第14章 神引きと火の神
第14章 神引きと火の神
八幡様すら圧倒するほどの、日本神話のトップブランド。
一体どんな恐ろしい大物の名前が飛び出すのかと、俺は思わず唾を飲み込んだ。
その時。
「よっしゃあああ! やっと出た! 紡には言えないが、全ガチャコイン溶かしたわ!」
ガッツポーズをしながら叫ぶエヒメの姿が視界に入る。
「おい! 俺が貯めたガチャコイン、全部溶かしたのか!?」
「なんだ、帰っておったのか。喜べ紡、『神引き』じゃ」
「それは、『神引き』じゃない……」
……本当に、そんな凄い神様なのか、こいつが?
「二人で何の話を、しておったのじゃ」
「なんでもないよ」
俺は、言葉を濁した。
「まっ……まさか。オト、我がジュースをこぼしてコンセントが火を噴いたことを言っておらぬな!」
「あれは、主様には言えませんわ!」
「じゃあ、電子レンジでアルミ容器の鍋焼きうどんを調理して、火を噴いたやつか!?」
「それも、口が裂けても言えませんわ!!」
「全部本人の口から盛大に漏れてるぞ。お前ら、服飾の神じゃなくて、ただの火の破壊神か。我が家を物理的に消滅させる気か」
俺の疑問は深まるばかりだったが、彼女たちの『家』が今ここにあることだけは、確かだった。
だが、一番の問題があった。
カグツチの火を噴くようなやらかしは、一時の笑い話では済まなかった。
彼女たちとの奇妙な同居生活が始まってからというもの、俺の財布は未曾有の火の車に瀕していた。
佐藤さんが時折差し入れてくれる貢ぎ物だけでは、増え続ける食費をカバーしきれない。
それだけではない。日中のエアコン代、ゲームで酷使される電気代、お取り寄せスイーツ。
「なあ、二人とも。これからは少し節約してくれ」
「お菓子も減らしていくぞ。それと、オーガニックシャンプーは三プッシュまでだ」
「何を仰いますか、主様。美の神たるもの、身だしなみを妥協しては存在の格式が落ちてしまいますわ」
ベッドの上で優雅に漫画のページをめくるオト。
「そうじゃ、現地まで買いに行く手間を考えれば、安い物じゃ」
屁理屈をこねてるのか、マジで言ってるのか分からないエヒメ。
ふたりを横目に、俺は薄っぺらくなった財布を覗き込んで深くため息をついた。
今月の水道光熱費の請求書が頭をよぎる。
何とかしなければ、神様より先に俺の生活が消えていく。
そんな俺の様子を、オトが不思議そうに眺めていた。
「主様、どうしてそんなにお金を持っていないのです? 現代の男としては心もとない懐事情ですわね」
「悪かったな。サラリーマンの給料なんて入っても、すぐに消えるんだよ」
「仕方のないお人ですわ。……少々お待ちになって」
オトはベッドからしなやかに立ち上がると、部屋の隅のハンガー掛けへと歩み寄った。
そこに掛かっている、彼女が着ていたフォーマルジャケット。
そのポケットに慣れた手つきで手を差し込むと、すっと数枚の紙切れを取り出した。
「これをお使いになって」
俺の目の前に差し出されたのは、数枚の一万円札だった。
「お前、まさか八幡様の賽銭箱から……!?」
「不敬ですわよ!? どこの世界に賽銭をくすねる不届きな神がいますの!」
オトは眉を吊り上げて怒った。
「これは、わたくしが正当に得た労働の対価です。デザイン、服飾専門学校での臨時講師の報酬ですわ」
——神様がアルバイトしてるのか。
俺は、ハンガー掛けに掛かる、彼女が着ている高価なフォーマルスーツを改めて見た。




