第13章 神様は、どこへ帰るのか
第13章 神様は、どこへ帰るのか
会社帰り、マンションの通路。
佐藤さんの部屋の前を通った時だった。
ガチャリとドアが開き、腕を掴まれ、そのまま部屋に引き込まれた。
「さ、佐藤さん。どうしたんだ」
まさか……スクール水着のことで怒られるのではないかと、落ち着かなかった。
「川崎さん、これを見てくれる?」
「……あいつらが何かしでかしたのか」
「ちがうよ、これ」
彼女はスマホの画面を俺に見せた。
「織姫四姉妹……あいつらのことか?」
「そうなんだけど、見て欲しいのはここよ」
——大阪池田市。呉服神社……呉織、伊居太神社……穴織。
「あいつらの妹分が祀られてる神社か。すごいな」
「アパレル産業や繊維業界の人、それから、わたしみたいな服飾の道の人がよく参拝するところなの」
「そうか。じゃあ、エヒメやオトの神社はどこにあるんだ?」
「……それがね」
佐藤さんが、言葉を濁した。
「あるんだろう。どこなんだ?」
「兄媛様の神社は、九州にあることにはあるの」
「でも、歴史の表舞台からほとんど消えてしまっていて、いまや幻の神様みたいになってるの……」
「……そんな。じゃあ、オトは?」
「弟媛様にいたっては、単独の神社が見当たらないの。朝廷の格式を作ったはずなのに、どこに消えちゃったのか分からなくて……」
「じゃあ、帰る場所がないってことなのか?」
「ないってことではないのよ。ただ、単独で祀られている神社が残ってないの」
「兄媛様は九州の宗像に居たらしいんだけど……」
——エヒメが言っていた、『消えていく運命』という言葉が重くのしかかった。
「佐藤さん。教えてくれて、ありがとう」
「……川崎さん」
「知らないと、知ってるじゃ大違いだよ」
「……うん」
佐藤さんは小さく頷いた。
「……それと」
言いにくそうに、モジモジする。
「あれで、よかったの……? 弟媛様が、『主様への居候のお礼にする』って言って、私のスク水を持っていっちゃったんだけど……」
「……ちがう、違うんだ佐藤さん! あいつは知らないだけなんだ。常識を……」
部屋に俺を招いてくれたことで、佐藤さんとの距離が近くなった気がした。
だが、俺の好みは誤解されてるのだろう。
恥ずかしそうにうつむく佐藤さんの部屋を後にした。
九州にいたエヒメが、今なぜここにいるのか。
オトが今までどこにいたのか。
――俺に何かできるわけでもない。
でも、放っておけない。
自室の扉の前で小さく息を吐き、決意を固めた。
ドアを開けて部屋に入ると、エヒメはヘッドセットを装着してゲームに集中していた。
「おかえりなさいませ、主様」
ベッドの上では、オトが相変わらず漫画を読んでいた。
「ただいま。オト、今日も漫画か?」
「主様、お言葉ですが、姉様みたいな廃ゲーマーと一緒にしないでください」
「お昼は動画配信サービスで忙しくて、漫画どころではなかったのです」
何が『お言葉ですが』で、何が『一緒にしないで』なのか分からなかった。
「オトは今までどこに居たんだ?」
俺の唐突な問いに、オトがぴたりと漫画をめくる手を止めた。
「……主様、ついに、わたくしの魅力にお気づきになられましたか」
「いいでしょう、お答えしますわ」
「いや、そこ(わたくしの魅力)にはまだ気が付かないが、教えてくれ」
「わたしには、決まった場所はありません。八幡様(応神天皇)のお社を渡り続けてきたのです」
「八幡様の社って、鶴岡八幡宮とか?」
「この国に八幡宮は沢山ございます。ざっと四万社以上です」
「八幡様ってすごいな」
ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳には、いつもの悪戯っぽさはなく、どこか遠くを見るような静けさがあった。
「だからこそ、私のような者は、その影に埋もれてしまうのかも知れませんわね……」
「エヒメもそうなのか?」
「姉様に関しては、もっと凄いお方の元におられたので」
「……もっと、凄いお方?」
八幡様以上に凄い存在が関係することに、俺は驚愕した。




