第53話「グリオールの居場所」
――異形達が出現する少し前。
ノクスはライガとレオンを連れて転移ゲートの前へと移動していた。
「……さて、ゲートの準備ができましたね」
「おい、ノクス。その資料何だ? さっき見てたのと違うな」
ライガの指摘通り、ノクスの手には先ほどとは別の紙があった。
「先ほどのリアナ様との会話で、気になったことがありましてね。ここに来る前にもう一度資料室で当時の記録を調べたのです。おかげで仮説に確信が持てました」
「……そういや、グリオールに聞きたいことがあるんだろ?」
「ええ、グリオールの居場所まで転移ゲートで移動します」
「転移ゲートで? でも、アイツの居場所分かんねーじゃん」
「≪伝通の術≫の応用ですよ。あれは元々、離れた相手の居場所を魂力を頼りに探して、空間接続する術式ですからね。さらに転移ゲートの機能と合わせれば、その人が直前まで居た場所に転移できるんです」
そう言いながら、ノクスは転移ゲートのパネルを操作し始める。
「よし、あとは探したい相手の魂力と同じ情報を提供するだけです」
「探したい相手の魂力と同じ……? あ、そうか! レオン兄ちゃんか!」
ライガの声に、ノクスは軽く頷いた。
「レオン君、君の中の魂力はグリオールのもの。だから装置に情報を読み取らせてもらえますか?」
「…………了解」
レオンは小さく頷くと、転移ゲートの読み取り装置に腕を差し出す。
装置がしばらく反応した後、低く唸るような音を立てて起動した。
「どうやら装置がグリオールを探し当てたようですね。行きましょう、二人とも」
三人は転移ゲートへと足を踏み入れた。
◆◇◆◇
――眩い光が視界を覆い、身体が一瞬ふわりと浮く感覚が全身を包む。
やがて足に地面を踏みしめる感触が戻った時、ノクスは思わず周囲を見回した。
「……? え、ここは……?」
薄暗い霧が立ち込め、静寂が辺りを支配している。
空には灰色の光がぼんやりと漂い、時間の感覚が曖昧になるような不気味さがあった。
「こ、ここは……一体? てっきり、天界のどこかかと……」
言いかけて、ノクスはレオンに目を向ける。彼は口を閉ざしたまま、落ち着いた表情で小さく頷いた。
(また……例の制限、ですか。幸い呼吸はできているようですが)
「なぁ、ノクス。あそこ、絵本で見たことあるぞ! 城って言うんだろ?」
ライガが指差す先には、古城のような建物があった。
「確かに……そう見えます。しかし、周りの漂う光といい、まるで……」
「おいっ! グリオール探すんだろ? 一番目立つ所に行こうぜ!」
「え、ええ……」
ノクスはライガに促され、古城を目指して歩き出した。
(しかし……本当にこんな場所にグリオールが……?)
その世界にも月のような光に照らされているが、陰鬱な雰囲気が出ている。
ノクスは思わず背筋が凍り付くような言いしれない不気味さを覚えた。
「ラララ……ライガ! こ、ここ……怖かったら手を、手を繋いで良いんですよ?」
「んぁ? 別に怖くなんか……」
振り返ったライガの視線の先、ノクスは自分でもわかるほど肩が震えていた。
ため息混じりにライガが手を差し出す。
「……そーだな。怖くて怖くて仕方ねぇから、手を繋いでくれるか?」
「し、ししし仕方ありませんね。まったく、ララ……ライガは」
ノクスはその手を固く握り返す。
レオンが、微笑みながらその様子を静かに見ているのが視界の端に映った。
◆◇◆◇
やがて、三人は巨大な城の入り口付近に辿り着いた。
「うぅ……。荘厳……ではありますけど、何というか……」
「んだよ、やっぱ怖いのか?」
「こ、怖くなんてありませんよ! ただ、その……不気味だな~と」
そう言いながらも、がっちりとライガの手を握り、後ろに隠れるようにして歩く。
「それにしても、グリオールはどこにいるんでしょう……。やっぱりもう帰りません?」
「リアナに調査頼まれてんだろ? お前の仕事なんだったら、ちゃんとやれ!」
「うぐ……っ! まさかライガに諭される日が来るとは……」
「大丈夫だ。俺が守ってやるから、心配すんなって! それにレオン兄ちゃんも居るんだし」
レオンも小さく頷いた。
「もう、あんなヘマしねぇよ。今度は油断しねぇから」
その言葉に、ノクスはライガの声色から何かを思い出しているような気配を感じ取った。
「……ライガ。たくましくなりましたね」
「んだよ、お前よりは力こぶあるぞ?」
レオンが視線を向けてくる。
その表情は、ノクスにはどこか羨ましそうに見えた。
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