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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第48章 見えない同居人

 第48章 見えない同居人


 その日の夜。

 『りくろーおじさんのチーズケーキ』をすっかり平らげ、お開きムードになったところで、俺は一番の懸念事項を口にした。


「アナハ、お前どこで寝るつもりだ?」


「この部屋ですわ」


 やっぱりそうか、と俺はガックリと肩を落とした。

 この部屋には、当然だが俺のベッドが一つあるだけだ。


「大阪から出てきてからは、どうしてたんだ?」


「茅春姉様のところや、漫画喫茶などゲームをしておりましたわ」


「……漫画喫茶、そこから『ウハハ』でゲームにログインしてたのか?」


「そうですわ、茅春姉様のパソコンはスペックが低くて主様にあのような姿を見せてしまいましたが」


「不法侵入のくせにパソコンのスペックに文句言ってるなよ」


 ——確かに、エヒメの器用さに匹敵するなら、ちびドラゴンの一撃で倒れるなんておかしいよな。


「……じゃあ、俺が床で寝るから、お前がベッドを使えよ」


 半ば諦め混じりに提案すると、アナハは首を横に振った。


「心配ございません、主様。アナハは実体を消して休みますので」


「は?……そんなことできるのか?」


「主様は、神社の本殿でベッドや布団が敷いてあるのを見たことがありますか?」


「……」


 ——そう言われれば、ない。そもそも神様自体、見たことがなかった。


「ですから、お気になさらず。……ちゃんと見ていますので、安心して寝てください」


「その方が怖いわ!」


 アナハは完璧なお手本のような笑みを浮かべるだけだった。


「では、おやすみなさい。姉様、主様」


 そう言い残すと、アナハの姿がフッと姿を消した。

 トラ柄のパーカーだけが床に落ちることもなく、彼女の存在すべてが、一瞬にして視界から失われた。


「おいエヒメ、本当にあんなことできるのか?」


 モニターに向かってるエヒメに声をかける。

 振り返りながら、面倒くさそうに鼻を鳴らした。


「あやつは大阪の『穴織宮(あやはぐう)』の祭神じゃからな。まあ、そのくらいのことは可能なのであろうよ」


 ——なるほど、やっと神様らしい超常現象を見た。


 少しだけ感心し、安心しかけたが、すぐに別の事実に思い至る。


 エヒメや、消えてしまったオトは、神としての力が弱まっているから姿を消したり実体化したりを繰り返すのが困難になっていたのだろう。

 対して、アナハにはまだその力が十分に残っている。

 ……それはつまり。

 姿は見えなくとも、このワンルームのどこかから、彼女がじっと俺を見つめているかもしれないということだ。


 実体は消えているはずなのに、暗闇のあちこちから、衣類がかすかに擦れるような『衣擦れの音』が聞こえる気がする。

 じっと熱を帯びた視線が、俺に注がれているような、言い知れぬプレッシャーを感じる。


 ——絶対に、見られている。


 常時ストーキングされているという最悪の確信が、俺の寝心地をこれ以上ないほどに悪くした。



 朝、スマホのアラームが鳴る。

 体を起こそうとするが、昨晩の寝心地の悪さに体がいつもより重かった。


 ——昨日色々あったからな。


 妙な気怠(けだる)さのまま、ベッドから立ち上がり、洗面所に向かう。

 その姿を見て、いきなりエヒメが笑いだす。


「朝から何がおかしいんだよ?」


「……紡よ、早う鏡を見るんじゃ」


 重い身体で洗面所の鏡の前に立つ。

 顔色は悪くなかった。寝ぐせも笑われるほどついていない。

 ——エヒメは何が面白かったんだ?


「……主様、おはようございます」


 アナハの声が聞こえた。それもかなり近い距離からだった。

 

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