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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第44章 主様、お帰りなさいませ

 第44章 主様、お帰りなさいませ


「……人違いです、ヌシサマではないです」


「違わない……」


「神様は間に合ってます」


「押し売りじゃない……」


「……」


 暫く二人の沈黙の時間が続いた。

 ——間違いない、こいつはアナハだ。

 彼女の着ているカーディガンを見る。

 昨日、俺の枕元に畳まれていたものに間違いない。


 昼休みの茅春の話を思い出す。

 関わってはいけないと思い、俺は視線を逸らして、少し早足で歩き出す。

 振り返ると彼女の姿はなかった。

 ——消えたのか……。


 周囲を見渡すが、その姿はない。


「下よ……」


 どこからか、彼女の声がする。

 視線を落とすと、すぐそばに彼女の頭が見えた。

 ——近い。


「主様、覗き込まないで」


 彼女の黒のニットワンピースの胸元から、白い肌が覗く。


「違う、見てない!」


「覗きの犯人は大体そう言うわ」


「見えただけだ!」


「焦らなくても……お部屋で見せますわ」


 この手玉に取られる感じ。

 妖艶な笑顔。

 ——俺の胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 オトの面影が、目の前の少女の態度に重なり、懐かしく思えてしまった。


「……『アナハ』……なのか?」


「主様、初対面でそこまで求めるのですか?」


「お前、現実世界(リアル)でも垢バン食らうようなこと言うな。じゃあな……」


 そう言い残し、俺は買い物を続けた。

 彼女の姿はなかった。

 ——諦めて帰ったか。


 レジに並んでいる時に、十本入り乳酸菌飲料を買うのを忘れていたことに気が付いた。

 ——あれがないと、エヒメがうるさいからな。

 戻ろうとした時に、カゴに入っているのに気が付いた。

 ——無意識に買ってたのか……俺も慣れてきてるな。


 レジに通される商品が、いつもより多い。

 入れた覚えがないプリンとポテチ。

 ——アナハに会って動揺してカゴに入れたのか。


 マンションに帰る途中、俺は何度も後ろを振り向いた。

 家の場所はもうバレていると思ったが、尾行されアナハを部屋に連れて行くことはしたくなかった。



 マンションのエントランスで管理人の婆さんに会う。


「こんばんは」


「こんばんは、おやおや今日もかい?静かにやっとくれ」


「そうなんです、毎日買い物で大変ですよ」


 ——婆さん、俺の顔を見ると修羅場と思ってるのか?

 そう思いながら、玄関のドアを開けた。


「エヒメ、ただいま」


 ベッドの上で寝転がるエヒメの手から漫画がバサリと落ちた。


「……ア、……ア、アナハ!」


「そうなんだ、スーパーで会ったよ」


 買って来た食材を冷蔵庫に入れる。

 買ったはずの乳酸菌飲料が入ってなかった。

 ——あれ?買ったはずだぞ。


 その時、エヒメの震えた声が部屋に響いた。


「……紡、おぬしなんで連れてきた!」


「何言ってるんだ、スーパーで別れたよ」


 エヒメの言葉に周囲を見渡す。


「どこを見ておる、もっと下じゃ」


 ハッと気が付き、すぐ傍に視線を落とす。

 そこには、腰に手を当て乳酸菌飲料を飲むアナハの姿があった。



 ……俺の視線のはるか下の方に。


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