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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第6章 そこは君のクローゼットじゃない

 第6章 そこは君のクローゼットじゃない

 


 俺が数年かけて揃えた、モノクロのスタイリッシュな空間。

 デスクの上のガジェットさえ、妥協を許さずに厳選した。

 そんな俺の完璧な空間に、干された色とりどりの女性用下着。


 今日も神様は俺のヨレヨレのダボTシャツに、ちぐはぐな靴下姿でベッドに寝そべっていた。


「なんで、こんなに下着が増えてるんだよ!」


「織恵の貢ぎ物じゃ」


「それに、その格好。お前、服飾の神様なんだろ?」


「そうじゃ、やっと認めたか。理解の遅いやつじゃな」


「そうじゃなくて! 神様らしい、もっと高貴な服装があるだろ」


「おうおう、そうじゃな。男子は巫女服とナース服が好みじゃったな」


「違う! どこでそんな偏った情報を仕入れてきた!」


「ミニスカポリスやバニーガールのほうが好みか?」


「……」


 俺が絶句すると、彼女は勝ち誇ったように高笑いをした。

 そして、腰に手を当て、十本パックから取り出した乳酸菌飲料を一気に飲み干した。


「……ブフォッ……ブフォッ」


 ……変なところに入ったらしい。

 腕で口を拭い、何事もなかったように俺に向き直った。


「我の真の装束を見たいのか?」


「あるのか?」


「お前は、我が『裸ん坊』でおったと思っておるのか?」


「Tシャツパンいちで偉そうに言うなよ」


「これはこれで、よいのじゃ」


 高笑いを続け、彼女は二本目の乳酸菌飲料の蓋を剥がし始めた。


「一日一本な……」


「……ブフォッ……ブフォッ」


「学習しろよ! ……はぁ、もういい。服、買いに行くか?」


「ありがたい申し出だが、現代の服に興味はないわ」


「俺のTシャツは現代のだぞ……」


「お前は屁理屈が多いな」


「屁理屈を言ってるのはどっちだ。お前が現代の服を着ないのは勝手だけどな、それ俺のTシャツだから! 洗濯が追いつかないんだよ!」


 俺は部屋の惨状を指差した。

 エヒメは三本目の乳酸菌飲料の蓋を剥がしながら、ふんと鼻を鳴らした。


「いいから、買いに行くぞ!」


「……紡、お前は我を、このはしたない姿で民衆の目にさらすのか?」


 急にしおらしくなったエヒメは目を潤ませ、懇願するように俺を見つめてきた。


「……これが羞恥プレイとやらか?」


「……佐藤さんに借りろよ!」


 幸い、佐藤さんとエヒメは背格好が似ていた。


「仕方ない。まずは衣を獲ってからじゃ。現代の惨状をこの我が直接視察してやろうという慈悲じゃ」


 そう言って、窓を開けてベランダに出ると、隣室との境にある手すりをまたいだ。


「……お願いだ。やめてくれ! そこは君のクローゼットじゃない!」


 エヒメを手すりから引きずり下ろし、俺は玄関から佐藤さんに服を借りに行った。

 隣の部屋のインターホンを押すと、数秒でドアが勢いよく開いた。


「川崎さん、どうかしたの。兄媛様に何か一大事ですか!?」


「いや、一大事なのは俺の社会的な地位なんだけど……。ちょっとあいつを外に連れ出すから、佐藤さんの服を何か一着貸してくれないか?」


「えっ、兄媛様とお出かけですか!? お安い御用ですよ、ちょっと待ってください!」


 数分後、彼女は大きな紙袋を持って現れ、俺を押しのけて部屋に駆け込んでいった。

 ガチャンと内側から鍵を掛けられ、俺は自分の部屋の前で立ち尽くすことになった。

 ——佐藤さん、そこ俺の部屋なんですけど。


 さらに数分後、ドアが開くと、淡いミントグリーンのシフォンブラウスと、きれいなラインのロングスカートを身にまとったエヒメが現れた。

 服飾学生である佐藤さんの私服だけあって、俺が見ても、シンプルながら仕立てがよく、上品なデザインだった。


「……ほう。この縫製、なかなか良い『いせ込み』がされておるな。あの娘、本当に我の技術を吸収し始めておる」


 エヒメは服の袖や裾を軽く広げ、一瞬だけプロの厳しいまなざしをのぞかせた。


「少し胸がきつくて、腰がダボついておるがな」

「うむ。まあ、我の本来の神衣には遠く及ばぬが、及第点じゃ」


「ありがとうございます、兄媛様」


 後ろから顔を出した佐藤さんは、思いきりディスられているはずなのに、至福の笑みを浮かべていた。

 その狂信的な笑顔が、俺には少しだけ痛々しかった。

 

 

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