第109章 継ぎ合わせたい時間
第109章 継ぎ合わせたい時間
「……そうだったのか」
俺は、今までに見てきたオトの姿を思い返していた。
どこか格式高い雰囲気を纏っている割に、時折驚くほど幼い言動を見せることがあった。
あの、『スク水シャンプーハット』の奇行も、今思えばそうだったのかもしれない。
他にも、茅春に対抗して張り合おうとする態度や、俺に子供のように甘えてくる姿……。
「八幡様のもとで亡くなったオト姉様はな、朝廷での功績を称えられて、八幡様と一緒に『合祀』されたんや」
「そうか。クレハやアナハは大阪の池田であんなに大切に祀られているのに、オトは短命だったから……」
「それでもな、ちゃんとこの国の朝廷の衣服制作をしたっていう、もの凄い功績もあるんやで?」
朝廷の、衣服制作……。
その言葉が頭に飛び込んできた瞬間、俺の脳裏に、宮島で別れたエヒメ姿が鮮烈に浮かび上がった。
「……だから、エヒメは『朝服』を……」
エヒメが市杵島姫様に会う為に、クレハとアナハに用意させた、あの古代の朝廷装束を模した服を着ていた理由。
それはエヒメなりにオトを思い、彼女の遺した功績を称えるための服装だったのだと、ようやく気が付いた。
神様たちはみんな、不器用なほどに互いを想い合っている。
部屋の照明を落とし、俺たちは大きなベッドに横になった。
キングサイズ並みに広いはずのベッドなのに、なぜか真ん中に俺とクレハがぴったりと引っ付いた状態のまま、天井の淡い光を見つめる。
「……オトは、本当は何がしたかったんだろうな」
「神として生きる時間と、紡くんの生きる人間の時間を……全部、継ぎ合わせたかったんやと思うよ」
クレハの静かな声が、暗がりに溶けていく。
「俺が神域に引かれてるのは……オトのせいか」
「……紡くんは、どうしたいの?」
クレハに真っ直ぐ問いかけられて、俺はその答えを持っていなかった。
エヒメを助けたい、オトに会いたい。
けれど、自分の未来をどうしたいのか、会社員としての日常に帰りたいのか、それすらもう分からない。
「オトが、俺を必要とするなら……俺は……」
「ウチは、今のままでええと思う」
俺の言葉を遮るように、クレハがはっきりと言った。
神様の都合や運命に流されるなと、彼女の温かい体温が伝えてくれている気がした。
「……ありがとう、クレハ」
心からの感謝を口にすると、急に密着しているこの状況が猛烈に恥ずかしくなってきた。
少し理性を保つために、声を絞り出す。
「あのさ……ベッドがこんだけ大きいんだから、少し離れてもいいんだぞ?」
「ウチは、今のままでええと思う」
クレハは体を離すどころか、確信犯的にさらにぐっと距離を詰めて微笑んだ。
「……そうか。じゃあ、これも内緒だぞ」
「うん」
様々な秘密を抱えたまま、京都の夜はゆっくりと、明けていく。




