↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/121

第18章 家なき神の居場所

 第18章 家なき神の居場所

 


「えひめ様とおと様が相手じゃ仕方ない」


「今回のことは、わしがうまいこと言っておくわ」


 婆さんが俺たちを見て、微笑んだ。


「ありがとうございます、管理人さん」


「……それに、この部屋は住人がすぐに出ていって困っておったんでな。川崎さんには感謝しておるよ」


「……どういうことなんですか?」


「六本入りスティックパンや十本入り乳酸菌飲料が、夜な夜なお化けに食われとる……という怪奇現象が多発しておってね」


 どう考えても犯人はエヒメだ。

 しかし、当人は婆さんの言葉を聞いて顔色を青くした。


「……こ、この部屋にお化けが出るのか!?」


「我も、減りが早いと思っておったわ。紡、この部屋は事故物件じゃ!」


 ——どの口が言っているんだ。


 エヒメは涙目で震え、オトも青ざめて俺の袖を掴んでいる。

 管理人の婆さんは、涼しい顔で二人を見つめ、とどめを刺した。


「……お化けが出るから、家賃を安くしておるのさ」


「それと、修羅場はほどほどにな」


 そう言って、婆さんと佐藤さんが帰っていった。

 俺は深いため息をつき、エヒメが現れるまで『気のせいだ』と思っていた自分の鈍感さを嘆いた。


 

 婆さんが帰ったあと、部屋には温かい余韻が残っていた。

 このワンルームには、もう規約なんて関係ないのかもしれない。

 俺と、家なき神様たちと、彼女たちを見守る管理人さん。

 奇妙で、けれど何にも代えがたい、俺たちの日常がここに残った。


「なあ、エヒメ。俺の部屋は二階だろ。なんで他の階じゃないんだ?」


「仕方ないじゃろ。一階はエントランスだからな。郵便受けにでも住めというのか?」


「そうだったな。じゃあ、三階や四階じゃダメなのか?」


「そんな階にまで行くほど、我は厚かましくないわ」


 ——十分厚かましい奴なのですが……。


「工事の時に、同じ敷地内だからと祠の場所を適当に移しよって。だから、この地は我の場所じゃ」


「だがのう、紡よ。この部屋の居心地はよいぞ」


 エヒメは腕を組み、ふんぞり返る。


「……そうか、ありがとう」


 今度は、少しだけ笑いを含んだため息をついた。

 彼女の過去が明かされるたびに、振り回しているのは人間の都合なのかもしれないと思う。

 俺が彼女の居場所を見つけ、そこに返すこともそうなのかと思うと、少し複雑な気持ちになった。


「主様」


 隣で黙って話を聞いていたオトが、小さく口を開いた。


「姉様は、昔からああなのです」


「……ああって?」


「人に馴染みすぎるのです。神であることを忘れるくらいに」


 オトは呆れたように肩をすくめた。


「だから、すぐ居つきますわ。村でも、屋敷でも、お社でも」


「オトよ、それは悪いことか?」


 エヒメが不満そうに頬を膨らませる。


「悪くはありません。……だから、皆、姉様を忘れられないのでしょう」


 一瞬だけ、オトが、とても優しい目をした気がした。



 その夜、オトが脱衣場のドアから顔を出して、俺を呼んだ。


「……主様、主様」


「なんだ? シャンプーはまだあるだろ」


 近づいた俺の腕を掴み、オトは脱衣場に引き込んだ。

 そこに佇むオトの姿は、バスタオルを一枚、胸元できゅっと巻いた姿だった。


「な、なにしてるんだよ」


 オトは下を向き、モジモジと恥ずかしそうにしている。


「主様、大変言いにくいことなのですが……」


 言葉を詰まらせる。

 狭い脱衣場で、彼女と触れそうな距離に立ち、緊張した空気が張り詰める。

 いつもと違う彼女の態度に、俺も返す言葉を探した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。