第42章 歪んだ愛
第42章 歪んだ愛
「エヒメ、何を焦っているんだ?」
「あの『ウハハ』とかいうやつ、あれはアナハじゃ」
「そんな訳ないだろ、ゲームしてる神様なんていないだろ」
「紡よ、我を神と思っておらぬな……」
「……そうだったな。すまない」
「紡、筆をとれ」
「ボールペンでいいか?」
「いちいちツッコむな、神の力でインクを減らすぞ」
プリンの台紙をとり、そこに書き始める。
『ウ冠』に『ハ』、これで『穴』。そうしてもう一文字『ハ』。
台紙には『穴ハ』と言う文字が残った。
「……穴織、アナハか」
「エヒメ、そんなにアナハが怖いのか?」
「怖いわ」
エヒメは即答する。
「昔、彼女と何があったんだ?」
少し考えたように黙る。
「紡よ、アナハはな……我らを愛しすぎたのじゃ」
エヒメは視線を落とし、ぽつりぽつりと話はじめる。
「やつは、良い弟子じゃった。器用で覚えも良く我らが見せた技術はすぐに覚えよったわい」
「我らに懐き、いつも傍らについて歩いておったわ」
「いい子じゃないか?」
「そうじゃ、お転婆なクレハと違い扱いやすいと思っておった」
「そのうち、我らの姿まで真似るようになったんじゃ。髪型、服装、話し方まで……」
「憧れていただけだろ?」
「いいや、やつは我らの使った菓子の包み紙や箸、切った髪までも集めだしおってな」
「……」
「我が針で指を突くと、あやつも自分の同じところを刺し、転んで擦りむくと、次の日には同じところを擦りむいておる」
「オトはかわいい妹分と言ってたぞ」
「……オトは転ばぬからな」
「……そうだな」
「紡よ、そこだけ理解が早くないか?」
「エヒメ、気のせいだ、続けてくれ」
「我が風邪を引けば、冷たい川へ入りに行きおった」
「それは、かなり痛いな」
「熱が出ぬと泣いておったわ」
エヒメは苦笑いを浮かべる。
「それに、我が宗像三姉妹にスカウトされ九州に留まる時のことじゃ、やつは言いおった」
「『それなら、わたしも半分ずつになれば良い』とな」
「……どういうことだ?」
「アナハは自分を二つに裂こうとしたのじゃ……」
「オトの言うことを聞いて、なんとか無事別れたが……」
「最後まで、自分の一部を置いていこうとしておった」
「……それは、怖いな」
エヒメが言っていた『歪んだ愛』の意味がわかった。
「じゃあ、茅春のブラウスはどうやって直したんだ?やっぱり家に入ったのか」
「あやつは、どこにでも入り込む。人の懐でも、心の隙間でさえな」
「アナハはもうこの町におる!」
エヒメが消そうとして消せなかったモニターのゲームのチャット画面が動く。
ウハハからメッセージ。
『姉様、今日も綺麗ですわ』
『プリンは一日三個ですわ』
画面を見たエヒメの顔がひきつる。
「何故知っておる!?見られているぞ、紡!」
「……いや、それは予想できたんじゃないか?」
「あやつの予想を外すため、もう一つ、追加じゃ!買ってこい!」
「二つで止める選択肢はないのか?」
エヒメの話を聞く限り、アナハに悪意はないのは分かる。
しかし、行き過ぎた愛情がエヒメを苦しめているのは確かだった。
それを利用して、プリンを四つ食べようとする悪意は確認できた。




