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神様たちと紡ぐ日々~忘れないでくれ~  作者: 空白朔名


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第112章 内緒

 第112章 内緒


 京都から大阪へと戻り、俺たちはすべての始まりの地である池田の伊居太(いけだ)神社へと足を運んでいた。

 境内に入り、静まり返った社殿を見上げる。


「……アナハ、本当に出てくるかな?」


「大丈夫、あれを言うたらすぐやで」


「あれってなんだよ?」


「ほら、前にウチに言うてくれたやん。『市杵島姫も綺麗だったけど……』っていうやつ」


 クレハがどこか照れたように、微笑む。


「……そんなことで本当に出てくるのか?」


 半信半疑のまま、俺は意を決して、少し声を張ってそのセリフを口にしてみた。


「市杵島姫は綺麗だったけど、お前らもかわいいぞ!」


 言い終えた瞬間、猛烈な恥ずかしさが襲ってくる。

 隣を見ると、クレハが顔を赤くして身悶えしていた。


「な、なんでクレハ、お前が照れてるんだよ!?」


「だって、紡くんがそんなストレートに言うんやもん……!」


「お前が言わせたんだろ……」


 ……嵌(は)められた。

 俺にもう一度、この恥ずかしい言葉を言わせたかっただけじゃないか。

 そう気づいて恥ずかしさに頭を抱えかけた、その時だった。


「もう、嫌ですわ……主様ったら。アナハの方が百倍かわいくて綺麗だなんて、そんな大声を張り上げて……」


 背後から、消え入りそうな声が聞こえた。

 振り返ると、いつの間にか現れたアナハが、俺のシャツの裾を掴んでモジモジと俯いていた。


 ——本当に出てきた……。

 しかも、もの凄い脳内変換を引っ提げて。


「そこまでは言ってないだろ? お前、そんな嘘ついたらバチ当たるぞ?」


「バチが当たって主様とハツカネズミに……」


「俺を巻き込むなよ……」


「妊娠期間二十日で年に八回の出産だなんて、忙しくなりますわ。」




 『どうでもいい雑学』を聞き、ひとまず引きこもりを引っ張り出すことには成功した。

 アナハはツンとすました顔で俺たちに向き直った。


「それで……八幡様は何と仰っていたのですか?」


「お、それならウチが説明したるわ!」


 クレハが自信満々に胸を張る。


「おう、頼んだぞ」


 俺が任せると、笑みを浮かべ、アナハに向かって指を一本ずつ立て始めた。


「あんな、アナハ。ウチらな、京都で『内緒』のもの食べて、『内緒』のところに泊まって、『内緒』の寝方したんや。それでな、八幡様に会った後でも『内緒』の話したんや。ハツカネズミの心拍数の……」


「ちょっと待て!クレハ、もういい。俺が説明するから……」


 慌ててクレハの口を塞ごうとしたが、時すでに遅し。

 アナハの目が、見る見るうちに据わっていくのが分かった。

 冷徹なまでの静寂がその場を支配する。


「……主様、説明を」


「あ、はい……。どっちの説明から……」


 アナハをなだめつつ、俺は慌てて八幡様から聞いた『オトの話』と、次なる目的地が『宗像』であるという真実を真っ直ぐに説明した。



 アナハは俺の話をいち早く理解してくれたようだった。


「なるほど……それならば、一番宗像三女神に会える確率の高い、大島の『中津宮(なかつみや)』を目指すのが最善ですわ」


「大島か……」


「あそこなら、湍津姫神(たぎつひめのかみ)がおられるわ」


 俺が呟くと、クレハもと真面目な顔で頷いた。

 これで次の目的地は完全に決まった。

 一刻も早く九州へ……そう思って息を吐いた瞬間。

 アナハが熱い視線をこちらに向けてきた。


「現地に着きましたら……今度はわたしと、『内緒』のものでも食べて、『内緒』の寝方をいたしましょうね。主様?」


「……」


 アナハは、クレハの話を根に持っていた。

 オトを救うための九州旅。

 だがその前に、俺の胃がストレスでやられる方が先かもしれない。

 

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