第13話
その後、ミナミツバサと白鳥あずさ、井川ひばりは、殺人事件の容疑者逮捕に協力したとして、警察に表彰され、それが小さなニュースになって世間に公表された。
(3人とも、一気に有名人だな。)
と、ミナミは思った。
そして、何日か経過した頃、例の武川春風から電話がかかってきた。
「ツバサ君。テレビに出てたじゃん。」
「いや、そんな2分程度のニュースに出ただけだよ。」
「しかも、井川さんや、白鳥さんと一緒に。」
「いやいや、そんなたいしたことじゃ…。」
「殺人事件の容疑者逮捕に協力するなんて凄いよ。」
そこから、武川春風は、話を妙な展開に持っていった。
それから、何日か経過し、そして夏休みになった。
ミナミは、夜中の大宮駅で夜行急行「能登」の入線を待っていた。
ミナミは、急行「能登」で武川春風の住む富山に向かうのだ。
先日の電話で武川春風は、ミナミに「富山に来ることがあったら、ゆっくりお話したい。私、本物のツバサと会話してみたい。電話や、メールじゃなくて。」と言われた。
ちょうど、警察から懸賞金を貰ったので、それを使って富山に行けることになったので、武川春風にはその事を話して、会う約束をした。
今日は、金曜日。明日の土曜日と明後日の日曜日は何も予定が無いから、ミナミは富山で一泊する予定で、家を出た。
一人の外泊の経験は、一度だけあった。寝台列車で北陸に出かけた時。しかしそれ以外は、外泊の経験は無く、ミナミは少し緊張しながら、急行「能登」の入線を待つ。
急行「能登」は、関東と北陸を結ぶ雄一の列車である。しかし、夜行バス等の発達のためか、乗客が減少し、現在は臨時列車化されてしまった。
車両は、国鉄時代から使用されている485系特急電車である。
その、急行「能登」が入線してきた。
6両編成の短い編成。
車内は、それほど混雑していなかった。
少し前までは、ボンネット型の489系のラウンジ付き9両編成の堂々たる姿だったのだが、今は臨時運行に格下げされてしまった。以前乗った寝台列車に至っては、もうその姿は無い。
ミナミは乗り込むと、指定席券に書かれた座席に座った。
この列車には、寝台車などついておらす、全車座席車である。
以前乗った寝台特急「北陸」という列車も、急行「能登」と同じルートを走っていた。
寝台特急「北陸」は、全車寝台車で、シャワールームや個室寝台を装備した車両が連結されていたが、車両の老朽化等の理由から、廃止された。
臨時列車化以前の急行「能登」には、ラウンジが付いていたが、臨時列車化されると、それは無くなってしまった。
ミナミは、貴重品の一部を身につけ、荷物を自分の足に絡めてチャックが開かないようにして防犯対策をする。
夜行列車内では、時々ではあるが、スリや置き引き等の盗難事故が発生することがある。それを防止するためには、自分の身を自分で守らなければならない。
ミナミは、ある程度の防犯対策を施してから、携帯をチャック付きのポケットに入れ、座席にもたれて眠りについた。
夢を見た。
今まで歩んできた、人生を振り返っていた。
特急「サンダーバード」と同じ日に生まれたミナミ。幼い頃から、鉄道に興味を持ち、幼稚園に入園。
友達が出来て、小学校に入学。
更に友達を増やす。
男女の比率は、男子3に対し女子1と言う具合だった。
そして、この頃、ミナミは特急「サンダーバード」の存在を知り、自分はサンダーバードと同じ年の同じ日に生まれたことを知って、このサンダーバードがお気に入りとなり、いつの間にか憧れになった。
中学生になって、ミナミは初めて、本物の特急「サンダーバード」に会いに出掛けた。
新大阪から、サンダーバードの始発駅大阪に向かうと、そこには今まで写真で眺めていた特急「サンダーバード」が停車していた。
ミナミは、興奮を抑えて、乗り込んだ。
それから、何日か後に、初めての彼女が出来た。
そして、ミナミは中学生活を彼女と一緒に過ごしていった。
どちらかが、つまずくと、それを二人で乗り越えて、泣いたり、笑ったりの生活で、ミナミはいつかデートをしてみたいなと思った。
だが、それがある日音を立てて崩れた。
付き合い始めて1年半後だった。
彼女が、亡くなってしまったのだ。
東北の親戚に遊びに行った彼女。しかし、旅先で岩手宮城内陸地震に遭遇。彼女は地震による地滑りに巻き込まれて、死んでしまった。
ミナミは、その事実を受け入れられなかった。
そんな中、ミナミは、サンダーバードに会いに出かけた。
その時、ミナミの見たサンダーバードは、どんな辛いものも突き抜けて走っているように見えた。
自分は、彼女を失って、何もかもが辛くなってしまった。でも、小学生から好きだった特急「サンダーバード」は、そんなミナミを軽蔑するかのように、高速でミナミの前を駆け抜けていった。
ミナミは、そんなサンダーバードの姿に勇気づけられ、また明るく生活しようと歩き出した。
そして、高校受験。
ミナミは、必死に挑む。
塾のテストで、目標点数を稼ぎ、学校等のテストで推薦してもらえるだけの成績を稼ぎの日々だった。
塾で、熱血教師に怒鳴り散らされた事も、何度かあった、
そして、冬休みになると、朝の6時から、夜の9時までぶっ通しで授業をやるという事にもなった。
ミナミは、必死についていったが、それの最後の日、力尽きて心が折れそうになった。そこへ追い討ちをかけるように、それの前日からの悪寒が増し、午後には、よれよれになった。
それをみた、教師にまた怒鳴り回されミナミは、気絶した。
その日の夢には、どんなに辛いことがあっても、それを突き抜けて行く特急「サンダーバード」の姿があった。
だが、風邪はすぐに良くならなかった。
最初は普通の風邪だったのに、無理して授業を受け続けて、悪化して強力なウイルスにやられていたのだ。
激しい頭痛や、吐き気、腹痛、寒気、高熱等の症状が誘発した。だが、ミナミは、まだ覚え切れていない物や、学校の冬休み課題を片付けようと、その症状を引きずって、無理矢理机に向かった。
だが、ウイルスでボロボロの身体は10分も持たなかった。
しかし、ベッドで安静にしていると、夢に出てくる、サンダーバードの姿と今の自分を比べ、情けないと思ってしまう。
やっと、病気が回復し、すぐに受験。
だが、ミナミは第一志望の高校に面接試験で落ちた。
負けじと、ミナミは最後のチャンスに全てを託し、突っ込んで行った。
だが、またしても面接で落ちて、ミナミは結局第二志望の高校に行くことになった。
ミナミは、受験が終わったら、また、サンダーバードに会いにいこうと思ったけど、行きたかった第一志望に面接で落ちたなんて、情けないし、悔しい。そんなミナミは、サンダーバードに会う気になれず、寝台列車で東北の旅をした。
高校に入った。
だが、そこに待っていたのは、予想しなかった現実。
クラスは荒れ、ホモ気のある奴が、ミナミに寄ってきたりして、精神的苦痛を患った。
そして、ミナミは、サンダーバードに会いに出かけた。だが、その直後、ミナミには、どういうわけか女友達が出来て、そして、西村望美という彼女もできた。
だが、呆気なく別れてしまった。
そして、今、新たな彼女候補に会うため、夜行で富山に向かっていた。
だが、そこには何が待っているのか分らない。
女となりすまして男がいて、恐喝されるかもしれない。また、相手は風俗等の女で、自分から金を揺すり取ったりするかもしれない。だが、未来には、何が待っているか分らない。
夢は、ここで終わって、目が覚めた。
列車は、富山県の滑川を発車したところだった。
ミナミは、荷物が全てあるのを確認し、車窓を眺めた。
そこには、今まで見たこと無い景色が展開されていた。
立山連峰から登る日の出。
日の出に照らされ、明るくなる田園地帯と日本海。
列車は常願寺川を渡った。
常願寺川も、朝日を浴びて、輝いていた。
午前5時42分。
列車は、早朝の富山に到着した。




