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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第VI部 拠点開発編

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第九十七章 パーティー開催~不穏な耳打ち

 パーティーの話が具体化し始めると、神子本部神殿の中の雰囲気が、目に見えて変わった。

 さっきまで、デルタ大陸の監視ログやシミュレーション条件の話ばかりしていたのに、今度は、どこで卓を広げるか、若葉の席はどこにするか、何を出すか、という話になる。

 それだけで、人の気分というのはずいぶん変わるものらしい。

「若葉さんの席は、真ん中がよいでしょうか」

 ジェプラが、もうすでに頭の中で配置を組み始めている。

「いや、真ん中すぎると緊張するかも」

 僕が言うと、若葉は少し考えてから言った。

「となり」

「隣?」

「おねえちゃん、と、おねえちゃん」

 若葉は、僕と青葉を順に指した。

 その要求があまりにも分かりやすくて、ジェプラが少しだけ悔しそうにしながらも笑った。

「では、そのようにしましょう」

『わいの席はどこでもええけど、料理の近くがええな』

 ギラが、すかさず言う。

「全ての料理を、ギラさん用のものも並べますから、安心してください」

『実用性やで。食べられへんものでも、見てると楽しいからな』

 なるほど、そういえば、ホンモノそっくりの食品サンプル――みたいなのが、以前、高校生だった頃にあった気がする。

 ギラも、食べられないものを見ても、同じように感じるのだろうか、と思った。

 青葉がすかさず言った。

「地球=グラブール型とラギ型の両方の代謝で問題なく摂取できる食品も製造可能になっています」

「そうなんですか?」

 ジェプラの耳が少し上がった。

「ラギ型では、一部のアミノ酸がD型を使っているだけなので、地球人とグラブール人が食べても、少し味つけに違和感がある程度に抑えられます」

『それは、ええな』

「……ちょっと、サンプルを食べてから、考えさせてください」

 少し考えてから、ジェプラが頷いた。

 そういうやり取りを聞きながら、僕は、ああ、本当に少しだけ気分が軽くなってきたな、と思った。

 問題は、消えていない。

 でも、問題と一緒に生きていくためには、こういう時間が必要なのだろう。

 青葉が、静かにラウンジ全体を見渡しながら言う。

「神子本部神殿の初期運用区画は、すでに共同生活の場として十分機能しています。一区切りの祝いとしても妥当です」

「青葉も、ちょっと嬉しい?」

 僕がそう聞くと、青葉は一瞬だけこちらを見た。

「そうかもしれません」

 その言い方が、いかにも青葉らしくて、でも、ちゃんと少し嬉しい気持ちが混じっているのが分かった。

 若葉は、そのあいだにも、ラウンジの真ん中あたりで、くるっと小さく一回転してみせた。

 歩けるようになってから、若葉は、嬉しい時に少し身体を動かす癖ができたらしい。

「おいわい」

「うん」

 僕は、若葉に向かって頷いた。

「今日は、お祝いにしよう」

 そう言うと、若葉は、ぱっと笑った。

 その笑顔を見て、ジェプラも、ギラも、青葉も、それぞれ少しずつ表情をやわらげた。

 デルタ大陸のことは、明日からまた考えればいい。

 今日は、若葉のために。

 そして、僕たちがこの神子本部神殿でちゃんと暮らし始めた、その一区切りのために。

 扶桑の“よい方”を、ちゃんと祝う日にする。

 そんなふうに決まったのだった。


***


 歓迎会をやると決まった途端、建物の中を流れる気配まで少し明るくなるのだから不思議だ。

 今度は卓の配置や照明や料理の話になる。

 最初に動き出したのは、やっぱりジェプラだった。

「では、まず、共用ラウンジの中央を広く使えるようにいたします。若葉さんの席は、弓良殿と青葉さんの間ですね」

 もう完全に頭の中で配置が見えているらしい。ラウンジの真ん中へ出ると、彼女は指先で軽く空中をなぞる。

 すると、壁面投影が起動して、卓と椅子の仮想配置が淡い線で描かれた。

 真ん中に長めの卓があって、その一辺の中央に若葉、右に僕、左に青葉、正面にジェプラ――少し斜めへギラ、ブライアント、太郎とハチョキが着く。

「いや、すごいな」

 僕が思わず言うと、ジェプラは少しだけ得意そうに胸を張った。

「生活導線と会話の流れを考えれば、自然とこうなります」

『自然、いうわりには、だいぶ設計しとるやろ』

 ギラが、すぐに茶々を入れる。

「設計して自然になるようにしているのです」

『強いなあ』

 その返しが妙に正しくて、僕は少し笑ってしまった。

 青葉は、ラウンジの照明系を見ながら静かに言った。

「明度を少し落として、色温度を暖かくします。普段の作業用照明のままでは、祝いの席には少し硬いでしょう」

「そんなことまで変えられるんだ」

「変えられます」

 青葉の返答は、相変わらず簡潔だった。

 でも、その簡潔さの中に、すでに準備へ入っている感じがある。

 ラウンジの天井近くの光が、少しずつやわらかく変わり始める。真っ白だったものが、ほんのりと金色に近い色へ寄っていく。たったそれだけで、空間の印象がかなり違った。

「ほんとだ。……ちょっと旅館っぽいね」

 僕がそう言うと、ジェプラがぱっとこちらを見る。

「旅館、というのは、弓良殿の故郷の宿泊施設ですね?」

「うん。日本のホテルのことだね」

 ――因果の道のことは、大まかなことは美優とともに、おおまかな点で皆と共有していた。

「では、よい雰囲気ということですね」

「たぶんね」

 ジェプラは、その返事に満足したらしく、さらにやる気を増したようだった。


***


 厨房支援区画の方でも、すぐに準備が始まった。

 万物プリンターを大げさに回すほどのことではない。

 しかし、食材加工、器の追加出力、温度保持、盛りつけ補助くらいなら、今の拠点設備でも十分にできる。

 地上用SERも安定し始めているし、生活設備としての神子本部神殿は、もうかなりまともに動いていた。

 ジェプラは、そこでまた少し真面目な顔になる。

「若葉さんの歓迎会ですから、食べやすいものがよいでしょうか。それとも、少し特別感のあるものを優先した方が……」

 その悩み方が、実にジェプラらしい。

 単に料理を並べるだけではなく、「この場がどういう意味か」にふさわしいものを選ぼうとしている。

「若葉、何がいい?」

 僕が聞くと、若葉は少し考えた。

 すぐに答えが出るかと思ったけれど、意外と真剣に悩んでいる。たぶん、まだ“好きな食べ物”の候補が頭の中でそんなに多くないのだろう。

「……さくさく」

 やがて出てきた答えは、それだった。

 僕は思わず笑う。

「さくさく系なんだ」

「さくさく、すき」

 若葉は、きっぱり言った。

 ジェプラは、その答えをものすごく真面目に受け止めた。

「分かりました。歯ごたえのある焼き菓子系は多めに用意いたします」

『それ、歓迎会の主役の意見として、だいぶ可愛いな』

 ギラが、横からにやにやしながら言う。

 若葉は、自分が可愛いことを言った自覚はないらしく、真顔でギラを見る。

「かわいい?」

『いや、そういう意味やなくてやな……』

 その微妙に噛み合わないやり取りが、妙におかしくて、場の空気がさらに軽くなる。

 ブライアントは、壁にもたれながらその様子を見ていたが、やがて少しだけ肩をすくめた。

「祝いの席なら、たんぱく源もちゃんと入れろよ。甘いのばかりだと後で腹が減る」

「分かっています」

 ジェプラは、そこもきっちり返す。

「地球系の味に寄せた塩気のあるものも、海側の試験採取食材を使ったものも、ちゃんと用意します」

『いやあ、気合い入っとるなあ』

 ギラが感心したように言う。

 すると、ジェプラは少しだけ耳を動かしながら、小さく答えた。

「……若葉さんの歓迎会ですから」

 その言い方が、なんだかすごく素直で、僕は少しだけ胸があたたかくなった。


***


 一方、ラウンジの装飾――というほど大げさなものではないけれど、空間の整え方の方でも、少しずつ“祝いの場”らしさが出てきた。

 食堂兼ラウンジとして使っている共用空間の壁に、簡単な布飾りが掛けられた。

 卓の中央には、扶桑で採れた花に似た植物をまとめた低い飾りが置かれる。

 色は派手すぎず、でも、普段の会議卓より明らかに柔らかい。

「少し足りませんね。若葉さんの歓迎会なのですから、もう少し花を――青葉さん、このあたりの照明も、柔らかい色にできますか?」

『可能です』

「ではお願いします。ああ、それと、席順も考え直した方が……」

 いつものジェプラは、几帳面で、落ち着いていて、必要なことを必要な順番で片づける人だ。

 でも、今日は、その几帳面さに、完全に“嬉しさ”が混じっていた。

 その様子を見て、僕は思わず言った。

「ほんとにパーティーっぽくなってきた」

「パーティーですから」

 ジェプラは、まるで当然のことみたいに答える。

 そうしているあいだにも、ハチョキが、いかにも“自分も準備に参加している”つもりで、ぶうぶう鳴きながら小さな器や布を運んでいた。

 実際には、たまに持っていく先を間違えていて、太郎がその都度、静かに軌道修正している。

『そちらではない』

『ブウ?』

『こちらです』

『ブウ!』

 その会話とも言えないやり取りが、妙に面白い。

「ハチョキも、だいぶ張り切ってるね」

 僕が言うと、太郎は短く答えた。

『主任補佐として当然』

『どこまで本気なんやそれ』

 ギラが笑う。

 でも、ハチョキ本人――本機?――は、かなり本気らしかった。

 小さな布飾りひとつ運ぶだけでも、自分の役目だと信じている感じがある。

 そういう空気が、たぶん、いいのだと思う。

 盛大な祝典ではない。

 けれど、拠点にいるみんなが、自分なりの形で「祝いの場」を作ろうとしている。

 それだけで、共同体の感じがちゃんと出る。


***


 料理も、準備が始まっていた。

 もっとも、完全に手作りというわけではない。

 食材の加工や基本構成は、万物プリンターと厨房支援機能で一気に整えられる。

 しかし、最後の盛りつけとか、味の方向性とか、卓への並べ方とか、そういう部分にはちゃんと人の意思が入る。

 ジェプラは、そこでも細かかった。

「甘いものは、若葉さんの近くに置いた方がよいでしょうか。いえ、最初に塩気のあるものを少し食べてからの方が、味の変化が楽しいかもしれません……」

『子供扱いが丁寧すぎるなあ』

 ギラが、椅子の背にもたれながら笑う。

『まあでも、今日はそういう日か』

「子供扱いではありません。歓迎です」

 ジェプラはきっぱり言った。

「若葉さんは、ずっと遺跡の中で曖昧な意識のまま過ごしていたのです。こういう場がどういうものか、ちゃんと気持ちよく覚えていただきたいでしょう?」

 そう言われると、誰も軽くは返せなかった。

 僕は、卓へ並べられていく料理を見ながら、少しだけ胸があたたかくなるのを感じていた。

 歓迎会なんて、大げさなものじゃなくてもよかったのかもしれない。

 でも、こうして“今日という日を特別にする”ことには、たしかに意味がある。

 若葉が、ここへ来てよかったのだと思えるように。

 僕たちも、若葉が仲間になったことを、ちゃんと形にして受け止められるように。


 準備の途中、若葉は最初、ラウンジの真ん中で少しおとなしく立っていた。

 自分の歓迎会だと言われても、何をしていいのか分からないのだろう。

 目の前で卓が動き、布が掛けられ、照明が変わり、料理の準備が進むのを、少し不思議そうな顔で見ている。

 僕は、その横へ行ってしゃがみ込んだ。

「どう?」

 若葉は、少しだけ考えてから答える。

「……すごい」

「うん」

「わたしの?」

「若葉のでもあるし、みんなのでもある」

 そう言うと、若葉は、その言葉を自分の中へゆっくり落としていくみたいに、少し黙った。

「みんなの、おいわい」

「そうだね」

 その理解の仕方が、若葉らしくてよかった。

 若葉は、そのあとで、少しずつ準備にも混ざり始めた。

 といっても、難しいことをするわけではない。

 卓の上へ置く小さな器を一つずつ並べたり、布の端を整えたり、ジェプラが「これをあちらへ」と頼んだものを、ちゃんと運んでみたり。

 歩けるようになったばかりの若葉にとって、それ自体がもう少し特別なことなのだろう。

 しかも、今日は嬉しいらしく、何かを運ぶたびに、少しだけ誇らしそうな顔をする。

「わかば、それ、上手」

 僕が言うと、若葉は、ぱっとこちらを見た。

「じょうず?」

「うん。すごくちゃんと運べてる」

 その褒め方は、もしかしたら少し子供扱いかもしれない。

 でも、いまの若葉には、それがちょうどいい気がした。

 若葉は、嬉しそうに小さく笑って、それからもう一つ器を運びにいった。


 準備が進むにつれて、神子本部神殿のラウンジは、ほんとうに“祝いの場所”へ変わっていった。

 普段は、会議をしたり、簡単な食事を取ったり、作業の合間に少し腰を下ろしたりする場所だ。

 でも今日は、最初からそこにあった生活の空気が、少しだけ晴れやかなものへ変わっている。

 窓の外には海、中にはやわらかい照明、卓には始めた料理が並び始めた。

 そして、若葉の席もある。

 僕は、その席を見ながら、なんだか不思議な気持ちになった。

 若葉がこの拠点に来た時、まだ仮想体で、どこか“いるようでいない”感じだった。

 その若葉が、今はちゃんと歩いて、器を運んで、自分の歓迎会の席を持つところまで来ている。

「早いなあ」

 思わず、そう呟く。

 青葉が、すぐ横で聞き返した。

「何がですか?」

「若葉が、ここに馴染むの」

 そう言うと、青葉は少しだけ視線を若葉の方へ向けた。

 若葉は、いまちょうどジェプラに何かを渡していて、そのあとで、少し得意そうにこちらを振り返っていた。

「そうですね」

 青葉は、静かに言った。

「ですが、若葉だけではありません。弓良も、ジェプラも、私も、この神子本部神殿そのものも、少しずつ馴染んでいるのだと思います」

 その言葉は、妙にまっすぐで、僕は少しだけ黙った。

 たしかに、そうなのかもしれない。

 若葉がこの場所に馴染んだのではなく、僕たち全員が、この神子本部神殿と扶桑という場所へ、少しずつ馴染んできたのだ。

「そうかも……」

 僕がそう答えると、青葉は、小さく頷いた。

「ですから、祝いには意味があります」

 その言い方が、いかにも青葉らしくて、でも、少しだけ優しかった。


***


 やがて、準備はほとんど整った。

 卓は並び、照明は変わり、料理も揃い始める。

 窓の外では、海の色が少しずつ夕方へ寄り始めていた。

 ジェプラが、最後にラウンジ全体を見回してから、小さく息をつく。

「……よし」

 その“よし”は、すごく小さかった。

 でも、彼女の中で一区切りついたのが分かる声だった。

「これで、いつでも始められます」

『おお、ほんまにそれっぽいやん』

 ギラが、感心したように周囲を見回す。

「それっぽい、ではなく、そのものです」

 ジェプラは、きっぱり言う。

 でも、その顔は、かなり嬉しそうだった。

 若葉は、自分の席へ座ってみたり、また立ってみたりして、落ち着かない様子で周囲を見ている。

 自分のための席があることが、まだ少し不思議なのだろう。

「若葉」

 僕が呼ぶと、若葉はすぐにこちらを見る。

「うん」

「もうすぐ始まるよ」

 そう言うと、若葉は少しだけ背筋を伸ばした。

「……うん」

 その返事には、緊張と楽しみが半分ずつ混ざっていた。

 僕は、その顔を見て、自然に笑った。

 デルタ大陸のことは、明日からまた考えればいい。

 今日は、扶桑の海の見える神子本部神殿で、若葉の歓迎と、この拠点の一区切りを祝う日だ。

 そうやって、自分たちで場を作っていくことが、たぶん、この星を“住む場所”にしていくのだろう。


***


 若葉のお披露目は、本部棟の中枢寄りの小ホールで行われた。

 お披露目、と言っても、何か大それた儀式があるわけではない。

 ただ、若葉が、機怪人形の身体のまま、僕たちの前へ出てくる。それだけだ。

 でも、その“それだけ”が、ひどく大きい。

 青葉が、若葉の側へ立つ。

 その少し後ろに、マザーから受け取ったテンプレートを元に作られた、小さな機怪人形の身体がある。

 最初に見た時にも思ったけれど、やっぱり可愛い。

 青葉やマザーと同系統の滑らかな顔立ちと、機怪人形らしい整った身体のつくりを持ちながら、全体の印象はずっと幼い。

 髪はふわりと軽く、瞳は明るく大きい。ドレスも、最初に若葉がまとっていたゴシック風の意匠を引き継ぎながら、今度は完全に“ここにいるための服”として落ち着いていた。

 ジェプラが、ほんの一瞬、言葉を失った。

「……ああ」

 そして次の瞬間、本当に身もだえるみたいな動きで両手を胸の前へ持っていく。

「可愛らしい……!」

 声に出ていた。

 たぶん、本当に、抑えきれなかったのだろう。

 若葉は、その反応をどう受け取ればいいか分からないみたいに、少しだけきょとんとした顔をしていた。

 けれど、青葉がそっと肩へ手を置くと、小さく頷いて、一歩前へ出た。

「若葉」

 僕が名前を呼ぶと、若葉は僕を見た。

「これからも、よろしくね」

 青葉も、ほんの少しだけ柔らかな表情になった。

「はい」

 そこへ、ジェプラが一歩進み出る。

「若葉さん」

 若葉がそちらを見ると、ジェプラは、真剣な顔のまま言った。

「歓迎いたします。あなたはこの本部棟の正式な住人です」

 言い方が、やっぱり少し神官っぽい。

 でも、その厳かさが、この瞬間には妙にふさわしかった。

 若葉は、その意味を全部理解できているかは怪しい。

 それでも、たぶん、大事に受け取られていることだけは分かったのだろう。

「うん」

 とても素直に頷いていた。


***


 歓迎会が始まると、ラウンジは一気に賑やかになった。

 若葉の席は、僕の隣で、反対側が青葉だった。

 向かいにジェプラがいて、少し斜め前にギラ、端にブライアントと太郎だった。

 ハチョキは、誰の席でもないのに、なぜか太郎の近くを自分の定位置だと思っているらしかった。

 料理が並ぶ。

 地球系に寄せたもの、グラブール人側の味覚を少し参考にしたもの、扶桑の海で採れた試験的な食材を使ったものがあった。

 そしてギラ専用の料理も一緒に並べられていた――ギラと共通にした食材は、地球人とグラブール人には、残念ながら、とても辛すぎて駄目のようだ。

 でも、完全に洗練されてはいないけれど、いかにも“みんなで食べるために用意しました”という感じがして、それがよかった。

「若葉さん、こちらは少し甘いです」

 ジェプラが言うと、若葉は慎重に小さく口へ運んだ。

 それから、目を少しだけ大きくする。

「……やわらかい」

『味の感想やないんか』

 ギラが吹き出す。

 若葉は、少し困った顔で、でも正直に続けた。

「へん。でも、すき」

「前より表現が増えたね」

 僕が言うと、若葉は少し嬉しそうにした。

 太郎は、いつもの通り短く言う。

『摂取機能、正常』

『主任、それは歓迎会のコメントちゃうやろ』

 ギラが笑う。

『でも、太郎らしいか』

 すると、ハチョキが、まるで自分も会話に参加しているつもりらしく、ぶう、と鳴いた。

 若葉は、その音に反応して、ぱっとそちらを見る。

「この子、ずっといる」

『ぶう』

 ハチョキが、得意そうにもう一度鳴く。

『部下』

 太郎が、短く説明した。

 若葉は、少しだけ考えてから頷く。

「じゃあ、えらい」

 その言葉に、ハチョキは、ますます嬉しそうに震えた。

 ギラは、杯を手にしながら楽しそうに言う。

『あかんなあ、若葉。太郎んとこの序列を認めたら、あのへんますます調子乗るで』

「職務に忠実なだけです」

 青葉が、平然と返す。

「青葉までそっち側なの?」

「事実関係を述べただけです」

 そういうやりとりが、ひどく自然だった。

 若葉がいて、ジェプラが世話を焼いて、ギラが茶々を入れて、太郎が短く締めて、青葉が理詰めで補足する――。

 その真ん中で、僕は、なんとなく全員の顔を見回していた。

 家族、という言葉が、頭のどこかをよぎる。

 もちろん、みんな本当の意味での家族ではない。

 出自も、種族も、立場も、全部ばらばらだ。

 でも、卓を囲んでいるこの感じは、少なくとも“ただの作業仲間”ではなかった。

 誰かが何かを食べれば、他の誰かが反応する。

 誰かが笑えば、空気が少し緩む。

 その積み重ねで、たしかに共同体ができている。

 若葉は、その中で、少しずつ力を抜いていった。

 最初は背筋を固くしていたのに、いつの間にか、僕と青葉の肩の間くらいに自然に収まっている。

 ジェプラが話しかければちゃんと応え、ギラの軽口にも少しだけ笑うようになった。

「若葉」

 僕が小さく呼ぶと、若葉はすぐにこっちを見る。

「ここ、どう?」

 その問いに、若葉は少しだけ考えた。

 それから、ひどくまっすぐに答えた。

「いるとこ」

 短いけど、十分だった。

 ここは、若葉が“いるところ”になったのだ。


***


 歓迎会がある程度落ち着いて、みんなが食後の飲み物や軽い甘味へ手を伸ばし始めた頃、青葉が僕の近くへ寄ってきた。

 表情は、あまり変わっていない。

 でも、声を少しだけ落として、通信で話しかけてきた。

『弓良』

「ん?」

『少し、よろしいですか』

 僕は、青葉に促されて、ラウンジの端へ移動した。

 そこなら、みんなの会話はまだ聞こえるし、でもこちらの小さな声は届きにくい。

 青葉は、僕の隣に立ったまま、淡々と言った。

『万物プリンターによるシャドーマターとエキゾチック物質の消費が、想定していたより激しいです』

 その一言で、歓迎会の柔らかい空気が、頭の中だけ少し冷えた。

「やっぱり……」

 前にも、軽く釘を刺されていた。

 便利だからといって無限ではない、と。

『沿岸拠点の構築、若葉用ボディの形成、各種インフラの立ち上げ、さらにデルタ大陸遠征用資材と基準杖の投入で、消費曲線が予定より前倒しになっています』

「まずい?」

『即座に破綻するわけではありません』

 青葉は、そこははっきり言った。

『ですが、このまま“必要だから作る”を続けると、数か月単位で供給計画を見直す必要が出ます。特に、シャドーマター流量とエキゾチック物質備蓄の両方を使う大型出力は、優先順位をつけるべき段階です』

 僕は、思わずラウンジの中を振り返った。

 笑っている若葉、ジェプラ、ギラ、太郎、卓に並ぶ料理――。

 少しずつ完成していく本部棟。

 全部、確かに必要だった。

 でも、全部を同時に回すには、土台の方が思ったより細いのかもしれない。

「インフラの問題、か……」

『はい』

 青葉は静かに頷く。

『歓迎会の最中に言うべき話題ではありませんでしたが、弓良には先に共有しておいた方がよいと判断しました』

「ありがとう」

 僕は、小さく息を吐いた。

 せっかくの歓迎会だ。

 その楽しさに水を差したいわけではない。

 でも、喜んでいるだけでもいられない。

 扶桑を、本当に“住める星”にするなら。

 この共同体を、ちゃんと続くものにするなら。

 次は、資源の流れそのものを考えなければいけない。

 僕は、もう一度ラウンジの方を見た。

 若葉が笑っている。

 その隣で、ジェプラが何かを説明し、ギラが茶々を入れ、ハチョキがぶうぶう鳴いて、太郎が短く返し、ブライアントは少し離れた席で、でもたぶん全部聞いている。

 この場所を守りたい。

 その気持ちは、前よりずっとはっきりしていた。

 だからこそ、次は、インフラだ。

 扶桑が呼吸を続けるために必要なものを、ちゃんと知らなければいけない。

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