第14話
富山駅のホームに6両編成の485系、急行「能登」が滑り込む。
夜明けのホーム。
ミナミは静かに降り立った。
いつもなら、681系か683系の特急「サンダーバード」で、活気のある昼間の時間に降り立つ富山駅だが、今日は485系で、夜明けのホーム。
駅も町もまだ眠っている。
ミナミは、富山駅の北口改札を抜けた。
そこには、富山ライトレールの富山駅北駅がある。
予定では、午前10時にここで武川春風と待ち合わせである。
明らかに、まだ早い。
ミナミは時間潰しの為に、富山ライトレールに乗車することにした。
5時57分発の始発電車で、岩瀬浜まで行ってみることにする。
終点の岩瀬浜に着くまで、ミナミは携帯のコミュニティーサイトに書き込みをした。
(今、富山に居ます。急行「能登」に乗車して、富山には午前5時42分に到着。現在富山ライトレールの始発で岩瀬浜に向かっているところです。)
この書き込みには、なかなかコメントはつかない。
それもそうだ。
まだ、みんな眠っているのだから。
起きている人は、公共交通機関に従事する人であろう。
(みんな眠っている時間から眠った後まで、お疲れ様です。)
と、ミナミは富山ライトレールの運転席にいる運転手の背中を見て思う。
(最近、バスの運転手さんに無理難題を押し付けたり、長時間労働を強いらせたり、挙句の果てには、「バス運転手のくせに給料が高すぎる!」と給料を減らしたりすることが横行している。そして、そうした流れが、電車の運転士にも及んでいる。無理難題を押し付けて、結果的に運転士が心や身体を壊してしまったら、その先にあるのは事故だ。その例が、福知山線脱線事故だろう。企業は利益を求め、旅客はアホを押し付ける。その結果、事故が起きればどうなるのかを考えて欲しい物だ。だいたい、「公共交通機関の従事者は長時間労働で低賃金でいい」ってどこの誰が決めたんだ?国会で何もしねえ居眠り爺婆が決めたのか?)
電車は、朝の富山の町を抜け、富山の港町に向かって走る。
電車は、岩瀬浜駅に着いた。
ここは、富山ライトレールの終着駅である。
無人駅で、ホームの外は、小さなバス停があるだけだった。
ミナミは、地図を頼りに、岩瀬浜まで行って、日本海を眺めてみた。
今まで、サンダーバードの車内から見たことはあったが、海岸にたって、のんびり眺めることはこれが初めてである。
朝日を浴びる日本海は、朝の太陽の光を浴びてギラギラ輝いていた。反対側を振り向くと、立山連峰から登る太陽と、美しい稜線を見せる立山連峰があった。
空は、澄み切った青空だった。
どこからか、エンジンの音が聞こえたと思うと、小さな漁船が、沖から近くの漁港に戻ってくるところだった。
ミナミは、岩瀬浜駅に戻って、富山駅に向かうことにした。
(そういえば、富山には来ていたけど、この景色をゆっくり眺めたことなんて、無かったな。もしも、あの子、武川春風さんが、風俗女、または男で恐喝されても、俺はこの景色を見る事が出来たから、それでもいい。)
と思った。
ミナミは、恐れている、なりすましからの、恐喝に備えて予備の金を持っていた。
ギリギリ地元へ帰る事が出来る最低限の金額だが、これだけあればなにかあったときに心強い。
ミナミは、富山駅に戻ると、駅の中でファーストフードの軽い朝食を食べた。
その後、まだ2時間くらい時間があった。
ミナミは、今度は富山地方鉄道に乗車することにした。
8時10分発の電車に乗って、岩峅寺駅まで行く。
乗車したのは、富山地方鉄道の不二越・上滝線。富山地方鉄道には、この路線の他にも、立山線と言う、不二越・上滝線とは違うルートで岩峅寺に向い、立山連峰の玄関口とも言える、立山まで行く路線と、宇奈月温泉に行く本線がある。
ミナミの乗った電車2両編成の電車は、しばらく住宅街の脇を走る。
南富山駅を出ると、田園風景が広がり始めた。
南富山駅から、中学生達が10人くらい乗ってきた。
その中の一人の男子生徒が、鞄から一枚の紙を出し、それを持って一人の女子生徒に話しかけた。
(電車の中で、告白か。)
とミナミは思いながら、その男子生徒を遠目で見守った。
「ありがとう。でも、私好きな人がいるし、それに、好みじゃないんだ。だから、ごめん。」
と女子生徒が言った。
(納得できるか!)
ミナミは心の中で怒鳴った。
(確かに、あの男の子は、見栄えがするかと言われると、あまり見栄えのない子だけど、中身は、優しくて、何事にも真面目に取り組む性格だ。あの目をみれば分かる。下心がある奴や、遊び半分で告白する奴は、ヘラヘラしながら告白する。でも、あの子は、そうは見えない。まっすぐに相手を見つめて、ヘラヘラせず、そして、目は真剣なまなざしだ。でも、振った理由はなんだ?好みじゃない?確かに、人それぞれに、好みは有るだろうし、それはまあしょうがないだろうけど、でも納得できない。人って、見た目だけなのかな?見た目だけじゃないと俺は思う。確かに見た目も大事だろうけど、問題は、中身だと思う。一見ルックスが良くて、カッコよくても中身はとんでもないほどにどうしようもないほどに遊蕩しつくした人間だったとか、よくある話だ。それで、イザ別れようとしても、男の遊蕩で別れられそうもないとか、別れようとして脅迫されたりとかもあるじゃないか。俺はそういうものを、ドラマや小説でよく見てきた。それに、最近ではそういうことがテレビのニュースにもなっているのに、なぜ、人は見た目だけでいろいろなことを決めてしまうんだ?)
ミナミは疑問に思っていた。
でも、その答えは見つからなかった。
そして、ミナミも、犯罪などの危険があるにも関わらず、コミュニティーサイトで知り合った人に会いに、富山まできたのだ。男の遊蕩で別れられないとか、脅迫される危険と今のミナミのやっていることを比べたら、今のミナミのほうが危険だと言う事ぐらい、ミナミ自身も解っていた。なのに、富山まで危険を犯してまで、やってくるというミナミもまた、遊蕩しつくした男を好きになる女の子と同じような人間だった。
電車は、開発駅を発車した。
周りは、田園が広がる。
田畑に入り、農作業をする人の姿が、時折車窓を横切る。
電車が上滝駅に到着すると、中学生の集団は下車した。
その中に、あの男子生徒を探した。
彼は、涙目になりながら友達に慰められ歩いていた。
(がんばれ。きっと君を好きになってくれる人が現れるよ。)
とミナミは呟いた。
電車の車内は、お年寄りの乗客が数人だけになってしまった。
電車は、大川寺駅に停車した。
この駅は、トンネルのような場所にある駅だった。
電車は大川寺駅を発車すると、常願寺川をわたる鉄橋を越え、終点の岩峅寺駅に到着した。
折り返しの電車で、富山駅に戻るが、発車は9時10分。
今の時刻は8時41分。
まだ30分近くある。
どうしようかとミナミはうろうろしていると、立山線の電車が来た。
立山線は、立山連峰への玄関口、立山駅に行く路線だ。
だが、今来た電車は、岩峅寺止まり。
ミナミは、駅から歩いて、近くの踏切に向かって、電車の撮影をすることにした。
ちょうど、踏切を渡って、いい感じに撮影できる場所を探していると、8時45分発の立山線、富山駅行きの電車が発車した。
ミナミは、カメラを構えて撮影した。
その後は、駅の周りを探索した。
富山県の、田舎町をうろうろする事は、これが初めてで、いい経験ができた。
その後、常願寺川を見下ろせる道に出て、常願寺川の流れを眺めた。
この、常願寺川の上流には、日本一の落差を誇る称名滝がある。
富山県から、立山連峰を散策すると、最初に目にすることができる雄大な滝の姿を、ミナミは写真で見たことがあった。
だが、それを、生で見たことはなかった。
でも、そんな滝がある常願寺川を眺めるだけで、ミナミは満足だった。
女友達の一人が、心無い交際相手に殺害され、その罪を自分に着せられかけ、そして、せっかくできたと思った彼女とも、呆気なく別れてしまった自分の傷ついた心が、常願寺川の流れを眺めているだけで、癒されているような気分になったからだ。
ミナミは、ぼんやり常願寺川の流れを見ていて、気がつくと、電車の発車時刻が迫っていた。
ミナミは大慌てで、駅に戻り、富山へ行く電車に飛び乗った。
電車は、岩峅寺駅を発車し、すぐに常願寺川を渡った。
常願寺川の上流の方には、岩瀬浜で見た時よりも大きく立山連峰がそびえていた。
ミナミは、ビクビクしていた。
この電車が富山に到着してまもなく、例の武川春風と会うのだ。
ミナミは、絶対にコミュニティーサイトで知り合った人とは、合わないと決めていた。
だが、なぜだか今回は来てしまった。
(大丈夫だ。相手は、俺と同じ、サンダーバードの愛好家だ。サンダーバードの愛好家に、悪い人はいない。)
と、ミナミは自分に言い聞かせた。
しかし、その直後、ある推理小説を思い出した。
特急「サンダーバード」が、テロリストに乗っ取られたと言うストーリーで、犯人のテロリストの中に、サンダーバード愛好家が2、3人いたのだ。
自分が好きな列車を乗っ取り、乗客の身代金を要求する人間が、小説の世界だったがいたのだ。
(ああどうしよう。今からでも逃げたほうがいいかも。)
と、ミナミは思った。
でも、それを実行したくても、それを実行できないのだ。
電車は、どんどん富山駅に近づく。
(やっぱり、今から逃げよう。嫌な予感がする。)
ミナミは思って、時刻表を開いた。
その時だった。
携帯が鳴った。
電話だった。
(相手は誰?)
ミナミはかけてきた相手を確認。
武川春風からだった。
ミナミは、ビクビクしながら電話に出た。
「もっもしもし。ミナミです。」
「ツバサ君?今どこにいるの?電車の音が聞こえるから、電車の車内かな?」
「あっ今、富山地方鉄道不二越・大滝線に乗っているよ。」
「富山に向かっている?」
「うん。」
「もう私、富山駅北駅で待っているよ。」
と武川春風が言った。
(もう来たのか。)
とミナミは思った。
車内放送がまもなく富山に着くと告げた。
「もう着くよ。」
緊張しながら言う。
「なにビクビクしているの?」
と、武川春風が言う。
電車は、富山駅に到着した。
ミナミは、改札を抜け、富山駅北駅に向かっていた。
(なぜ逃げようとしないんだよ俺は!)
心の中で自分に向かって怒鳴った。
だが、ミナミの体は、富山駅の北口を抜けて、富山駅北駅に向かっていたのだ。
ブレーキが壊れた車か電車のように、ミナミは待ち合わせ場所の富山駅北駅に向かって行き、とうとう、富山駅北駅に到着して、停止した。
「今、富山駅北駅に着いた。」
とミナミは言った。
その時、目の前に止まっていた、富山ライトレールの電車が発車した。
その電車がミナミの前から、いなくなったとき、反対側のホームに携帯を耳に当てた、女の子が居るのに気がついた。
「私、もう電話切るね。もうツバサ君の姿を確認したから。」
と、その女の子がミナミに向かって言った。
(もう、逃げられないな。会うなと言い聞かせていたのに、会いに行った自分が悪いんだ。脅迫されようが、殺されようが、犯罪に利用されようが、もうどうにでもなってしまえ。)
と、ミナミは思った。
ホームの反対側にいた女の子は、携帯をたたんで、自分の居るホームにかけてきた。
「初めまして、ミナミツバサ君?」
と女の子はミナミのところに来て、ミナミに訊いた。
「うっうん。あっ武川春風さん?」
ミナミは訊いた。
「そうです。初めまして。」
と、春風は言った。
ミナミは、春風を観察した。
ショートとロングの中間くらいの髪型。身長はミナミより5センチくらい高いだろうか?美人か美人では無いかと聞かれると、普通の顔の女の子だ。
その顔を見て彼は確信した。
「ゴールデンウイークの5月3日に、ここで君に会ったような気がするんだけど…。」
そうだ。今、目の前に居るのはあの日、5月3日に特急「サンダーバード15号」で富山に来たとき、ここで会ったあの子なのだ。
彼女も気が付いた。
「あっ!あの時の、ゴールデンウイークの時、ここで会った!ウソーッ!感動の再会だ!」
武川春風は、感動のあまり飛び跳ねていた。
「すごい!あの日出会った人と、こんな形で再会なんて!」
「まさか、あの日の君だったとは。びっくりだ。」
ミナミツバサは笑い、そして今日は何に乗って富山に来たかを話した。
「今日は、サンダーバードには乗らずにここまで来たんだ。」
と、ミナミは言った。
「ええっ乗らなかったの?」
「うっうん。」
「何に乗ってきたの?」
「えっと、大宮から急行「能登」号で来た。」
「朝早くに着いたでしょ?」
「まあね。それで、早く着きすぎたんで、ライトレールと地鉄に乗っていた。」
「なんだー。だったら、メールしてくれればよかったのに。」
と、春風は笑顔で言った。
「あっメールと言えば、いきなりメルアド渡されて、こっちはびっくりしたよ。」
ミナミは言う。
「あはは、ごめんごめん。でも、何かあったら、アドレス変更してしまおうと思ったんだ。」
「それ、俺も同じこと考えた。」
「マジで?」
「うん。ていうか、こっちはマジで緊張していたんだよ。いや、ビクビクしていた。だって、相手が悪い人で、犯罪に巻き込まれないかなんて考えたんだ。」
「それ、私も同じよ。すっごく緊張してた。相手が悪い人で、脅迫されたり、殺されたりするかもしれないって思っていた。でも、よかったツバサ君も同じで。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「まあね。でも、私、ツバサ君は60%私を犯罪に巻き込まないだろうと思っていた。」
「その根拠は?」
「コミュニティーサイトで、ツバサ君の友達と友人になったでしょ私。」
「ああ。そうみたいだけど。」
「その子達から、確認したの。ミナミツバサと言う人はどんな人かって。したら、こんなこと言っていた。(ミナミツバサは、人を犯罪に巻き込まない人だ。逆にミナミツバサが犯罪に巻き込まれるんじゃないかって心配よ。)って。」
「そうなんだ。んで、100%では無いのは?」
「情報を仕入れても、実際は情報とは違うって事がよくあるでしょ。だから、もしかしたら、それになるかもしれないなってことで、100%の確証にはならなかった。」
春風は笑った。
ミナミもクスっと笑った。
「集合、いや再会したけど、どうしよう。」
と、春風が言った。
「ああ。何も考えていなかった。」
「私の家にでも来る?」
「えっ。」
「冗談。映画でも観ない?」
「うん。そうしようかな。」
ミナミは笑った。
二人は、駅を抜けて、映画館に行ってみた。
「ツバサは映画とか普段観るの?」
春風が言う。
「うーん。まあ、映画館で観ることは、滅多に無いな。」
「そうなんだ。じゃあ、何を見る?」
と春風が笑いながら言う。
「えっと…。」
ミナミは考えた。
題名は知っていても、内容を知らない映画が山ほどあった。
「ハルカは、何が観たいの?」
と、ミナミは訊き返した。
「えっ。」
春風にはこれは予想外の展開だったらしく、狼狽している様子だった。
「あっじゃあ、これにしよ。」
と、春風が言いながら、恋愛小説を映画化したものを指した。
「うっうん。」
と、ミナミは言った。
結局、春風が指定した映画を見ることになった。
二人で映画を見た後は、富山ライトレールに乗車した。
「このまま、終点の岩瀬浜に行こう。」
と、武川春風が言う。
「うん。」
ミナミは答える。
富山駅北駅から、岩瀬浜行きの電車に二人は乗る。
「富山ライトレールは、元々富山港線っていうJRの路線だったんだけど、2006年にLRT化(路面電車化)し、第三セクター富山ライトレールに経営を移管した鉄道で、富山市内の渋滞緩和や交通事故の削減、二酸化炭素削減等の効果が期待されているんだ。」
武川春風は、自分の知っている事を、ミナミに話し始める。その顔からは、緊張の色が消えていた。
ミナミは、その話をニコニコしながら聞いた。
鉄道の話を、こんなに沢山聞けるのは、久しぶりで楽しかった。
ミナミは、試しに、
「LRT化以前と、LRT化後の利便性は変化したの?」
と、質問してみた。
「LRT化以前の、JR線は、列車の本数が一日20本の列車が走っていたのに対し、現在の富山ライトレールでは、一日66本の電車が走行しているよ。そして、終電時刻が、JRの時は21時だったのに対し、富山ライトレール移管後は23時になって、沿線に住んでいて富山市の中心、又はそれ以外の場所で仕事をする人は、遅い時刻まで仕事をしていても安心。私も、塾の授業や説教で遅くなったときも、電車があって助かるし。」
と、春風は笑う。
ミナミは、(塾の説教)と言う言葉がひっかかり、
「塾の説教って?」
と訊いた。
春風は、さっきの笑顔が消えてしまった。
「あっごめん。話したくないんだったらいいよ。」
「いや、そうじゃなくて。その、ツバサ君なら、解ってくれると思うから、話すよ。」
春風は慌てて、笑顔を作った。
電車が、越中中島駅を発車した。
電車が加速する。
春風は、笑顔だけど、暗い声で話し出した。それは、彼が見た日記の通りのことだった。
チャラチャラした不良男子に、ちょっかいされまくっていること、それがエスカレートし、先生に言ってもダメ。そして、授業にもそれが原因で集中できないので、塾に通うようになったが、こっちでは塾の先生と息が合わず、小さなミスをすると、それだけで先生は「こんな問題もできないのなら、生きててもしょうが無いから死ね。」と怒鳴りつける。
「ツバサ君に、友人追加リクエストしたときも、そうだった。あの日は、男子がいつもより酷くちょっかい出してきて、更にそいつらが私の塾に入ってきたの。んで、授業中にちょっかいされて、そして先生もいつも以上に熱血で、死ねとか言われた。確かに、頑張って欲しいという想いは分かるけど、死ねって言うのは無いでしょ?」
「その、塾ってのは、どこにあるんだ。」
ミナミはいきなり訊いた。
「えっ。」
「塾はどこにあるんだって訊いてんだ。そのクソ野郎をぶん殴ってやる。」
ミナミは本気で言った。
「いやいや、大丈夫だよ。今は、ツバサ君が居るし、それに、2学期になれば、そんな嫌な連中からおさらば出来るから。」
「えっ?」
今度はミナミが詰まった。
「どういうこと?」
「私、富山から、ツバサ君の地元に引っ越すことになったの。転校する高校も決まっている。」
「そうなんだ。んで、何処に転校するの?」
「さて、何処でしょうか?」
春風は笑いながら訊く。
ミナミは(まさか)と思って、
「俺の学校か?」
と言ってみた。
すると、春風はこの日ミナミが見た中では、最高の笑顔で、
「そうよ!ツバサ君の学校だよ!」
と、大声で言った。
「マジかよ。」
「うん。でも、なんか嬉しい反面、悲しいな。」
「なんで?」
「私、この富山の町が好きだった。海が有り、美しい川や山々。それらが遠くに行ってしまう。私、さっきは愚痴言っていたけど、この街が好き。でも、2学期になったら、この町から離れる。そう思うと、悲しい。」
その後、二人の間に沈黙が降りてきた。
電車は、岩瀬浜駅に着いた。
二人は、歩いて岩瀬浜へ向かった。
「あっあの‥…。」
ミナミがやっと口を開いた。
「なに?」
春風が微笑む。
「その、俺じゃあ、だめかな。」
「へっ?」
「あっその、2学期から、俺が春風の大好きな富山の町の変わりになれないかな?」
ミナミは、また緊張しながら言った。
本気で、こう言ったのだ。
春風は、遠くを見ていたが、
「きっと、ツバサ君は私の、第二のふるさとになってくれるよね。」
と言った。
(だから、さっき俺が代りになれないかなって聞いただろが。)
と、ミナミは思ったが、
「うん。必ずなるよ、君の第二のふるさとに。」
と笑って言った。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
春風は笑った。




