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しばらくふにゃふにゃになって使えなくなってたわたしは、何とか再起動して今は執事長のシェパードさんから公爵夫人としての基礎知識を叩き込んで貰っていた………けど…………?
「……ふむ、貴女は本当に今日初めて淑女教育を受けたのですかな??」
「いえ、正確には幼少期に少しだけ……
これは“本物のミーシア”の話。
それだけで完璧に知識やマナーをマスターしたミーシアって本当にハイスペックだよねぇ………
「ふむふむ……今回は実力を測るだけのつもりだったのですが…これは文句無しに完璧ですぞ。
今すぐ城の舞踏会に出ても問題ない程でしたな。」
うん。
もうね、ミーシアの身体凄いの。
知識力チートなのは図書室の1件で思い知ったけれど、それだけじゃなくて、
無意識レベルで貴族の動きやダンスが出来た。
つまるところ、漫画ミーシアって多分身体が自動的に淑女ムーブしてたからあんなクズでゲスでおバカさんでも見た目だけは妖精のように振る舞って男性を籠絡出来たし知略も行えたんだろうなぁ…………
なぁんて、遠い目をしていたらシェパードさんは朗らかに笑いながらわたしの手を引いて歩き出した。
「……んぅ?シェパードさん??」
「無礼をお許し下さいお嬢様。
カリンの報告通り、やはりお嬢様は即戦力ですな。
即ち、完璧な淑女殿に改めて公爵夫人教育をする必要は最早ございませぬ。
それよりも御館様のお手伝いをして頂きましょう。」
「…! ありがとうございます♪」
「ほっほっ…そこで礼をなさいますか。
やはりお嬢様は何かしらの仕事がしたかったのですな?」
「そうなんです、ただ無為に毎日を過ごす事が申し訳なくて……なので、お仕事が頂けるのであれば望外の喜びです♪」
「………御館様、本当に良き方を婚約者になされましたな……。」
いやいや、わたしはただ何となく漫画ミーシアみたいな悪女ヒロインや、元々のミーシアみたいな自称悲劇のヒロインみたいにはなりたくないだけなんだよ………
やってる事は結局、漫画ミーシアと同じくこの身体の力を利用してるだけだし。
でも、それでアスベル様を助けられるなら良いかな、って無理やり納得してるだけなんだから…………
そんな事を考えつつ、シェパードさんに案内されて厨房を経由しつつアスベル様の執務室にやってきました!
コンコン、と静かにノックするシェパードさん。
うーん、これぞ執事って感じ!!
本物を見たのはシェパードさんが初めてだけど!!
『誰だ?』
「シェパードです。お話があってミーシアお嬢様をお連れしました。
ついでに休憩にしては如何でしょうか?」
『わかった、入れ。』
うん、ここに来る途中、厨房でお茶やお菓子を受け取っていたから最初から休憩を促すつもりでもあったみたいだね。
シェパードさんに案内されて部屋に入ると、一旦区切りを付けたらしいアスベル様が席を立ち上がり本来は応接用であろう長机に備え付けられたソファに腰掛けたから、わたしはアスベル様の隣に腰掛けた。
…婚約者だし、良いよね?
何故かアスベル様は一瞬固まったしシェパードさんは普段以上にニコニコとしてるけど。
気を紛らわすためか、アスベル様はシェパードさんが淹れてくれたお茶を飲み、何枚かビスケットを摘んで一息ついてから話を切り出した。
「………それで、シェパード。ミーシアの話とは?」
「はい、ミーシアお嬢様は大変優秀であられます。
このまま暫定公爵夫人としての職務を行えるかと存じます故、御館様に御報告を、と。」
「執事長のシェパードが認める程、か。ならば一考の価値があるな。」
「ありがとうございます。」
「ああ、それならば…そうだな、手始めにこの書類を見てもらうか。」
そう言ったアスベル様がさっきまで処理していた書類の山から何枚かの紙…報告書や嘆願書、を持ってきた。
「ミーシア、これらを君なりに判断してみてくれ。
正解は無いから思うがままに考えてくれ。」
「分かりました!」
渡された紙、1枚目の報告書を読む。
なるほど、あの村の辺りの橋が鉄砲水で壊れちゃった。と。
たしかあの村は……
「この村の橋はこれからの時期、特産品の梨の流通に支障が出ますよね?
早急に橋を直しにかかり、応急処置として修繕中は船渡しの手配をするべきかと。」
「ふむ?その梨はそんなに重要か??」
「そうですね、その身(実)が宝石の様な輝きをする事から【宝石梨】として貴族の間で好まれるこの村の梨の流通が滞る事は商会の損失に繋がりますし、この村の税の大半がこの梨による利益で賄っているので、納税、ひいては村の生活に直結します。」
「ほう?」
「橋を直すには技術者の招集が必要で時間もかかります。
とすれば或いは一時的な減税をする、納税を免除する等の対策もありかと思います、少なくともこの村に補填は必要かと。
続いて、こちらの嘆願書ですね。」
えーっと…税が高すぎる…?
いや、この街の税は適正値のはずだよ。
農地ではない事を考慮して低めの税に設定されているはず。
なら考えられるのは……
「…この街、たしか街長に黒い噂がありますね。
直ちに調査して事実なら街長を変えるべきかと。
ひとまず、徴税はそれからになさっては如何でしょうか?」
「なるほど。シェパード。」
「はい、直ちにその街へ調査員を送ります。」
「次はコレですね―
そんな感じでわたしはミーシアのチートスペックを発揮して書類を素早く処理していった。
「驚きだな。」
「左様ですね、御館様。」
「あはは……
あれから、わたしを見ていなくても大丈夫だと判断したアスベル様やシェパードさんと3人がかり書類の山をさばき、半日も経たずに終わった。
うん、チート。
脳内辞書とか処理速度とか演算能力とか半端ないのこの身体。
論外の書類を却下する判断力も。
なんなのミーシア。
本来ならこのスペックって事は漫画ミーシアってばトコトンこの身体の使い方間違ってたんだね…
「でも、これで後はゆっくりできますよね!アスベル様!!」
「そうだな。今日やらなければならないの分の仕事はもう終わりだ。
お茶にでもしよう。」
「かしこまりました、御館様。
私めと2人がかりよりも早く終わりましたな。」
「ああ。ミーシアの優秀さには目を見張る物がある。
明日からも是非共に仕事をしたい。」
「御館様、将来的には女主人としての職務もある奥様の仕事では無いかと思いますが?」
「片手間でも助かる。私も軍務卿としての職務の片手間だからな。」
「はわ〜♡」
そういってしたり顔するアスベル様もカッコいい〜♪
と思って呆けていたら、シェパードさんが震えだした…?
え、大丈夫?お疲れ?クッキー食べる??
「………御館様。」
「ん?どうしたシェパード。」
「御館様の基準を奥様に当てはめないでくだされ!!」
「んぉっ!?」
「奥様が博識で優秀で文官顔負けの仕事捌きとは言え、仕事人間の御館様とは違い、奥様は普通の女性ですぞ!?」
「そ、そうか?私よりも早かったぞ?」
「御館様ぁぁっ!!」
「お、落ち着いてシェパードさんっ!?
わたしなら大丈夫だから!?」
なんなら感覚的に『女主人兼務でもいけるねこれ。』って確信があるくらいだから!?
でもシェパードさんってば退かないっ!!
「奥様は御館様を甘やかさぬ様に。
ビシッと言うべき事ですぞ。」
「え、あ、はい…?」
「この際だから言わせていただきますが、御館様は働き過ぎです。
こうして奥様も出来た以上、奥様と過ごす時間を確保する為にも仕事を減らすべきです。」
「いや、しかし私がやらねば―
「我々が居ますでしょうが!
御館様が軍務卿としての職務をなさっている日は誰がこの書類を処理していたとお思いか!」
「いや、まぁ、そうだが…
うわぁぁぁ~!シェパードさんキレてるぅぅ~!!
ちょっ、どうするのこれ!?
「でもでも!わたし的にはアスベル様と一緒にお仕事出来るのは嬉しいよ!?ねっ!?だからシェパードさん!!」
「お言葉ですが奥様。
奥様は、御館様と 仕 事 で ご一緒するのと、 プ ラ イ ベ ー ト で ご一緒するのと、
どちらが宜しいですかな?」
「勿論プライベートですが。」
「そうでしょうとも!!」
「あ、あぁ…?」
わたし、即答。
最早脊髄反射レベルの即答。
シェパードさんじゃなきゃ聞き逃しちゃうね!
そのシェパードさんは我が意を得たりとアスベル様に詰め寄る。
「では御館様、明日はお休みいただき、奥様とデートなさると良いかと。」
「デート!?したいですよろしくお願いします!」
「そうでしょうとも!!決まりですな御館様!!」
脊髄反射再び。
勢いに圧されたアスベル様はタジタジだぁ〜。
でもわたし、アスベル様とデートしたいから全力で乗っかるよ!!
わたしはアスベル様の手を取り、目を見つめて懇願するね!!
「おねがいアスベル様。明日はわたしに街を案内して?」
「…よし分かった。ついでに君の服も見繕うか。」
「やった♪明日はショッピングデートですね!!」
「ふふふ…明日の職務は我々におまかせを、御館様。
仕事は我々が代われますが、奥様のお相手は御館様しか出来ませぬからな。」
と言うわけでアスベル様とのデートが決まったよ!!
うーん……シェパードさん、コレを狙ってた??
今までどれだけワーカーホリックだったんだろ、アスベル様………




