第九十五章 デルタ大陸の考察~今後どうするか考えよう
デルタ大陸からの帰路の飛行は、行きより少し静かだった。
ブライアントは、ギラ一緒に、回収した大型個体の拘束状態とサンプルデータを何度も確認していた。
青葉は、デルタ大陸の地表スキャンと若葉から得た管理AI由来の情報を統合し、太郎は後方で、捕獲個体が暴れないよう淡々と監視している。
僕は、前方窓の向こうで、デルタ大陸の赤茶色が遠ざかっていくのを見ていた。
その先で、景色が少しずつ変わる。
赤が薄れ、黄土色が増え、やがてまだらに緑が戻る。
河の筋が見え始める。
雲の影が濃くなる。
さらに進めば、アルファ大陸側の海と森と湿った風景が戻ってくる。
同じ惑星のはずなのに、その移り変わりは、まるで季節の違う別の世界を跨いでいるみたいだった。
僕は、少しだけ目を閉じた。
帰ったら、開発会議だ。
デルタ大陸の扱いを、もう一度考えなければいけない。
この星は、綺麗だ。
でも、何も知らずに暮らせる星ではなかった。
だからこそ、僕たちが見て、考えて、決めていかなければいけないのだ。
***
前方に、湾と高台が見えてきた。
神子本部神殿と、その向こうの海に浮かぶ巡洋艦『青葉』。
アルファ大陸側の、呼吸するような自然。
デルタ大陸の赤い荒野を見たあとだと、その景色は、少し眩しすぎるくらいに穏やかに見えた。
「帰ってきた……」
僕が小さくそう言うと、青葉が静かに答えた。
『はい。ですが、出発前より、扶桑についての認識が大きく変化しました』
「そう、だよね」
僕は苦笑しながら頷いた。
「本当に、ちょっと普通の星ではないのが、よく分かったよ」
でも、この遠征で、扶桑という星も、また少しだけ“ただの理想郷ではない現実の場所”になったのだと思った。
ザラスターIIが高台の仮設着陸場へ降りていくあいだ、僕は窓の外の拠点を見ていた。
神子本部神殿の白い建物、その下に広がる搬送路、港へ続く道――その向こうの海がある。
つい数時間前に、僕たちは、赤茶けたデルタ大陸の乾いた荒野を見てきたばかりだ。
あの不毛の地の匂いと色が、まだ感覚のどこかに残っている。そのせいで、こちら側の風景は、いつも以上に“住める場所”に見えた。
青く、湿っていて――生きている。
同じ扶桑の上だというのに、その対比が、帰路ではずっと頭から離れなかった。
ザラスターIIが着地すると、軽い衝撃が床を伝い、すぐに推進音が落ちていく。
いつもなら、そこで少し肩の力が抜けるのだろうけど、今日は違った。
後方貨物区画には、あの大型の蜥蜴型生物が拘束されたまま固定されている。
乾いた小動物や地衣類のサンプルもある。
小型蜥蜴の行動ログ、地表と地下の干渉データ、シャドーマター場の歪みの記録も持ち帰った。
全部まとめて、この帰還は、ただの探検終了ではなかった。
ハッチが開いて、外の空気が入ってくる。
デルタ大陸ほど乾いていないし、海の気配がある。
僕は、そこでようやく、少しだけ心の奥の緊張がほどけるのを感じた。
そして、そのすぐ先に、ジェプラと若葉がいた。
「お帰りなさいませ、弓良殿!」
ジェプラが、まっすぐこちらへ駆け寄ってくる。
その声の明るさで、ああ、ちゃんと戻ってきたんだな、と実感した。
若葉も、その少し後ろで、でも以前よりずっと自然な足取りでこちらへ近づいてきた。
まだ小さな歩幅だが、もう“歩くこと”そのものは若葉の中で当たり前になり始めているらしい。
「かえってきた」
若葉が言う。
「うん、帰ってきたよ」
僕がそう答えると、若葉は少し安心したように頷いた。
ジェプラは、すぐに僕たちの表情を読んだのだろう。
帰還したこと自体は歓迎している。
でも、そこで浮かれた様子を見せず、少し真面目な顔になった。
「あまり、穏やかな調査結果ではなかったのですね……?」
「うん」
僕は、正直に答えた。
「想像していたより、デルタ大陸は厄介そうだった」
その時、ハッチの向こうで、太郎とドローンたちが後部貨物区画の固定を外し始めた。拘束された大型個体をそのまま分析区画へ移す準備だ。
ジェプラは、開いたハッチの向こうに見える巨大な影を見た瞬間、目を丸くする。
次の瞬間、彼女の耳がぴんと立った。
「まあ……!」
驚いている。
でも、悲鳴を上げるほどではない。
神殿監察部の人間として、ある程度の異常には慣れているのかもしれない。
若葉は、僕の少し後ろへ隠れるみたいに寄ってきた。
やはり、見た目からして気持ちのいいものではないのだろう。
「これが……?」
「デルタ大陸で襲ってきた大型個体だ」
降りてきたブライアントが、簡潔に言った。
「初期生物パッケージ外。自然発生というより、古い生態系の残滓が依り代を得て動いてる可能性が高い」
その説明だけで、ジェプラの顔つきがさらに引き締まる。
「では、あの大陸は……」
「乾いてるだけでは、なかったんだ」
僕は、はっきり言った。
「小さな生き物や、地表の薄い生態系はあったよ。でも、その下に、昔の生き物の残りみたいなものが、化石を依り代にして動き出す可能性がある」
ジェプラは、一瞬だけ言葉を失った。
それから、小さく息を吐いて頷く。
「神域に近い危険地帯、という感じでしょうか……?」
「そう言われると、すごくジェプラっぽい表現だね」
「でも、そうですよね?」
「うん。そんな感じかも」
ギラも降りてきて、拘束された蜥蜴型個体を遠巻きに眺めながら、低く言った。
『ほんま厄介やな。資源はありそうやのに、表層がこんなんやと、軽く手は出せへん』
「その通りだ」
ブライアントが言う。
「価値がある可能性は高い。だが、価値があるからといって、いきなり掘ればいい場所ではない」
その会話を聞いていた若葉が、小さく口を開いた。
「へんなところ」
その率直な感想に、僕は少しだけ笑った。
「うん。かなり、へんなところだった」
***
大型個体のサンプルを分析区画へ移し、初期固定を青葉と太郎が引き継いだあと、僕たちは神子本部神殿の中央会議卓へ集まった。
探索から戻ってすぐの会議は、たいてい空気が少し固い。
でも、今回のそれは、いつも以上だった。
卓上には、デルタ大陸中央部の立体地形図が出ている。
赤茶けた荒野、基準杖の位置、大型蜥蜴型個体と遭遇した岩場――。
小型蜥蜴の確認地点。
毒々しい色の地衣類が見つかった浅層分布。
そして、そのさらに下に重ねられた、シャドーマター場の歪みと、高干渉反応帯。
アルファ大陸側の緑と青に慣れた目で見ると、それだけで十分に不穏だった。
青葉が、まず、事実の整理から始めた。
「デルタ大陸中央部は、単なる乾燥帯ではありません。地表の酸化と乾燥化が進んでいる一方で、地下には、シャドーマターの河と干渉しやすい地層、あるいはエキゾチック物質鉱脈が存在する可能性が高いと判断されます」
投影の下層で、赤い地形のさらに下に、青白いゆがみが走る。
「また、若葉経由で得られた遺跡管理AI由来の情報では、シャドーマター過多により、微細情報媒体素子が誤動作した可能性が示唆されています」
若葉は、会議卓の端で少し緊張した顔をしていた。
自分の言葉が、こうして大人たちの判断材料になっているのが不思議なのだろう。
僕は、その若葉を見てから、デルタ大陸の投影へ視線を戻した。
「地表の生き物も、全部が死んでる訳ではなかったよ」
僕は、自分で見たものを思い出しながら言う。
「小さな蜥蜴もいたし、赤い砂の下に、地球とはかなり違う、毒々しい色の地衣類みたいなものもいた。だから、あそこは“何もない砂漠”ではない。たぶん、“耐える側の生態系”が、ぎりぎり成立している」
ブライアントが、その言葉をすぐに拾う。
「その通りだ。アルファ大陸側が、循環して育つ生態系なら、デルタ大陸は、極限に適応して張りつく生態系だ」
彼は、そこで卓上のデータ層を切り替えた。
小型蜥蜴の観察ログ、地衣類様生物の分布、大型個体の行動軌跡――。
「問題は、その“正常な極限生態系”の上に、“異物”が混ざってることだ」
「異物って、大型のあれ?」
「そうだ」
ブライアントは頷く。
「初期生物パッケージ外だし、動き方から見ても、自然な生態系の大型捕食者ではない。青葉がいうように、古い生体情報が依り代を得て、無理やり現世へ戻ったのかもしれない」
青葉は少し表示を切り替え、細胞スキャンと塩基配列らしき図を重ねた。
「生物学的解析の予備的結果が出ています。まず、小型蜥蜥類個体群と、地衣類様生物についてですが、これらは、人類やグラブール人の代謝系と、それと異なる代謝系が混ざっているようです。中間的な性質を持っています」
僕は、少し眉を上げた。
「中間的?」
「はい。完全な地球=グラブール型でもありませんし、ラギのような別系統とも一致しません。細胞内代謝、膜構造、情報伝達の一部が、我々の知る生物系と異なる一方で、全体の代謝の大枠は、こちら側に寄っています。つまり、再生された生態系が、どこかで半端に“ずれた”形になっている可能性があります」
ブライアントが、その説明を聞いて、いかにも得心がいった顔をした。
「やはり、微細情報媒体素子が生態系を生成したときの誤作動か?」
「その可能性が高いです」
青葉は、静かにはっきりと言った。
「おそらく、デルタ大陸では、シャドーマター過多と地下干渉の影響で、再生時の初期生物パッケージが、完全には“地球=グラブール型”へ収束しなかったのでしょう。そのため、小型生物群や地衣類様生物には、中間的、遷移的な性質が残っていると考えられます」
ジェプラが、小さく息を呑む。
「では、あの大陸の生態系そのものが、少し歪んだ形で成立しているのですね」
「青葉の言葉の通りだと、そう見てよさそうだ」
ブライアントが言う。
「壊れてるわけではない。しかし、意図通りの生態系ができたとも言えん」
青葉は、そこでさらに表示を切り替えた。
今度は、大型個体の細胞断面と、遺伝情報の解析図だ。
先ほどまでの小型生物や地衣類の図とは、明らかに雰囲気が違った。
「そして、大型蜥蜴型個体ですが、こちらは、さらに異質です」
その一言だけで、場の空気が少し引き締まる。
「この個体は、完全に地球=グラブール型のコドン系を使っていません」
「え?」
僕が思わず声を上げると、青葉は頷いた。
「おそらく、〈先住者〉と同じタイプの代謝系です」
ブライアントが、低く唸るような声を漏らす。
「〈先住者〉系……」
「はい。ただし、完全な生物として成立しているとは言えません」
青葉の声は静かだったが、その内容はぞっとするものだった。
「細胞構造が破綻気味で、組織間の整合性も低く、代謝回路も極めて不安定です。本来なら、まともな生命活動を維持できないはずです。それでも、何故か動いていた」
僕は、思わず言った。
「ゾンビみたいだね……」
「近い表現です」
青葉は、否定しなかった。
「生物として完全には成立していないのに、情報残滓と依り代構造に支えられて、局所的に“活動してしまっている何か”です」
その表現は、昼間、僕たちがデルタ大陸で感じた不気味さに、ひどくよく合っていた。
生きている、とは言い切れない。
でも、死んでいるとも言い切れない。
ただ、何かが無理やり動いていた。
「サンプルを生かそうとしたのですが」
青葉は、さらに淡々と続けた。
「細胞が急速に溶解し始めました」
「溶けた?」
「はい。活動停止後、細胞間結合が維持できなくなり、分子レベルで崩壊を始めました。現在は、これ以上の劣化を防ぐため、冷凍措置を取っています」
僕は、昼間、拘束されたままザラスターIIへ運び込まれたあの大型個体を思い出した。
あれが、生き物として安定して存在していたわけではない。
動いている間だけ、無理やり“そう見えていた”のだ。
ジェプラが、少し青ざめた顔で言う。
「では、本当に……死んだものの残りが、無理に起き上がっていたような状態だったのですね?」
「現時点では、そう理解して頂いて構いません」
青葉は、はっきりとそう言った。
「魂のような情報エネルギーが、化石を依り代とし、〈先住者〉系の代謝情報を不完全に再起動した結果、活動個体のように振る舞っていただけの可能性があります」
ブライアントが、腕を組んだまま、ぼそりと言った。
「ここには、魂が『雪の姫』の元へ行くのを防げて留める何か――シャドーマターの流れの乱れのせいか、エキゾチック物質のせいか、あるいは遺跡そのものによる人工的な構造か――が、あったということだな」
「その可能性が高いです。原因は、まだ仮説の域を出ませんが、実際に、〈先住者〉側の過去の生態系か、それに近い何かの残滓が、まだ地中や化石に残っている可能性があります」
「そうなんだ……」
僕は、少しだけ喉の奥が乾くのを感じた。
「……でも、この星って、元々、生命はいなかったんだよね?」
青葉が首を振る。
「デルタ大陸で話したように、惑星形成の過程からみて、実際には、ゴシロック第四惑星に自然に生命が発生した痕跡はありません。“化石”自体が、微細情報媒体素子による惑星再生の誤作動により形成されたと推測されます」
その言葉に、ブライアントも頷いた。
「酷いな……」
デルタ大陸は、ただ資源が眠る不毛地帯ではない。
シャドーマター過多と微細情報媒体素子の誤作動で、局所的に“起き上がる”――考えれば考えるほど、軽率に触れていい場所ではなかった。
ジェプラが、小さく息を吐く。
「つまり、あの大陸は、今の扶桑の生態系だけを見るべき場所ではない、ということですね」
「そうなる」
ギラが、腕を組みながら言う。
『そんで、その下に資源もありそうなんやろ?』
「ありそうだった」
僕は応えた。
「シャドーコンパスでも、近くに、シャドーマターと干渉する物質の鉱脈っぽい感じはあった」
ブライアントの目が、その一言で少しだけ鋭くなった。
やはり山師としては、そこが気になるのだろう。
「だからこそ、なおさら急げない」
彼は、自分に言い聞かせるように言う。
「欲しいものが埋まってる場所ほど、慌てて掘るな。山師の鉄則だ」
その言葉には、妙な説得力があった。
ギラが、珍しく真面目な顔で言う。
『たしかにな。資源は欲しい。けど、こんなん見せられたら、そら掘る前にちゃんと見張るしかないわな』
「そうだね」
僕は、頷いた。
「これは、急いで掘っていい場所じゃない」
***
会議は、そのあと、かなり具体的な整理へ入った。
まず決まったのは、デルタ大陸を「要観察区域」として扱うことだった。
「現時点での結論としては、デルタ大陸中央部およびその周辺を、要観察区域に指定します」
青葉がそう宣言する。
「大型個体の再出現可能性、地下鉱脈とシャドーマター場干渉の継続確認、表層生態系の挙動変化、いずれも長期的な観測が必要です」
「要するに、放っておかないけど、すぐ触りもしないってことだね」
僕が言うと、青葉は頷いた。
「はい。積極開発は見送り、観測密度を上げます」
ブライアントが、そのまま次の提案を重ねる。
「ドローンによる監視とサンプル採取を密にするべきだな」
彼は卓上に、基準杖を中心とした観測圏を描いた。
「定点観測ドローンを数機固定。移動監視をその外周へ回すべきだ。地表だけでなく、浅い地下反応も継続して拾う。小型生物、地衣類、他の植物もあれば、定期的にサンプルを取って、変異や拡散の速度を見る」
「賛成です」
青葉がすぐに応じる。
「特に、大型個体がまた発生した場合、その兆候を事前に拾います。仮説として、シャドーマターの過多又は変化が関係している可能性があるので、シャドーマター場の局所揺らぎと、生体反応の重なりを見ます」
ジェプラは、その説明を聞きながら、少し眉を寄せていた。
「その影響は、デルタ大陸だけに留まるのでしょうか……?」
それは、僕も気になっていたことだった。
もしデルタ大陸の地下条件が、もっと大きな規模で扶桑全体に干渉しているなら。
もし、あの“昔の生態系の残り”みたいなものが、何らかの形で他へ波及するなら、話はデルタ大陸だけでは済まない。
青葉は、少しだけ間を置いて答えた。
「現時点では断定できません。ですので、生態系シミュレーションを更新し、他の大陸や海洋圏への波及の見極めを行います」
ブライアントが頷く。
「それがいい。デルタ大陸だけ見てると、何もかも異常に見えるからな。他を見れば、どこまでが局所の問題で、どこまでが扶桑全体の傾向か分かりやすくなる」
「生態系シミュレーション、そんなに大事なんだ……」
若葉が、小さくそう言った。
青葉は、若葉の方を見て、少しだけやわらかく言う。
「はい。いまの扶桑は、まだ“生きた世界の最初の平衡”を作っている途中です。どこか一箇所の異常が、他へどう響くかを、先に見ておく必要があります」
僕は、その言葉を聞きながら、デルタ大陸の赤茶けた地表と、アルファ大陸側の緑の森を頭の中で並べた。
もし、あの乾いた大陸の異常が、河や風や生物圏を通じて少しずつ広がっていくなら。
あるいは、その逆に、アルファ大陸側の“健全な循環”が、長い時間をかけてデルタ大陸へ染み込んでいく可能性もあるのかもしれない。
だからこそ、いまは決めつけず、見極めるしかない。
「それと……」
ブライアントが、今度は少し前のめりになった。
「今後、探鉱も必要だ」
ギラが、すぐに反応した。
『やっぱり、そこは重要やな』
「まあ、俺が山師だからというだけでなく、今後のためだ」
ブライアントは、珍しく自分でそう言った。
「デルタ大陸の地下に、シャドーマター・クリスタルや他のエキゾチック物質鉱脈がある可能性は高い。危険だからといって、ずっと放置していい話でもない。扶桑の資源基盤に関わるからな」
青葉は、頷いた。
「そうですね。資源確保の観点から、今後、探鉱は必要です。ただし、デルタ大陸だけを特別扱いするのではなく、他の大陸および沿岸浅海域もあわせて再調査し、比較した上で優先順位を決めるべきでしょう」
「でも、まだ掘れないよね?」
「掘らない」
ブライアントは、そこも即答した。
「だが、探る準備はするべきだ。他の大陸と合わせて、再調査をかける。アルファ大陸側、他の中小大陸、沿岸浅海域、全部含めてな。比較対象が増えれば、デルタ大陸の異常も、ただの局所条件なのか、惑星全体の偏りなのか、見えやすくなる」
その整理は、かなり納得できた。
デルタ大陸だけ見ていると、すべてが特別に見えてくる。
でも、他の大陸もあわせて見れば、どこまでが扶桑全体の一般傾向で、どこからがデルタ大陸固有の異常かが分かってくる。
青葉が、最終的なまとめを静かに述べた。
「では、結論を整理します」
卓上に、箇条書きのように方針が浮かぶ。
「一、デルタ大陸中央部を要観察区域とする。
二、ドローンによる監視とサンプル採取を密にする。
三、生態系シミュレーションを更新し、他地域への波及可能性を見極める。
四、今後の資源確保に備え、他の大陸とあわせて再調査、探鉱計画を立てる。」
卓上に、監視圏、サンプル採取頻度、シミュレーション更新項目が整理されていく。
これらが、今の僕たちにとっての答えだった。
すぐに解決しないけど、放置もしない。
ちゃんと見て、測って、次に備えるのだ。
「うん」
僕は、ゆっくり頷いた。
「それで行こう」
そう言った瞬間、会議卓の空気が、ほんの少しだけ落ち着いた気がした。
結論が出たからだろう。
完璧な安心ではない。
でも、“どう扱うべきか分からないまま恐れる状態”からは、一歩だけ前へ進めた。
ジェプラが、小さく息を吐いてから言った。
「怖い話ではありましたが……方針が定まっただけでも、少し安心しました」
「うん」
僕は、素直に頷いた。




