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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第VI部 拠点開発編

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第九十二章 反対側の大陸へ~全て完璧な惑星再生じゃなかった?

 次の日の朝食後に、ブライアントは、軌道から回収したドローン群の探査データを、本部棟の解析卓へ並べていた。

 彼の顔が少し険しい時は、大抵、何か厄介なものを見つけた時だ。

 僕は、ラウンジへ入る前に、それを見てすぐに分かった。

「何かあったの?」

「ある」

 ブライアントは短く答え、扶桑の全球投影を出した。

 僕たちの拠点があるのとは反対側、広大な大陸が、ひとつ、重く横たわっている。

「この大陸の水系が微妙だ」

 彼の指が、その大陸の縁をなぞる。

「沿岸はともかく、内陸へ十分に水が入り込んでいない。地形の問題もある。海からの流入経路が少なく、河川網が自然に伸びるには時間がかかりすぎるかもしれん」

「つまり?」

「半永久的に砂漠のままの可能性がある」

 その言葉に、僕は思わず投影を見つめた。

 いままで、再生した星の美しさばかり見ていた。

 でも、当然ながら、全部が同じように蘇るわけではないのかもしれない。

 青葉が、その大陸の地形層を呼び出す。

「遺跡は、この惑星の可能性を元に惑星再生を行ったので、元々、その大陸は、不毛の地になる蓋然性が高かったのかもしれません」

「可能性を元に、か」

 僕がそう繰り返すと、青葉は頷く。

「完全なゼロからの創造ではなく、この惑星が取りうる“あり得たはずの状態”へ押し戻しています。ですから、地形的、気候的に水が入りにくい大陸が、そのまま不毛の地として残ることはあり得ます」

 ブライアントは、腕を組んだ。

「なら、運河を掘る必要があるかもしれんな」

 さらりと言うけれど、運河って、そんな簡単な話ではない。

 僕が少し引き気味に見ていると、青葉が、ごく自然な声で続けた。

「大規模な魔法を使ってプレートを割るか、地下構造を変更することも可能です」

「いや、待って……」

 僕は、さすがにそこで手を上げた。

「天変地異とかにならない? 地下の遺跡部分は大丈夫?」

 青葉は、ほんの少しだけ視線を落とした。

「十分、配慮する必要があります」

 その言い方は、遠回しだけど、かなり危ないかもしれないという意味でもある。

「そうだよね……」

 僕は、少しだけ背筋が寒くなった。

 この星を住めるようにしたい。

 でも、そのために無理にいじって、地下の遺跡を壊したり、惑星全体のバランスを崩したりしら本末転倒だ。

 ブライアントも、それは分かっているらしい。

「すぐにやる話ではない。だが、見なかったことにはできん」

「たしかに。見に行く必要があるかな?」

 海も、森も、河も、いまの僕たちの周辺にはある。

 だからこそ、その大陸の“欠け方”が逆に目立った。

 そして、その欠け方が、ただの自然条件ならともかく、惑星再生の“結果”として残っているのだとしたら――そこには、まだ何か、僕たちが見ていない問題があるのかもしれない。

「そうだな。直接行って、調べるべきだろう」

「うん」

「肯定します」

 青葉も頷いた。

 たぶん、次にやることは決まった。

 反対側の大陸を見る。

 扶桑の、もうひとつの顔を見る。

 そうしなければ、この星を本当に知ったことにはならない。

 僕は、少しだけ息を吸った。

 遠征だ――そう思った。


***


 遠征のための会議は、本部棟の中央会議卓で行われた。

 卓上に投影された扶桑の全球図が、ゆっくり回転している。沿岸部の緑と海の濃い青は見慣れてきたけれど、反対側の大陸だけは、やはり色が乏しい。茶褐色と薄い灰色が広く占め、水色の筋がほとんど入り込んでいない。

 ブライアントが、その大陸の中央部を指した。

「行くなら、まずは、真ん中だな」

「真ん中?」

 僕が聞き返すと、彼は頷いた。

「沿岸を見ても、結局、沿岸が乾いてるかどうかしか分からん。問題は、内陸へ向かう水の導線が本当に死んでるのか、それとも何か別の要因で止められているのかだ。だったら、大陸中央部へ一気に入って、地質、水脈、植生、微細情報媒体素子の残存密度をまとめて見るのが早い」

「妥当です」

 青葉が、すぐに補足する。

「中央部のデータが得られれば、その結果を踏まえて、扶桑全体の生態系シミュレーションを更新できます。現時点では、海岸側からの推定値と、軌道上ドローンの遠隔観測で補っているに過ぎません」

「シミュレーションって、そこまで必要なの?」

 僕が言うと、青葉は少しだけ視線を僕へ寄せた。

「必要です。いまの扶桑は、想定よりかなり早く生態系が立ち上がっています。だからこそ、局所的不具合がある場合、その影響が全体へどう伝播するかを予測しておくべきです」

「局所的不具合……」

 僕は、その言い方を繰り返した。

 不具合――ただ“そこだけ砂漠っぽい”というより、もっと工学的な言い方だ。

 でも、ここは、そういう星なのだろう。

 ただの自然の大地ではなく、惑星再生という極めて高度な処理の結果として今の姿がある。

 もし反対側の大陸が不毛の地になっているのが、単なる自然地形の帰結ではなく、その処理のどこかに起きた偏りや欠落の表れなら――なにか、危険があるかもしれない。

 僕は、少しだけ背中が冷える感じがした。

「えーと。それって……惑星再生に何か不具合があった可能性もあるってこと?」

 青葉は、すぐには肯定もしなかったし、否定もしなかった。

「可能性はあります」

 その言い方が、かえって重かった。

「もちろん、最初からその大陸が不毛化しやすい地質、気候条件を持っていた可能性も高いです。しかし、もし再生プロセス側に偏りがあった場合、単に砂漠が広がるだけでは済まないかもしれません」

「済まない、って?」

「地下構造の不安定化、局所的な因果変換残渣、媒体素子の過不足、遺跡機構への想定外の負荷。いずれも現時点では仮説です。ただ、“ただ乾いているだけ”と決めつけない方が安全です」

 ブライアントが、腕を組んだまま低く言った。

「だから現地へ行って確かめる。机の上だけで考えても仕方ない」

 それは、その通りだった。

 ギラが、翼の先で投影の外縁をなぞる。

『ほな、誰が行く? 前回みたいに、全員でぞろぞろ行く必要はないやろ?』

「必要ない」

 ブライアントが即座に切った。

「今回は長距離移動だ。しかも地形の確認と地質調査が優先になる。身軽で、役割がはっきりした編成の方がいい」

 僕は、卓を囲んだみんなの顔を見た。

 若葉は、少し不安そうに地図を見つめている。自分の星の反対側に、そんな不毛の地があると知ったばかりなのだ。

 ジェプラは、僕が何を言うか待っている顔をしている。

 ギラは面白がっているようで、実際にはかなり真剣に段取りを考えている気配がある。

 太郎は、もう遠征前提で安全導線を頭の中に引いている顔だ。

「僕は、行く」

 まず、そう言った。

 これは、たぶん当然だ。

 この星の管理判断に関わる以上、見ておかなきゃいけない。

「俺も行く」

 ブライアントが続ける。

「地形と機械、両方の目がいる。遠征の現場仕切りもやる」

「私も同行します」

 青葉が言う。

「環境解析、媒体密度計測、遺跡由来異常の検知、いずれも現地で判断した方が速い」

『整備と安全確認のため、同行』

 太郎も短く言う。

 ここまでは、ほとんど決まりきった流れだった。

 問題はその先だ。

「わたしも行きます」

 ジェプラが、やはりというべきか、きっぱり言った。

『わいも』

 ギラも軽く手を挙げる。

 僕は、少しだけ迷った。

 危険があるかもしれない。

 でも、いつまでも“残る組と行く組”を固定するのも違う気がする。

 その前に、ブライアントが口を開いた。

「ジェプラは残った方がいい」

 ジェプラがすぐに反応する。

「なぜですか?」

「拠点側の運用を誰かが見ないといけない。いまの本部棟、居住棟、港の生活導線は、ほとんど、お前が組んでいるだろ? 俺と青葉と弓良と太郎が抜けるなら、残る側でその軸を保てる人間が必要だ」

 その言い方は、かなりストレートだった。

 ジェプラの役割を、ちゃんと必要なものとして認めたうえでの線引きだ。

 ギラが、ちょっと意外そうにブライアントを見る。

『お、ちゃんと評価しとるやん』

「当然だ。使える奴を使える場所へ置くだけだ」

 褒めているようで褒めていない、でもたしかに信頼はしている。

 ブライアントらしい言い方だった。

 ジェプラは少し唇を引き結んでいたけれど、やがて静かに息を吐いた。

「……分かりました。拠点を守ります」

 その返答には、少し悔しさもあった。

 けれど、それ以上に、共同体全体を見て引き受ける覚悟もあった。

『なら、わいが行くか?』

 ギラが翼をたたんで言う。

『現地で地形見ながら、“将来的にここをどう使えるか”考えるんは得意やし』

 ブライアントが少し考えてから頷いた。

「お前は連れて行ってもいい。変な勘が働く時もあるしな」

『変な勘いうなや』

 でも、ギラは機嫌を悪くしていない。

 むしろ、役割をもらったのが嬉しそうだった。

 若葉は、そこで小さく手を挙げた。

「わたしは?」

 その声に、僕は少し言葉を選んだ。

「若葉は……今回は、残ってほしい」

 若葉の目が少しだけ曇る。

「じゃま?」

「違うよ」

 僕は、すぐに言った。

「若葉にしか分からないこと、拠点側でもたぶんいっぱいある。青葉がいない時に、遺跡側の変化とか、何か気づけるなら助かるし」

 それは、半分は本当で、半分は配慮だった。

 でも、完全な言い訳でもない。

 若葉は、しばらく考えてから、小さく頷いた。

「……みてる」

「それで十分です」

 青葉が静かに言った。


***


 会議の次は、残留組の仕事の整理だった。

 遠征に出る側ばかりに目が行きがちだけれど、実際に拠点を回すのは残る側だ。むしろ、今の扶桑ではそちらの方が重要なくらいかもしれない。

 ジェプラは、その役目を受け入れた以上、もう切り替えていた。

「港の荷役は、午前と午後で分けます。資材生成の許可は、青葉さんの事前設定に従って、軽微なものだけに限定します。居住区画の灯りと温度管理は、若葉さんと一緒に確認します」

「若葉も?」

 僕が聞くと、ジェプラは頷いた。

「ええ。遺跡側の感覚で分かることがあるなら、それを日常運用へ活かしたいですし、若葉さん自身にも、“自分の居場所を守る側”の感覚を持っていただいた方がいいと思います」

 若葉は、意味を全部理解しているわけではないだろう。

 でも、真面目な顔でこくりと頷いていた。

 ギラは、残留組向けではない未来図を相変わらず出していた。

『わいが戻るまでに、広場の仮設区画だけでも地割りしといてや。あと、倉庫群の裏側、将来的に宿泊区か市場棟の候補になるから、変なもん置かんように』

「本当に市場が好きですね」

 ジェプラが半ば呆れたように言う。

『好きやなくて必要なんや。交易せんと、経済力と防衛力は育たへん』

 それは、先日の会議でも出た話だ。

 軽く流せない現実味が、すでにある。

 太郎は、残留組の方を向いて簡潔に言った。

『ドローン管理権限の一部をジェプラへ移管。ハチョキは軽作業と巡回補助』

『ぶう』

 ハチョキが、まるで自分が正式任命されたのを理解しているみたいに胸を張った。

 いや、胸があるのかは怪しいけれど、雰囲気だけは完全にそうだった。

「頼りにしてますよ、ハチョキ」

 ジェプラがそう言うと、ハチョキはますます得意げに鳴いた。

 こういう小さなやりとりがあると、拠点がちゃんと生きている感じがする。


***


 遠征準備は、その日のうちに始まった。

 デルタ大陸――と、ブライアントが仮に呼び始めたその反対側の大陸は、沿岸拠点からあまりにも遠い。

 惑星改造が済んだ現在の扶桑は、陸地の半分と少しを覆う海により、いくつかの陸地に分けられている。

 高低差が少なく、大きなクレーターに海水が溜まっている箇所があるかと思えば、その周囲に細長い海峡のようなものが伸びて、他の海水に通じているところもある。それにより、海の水は大体、惑星を循環しているようだ。

 ブライアントは、その海の水で分けられた陸の塊を、僕らの拠点から近い順に、便宜上アルファ大陸、ベータ大陸、ガンマ大陸……と呼んでいた。つまり、基地があるのはアルファ大陸になる。

 デルタ大陸は、ちょうど、このアルファ大陸の反対側にある大きな陸塊だ。

 ゼカタのようなシャトルや、ジェッチjrのような探査VSTOLでも、行けなくはないだろう。しかし、航続距離と速度、それに万一のトラブルを考えると、あまりにも余裕がない。

「弾道飛行が一番早い」

 ブライアントはそう言って、軌道上へいるザラスターIIを呼び寄せる提案をした。

「軌道から一気に落として、必要な位置へ降ろす。大気圏再突入はこの手の船の方が慣れてるし、居住性もある」

「賛成です」

 青葉がすぐに同意する。

「ザラスターIIであれば、現地調査用ドローン、地質解析ユニット、仮設拠点資材も十分搭載できます」

『おお、久々に、自前の船で遠征するんか』

 ギラが楽しそうに言う。

『ブライアント、ちょっと張り切るやろ』

「別に、普通だ」

 けれど、大きく否定しないあたり、本当に少し張り切っているのかもしれない。


 やがて、午後の空へ、通信ビーコンが上がった。

 しばらくして、高軌道側で小さな光点がひとつ動いた。

 やがて、それは明確な降下軌道へ乗る。

 雲を切り、夕日の中を、白く細長い艦影が降りてくる。

 ザラスターIIだった。

 ブライアントが言うには、以前のザラスターよりも洗練された外形だそうだ。

 同じ探査船のせいか、アーマッド逹のシラトリIIにも似ている気がするけど、もうすこしブライアントらしい実務的な雰囲気があるような気がする。

 その船が大気圏へ再突入し、高台から少し離れた仮設着陸場へ降りてくる様子は、やっぱり見応えがあった。

 ソニックブームは、抑えられているそうだけど、結構な轟音がした。

 でも、制御は滑らかだった。

 着地脚が地面へ触れ、機体が重さを分散しながら静かに沈み込んだ。

 僕は、その光景を見ながら、少しだけ胸が高鳴っていた。

 遠征が、本当に始まる。

 ただの計画じゃなく、現実の移動として、もうそこまで来ている。


***


 その日の夕方、アラージから通信が入った。

 神殿監察部の公的執務室らしい背景だった。

 彼女は、いつも通り端正な姿勢だったけど、どこか少しだけ疲れているようにも見えた。

『皆様、扶桑での整備は順調そうですね』

「まあ、なんとか」

 僕が答えると、アラージは柔らかく頷いた。

『その“なんとか”が、既に辺境開拓としてはかなり優秀な進捗ですが』

 ブライアントが、すぐに本題へ入る。

「GDCとの調整は?」

 アラージは、ほんの少しだけ間を置いた。

『進んではいます。ただ、やや微妙です』

「微妙?」

『ええ。扶桑そのものへの異議ではありません。ですが、地球側で、旧時代保存技術や復活者関連の案件に急な注目が集まっており、その影響で、いくつかの共有ルートや承認順序にノイズが入っています』

 その“ノイズ”という言い方が、ひどく気になった。

 前にも“少し滞っている”とか、似たような話が出た。

 でも、アラージは、詳しく説明する気がないようだった。

『現時点で、扶桑の情報が大きく外へ漏れているわけではありません。ただ、皆様の活動を急いで公にする状況でもない、ということです』

「つまり、まだひっそりやれってことか」

 ブライアントが言う。

『当面は、その方が安全です』

 アラージはそう言い、それから僕を見た。

『もっとも、隠し続けるのが最善とも限りません。扶桑が本当に安定し、開拓地としての形を持ち始めれば、いずれは位置づけを決めなければなりません。その時までに、皆様自身の方針が定まっていると助かります』

 その言葉に、僕は少しだけ背筋を正した。

 扶桑をどうするか。

 いずれ決めなければならない。

 でも今は、まだ、その前に見るべきものがある。

「まずは、反対側の大陸を見てくるよ」

『反対側の大陸?』

「はい、実は、水系について……」

 遠征することになった経緯を、青葉が簡単に説明した。

『なるほど。惑星の全体的な調査が必要なのですね』

「そうなんだ」

 僕がそう言うと、アラージは頷いた。

『それがよいでしょう。神殿監察部としても、詳細な実地情報が欲しいところです』


***


 出発前夜、拠点は妙に静かだった。

 作業灯はついている。

 港の方では、まだ遅くまで補給作業が続いている。

 でも、遠征を前にした夜特有の、少し張りつめた静けさがあった。

 僕は、本部棟の外へ出て、高台の端に立っていた。海の方を見ると、『青葉』とザラスターIIの灯が、少し離れて並んでいる。

 風は穏やかで、空には雲が薄い。明日の天候は悪くなさそうだ。

「ここにいたんですね」

 後ろから、ジェプラの声がした。

 振り向くと、彼女はいつもの巫女装束ではなく、少し軽めの夜着の上に外套を羽織っていた。耳が夜風に揺れている。

「うん。なんか、落ち着かなくて」

「遠征の前ですから」

 ジェプラは、僕の隣へ並んだ。

 しばらく、二人で黙って海を見ていた。

 こうして並んでいると、扶桑の夜は、思った以上に静かだ。

 地球みたいな都市の騒音もないし、オッコクみたいに人の気配が近くに満ちているわけでもない。海と風と、たまに遠くの機械音だけ。

「本当は、ついて行きたかったです」

 ジェプラが、ぽつりと言った。

「分かってる」

「でも、残るのが必要だとも分かっています」

 その声は、拗ねたものではなかった。

 ちゃんと理解して、受け入れた上で、それでも少しだけ本音がにじんでいる声だった。

「ありがとう」

 僕がそう言うと、ジェプラは少しだけ笑った。

「お礼を言われることではありません。わたしは、そうしたかっただけです」

 それから、彼女は海ではなく、本部棟と港と、その先の暗い内陸の方を見た。

「わたしは、ずっとこの星を、弓良殿と一緒に守っていきたいです」

 その言葉は、夜風の中で、ひどくまっすぐに響いた。

 軽い告白とか、勢いのある台詞とか、そういうものではなかった。

 もっと静かで、もっと深いところから出てきた決意みたいな言葉だった。

 僕は、すぐには返事ができなかった。

 嬉しかった。

 すごく、嬉しかった。

 でも、それ以上に、その言葉の重みが胸に落ちてきたからだ。

 この星を守る――一緒に。

 それは、たぶん、恋愛だけの話ではない。

 生活も、共同体も、危険も、未来も、全部ひっくるめた話だ。

「うん……」

 僕は、ゆっくり答えた。

「……僕も、そうしたい」

 それが、今の僕に言える一番正直な答えだった。

 ジェプラは、少しだけ目を細めて笑った。

 それから、僕の腕に、そっと自分の手を添える。

 抱きつくでもなく、派手なことをするでもなく、ただ“ここにいる”と確かめるみたいな触れ方だった。

 僕は、その手を振り払わなかった。

 むしろ、その温度が、少しだけ落ち着いた。

 明日は、砂漠へ行く。

 もしかしたら、ただ乾いた大地を見るだけでは済まないかもしれない。

 でも、帰る場所があって、待つ人がいるのだと思うと、不思議と怖さが少し和らぐ。

 夜の扶桑は静かだった。

 でも、その静けさの下で、明日の遠征へ向けた準備は確実に進んでいる。

 僕は、高台の向こうの暗い地平線を見た。

 その先に、デルタ大陸がある。

 まだ見ぬ、扶桑のもう一つの顔がある。

 明日、そこへ行く。

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