でした」


静寂が、大会議室を満たす。


「嫌われて、仲間外れにされるのが怖かった。だから、当たり障りのないことしか言えなかった。周りに流されるばかりでした……。けれど、私は――アルフレイルの民の命を背負う大聖女です。今、ここで立ち止まるわけにはいかない」


リアナは真っ直ぐに三人を見据える。


「私は、ずっと道を探していました。でも気づいたのです。道は、歩いた後にできる。私が切り拓き、皆を導く。それが、大聖女の務めです。だから――私は、歩きたい! あなたたちと、共に!」


しばし、静寂。


やがて、アウラが静かに瞳を閉じ、他の聖女たちと目配せを交わす。


「……成長しましたね、リアナ様」


「………え?」


リアナは目を見開いた。


そこにいたのは、これまで見たこともない、柔らかな微笑みを浮かべる三人の聖女たちだった。


「あの……皆さん……?」


思わず問いかける。


これまで冷徹な表情ばかりを見せてきた三人が、急に柔らかな面差しに変わっていたのだから。


最も年長のアウラが、ゆっくりと口を開いた。


「……申し訳ござぁません。この資料にもある通り、今回の件は東聖堂の関係者が関わっている可能性が大きかった。それは、あたくし達も把握していたのでござぁます」


続いて、知性派のセレスが静かに補足する。


「しかし、リアナ様もその人物と共謀している可能性は捨てきれませんでした。よって、様子を見ようと三人で決めていたのです」


おっとりとした物腰のローラが、手を合わせて申し訳なさそうに言った。


「いけませんわぁ~。リアナ様を疑わなければいけないなんて、いけない考えでしたわぁ~!」


アウラが頷き、真剣な眼差しを向ける。


「しかし、ああたはこうして自身が不利になる証拠を持ってきた。ここまで用意周到な計画を練る者が、今さら自らの地位さえも危険に晒すような真似をするとは考えにくい。よって、ああたは今回の件には無関係と判断したのでござぁます」


リアナは一歩前に出て問いかけた。


「では、最初から東聖堂に犯人が居ると踏んでいたのですか?」


セレスが答える。


「きっかけは、予言の書の内容でした。今までも予言の書は天候の悪化や異常気象の前触れなど、様々な予言を書き記していましたが……今回は明らかに様子が違っていたのです」


アウラもうなずき、言葉を続ける。


「そう。率直すぎる……いえ、都合が良すぎるというべきでござぁましょうか。大変分かりやすい内容でござぁました。通常、予言の書は曖昧な表現や暗示的な言葉を用い、後から解釈が必要な場合が多いのでござぁますが、今回は非常に分かりやすい。それがあまりにも意図的に感じられ、逆に不自然に思えたのでござぁます」


ローラが補足するように続ける。


「でも、確信はありませんでしたわぁ~。予言に沿って確かに異形は現れましたから~。なのでこれは、何か別の目的があって、私たちの目を逸らそうとしているのでは無いかと考えたのですわぁ~」


リアナは唇を引き結び、小さく呟いた。


「なるほど、カモフラージュ……ですか」


セレスも口を開いた。


「ええ。そして、今回リアナ様とノクス政務官のリポートにより確信致しました。これは、人為的な何かの戦略ではないかと」


ローラが、芝居がかった調子で声を上げる。


「いけませんわぁ~! きっと野蛮な考えに決まっていますわぁ~!」


(……彼女たちは既に予言の書の違和感に気付いていた。そのうえで、私がどんな行動に出るか見極めようとしていた。やっぱり、この方たちは大聖女と呼ばれるだけの資質を持っているだけはある。年季の浅い私では到底考えが及ばなかった……)


リアナは敬意を込めて問いかけた。


「あの、犯人の狙いは……予言を変えて何をしようとしているのでしょう?」


アウラは少し首を振り、残念そうに答える。


「そこまでは分かりかねます。ただ、もう間もなく残された一基が限界を迎え、その弾みで異形が生じるのでござぁましょう。貴女の仰る通り、まずはその対処が先決。我々もああたと同じ考えでござぁます」


アウラはふっと息をついた。張り詰めていたものをゆるめたように見える。


「実は、あたくし達三人は、ああたのお母様……リリシア様から頼まれていたのでござぁます。娘を、大聖女として強く育てて欲しいと」


セレスが静かに視線を合わせる。


「大聖女の器とは、甘やかされてばかりでは育ちません。私達は心に刃を持って、接しました。それがリアナ様を傷つけると分かっていましたが、それでも折れず、成長してくださいました」


そして、アウラがやわらかくほほ笑む。


「……強き器になられましたね。リアナ様」


「は……はいっ! ありがとうございます!!」


リアナは目を潤ませながらも、しっかりと頭を下げた。


――――ズズズゥゥゥウンッ!!!


その時だった。大地が揺れるような感覚が走り、空間全体がビリビリと振動する。


セレスは何かを察したのか、すぐに手元に半透明の画面を出現させ、詳細を調べ始める。


「空間変動を感知? これは……!?」


直後、大会議室の扉が勢いよく開かれ、作業着姿の青年が顔面蒼白で飛び込んでくる。


「し、失礼するッス!! あのっ、先ほど中央大聖堂前の空間に亀裂が入ったッス!」


「……!?」


一同が顔を見合わせ、緊張が走った。


◆◇◆◇


中央大聖堂の前にある広場には多くの天人達とその守護者が集まっていた。


その様子を最上階のテラスから眺めていたリアナは息を呑む。


「空間に……あんな巨大な亀裂が……」


目線の先、中央大聖堂から少し先の空間に数十メートルもの大きな亀裂が広がっていた。


セレスが眼鏡をクイッと上げ、リアナに向けて説明を始めた。


「ふむ。リアナ様の報告によれば、やはりどこかでその廃棄されていた旧転移ゲートが暴発したのでしょうね。そうでなければこの様なフェノメノンは起こりません」


「そしてそれは、浄化前の魂を安置していた空間を繋いでしまっているから……。あの亀裂から大量の異形が溢れ出てきている……ということですね」


「まぁ~! 亀裂から異形が次々現れていますわぁ~! いけませんわぁ~!」





「うぉりゃあ!!!ファイアーボール!!!」


―――ドォォォォン!!!


「くらぇ!!トルネードクラッシュ!!!」


―――ドガガガ!!!


「ギィィィイイイイ!??」


中央大聖堂の広場では、既に大規模な戦闘が始まっているようだった。


「そういえば先ほど、守護者達と対処すると仰っていましたね。既に待機させていたのでござぁますか?」


「ええ、下手に分散させては被害が広がってしまいますから、予め一ヶ所に集めようと思って。中央大聖堂なら、防御結界もありますし」


「ふむ。良い判断です。各地の異形達も、ここに集結しているようですね」


「ご報告ッス! 集まった天人達と守護者による応戦が始まりました。敵の数は多いッスけど、優勢みたいッス!」


作業着姿の青年が、聖女たちに報告に来る。

その言葉に、リアナはホッと胸を撫でおろした。


確かに大きな亀裂から物凄い数の異形が出現しているが、それに負けじと多くの守護者達が各々の得意な攻撃で撃破している。


「リアナ様、守護者達が異形の侵攻を食い止めている間に、一刻も早くあの亀裂を塞ぐのでござぁます」


「え、ええ……。そうですね」


「……どうされました?」


「……確かに、予言通り軍勢は来ました。ただ、残りの予言の意味は一体……?」


「今は呑気に考察している場合ではござぁません。急ぎ各部隊を編成しなければ」


「は、はいっ。とにかくまずはパックリと開いたあの亀裂を塞ぐのが先決ですね。すぐに亀裂の修復チームを派遣します」


訝しげな顔をしていたリアナだったが、すぐに気を取り直して部下に命じて部隊の編成に取り掛かる。


「それでは~私は救護班を編成しますわぁ~! お怪我をしてはいけませんわぁ~!」


「ふむ。では私は天人たちに魂力のサプライをするチームを編成します。この戦い、持久戦にもつれ込むプロバビリティが高そうですので」


(ノクスさん、レオン君、そしてライガ君……、彼らは大丈夫かな……)


部下に指示を出しながら、リアナは一人、ゲートへ向かった3人の無事を心配していた。

Copyright(C)2025-流右京

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