第51話「サイドエピソード:リアナの決意」
※今回の話は、リアナ視点です。
中央大聖堂の大会議室。
高い天井に吊るされた大きなシャンデリアが、淡い光を円形のテーブルに落としている。
円卓を囲むのは、東西南北を司る四大聖女たち。
出された紅茶は、カップの中で湯気を立てたまま手つかずに置かれている。
重苦しい沈黙の中、リアナは胸の奥に溜めていた息を細く吐き出し、口を開いた。
「……皆さん。緊急招集にもかかわらず、お集まりいただき感謝します」
静かに響いた声が、広い室内にわずかな余韻を残す。
彼女は視線をゆっくりと全員に巡らせ、言葉を続けた。
「本日は――ご報告があります」
その瞬間、年配の女性アウラが静かに目を開き、氷のように鋭い視線をこちらへ向けた。
「……報告、ですか。“六つの月が過ぎし時”も目前。こんなことで時間を浪費して、よろしいのでござぁますか?」
強い声音に、背筋がわずかに硬直する。だが、ここで怯んではいけない。
「……はい、アウラ様。これは急を要する内容です」
「ふむ……そこまで仰るのなら、さぞ確たるソースがおありなのでしょうね?」
続いて、眼鏡を指で押し上げたセレスが、細い目をさらに細めて問いを投げた。
「……はい、セレス様。こちらをご覧ください」
リアナは、先ほどノクスから受け取った報告書の写しをテーブルに差し出す。紙の端が小さく震えていたが、手を引くことはしなかった。
「この調査によれば、今回の異形発生の発端は――旧転移ゲートへの違法投棄によるものです」
「まぁ~! なんてこと……! いけませんわぁ~!」
派手な化粧を施したローラが、わざとらしいほど大きく声を上げる。その反応すら、今は受け止めなければならない。
「……ええ、ローラ様。東聖堂の責任者である私の監督不行き届きです」
そう言い切った瞬間、アウラの眉がきつく吊り上がった。
「ご自分の発言の重みを理解しているのでござぁますか? ああたは今、自らを不利にする証拠を提示しているのでござぁますよ?」
冷たい刃のような声が胸を抉る。
それでも、リアナは視線を逸らさなかった。
「……承知しています。全ての責任は、私が負います」
短く答えると、セレスが視線を落とし、報告書を一枚めくった。
「異形の正体は、浄化されていない地上人の魂……?」
「はい。そしてこの資料によると、旧転移ゲートは近く大規模な暴発をする恐れがあります。よって、守護者たちと協力し、≪浄化の術≫で対処する所存です」
「まぁ~! つまりその暴発する時期が、予言されていたということですのね~! いけませんわぁ~!」
リアナは続ける。
「そして――予言の書は人為的に改ざんされていました」
室内の空気が、さらに冷たく張り詰めた。
「人為的に……? そんな真似をして、何の得があるのでござぁますか?」
アウラの問いに、リアナは一拍置いて首を横に振る。
「そこまでは、まだ分かりません。しかし――これをご覧ください。当時、予言監視課の管理を担っていた者の名前です」
差し出した紙が、卓上の中央で静かに止まった。全員の視線がそこに集まる。
「……なるほど。しかし、その名を挙げることは、ああた自身への疑いにも繋がりますよ?」
アウラの視線が鋭く胸を突き刺す。
胸の奥が締め付けられるような感覚に、リアナは一瞬息を詰まらせた。
(確かに……そう捉えられても仕方がない。それが現実)
脳裏に、ライガの笑顔と声が蘇る。
『最初、正直に話すのちょっと怖かった……けど。でも、話してるうちに、スッキリしてきたんだ』
その記憶が、心の奥に小さな火を灯した。
(……そうだ。私は、もう大聖女。いつまでもお母様の背中を追っているだけじゃダメ。恐れずに、言葉を口にしなければ)
リアナは静かに決意を固め、凛と姿勢を正した。
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