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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第37章 風の中の贈り物

 第37章 風の中の贈り物


 窓から入る風が部屋にあった、オトの気配すら攫(さら)っていきそうだった。

 エヒメも気丈にしているが、その心は乾いた枝のように、いつポッキリ折れるか分らなかった。


 もう一度、部屋に風が吹き込んだ。

 彼女たちの髪を乱した。机の上の受け取り票が机から滑り落ちそうになるのを、茅春が手で押さえる。


 再び風が吹き込んだ。

 二人の髪を揺らし、机の上に置かれた受け取り票がふわりと浮く。

 落ちそうになった紙を、茅春が慌てて手で押さえた。


 そして、彼女は首を傾げる。


「そうなんだ。また会えるよね?」


 俺は答えられなかった。

 しばらくの沈黙。

 ふと、茅春が窓辺へ視線を向ける。


「ねえ、窓の傍で揺れてるそれって……」


 茅春の視線の先には、干された色とりどりのランジェリーが風に揺れていた。


「ああ、それは隣の部屋に住んでる、さっきの学生さんの……」


「隣の学生さんの!」


 茅春が勢いよく立ち上がる。


「ちがう!そうじゃない」


「下着まで貢がせているの!」


「だから違う!」


 収拾がつかなくなり、俺は助けを求めてエヒメを見た。


「エヒメ、助けてくれ……」


 エヒメは乳酸菌飲料を啜りながら、呆れたように言った。


「紡よ、それはお前が悪い」



 ようやく、俺の話を理解してくれた茅春。

 彼女がカーディガンのお礼にと持ってきたドーナツの為に俺とキッチンに立ち紅茶を淹れる。


「エヒメさんもオトちゃんも服飾の専門家なんだね」


 茅春にはそういう設定で通すことにした。

 彼女に隠したかった訳ではなかったが、オトのことを説明するのは難しく、結局そういうことにした。


「どうりで、着こなしが違うと思っていたわ」


 彼女は、納得したように大きく頷く。

 テーブルに戻ると、エヒメはすでにドーナツを頬張っていた。


「オトは忙しくてな。カリスマ講師みたいだった……みたいだよ」


「なんか……分るわ、悔しいけどね」


 茅春は部屋を見渡し、ハンガー掛けに掛けられたオトのスーツを見つける。


「あれは……置いていっちゃったの?」


「……うん」


「茅春よ、おぬしが着るか?」


「……エヒメ!」


「紡よ、わかってくれ。衣なんて、着てこそなのじゃ」


 茅春は驚いた表情で、首を振った。


「無理だって、オトちゃんスタイル良いから」


「なんなら、我が仕立て直してやるぞ?」


 エヒメは、茅春を立たせ、オトのスーツを当てがった。

 言う通りだった。袖を通さない服は、俺にとってもただの想い出の品しかならない。

 それに、俺にはオトの神御衣の姿こそが本当の姿だと知っていたからだ。


「どうじゃ?おぬしが着るのなら、オトも喜ぶぞ」


「エヒメさん、本当に良いの?」


 優しく微笑み、頷いた。


「でも、仕立て直しはやめておく……わたしが体を合わせるわ」


「茅春よ、よく言ったぞ。衣は『着させられる』のではなく『着る』ことが大切じゃ」


 エヒメは茅春の肩をポンと叩き、オトのスーツを茅春に渡した。

 二人の姿は、何かの儀式のように見えた。


「それじゃあ、茅春よ。おぬしは『どーなつ』はやめておくのじゃ。我が代わりに……」


 ただの『食い意地の神』に見えた。


 

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