↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/121

第92章 切りたくない糸

 第92章 切りたくない糸


 俺は本題を切り出した。


「それでな、エヒメ。栲幡千々姫命様が言ってたんだ」

「俺の複雑に絡まりすぎた因縁の糸を正しく裁ち、調和させられるのは……エヒメの、さらに上にいる『姉神』だけだって」


 その言葉に、アナハが豚まんを置いて、申し訳なさそうにエヒメを見つめた。


「……エヒメ姉様。わざわざご指名頂いたというのに、このアナハでは、主様の糸をどうすることもできませんでしたわ……」


「……うむ、そうか。わらわも、少しばかり事態を甘く見ておったようじゃな」


 エヒメは手元に残った豚まんを見つめたまま、何か深い思索に沈むような顔を見せた。


 食後、アナハが浴室へと向かった。

 しばらくすると、薄いドアの向こうから、いつもの甘い声が漏れ聞こえてくる。


 『主様ぁー。お城で出来なかったことします?』

 『主様、どこが『元気』になってますの?』

 『主様、お久しぶりにどうですかぁー?』


「何を久しぶりなんだ、 静かに入ってくれよ……」


 やれやれとリビングの床に座り込んだ時。

 対面に座るエヒメが、ポツリと静かに話し出した。


「紡、……悪かったな」


「何がだ? 急に」


「……我もな、少しばかり気がついておったのじゃ」


「エヒメ……」


「おぬしの持つ人間の枠が、徐々にこちら側(神域)へ傾きつつあることに」


「何を言っているんだ」


「……紡、おぬしの縁(糸)をここまで広げてしまったのは、我じゃ……」


「お前……」


「もう、宗像(むなかた)の三女たちの手を煩わす必要はない。……幕引きは……我がする」


「違う……」


 エヒメの言葉を、俺は強い声で遮った。

 俯くエヒメが、驚いたように顔を上げる。


「お前、俺がみんなと出会ったことを後悔してるとでも思っているのか?」


「しかし、このままではおぬしが……」


「俺はお前や、オトや、クレハやアナハ……みんなとの縁(糸)を、切りたいなんてこれっぽっちも思ってない!」


「紡……」


「そのために、宗像様の力が必要なんだろ? 」


 俺はエヒメを真っ直ぐに見つめ、笑ってみせた。


「俺は神様に頼る情けない普通の会社員だ」

「だけどな、誰より前に立って、お前たちの痛みや因縁を全部受け止める、強固な盾役なんだ」

「何度倒れたって俺はまた立つ!」


「紡……おぬしという男は……」


 エヒメの瞳に、涙が浮かぶ。

 人間と神の垣根を越えた、確かな絆の確認だった。


 まさに、その瞬間。


「……主様。今、何が『勃っている』のですか?」


 湯気を立ち上らせ、バスタオル一枚を巻いたアナハが、濡れた髪を拭きながらリビングに顔を出す。


「…………」


「違う、そういう意味の『勃つ』じゃない!! 頼むから情緒を返してくれ!!」


 頭を抱えて絶叫する俺。

 我が家に、いつもの騒がしくも愛おしい夜が戻ってきた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。