第40章 穴を埋める者
第40章 穴を埋める者
ダンジョン終盤になると、俺のキャラの後ろをチョコチョコ着いてくる偽物が少し愛らしく思えてきた。
ラストの大ボスを倒し、パーティを解散の時だった。
いきなりの、フレンド申請が入る。
相手は、あの『ウハハ』だった。
——まあ、悪い子じゃなさそうだし……いいか。
そう思い、許可ボタンを押した。
ウハハからの『ヨロ(よろしく)』の文字。
『ああ、またな』と、返した。
『またね、姉様』と返ってきた。
——俺は男だが……。
一呼吸ついたところで、玄関のチャイムが鳴る。
佐藤さんが、入ってきた。
「兄媛様、川崎さん、本当にごめんね。あんなに手伝ってもらったのに」
「……今回は受賞できなかった」
佐藤さんは、落ち込んだようにテーブルに伏せた。
「賞など所詮は人間の決めた理じゃ」
「本当に価値があるのは、おぬしが諦めなかったことじゃ」
エヒメは読んでいた漫画を置き、ベッドの上に座りなおした。
「俺もそう思うよ。ああいうのはよく分からないけど凄かったぞ」
「茅春も言ってたけど、一番会場で見られていたぞ」
「作品は最高だったわ。ただ、わたしがコンセプトシートまで手が回らなかったのが、いけなかったのよ」
「……でもね、先生が後から『佐藤さんの作品が一番だった』って」
顔をあげた佐藤さんの表情は明るかった。
「ありがとう、みんな!」
その声がすべての答えだったような気がした。
「今日はご馳走にしましょ!実家から『かぼすブリ』が送られてきたのよ」
「織恵の実家はどこじゃ?」
「大分よ、言ってませんでした?」
「ほう、大分か。じゃあ、我が教えた者の子孫かもしれぬな」
エヒメは誇らしげに笑った。
その時、玄関の扉が勢いよく開いた。
息を切らした茅春がズカズカと入ってきた。
「……た、大変よ」
彼女は持っていた袋から、フリルのついたブラウスを出し広げた。
俺はそれに見覚えがあった。
「ああ、あの時に破れたブラウスじゃないか?」
「そうなんだけど、これ見て……」
あの時人に押され手すりに引っかかり、派手に破れたはずなのに、俺にはその痕跡が見つけられなかった。
佐藤さんが覗き込み、ある場所を指でなぞった。
「すごい、これ確かに直してあるわ」
俺が何度見ても、それは分からなかった。
「茅春、修理にだしたのか?」
「ううん、ずっと部屋に置いておいたの」
青ざめた顔色で首を振った。
「勝手に直ったのか?どういうことだエヒメ?……あれ、エヒメは」
彼女は、部屋の隅で布団を頭から被り震えていた。
「……あやつじゃ、あやつしかおらぬ」
「誰か知らないけど、いくらなんでも、勝手に部屋に入って服を直すか?」
「紡よ、おぬしは分かっておらぬ……」
「お前が言っていた、妹分のことか?」
「そうじゃ、あやつは人の技法を模倣し自分のものにしてしまうのじゃ」
「……そして、その歪んだ愛は全てを食らいつくすのじゃ!」
そう言って部屋の隅で震えていたエヒメだったが、夕食の準備が整った瞬間、誰よりも早く特等席についた。
テーブルに並ぶ『かぼすブリ』を一番食べていたのは、彼女だった。
——恐怖より食欲が勝つのかよ。
茅春も不思議そうに首を傾げながらテーブルを囲み、賑やかな食卓となった。




