第73章 主様の為の正装、再び
第73章 主様の為の正装、再び
ベッドと床のわずかな隙間に手を差し込み、指先に触れたものを一気に引き出す。
引き出したのは紙袋だった。
中には、何か柔らかいものが入っているようだった。
「……なによ、これは」
「茅春ちゃん、 何が入っとるん?早く出してえな」
「待って、わたしがまず中身を確認するわ!」
わたしは警戒しながら紙袋の口を広げて覗き込んだ。
青色の柔らかいヒダ状のスポンジのようなものが見えた。
恐る恐る手を入れソレを取り出した。
「なんやそれ?」
「……シャンプーハット……」
「それって、帽子の一種なんか?」
不思議そうな顔をして首を傾げるクレハちゃんのために、わたしは実演してあげることにした。
わたしは自分の頭に、その青いスポンジの円盤をすぽっとハメ込んでみせた。
「……帽子っていうか、こうやってシャンプーのときに、お水や泡が目に入らないように頭にかぶるものよ」
「そんなん、かぶっておったら、頭洗いにくくないの?」
「それは……まぁ、小さい子供用だからね。大人は普通使わないわよ」
シャンプーハットを頭に乗せたまま大真面目に解説していると、紙袋の奥に、まだ何か別のものが残っているのに気がついた。
わたしは油断なく、紙袋の底から残った物体を引っ張り出した。
それは、独特の伸縮性がある、紺色の布地だった。
「何かしら? ちょっと厚手のジャージっぽい生地だけど……」
……形がよく分からない。
わたしは立ち上がり、その紺色の布を大きく広げて、自分の胸元にしっかりと当てがってみた。
その瞬間、あまりにも絶妙すぎるタイミングで、玄関のドアが開いた。
「ただい……ま……」
入ってきたのは、唖然とした顔の紡と、その後ろにエヒメちゃん。そして、なぜか顔を真っ赤にして縮こまっている隣の部屋の佐藤さんだった。
三人は部屋の中央に立つわたしの姿を見た瞬間、まるで時間が凍りついたかのように完全にフリーズした。
頭には、青色いシャンプーハット。
胸元には、両手でしっかりと広げて体に当てがった、紺色の――。
「茅春、それ、どこから引っ張り出してきたんだ!?」
「えっ!?」
わたしは慌てて、自分が胸元に当てがっている布に視線を落とした。
紺色の、ワンピース型。胸のあたりに白地の手書き用ゼッケン。
そこに油性フェルトペンでデカデカと書かれた、『佐藤』の二文字。
——スクール水着。
「なによこれぇぇ!!?」
わたしは悲鳴を上げた。
「……あ、あの、それ……わたしのです。この前、オトちゃんが欲しいって仰ったので、差し上げたもので……」
「まさか、茅春さんまで気に入ってくださるなんて……」
佐藤さんは、恥ずかしそうにモジモジと真っ赤になって下を向いている。
「気に入ってないわよ! 誤解しないで、佐藤さん! わたしはただ、ベッドの下から怪しい袋を見つけて、中身を確認しただけで……!」
必死に弁明するわたしを、紡は信じられないものを見るような、哀れみと恐怖が入り混じった目で見つめていた。
「いや、茅春。お前がベッドの下を捜索した理由は一旦置いておくとして……なぜそれを『かぶって』、さらにそれを『当てがった』んだ? 」
「クレハにそそのかされたとはいえ、あまりにもノリノリすぎないか?」
「ノ、ノリノリじゃないわよ! 」
「おお、やはりオトはその『至高の正装』を茅春に託したようだな」
引きつる一同の中で、エヒメちゃんだけが不敵にクククと喉を鳴らしていた。




