第63章 神様オーラゼロ
第63章 神様オーラゼロ
——とにかく、玄関先で『飛脚』だの何だのと騒ぎ続けるわけにもいかない。
俺はひとまず、謎のスポーティー関西弁美少女を部屋の中へと招き入れた。
「いやー、それにしてもまあまあ遠かったわ、さすがにちょっと喉乾いたなぁ」
「遠かったって……お前、どうやって来たんだ?」
「走ってきたに決まっとるやろ?」
「おまえやっぱり『飛脚』だろ!」
「ちゃう、いうとんねん」
奥からノソリとエヒメが姿を現した。
「クレハよ、……久しいの」
「姉様、どないしたん?えらい元気ないやん」
ゲームの敗北ですっかり魂が抜けたようなエヒメを見て、クレハが驚いたように身を乗り出す。
「クレハ、気にするな。ゲームのことで落ち込んでるだけだ」
「……ゲーム?ゲームってなんや?……姉様」
「……そうだろ、神様のくせに昼間から部屋に引きこもってゲームばっかりしてるんだ。お前からも言ってくれ」
「電車と競争か?全国都道府県かくれんぼか?」
——クレハ、お前だけは違うと思っていたぞ……。
俺の心の声が聞こえたのか、俺の残念そうな表情を読み取ったのか、彼女は自分の発言を訂正するように、改めて言い直した
「違うん?じゃあ『だるまさんがころんだ全国版』か?」
——違った。こいつも十分エヒメ側の住人だ。
俺にはもう、ツッコむための体力は残されていなかった。
諦めて溜め息をついた俺は、気を取り直してキッチンで夕食の支度をはじめ出す。
「クレハも、せっかく来たんだから夕飯食べていくだろ?」
「えっ、ウチの分もあるの?」
「ああ、ちゃんとあるよ。俺の『神様レーダー』が、事前にクレハの来るのを知らせていたからな」
——エヒメ用にローストチキンを二本買っておいてよかった。……エヒメにはちょっと悪いけど。
——いや、待てよ?そもそも、あいつの妹分じゃないか。
そんなことを考えながら香ばしい匂いのローストチキンの皿を並べる。
ふと、横から焼けるような熱い視線を感じる。
いつのまにか、すぐ隣に立つクレハが、じっと俺の横顔を見つめている。
「どうした?お腹減ってたのか?もうすぐ準備できるからな」
「……さすが、姉様たちに主様と呼ばれるだけあるやん。『神様レーダー』って半径どのくらいで反応するん?」
——完全に信じているぞ……。
「……ま、まあ。神様のオーラの強さによって変わる……かな?」
「でも……さっき、ウチのこと全然気ついてへんかったやん……?」
「……エヒメやクレハは、……あれだ、天然のステルス機能みたいなものがあるんじゃ……ないか?」
——神様オーラゼロで天然のお前たちが悪いんだからな……。
「マジ?そんなんもわかるんや……紡くんって、ほんますごいんやな!」
「……ま、まあな」
きらきらと純粋な瞳で俺を尊敬の眼差しで見つめる少女。
そんな彼女を嘘で騙してしまった後ろめたさから、俺はクレハの茶碗に、白米を大盛りにしてあげた。
みんなでテーブルを囲む。
エヒメは並んだローストチキンを見るなり、一瞬でゲームのことを忘れて大喜びで目を輝かせた。
「紡よ、今日の神饌はすごいな!クリスマスのようじゃ」
「……日本の神様が、平気な顔してクリスマスとか言うなよ」
「何をいっておる、『神仏習合』という伝統があるではないか」
「それは、仏教とのことだろ?」
「硬いことを言うな。この国は、よその国の文化を自分たちに合うように上手く取り入れるのが、実に見事じゃ」
「衣服だってそうじゃろ?今では、ほとんどが西洋から伝わった服……『洋服』じゃろ?」
「洋服って、よく考えたらそういう意味だったな……。毎日当たり前に着てるから、深く考えてなかったわ」
「そうじゃ。そして、おぬしらが着物と呼ぶ『呉服』の起源もな、このクレハの『呉織』の技術からきとるのじゃぞ」
——日本の服飾文化の歴史そのものと言ってもいい、そんな偉大な神様を、俺は、適当な嘘で騙してしまったのか。
……本当にごめんなさい。
痛む心を隠して、俺たちは豪快に鶏の骨付きもも肉にかぶりついた。




