↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/121

第28章 甘やかしの夜

 第28章 甘やかしの夜

 


 玄関を開けたまま、俺は思わず深い溜息をついた。

 二人の神が、テーブルの上の卵のパックを挟んで、熱い議論を交わしていた。


「……鰻というものは、錦糸卵(きんしたまご)をたっぷりと乗せ、ふっくらとした身と甘いタレを絡めて食すものじゃ」


「姉様、お言葉ですが、鰻の脂を中和するのは、古都の奈良漬け。さっぱりとした酸味がなければ、鰻の繊細な旨味は引き立ちませんわ」


「それに、江戸時代から続く最高の食べ合わせと言われてますわ」


「医学的にも栄養の吸収や消化を助けるとも言われていますのよ」


「瓜から作られた奈良漬けは『う』の付くもの同士、土用の丑の日に縁起を担がれるものなのですわ」


「神のくせに縁起を担ぐとは落ちたな、オト」


 オトはいつも以上に饒舌で、高飛車な態度でエヒメを睨みつけている。


 ——元気そうだ。


 今朝のあの姿が嘘のように、今は目の前の食い物のことで頭がいっぱいらしい。


「……お前ら、喧嘩するな。錦糸卵はレンジで作るから、それで我慢しろ」


「それと、オト。奈良漬けもあるぞ」


 俺が帰ってきたことに気づくと、オトはトトトと小走りで俺の背中に回り、小刻みに震える。


「主様、姉様の食い意地が怖いのです」


「オト、かなり前から見てたぞ。お前が奈良漬けのことを熱く語っているあたりから……」


「佐藤さんから、ケーキの神饌(しんせん)ももらったぞ。仲良くしないとやらないぞ」


「……紡よ。奈良漬けまで用意したのか。……全く、貴様はどこまでこの甘やかしを続けるつもりじゃ」


 エヒメはそう言いつつも、鰻を温めるための皿を自ら準備し始めた。

 その手つきはどこか嬉しげだ。


 俺たちは錦糸卵と奈良漬けの両方を食卓に並べ、晩餐を始めた。


 食後、佐藤さんから預かった箱を開けると、中から二人の好物であるレアチーズケーキが出てきた。


「二人とも、佐藤さんに感謝しなきゃな」


 そう言って俺たちはケーキを口に運んだ。

 甘く濃厚な味わいが口の中に広がり、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


 俺は団欒の和らぎに甘え、何気なく切り出した。


「……なあ。明日の土曜日、少しだけ外へ出てくるよ」


「……珍しいですね。主様が自ら予定を入れるなんて」


 オトがフォークを止め、俺の顔をじっと見つめた。

 その瞳は、何かを鋭く見抜くような静けさを湛えているが、彼女はそれ以上何も言わなかった。


 

 土曜日の朝。

 出かける準備をしようとすると、クローゼットの前にオトが立っていた。

 彼女の手には、俺の持ち物の中から選りすぐられた服がある。


「主様、これをお召しになって」


 差し出されたのは、白のカットソーの上に黒のカーディガン。


「ちょっと出かけるだけだから……」


 そう俺が言っても、オトは聞く耳を持たず、俺の身なりを完璧に整えた。


 待ち合わせの駅前。

 約束の十分前に着くと、茅春は既に待っていた。

 いつもとは違う、少しめかした私服姿。

 俺に気づくと、彼女はぱっと表情を明るくして手を振った。

 俺の姿を見るなり、茅春は満足そうに頷く。


「……うん、合格」


「……それで、用事って何だ?」


 俺が聞くと、茅春は少しふくれたように頬を膨らませ、視線を逸らした。


「もう、ちゃんと言ったでしょ」


 電車で数駅揺られ、降り立ったのは潮風が香る海沿いの街だった。

 目的地を聞くのは止めた。

 きっと怒られるだろうと思ったからだ。


 駅から数分歩く間も、楽しそうに話す茅春の姿。


 ——今日は更生プログラムじゃなかったんだ。


 そう思い、安心した。

 彼女が、ある建物の前で足を止めた。


「ここよ。ここに来たかったの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。