第45章 主様の死角
第45章 主様の死角
「そやつの距離感は狂っておるのじゃ」
エヒメが乳酸菌飲料片手に俺を責めた。
「俺の完全な死角なんだよ、お前身長何センチだ?」
「四十八……寸。こんなこと言わせて、恥ずかしいですわ」
アナハは、うつむきモジモジする。
「どこに恥ずかしい要素があるんだよ、それに寸で言うなよ」
ふと、管理人の婆さんの言葉を思い出した。
——彼女は俺のすぐ後ろに居たのか。
「そんなに……いじらないで。恥ずかしいわ」
「身長のことですからね!」
——マズい、こいつとの会話を茅春が聞いたら。
あの勘違い暴走女子はきっと……。
おれは、エヒメの気持ちが少し分かった。
「姉様、お久しぶりです」
「そうじゃな、『ウハハ』」
アナハはカーディガンを脱ぎ、綺麗に畳みベッドの枕元に、元通りに置いた。
その慣れた仕草を見て、俺は確信した。
「……おまえ、何度もここに来てるな」
「どういう事じゃ、紡」
エヒメが首を傾げる。
「そのカーディガンを何度もとりに来て戻しに来てるってことだ……」
「さすがです、主様」
「褒めるな。普通に不法侵入だからな」
「アナハ、おぬし……我が気が付いてなかったと思っとるのか!」
いきなり胸を張り、彼女を睨みつけた。
「今、気がついたんだろ?」
その時、聞き覚えのある声が部屋に響いた。
「ダメよ紡!そんな小さい子をいじめたら」
振り返ると、そこに立っていたのは茅春だった。
いつの間にか部屋に上がり込んでいる。
——ここにも不法侵入者がいた。
「茅春、いつ来たんだ?」
「あなたが、新しい属性に毒されないか心配になったのよ、別に心配なんかしてないんだからねっ!」
「……どっちだよ。それにこいつは俺や茅春より年上だぞ」
「そうなの?」
「はい。主様より年上ですわ」
アナハは頬を染め、嬉しそうに胸元で指を絡めた。
「……姉さん女房です」
「違うからな!」
「全然見えない……」
アナハを何度も凝視する茅春。
「若作り頑張ってますもの。姉様より少し下ですわ」
「ここまで来たら、そう変わらんじゃろ」
確かに千五百年のうちの数年だろう。
「じゃあ、その『主様』って呼び方は何なのよ」
「わたくしの『主様』ですわ、心も体も主様のもの」
「それも違うからな!」
「紡……説明が足りないんだけど!?」
茅春の疑いの目線が俺を刺す。
「茅春の破れたブラウスを直したのもこいつだ」
うんうんと頷くアナハ。
「この子が直してくれたの!」
「部屋に、勝手に入ったのは許してやってくれ」
「……でも、どうやって?ちゃんとカギは閉めてるわよ」
「アナハ、彼女に見せてやってくれ」
「仕方ないですね、主様のためにひと肌脱ぎますわ」
アナハはニットワンピースから白い肩を出した。




