第50章 主様は放し飼い禁止
第50章 主様は放し飼い禁止
レーズン入りネオバターロールを片手に、部屋に戻る。
トラパーカーのアナハが出迎えてくれた。
「主様、おかえりなさいませ。アナハは首を長くしてお待ちしておりました」
「……ただいま、それより、あの刺繍はなんだ?……茅春が完全に勘違いしてたぞ」
「色々問題がある方が、主様も燃えると思いまして」
「そういうのは、わざわざ作るものじゃないぞ……」
「その方が、視聴率が上がると聞いております」
——どこ情報だよ。
「エヒメ、これでいいのか?」
レーズン入りネオバターロールを渡す。
「そうじゃ、これじゃ。ご苦労だったな紡」
「そんなに、それが食べたかったのか?先週も買ってあっただろ」
「そうなんじゃ、これを温める時間が難しくてな。難儀しておる」
「……まあ、頑張ってくれ」
ネオバターロールの温める時間に難儀するエヒメは暇なのだろうか?
昼間の状況が気になり、エヒメに聞こうとした。
その時、アナハが袋からガサガサと、プラスチックのパックを取り出した。
「主様、お腹がすいておられるのではないかと、先ほど買って参りました」
出されたのは、『たこ焼き』だった。
エヒメは、まだ湯気の上がるアツアツのたこ焼きを口に放り込む。
「その格好で買いにいったのか?」
「大阪から来たわたしが、トラパーカーで『たこ焼き』を買うなんてできませんわ」
「そうなのか?」
「もし、『ジャビット』や『つば九郎』や『ドアラ』に見つかったら……」
「特に『つば九郎』は狂暴ですから気をつけないと……」
「何に怯えているんだ……それにお金はどうしたんだ?」
「わたしには、アパレル業界の大物経営者というスポンサーがおりますわ」
「なんか……聞かなかったことにしておく」
「主様一人、本宮の中で一生養えるぐらいは……」
「……それ、養うじゃなくて軟禁って言うんだぞ」
「主様は放し飼いにすると危険ですもの」
「俺よりエヒメを養ってやれよ」
「姉様は養うものではなく崇めるものですわ。……それに姉様には宗像の三柱の女神さまがおられますわ」
「まあ、そうじゃな」
エヒメは腕を組み大きく頷いている。
彼女たちの話に時々出てくる宗像三姉妹とは、アナハでさえ一目置く神なのか……。
「主様にはアナハしかおりませんわ」
「紡、良かったな。おぬしの将来は安泰じゃ」
「不安しかないわ、それに神様のヒモになる気もないわ」
そう言いながらも、俺はアナハの買って来た『たこ焼き』を頬張った。
テーブルの上に並べられたパックは次々と空になっていった。
暫くして、アナハが風呂に入った。
昨日のように、時々浴室から俺を呼ぶ声が聞こえる。
「主様、覗くなら今がチャンスですよ」
「温めてあげますわ、早くしないと冷めちゃいますわ」
「撮影は禁止ですよー」
「……エヒメ、あいつ本当に神様か?」
「まあ、この国には八百万の神といわれる無数の神がおるからな」
「そりゃ、かなり多いな」
「それに、アナハはああ見えて民たちから絹縫機織の神として親しまれて崇められておる」
——アナハの技術は俺が見ても凄い。
身に染みて分かった。
「なあ、エヒメ。宗像三柱様ってどんな神様なんだ?」
「なんだ、紡は宗像様に興味があるのか?」
「凄い人なんだろ?」
「そうじゃな、三女の市杵島姫神は壮絶美人じゃぞ、しかも優美で聡明で多才じゃ」
「お前やオトたちも、かなりの美人じゃないか?」
「いやですわ……主様。他の女神さまの話をしていると思ったら、結局わたしを褒めていたのですね」
いつの間にか風呂から上がったアナハが、頬を赤らめ俺に寄り添っていた。
その目は笑っているが、抱きついてくる腕の力は、他の女(神)への興味を一切許さないと言わんばかりに強烈だった。
一番聞かれたくないやつに、聞かれてしまった。




