第39章 画面の向こうのペアルック
第39章 画面の向こうのペアルック
久しぶりに、モニターの前でコントローラーを握っていた。
オトが居なくなってから数日。部屋の空気はどこか寂しさを孕んでいたが、それを誤魔化すように画面の向こうの仮想世界へ没頭する。
隣のベッドでは、エヒメがポテトチップスを齧りながら、気だるげに漫画をめくっていた。
ピコン、と電子音が鳴り、画面の隅にあるギルドチャットのウィンドウが激しく明滅し始める。
『あ、ツムギ。久しぶりー』
『ツムギ、最近お前の偽物が現れてるぞ?』
チャットの文字を目にして、俺は眉をひそめた。キーボードを叩く。
『俺の偽物?』
『そうだよ。ピンクのメイド服で「天蚕の聖盾」を持ってる狂気のキャラ。あんな格好、お前の真似としか思えないってギルメンの間で話題になってる』
——俺は狂気じゃない……。
好き好んでこの格好をしているわけではないのだ。全ては隣で寝転がっている「衣服のの神」の仕業なのだが、それをギルメンに説明できるはずもない。
『あの盾はサーバー数量限定の超レアアイテムだぞ? 偽物って言ったって、簡単に手に入るもんじゃないだろ』
『そうなんだよなー。だから、ツムギみたいなニート神ネトゲ廃人にしか手に入れられない超レアアイテムなはずなんだけど』
——俺はニートでも神ネトゲ廃人でもない。
一応、ちゃんと働いている。
釈明のためにキーボードへ手を伸ばしかけたが、それよりも『天蚕の聖盾』を装備しているという事実の方が気になった。
あの盾は、特定の高難易度レイドで極端に低い確率でしかドロップしない、このサーバーにも数個しか存在しない代物だ。
『その偽物、キャラ名分かるか?』
『確か……「ウハハ」だったと思うよ』
『なんだソレ、ふざけた名前だな』
『まあ、ツムギみたいなガチ勢に憧れるやつは多いからな。気にすんなって!』
ウハハ。
画面を見つめたまま、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。
誰かの悪質ないたずらか、それとも単なる偶然か。
ギルドの面々に軽く挨拶を済ませてチャットを閉じると、俺は気分転換を兼ねて、新しく実装されたダンジョンの野良パーティ(即席の協力プレイ)の募集ページを開いた。
盾役の枠が一つ空いている、適当なパーティにカーソルを合わせる。
参加メンバーのリストが、視界に飛び込んできた。
【パーティ構成】
・戦士 リーダー
・魔術師
・僧侶
・騎士枠 ウハハ
・騎士枠(残り二名)
心臓がドクリ、と跳ねた。
画面に並ぶ、その抜けた文字。
偶然か、それとも引き寄せられたのか。
強烈な興味と、ほんの少しの嫌な予感が俺の指先を動かす。
俺は迷うことなく、そのパーティへの参加申請ボタンをクリックした。
パーティの申請が許可されると、メンバーから歓喜で迎え入れられた。
リーダー『はじめまして。俺、ツムギさんに憧れて会社辞めたんです!』
僧侶『俺も、トイレ以外はモニターから離れてません』
魔術師『私もボーナス全ツッコミ課金です!』
『みんな、俺は普通の会社員だ……』
パーティのみんなに申し訳ない気持ちで一杯になる。
流れるチャットの中、あの『ウハハ』だけは不気味に無言で通していた。
モニターの中、ダンジョン内は異様な光景だった。
一人でも大概異様な光景なのに、ピンクのメイド服の大盾の騎士が二人。
突然、小さなドラゴンが現れる。
『雑魚だ、一気にいくぞ!』
ププッと頼りないドラゴンのファイヤーブレス。
大盾二枚のパーティのメンバーの体力を削れるはずがなかった。……はずだった。
……しかし、俺のキャラの横で地面に転がるピンクのメイド服の姿。
——嘘だろ……。こいつ見た目だけだ。
呆れて棒立ちになるパーティメンバーをよそに、俺は蘇生アイテムで偽物を起こした。
生き返ったウハハは、チャット欄でお礼を言うわけでもなく、ただキャラクターをペコリと一礼させるモーションをさせると、俺の後ろにピタリと寄り添った。
——なんなんだ、こいつは。




