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第12話

 ミナミツバサの訊問を終えた戸沢と、笠原は、川瀬京子がアルバイトしていたファーストフード店に行ってみた。

 そこの店長から、話を聞く。

「川瀬さんは、去年の4月からここでアルバイトをしていました。勤務態度も真面目で、どこにも問題はありませんでした。ただ、2週間前から、彼女を出せと言う男の客が現れましてね。警察に相談しようかと思っていたところで彼女があんなことになってしまって。」

「その客というのは、この人ではないですか?」

 笠原は、川瀬京子の交際相手の写真を見せた。

「ああそうだ、この人だ。」

 と店長は言ってから、

「そういえば、思い出しました。確か、彼女が殺される前日、彼女と例の客が言い争いになりかけているのを見ました。」

 と言う。

「言い争い?どのようなことか解りますか?」

「えっと、確か…。」

 店長の話によると、川瀬京子と交際相手の言い争いの会話は次のようなことだという。


 5月2日。川瀬京子は、テーブルを拭いていた。

 そこへ、例の交際相手の男が入ってきた。

「おい。」

 男はいきなり彼女を掴んだ。

「なによいつもいつも。」

 と、彼女が言い返す。

「なんで俺を突き出した?」

「私は、あんたのようなカッコだけの人は嫌い。」

「どういうことだよ?」

「私、新しくできた男の子の友達に惹かれたの。」

「誰だそれは?」

「それは言わない。でも、その子、面白くって。」

「なんだよ、じゃあ俺も面白ければいいのかよ?」

「そうじゃない。あんた、確か鉄道好きだよね。」

「そうだが?」

「その子も鉄道マニア。」

「でも、カッコは俺より良いってか?」

「違う。同じ鉄道マニアでも、やり方が違う。あんた、北陸本線を走る、特急「サンダーバード」を知っている?」

「知らない。」

「鉄道の写真で、何か賞か、または自分の写真が雑誌に載ったことが有る?」

「無い。」

「その子は、電車の写真で賞を取ったり、雑誌に写真が載ったりする、すご腕の鉄道マニア。そして、その子は、特急「サンダーバード」の愛好家。たまにだけど、好きな列車に会いに、大阪や富山に行くんだよ。あんたみたいな、中途半端に電車の写真撮って、賞も取れず、そして、電車の車内で痴漢するような奴とは全然違うのよ。その子、明日、「サンダーバード」に会いに行くって言っていた。帰ってきたら、写真を見せてもらう予定なんだ。あんたのへぼ写真よりも綺麗な写真を期待してるんだ。」


 この会話の事を聞いた戸沢と笠原は、驚いて顔を見合わせた。

 殺害された川瀬京子は、ミナミツバサに気があったのだ。そして、そのことを、元の交際相手に話した。

 そして、彼が、次の日、特急「サンダーバード」に会いに行くと言うことも。

「ということは、川瀬京子の交際相手だった男が、犯人の可能性が濃厚になりますね。」

 笠原が、戸沢に言う。

 ファーストフード店を出た二人は、川瀬京子の両親に事情聴取をした刑事から、その時の両親の証言をもう一度聞いてみることにした。

 最初に聞き込みをしたときは、少年Xと言う人間に気を取られていたため、ろくに両親からの証言を、聞かなかった。

 その時だった。

 無線で連絡が入った。

「埼玉県警からの情報です。大宮駅で殺人未遂事件による人身事故が発生。被害者はミナミツバサです。犯人は彼を少年Xと呼んでいます。」

 二人は、大宮警察署に向かった。

 そこで、訊問を受けていたのは、ミナミツバサが少年Xだと最初に証言した男子生徒だった。

「君は、学校で会ったね。」

「だから?」

 と、男子生徒は言った。

「君が、ミナミツバサが少年Xという証言を最初にした。我々に対してだよ。違うかね。」

「ああ。確かにそうだ。だが、それは事実だ。奴が少年Xだ。」

「しかし、なぜミナミツバサが少年Xなのだ?」

「そりゃ、得体の知れない人間だからね。」

「誰かに頼まれて、彼が少年Xと言ったのではないか?」

 笠原が言った。

「そんな、俺達は最初から、変な奴だなと思ってXと言ったんだって。」

「俺達?」

「ああ。男子のほとんどはXとアイツを呼んだ。」

「いつからだ?」

「ずっと前からだ。」

「ずっと前?」

 戸沢が噛みつく。

「君ねえ、惚けるのもいい加減にしなさい。君は、最初に我々にあったとき、ミナミツバサが、少年Xじゃないかなって言ったじゃいか。この証言の他にも、男子はミナミツバサが少年Xだ、やつをとっ捕まえろと言っていた。」

「俺は、その直前になって、アイツをXって呼ぶようになったんだ。」

「嘘をつくな!」

 戸沢が怒鳴った。

「本当のこと言わないとねえ、あんた殺人未遂の他にも、捜査妨害、犯人隠蔽罪が加算されるぞ。」

「ふーん。」

「ふーん、ってあんたねえ、真面目に答えろ。」

「だから、真面目に答えてますよ。」

 戸沢は、笠原に、学校の先生にミナミツバサが少年Xといつから言われているかを分かる範囲で調べてもらうことにした。

 結果はすぐにわかった。

 その結果を、男子生徒に伝えた。

「お前の会話を聞いた先生の証言が取れた。」

「―。」

「川瀬京子が殺された直後、君が、ある人から頼まれて、ミナミツバサは少年Xだと警察が来たら言えって言っていたそうだ。」

「―。」

「もう、これで言い逃れはできないぞ。」

「―。分かった。言うしかもないな。どうせ、依頼人には解らないだろうし。俺は、5月の3日だった。電話で、警察が学校に来て、少年Xは誰かわかるかとか訊かれたら、ミナミツバサがXじゃないかと言えって言われた。」

「その電話の声は?」

「その電話の主は、確か、寅口功男って言う男だった。」

 戸沢は、笠原に、

「前科者カードに載って居る奴だ。しかも、3ヶ月前に痴漢をやらかして拘留されていた奴、間違いない。寅口功男が、真犯人だ。」

 と言った。

「その電話は5月3日の何時にかかってきた?」

「9時30分頃だった。その時に、空港のアナウンスが聞こえた。」

「空港?」

「ああ。JALとまでは聞こえたが、それ以降は無理だった。」

「分かった。」

 二人は、大宮警察署を出ると、警視庁に戻り、川瀬京子の両親に聞き込みをした刑事から、川瀬京子の両親の証言を聞いた。

「両親の話では、川瀬京子の携帯に11時50分頃電話があったそうです。それによれば、彼女は14時に田端機関区でミナミツバサと会うと言ったそうです。」

「その時、彼女はなんて言い返したかわかるかね?」

「サンダーバードはどうしたと訊いたそうです。そしたら、相手は飛行機で撮影に出かけてきたんだと答えたみたいです。その時、彼女は奇妙な事を話していたみたいです。」

「奇妙なこと?」

「はい。飛行機の音が聞こえたと言っています。」

「そりゃあ、飛行機で…。」

「警部!」

 笠原が大声を出した。

「「サンダーバード」と「しらさぎ」が同じ線路を走る沿線には、小松空港と富山空港があります。」

「ああ。そして、11時50分に川瀬京子に電話をしたとき、飛行機の音が聞こえたと言うと…。」

 戸沢は時刻表をめくって、

「やはり、小松空港だ。小松空港を11時50分に出発するJAL1276便の音が、携帯のマイクに拾われ、それが、川瀬京子にも伝わったのだ。」

「その後、14時30分までに田端に着くためには―。」

「小松空港を12時20分に出る、ANA756便だ。これに乗って、羽田空港に行く。そして、そこから東京モノレール空港快速と京浜東北線快速電車に乗れば、田端に14時12分に着く。そして、14時30分に、楽に殺害ができる。」

「あとは証拠ですね。」

「よし。では、大至急、小松空港の監視カメラの映像と、ANA756便のキャビンアテンダント、羽田空港の各航空会社の5月3日の羽田―小松間の便の乗客リストを入手して、証拠を集めるぞ。」

 と、戸沢が言った。

 小松空港の監視カメラの映像がメールで送られてきた。

 それには、例の寅口功男がANAのカウンターで受付をしている様子が映し出されていた。

 その後、ANA756便に乗り込む寅口の姿も映った。

 そして、羽田空港から送られてきた各航空会社の乗客リストのJAL1275便の乗客リストに寅口の名前があった。

 これが決め手となって、寅口の逮捕状が降りた。

 だが、肝心の寅口が、自宅の安アパートからいなくなってしまっていた。

「逃げたのでしょうか?」

 と、笠原が唇を噛んだ。

 その後、警察の大捜査網が張られた。

 だが、寅口は見つからなかった。

 一夜が明けた。

 だが、見つからない。

 自宅には、刑事が張り込み、首都圏の首都高速道路と、国道に検問を設けたが、見つからなかった。

 まもなく、始発の列車が動き出す。

 戸沢は、駅にも刑事を配置し、各鉄道会社の駅にも協力を仰いだ。

 しかし、どの駅からも、寅口功男の目撃情報は入らなかった。

 そうこうしているうちに、ラッシュの時間を迎える。

 駅は、人でごった返す。

 これでは、仮にどこかの駅に現れたとしても、見つからないだろう。

 首都高速道路や主要国道の検問については、検問による渋滞で国土交通省や警察の交通課に苦情が寄せられて、犯人逮捕どころの騒ぎではなかった。

 高速道路と、国道の検問を中止しようとしたが、そうはいかなかった。

 犯人は、車で逃走する可能性もあるからだ。

 しかし、そんな警察をあざ笑うかのように、時間は経っていく。

 検問には、引っかからなかったし、駅の監視カメラにも映らなかった。

 そして、昼が過ぎ、まもなく夕方のラッシュが始まろうとしていた。


 JR貨物田端操車場。

 福島県からはるばるここまで来た、貨物列車が停車していた。

 常磐線の泉駅発、信越線安中駅行きの、鉱石輸送列車である。

 牽引する、EF510電気機関車が起動する。

 まもなく発車だ。

 その直後である。

 線路を駆け抜ける、一人の男が現れた。

 男は、まもなく発車する貨物列車の貨車に飛び乗ろうとした。

 機関士が汽笛を鳴らし、貨車のブレーキが解除され、牽引力が連結機を伝わって貨車が動き出す。

 機関士が、後方を確認した。

 薬品を積んだタンク車と、ニッケル鉱石を積んだ無蓋貨車が連結された12両編成の貨車は異常なく動き出していた。

 だが、機関士は、あるものを見落としていた。

 しかし、無理もない。

 機関士が確認した時には、それはすでに、機関士から見えない貨車の影に隠れてしまっていた。

  

 ミナミは、バスで駅に着いた。

 学校では、昨日逮捕されたホモについての集会があった以外は、何も異常はなかった。

 ポケットに入れた携帯が震えた。

(また、例の変な奴からだ。)

 と思った。

「こんにちはー。今日もメールしていい?」

「いいよ。」

 とミナミは返信した。

 またメールが来た。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

「電話とかしたいんだけど、電話番号教えてくれない?」

 このメールにミナミは、迷った。

「えっ?あっそれはちょっと…。」

 ミナミは曖昧な返事を送った。

 すぐに返事が来る。

「大丈夫だよ。変なところに載せないから。私の電話番号は―。」

 ミナミは、

「分かった。自分は―。」

 と、電話番号を送った。

(なんかあったら、電話番号を変更すれば、大丈夫だろう。)

 と、自分に言い聞かせた。

 直後に電話がかかってきた。

 発信元は、さっき送られてきた電話番号。

(来やがった。早速来たか。)

 と、ミナミは思いながら電話に出る。

「はい。ミナミです。」

「ミナミツバサくん?」

 電話の向こうから、はじめて聞く女の子の声が聞こえた。

「えっええ。」

「初めまして。昨日からメールさせてもらっている、武川春風です。」

「…あっ初めまして…。」

 ミナミツバサは、電話の相手と会話している内に、

(あれっ?)

 と思った。

 あの日。5月3日に特急「サンダーバード」に乗った時、富山駅で会った女の子の声に似ているのだ。

「今、駅にいるんじゃない?」

「なんで?」

「だって、電車の音が聞こえるもん。」

 確かに、上り列車が駅に入線してきていた。

「うん。確かに、今駅に居るよ。」

 とミナミは言った。

 その時、後ろから、井川ひばりと、白鳥あずさがくるのに気がついた。

「あっちょっとごめん、電話したいけど―。」

「今は無理?」

「―。」

「分かりやすい。んで、女の子の友達に絡まれるんでしょ?」

「―。」

「その相手って、昨日、友人追加リクエストしてきた、井川ひばりさん?」

「全部正解。ていうか、あいつリクエスト送ったんだ。」

「うん。じゃあ、井川さんによろしくねー。」

 と、武川春風は言うと、電話を切った。

「よう。」

 と、白鳥あずさが肩を叩いた。

「あっやあ。」

「誰と電話してたの?」

 と、井川ひばりがニヤニヤしながら訊いた。

(分かってるなこいつ。)

 ミナミは思いながら、

「サンダーバード愛好家。」

 と言った。

「ああ例の彼女か。」

 白鳥あずさが言った。

 ミナミは、コミュニティーサイトを開いた。

 その時だった。

 大宮駅で撮影したという写真がアップされていた。それは、泉発、安中駅行き鉱石輸送の貨物列車だったが、先頭の機関車から、8両目の薬品タンク車のデッキ部分に、人が乗っているのが写っていた。

「えっなにこれ?」

 と井川が言う。

「こいつ、殺された京子ちゃんの彼氏だ。なんでこいつが貨物列車に?まさか、警察から逃げている?」

 白鳥が言う。

「もうすぐ、この貨物列車、ここを通過するぞ。警察から逃げているとすると―。こりゃあ、止めたほうがいいな。」

 ミナミは言うと、駅の改札を抜け、ホームに駆け下りた。

 表示番に、列車が通過しますと表示されていた。

 ミナミは、ホームの非常列車停止ボタンを押した。

 その時、ちょうど貨物列車がミナミの目の前に来た。

 間違いなく、泉発、安中行き鉱石輸送貨物列車だった。

 後から、井川と白鳥がホームに来た。

 列車は、停車する。

 機関車から8両目の貨車が、ミナミの目の前で止まった。

 デッキから、男が、ミナミに飛びついてきた。

 井川が間に入る。

 白鳥は、大急ぎで駅員を呼び出した。

 ミナミは、井川の援護に回った。

 男は、井川を押し倒す。

 ミナミはその上にのしかかった。

 だが、突き飛ばされた。

 男は、突き飛ばしたミナミにナイフを振りかざした。

 そこへ、白鳥あずさが、駅員を連れて戻ってきた。

 男は、駅員によって取り押さえられ、警察に引き渡された。

 

 戸沢と、笠原の元へ、寅口功男が埼玉県警に逮捕されたと言う知らせが入った。

 二人は、埼玉県警上尾警察署に駆けつけた。

 そこには、今まで追ってきた、寅口功男が確かに逮捕されていた。

 更に驚いたのは、ミナミツバサまでいたのだ。

 ミナミは、犯人逮捕に協力したということで、警察からお礼を受けていた。

 戸沢と笠原は、寅口功男の取り調べをした。

 寅口は、黙秘するのではと戸沢は思ったが、意外にあっさりと全ての罪を認めた。

「負けだ。俺の負けだ。俺は、川瀬京子を殺害しようとしていた。そして、彼女から、惹かれている男が居ると聞いた。更にそいつは、俺と同じ鉄道好きだった。俺は、ミナミツバサとか言う奴と同じ日に、特急「サンダーバード」の写真を撮るため、飛行機で北陸に向い、撮影をした。小松空港で、ミナミツバサを装い、彼女を田端機関区に呼び出した。んで、俺はANA756便で東京に戻り、田端機関区で彼女と少し会話した。その時、彼女から、撮ってきたサンダーバードに文句を言われ、かっとなった俺は、スタンガンで彼女を気絶させ、どこかに連れていこうとした。だが、彼女は、ショックで死んでしまった。俺は逃げ道をつくため、ミナミツバサを少年Xに仕立て上げた。その捜査に警察がドタバタすれば、俺は安全だと思った。だが、ミナミツバサは強敵だった。女友達の証言で、ミナミツバサを犯人に仕立て上げられず、それどころか、ミナミツバサを少年Xに仕立て上げるのに協力した奴が捕まった。これで俺はお手上げ。なんとか逃げようとしたが、検問だらけでどうしようもなかった。それどころか、列車の駅にまで捜査網が貼られてどうしようもなかった。んで、とにかく東京を脱出しようとして、田端の操車場に止まっている貨物列車に飛び乗って逃げた。だが、やはりミナミツバサは強敵だ。見事に見つかった。」

 寅口は言ってから、

「ミナミツバサと話がしたい。」

 と言った。

 ミナミは、顔をこわばらせて入ってきた。

「この列車は、「サンダーバード」だよな。」

 と寅口は言って、寅口が撮った写真を見せた。 

 ミナミのホームページに載っていた写真である。

「違うね。この列車は、特急「しらさぎ」だ。サイドから撮った写真を拡大すれば、あっという間に方向幕が分かるよ。」

 とミナミは笑った。

「ミナミツバサ。君は強敵だった。」

 と寅口は言った。


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