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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第19章 見せない神様

 第19章 見せない神様

 


 沈黙を破るオトの言葉。


「……こういう状況に慣れてないのです」


 彼女は小さく頷き、そのまま視線だけを上げて俺と目を合わせる。

 

「オト、大丈夫だ。君は十分頑張っているよ」

 

 八幡宮を渡り歩いてきた彼女だが、エヒメは人に馴染み忘れられない存在だと言った。

 彼女自身も今では多くの生徒からの憧れになっている。

 俺の思考をさえぎり、意を決したようにオトが言った。

 

「……怖いのです」


「……えっ」


 いつもの強気な彼女の口から出たとは、到底思えない言葉だった。


「……さっきの話か?」


「怖いから、ここに居て下さい」

 

「……もしかして、お化けのことか?」


「そうです、神社には結界もありますし、わざわざ八幡様のところに出てくるお化けもいませんし……」

「とにかく、慣れてないんです!」


「お前、ホラー漫画読んでただろ? ……それにあれはエヒメのことだぞ」


「えっ!?」


「俺もここに来てからは、ずっとエヒメに冷蔵庫荒らされてたんだ」


 オトは真っ赤になり、恥ずかしそうに下を向く。


「じゃあ、行くぞ」


 背を向け、脱衣場を出ようとした。


「待って!」


 背後から呼び止められたかと思うと、バサリと俺の頭の上にバスタオルを被せられた。

 完全に視界を奪われた俺を残し、彼女は逃げるように浴室へと入り、ピシャリとすりガラスのドアを閉めた。


「ついでに、そのまま話し相手になってもらえますか」


「なんだよ、まだ怖いのか?」


「神であるわたしが、怖いものなどありませんわ」


 いつものトーンに戻っていた。

 俺は浴室のドアを背に、彼女の話を聞いた。


「主様は、姉様の神御衣(かんみそ)を見たことがありますか」


「いや、俺が見てきたのは、俺の私服だけだ」


「そうですか、……あの衣を見た者は皆、姉様を崇め祀るのです」


「そうか、俺も見てみたいな」


「残念ながら、今の姉様やわたしには、そこまでの力は残っておりませんわ……」


「……俺はこの前のエヒメやオトのスーツ姿も良かったと思うぞ?」


 彼女たちに、気を回した言葉だったと思う。

 浴室のドアの向こうで、『フフッ』と笑うオトの声が聞こえたような気がした。

 

「主様はそういう御嗜好なのですね。赤いハイヒールで踏みつけられたり……」


「ちがうわ! ……お前のその偏った知識は一体どこで培われたんだよ」


「……それは、神々の知恵の一部です。主様のため、努力致しますわ」


「……しなくていいから。ていうか、そもそも俺はそんな趣味はない」


「そうですか? 残念ですわね」

 

 

「なあ、オト……」


 話が変な方向に流れ出したので、俺は前からオトに聞きたかったことを質問してみた。


「おまえ、いつもどこで寝ているんだ?」


 そう言って俺は笑った。


「それは……夜這いにでも来られるのですか? 心の準備が……」


「行かないから、準備もしなくていい……」

 

「……秘密ですわ。全てを見せない事、これこそが現代の叡智(えいち)『チラリズム』なのです」


「……言葉の使い方、普通に間違っているぞ」


 オトのペースに巻き込まれて来たので、俺は早々に脱衣場を出て部屋に戻った。

 結局、彼女の寝ている場所は謎のままだった。


「紡、オトの入浴を覗き見か?」


「ち、ちがうわ」

 

「よいわ、よいわ。おぬしも、男じゃのう。オトには黙っておくから安心せい」


 ここは、エヒメのペースだった。

 俺の部屋なのに俺の居場所はなかった。

 

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