第46章 名前を刻む者
第46章 名前を刻む者
「……そういうのは、いいから」
「では、これは後でゆっくり……」
アナハはサッと動き、茅春の死角に立った。
「えっ、どこにいったの?」
茅春はキョロキョロと首を振る。
アナハの間合いに入るタイミング、絶妙に近い距離感、視線に入りそうになると、少し屈むこと。
その全てが彼女を視界から消したようになる。
「そうやって、人の後ろについて部屋に入ったんだ」
「あんまり身長いじりしないで……」
アナハは、恥ずかしそうに下を向く。
「責めているのは、そこじゃないぞ?」
「主様、どこを攻めたいのです?覚悟はできてますわ」
「ちょっと、なんて子なの!」
茅春は、声を荒げる。
「……茅春、こういう子だ。気にしないでくれ」
「もう……」
「でも、ブラウス直してくれてありがとう。あれ、お気に入りだったのよ」
「……茅春姉さま。お優しくてお綺麗です」
アナハは手を前で合わせ、キラキラした目で彼女を見た。
「そ、そう? ……まあ、結構素直ないい子じゃない」
彼女は赤面しながら髪をいじり、恥ずかしそうにしている。
茅春は、チョロかった……。
「それが、そやつの間合いの詰め方じゃ」
エヒメは腕を組み、呆れた表情を浮かべた。
アナハは足元の買い物袋から、丁寧に箱を取り出した
「姉様、コレお土産。『りくろ―おじさんのチーズケーキ』」
「おお、これは我が狙っておった『ぷるふわ』食感のちーずけーきではないか!」
「アナハ、おぬしは良い弟子じゃ」
こいつもチョロかった。
——このままでは、俺だけが反対している『がんこおじさん』のようだ。
「……まあ、俺もそう思っていたが」
……自分の弱さに涙が出そうになった。
なんとなく、場の雰囲気が和み、茅春は帰った。
そもそも、何しに来たのかは謎だった。
「それで、アナハよ。おぬし何しに来よった?」
「それは……オト姉様から、主様を慰めるようにと言われまして」
――オトが自分の代わりに彼女を?
確かに、オトはアナハがもうすぐ来ることを言っていた。
自分が消えることを分かっていたということか。
でも人選を間違えてないか?
慰めるどころか、俺の私生活が完全に侵食されてるんだが。
「そうか……じゃあ、もうよい。十分賑やかしになったわ。大阪へ帰れ」
「……姉様」
アナハは寂しそうに下を向いた。
「エヒメ、ちょっと冷たすぎないか?」
「紡よ、おぬしまだ分かっておらぬな……では、そのスーツの内側を見ろ!」
「えっ!?スーツの……」
ボタンを外しスーツをめくった。
そこには、『ANAHA 主様LOVE』の刺繍が施されていた。
「……なんだこれ」
反対側を見る。
『マイクロチップ装着済』『持病あり、近づくな』『去勢済』
「会議中に見えない場所へ入れておきました」
アナハは俺を覗き込み、ニコッと笑った。
「……お気遣いありがとう……そこじゃない!」
「俺はペットか!?、持病もない!去勢するなよ!」
「……遅かったか、そやつは自分の持ち物に名前を彫るのじゃ」
「俺が、いつ、こいつの持ち物になったんだよ!」
「仕方ない、紡が暫く面倒見てやるのじゃ」
エヒメは諦めるような表情で『ぷるふわ』食感のチーズケーキを口に運んだ。




