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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第21章 わたしの持ち物

 第21章 わたしの持ち物

 


 金曜の夜になり、俺は加藤茅春に引きずられるようにして、駅前の雑居ビルにある居酒屋へ足を踏み入れた。

 店内はサラリーマンの活気で満ちていた。


「川崎さん、ここに座りましょ」


 カウンター席の空いている場所を見つけ、茅春が手招きをした。

 茅春はメニューを開きながら、やたらと距離を詰めてくる。

 昇進祝いという名目だが、その瞳には獲物を狙うような光が宿っていた。


「最近、ほんと良い感じですよね。誰かお世話してる人、いるんじゃないですか?」


「……いや、本当にいないよ。掃除とか買い物は自分でやってるし」


 本当にいない。俺が神様二人の世話をしているのだ。


「ふーん。それにしては、川崎さんからは甘い香りがする気がしますけど」


「……きっと、オーガニックシャンプーの香りだよ」


 彼女が顔を近づけてくる。鼓動が少し早くなった。


「一人暮らしですよね?」


「ああ、まあ……」


 一人と神様二柱の三人ワンルーム暮らしとは言えない。

 歯切れの悪い返事をした。

 何をどう言えばいいのか迷い、変な汗が出てきた。

 ポケットに手を入れ、ハンカチを探し、指先に触れた手触りの良い布を出そうとした。


 手に取ると、それは佐藤さんの貢ぎ物の特製ランジェリーだった。

 慌ててポケットに戻した。茅春はメニューを見ていて気が付いてなかった。


 ——なんで、こんなものが俺の服に……。


 冷や汗とも脂汗とも分からないものが噴き出す。

 カバンを開け、今度こそハンドタオルを探した。


 紺色の布を見つけ、それを引っ張り出した。

 胸の部分にデカデカと白い布のネームプレートに『佐藤』の文字。

 佐藤さんのスクール水着だった。

 顔面蒼白になりながら、慌てて押し隠す。

 茅春は店員の女の子に注文中で、気がついてない。


 しかし、その店員はしっかり見ていたらしく、俺以上に顔色を悪くして引きつった声を漏らした。


「……変態……水着」


 店の女の子が顔を引きつらせる。


「明太がおすすめなのね。あと水煮って鯖缶料理?」


 店内の騒音で聞き間違えた茅春は、そのまま注文を続ける。


 ——きっと、あいつの仕業だ。


 その時だった。

 店の空気が、一瞬にして凛と張り詰めた。


 振り向くと、そこには居酒屋の喧騒とは無縁の冷ややかな美少女が立っていた。

 オトだ。

 居酒屋の雰囲気にそぐわないタイトなスカートのスリットから覗く足。

 なぜか胸元のボタンがいつもより一つ多く開けられており、そこから白い肌が覗いている。


 カツカツとハイヒールを鳴らし、俺の方へ来る。


「……あら。紡様。こんなところで、何をしておられるのですか」


「えっ!? 誰、この子……」


 茅春が目を見開いて言った。


 オトは迷うことなく、俺の隣にすとんと座り込んだ。そして、腕にべったりと身を寄せてくる。


「オト、お前、どうしてここに……」


「偶然ですわ。わたしの持ち物に付く『虫』を退治するのに防虫剤を買いに来たら、紡様の気配がしましたので」


 偶然を装っているが、その必然っぷりはもはや神業だ。

 というか、俺の居場所をどうやって突き止めた。


「……あの、川崎さん。この人は?」


 茅春の鋭い視線がオトに突き刺さる。

 俺は覚悟を決めた。


「……ああ、紹介するよ。神様の妹の、オトだ」


「妹……?」


 茅春の表情が、驚きから蔑み、そして憐れみへと劇的に変化した。

 彼女はオトをじろりと見てから、俺に冷めた視線を向ける。


「川崎さん……。妹に『紡様』なんて呼ばせて……そっち系の趣味の人だったんですか」


「え? そっちって? 違うよ、誤解だ! 普段は『主様(ぬしさま)』って呼ばれているだけで……」


「……『主様』!? 妹とべったり……。しかも、そのボタンの開け具合。教育が熱心すぎませんか?」


 茅春は『ドン引き』という顔でため息をついた。

 しかし、彼女は決意したように言葉を継ぐ。


「川崎さん。……重度の『シスコン(主従プレイ付き)』なんですね。でも大丈夫です! わたしがあなたを更生させます!」


 茅春が勝ち誇ったように笑う。

 俺はただ、薄いビールを流し込むことしかできなかった。


 今夜の飲み会は、最初から詰んでいたらしい。

 

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