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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第24章:神の仕立て、守護の衣

 第24章 神の仕立て、守護の衣

 


 数日後会社の休み時間に、茅春が俺を呼び出した。


「紡、コレすごく効くんだって」


「腕の痛みのことか? もう大丈夫だぞ」


 手渡されたのは、『白崎八幡宮』と書かれた、剣の形をしたお守りだった。


「なんだこれ?」


「縁切りの剣守りよ! 紡のシスコン断ち切るお守りよ」


 ——山口県まで行って来たのか……。


「これも!」


 茅春はそう言って、カバンから次々と何かを取り出し、俺に突き出した。

 『悪縁一切消滅』の木の札。『悪癖封じ』のお札……。


「それとあと……コレ、飲んで」


 笑顔で差し出されたのは、オレンジ色の木の皮のようなものだった。


「なんだこれ?」


「忘憂草(ほうゆうそう)よ! 強い執着や依存を断ち切る漢方よ」


「……茅春、大丈夫だから」


「他にも色々あるのよ! 諦めないで」


 そう言って俺の腕を引っ張る。

 長い間着続けた俺のスーツは、茅春の強引な更生プログラムのせいか、どこか綻び始めていた。


 

 それから数日後の帰宅時だった。

 不注意で何かに引っかけて、袖口が大きく裂けてしまう。


 ——オトにでも縫ってもらうか。


 そう思い、部屋に入るが、オトは出かけていた。


 リビングでそれを見たエヒメが、珍しく鋭い声を出した。


「紡、貸さんか」


 しばらくスーツを無言で眺め、おもむろに立ち上がり、部屋を出て行った。

 戻ってきたエヒメは裁縫箱を持っていた。


 ——佐藤さんに借りてきたのか。エヒメが直してくれるのか?


 彼女は裁縫箱を広げると、躊躇なく俺のスーツの縫い目をすべて解き、バラバラの布切れに戻してしまった。


「え、おい……エヒメ、大丈夫か? 元に戻るのか?」


「誰に言っておる。今の貴様の身体に馴染ませるなら、一度すべて解いて芯地から組み直すしかないのう」


 静かな部屋に、針が布を抜ける乾いた音が響く。

 エヒメは重厚なアイロンを片手で軽々と操り、熱と圧力を加えて布に曲線を刻み込んでいった。


 帰ってきたオトも何も言わず、エヒメの手つきを見ていた。


 翌朝、完成したスーツに袖を通した瞬間、俺は息を呑んだ。

 吸い付くように体に馴染む。腕を振り回しても、屈み込んでも、どこにも張るような感覚がない。

 なのに、直立すれば完璧なシルエットで、余計な弛みは一切ない。


「昔の着物はな、何度も解いては仕立て直し、長く使うものだったんじゃ」


「……まぁ、クレハがおれば新しい生地を織らせて、もっと凄いものができるのじゃがな」


 エヒメは淡々と言ったが、これは神の業だ。


「……さすがですわ」


 オトは、俺のスーツを一目見るなり、ため息をついた。


 会社への道中、このスーツの『正体』を思い知らされることになった。


 満員電車からホームへ降りる時だ。

 かつてなら肩がぶつかり、混雑に押し流されていたはずの空間を、俺は驚くほど自然にすり抜けていた。

 身体をわずかにひねるだけで、周囲の人の動きの間を縫うことができた。


 会社では、机から滑り落ちそうになった書類を、意識するより早く手で止める。


 さらに驚いたのは、季節外れの陽気の中を歩いている時だった。

 歩くたびに、生地の合わせ目から、ふわりと心地よい外気がスーツの内部を循環する。

 背中や脇に熱がこもることなく、常に清涼な空気が肌を撫でていく。

 エヒメが『呼吸する』ように計算して縫い合わせた構造は、空調のない駅のホームでも俺を快適に保ってくれた。


「あれ、川崎さん。スーツ、新調したんですか? ……なんだか、雰囲気が違いますね」


 茅春が会社の階段で話しかけた。


 その時。


 彼女が、俺のスーツに気を取られ、階段を踏み外した。

 体勢が崩れていく。

 手を伸ばすが間に合わないと思った時。


 本来なら届かないはずの距離から、彼女の腕を支えていた。


「ありがとう、助かったわ……川崎さん、なんだか動きが、すごいです」


「……俺も驚いたよ」


 俺はジャケットの肩を軽く撫でた。


 帰宅後。


「エヒメ、このスーツ……何をしたんだ?」


 穏やかに微笑むエヒメは、俺の問いに静かに答えた。


「本来、衣とは持ち主の動きを妨げず、持ち主を守るためのものじゃ」


「紡が『盾』として振る舞うなら、衣もまたそのように応えるまでよ」


 ふと、モニターに視線を向ける。

 画面の中の俺のキャラクター……あの大盾を構えたピンクメイド服の勇者が、パーティの先頭に立ち、仲間を庇って立っていた。


 俺は袖口を軽く握りしめた。


「……盾、か」


 俺はまだ、彼女たちが紡ぐ『守護の糸』の、ほんの端っこを握ったばかりなのだと、改めて悟った。

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