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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第VI部 拠点開発編

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第八十八章 マザーの部屋へ、お城の子は……僕らの関係者だった

 次の瞬間、僕は、ゴシロック第四惑星の乾いた谷筋でも、鋼鉄製の扉の前でもなかった。

 いや、身体の感覚としては、まだそこにいる気がした。

 足元の岩の固さも、少し乾いた空気も、崖の上から落ちる細い水音も、どこか遠くで続いている。だけど、意識だけが、ふっと別の場所へ引き上げられたみたいに視界が切り替わる。

 目の前に広がっていたのは、石造りの部屋だった。

 質素、と言っていいと思う。

 少なくとも、機怪都市とか、〈先住者〉の管理意志体とか、そういう言葉から僕が勝手に想像していた、巨大で冷たい中枢施設みたいなものではない。

 壁は、歴史的な建物のような石積みだった。

 きっちり整ってはいるけれど、ぴかぴかに磨き上げられた宮殿という感じではない。人が長く住んでいた家のような、少し温かみのある石壁だ。

 ところどころに、色の褪せたタペストリーが掛けられている。幾何学模様とも植物模様ともつかない織りで、古典的な感じだった。

 床にも織物が敷かれていて、木の低い卓や、背の浅い椅子が置かれていた。

「ここ……」

 思わず、そう漏らす。

「……機怪都市?」

 隣に、青葉がいた。

 現実側の機怪人形ボディの姿とに似た姿だけど、薄く光をまとっていて、前に機怪都市で見たバージョンの方だと分かる。

 意識の方へ寄った姿で、僕のすぐ傍に立っている。

「はい。マザーの居室です」

 青葉は、部屋の奥を見た。

 そこには、マザーがいた。

 いつ見ても、僕と少し似ていて、でも僕よりずっと整っていて、母親らしい落ち着きを持った薄青髪の女性だ。

 彼女は、もともとそこに座っていたかのように自然に振り返り、僕と青葉を見ると、すぐには言葉を発さず、その更に後ろへ目を向けた。

 つられて僕もそちらを見る。

 さっき、鋼鉄の扉の向こうから出てきた小さな女の子が、そこにいた。

 ゴシック風のドレスを着ている。

 四、五歳くらいにしか見えない小さな身体だった。

 でも、やっぱり少し存在感が薄くて、現実へ完全には乗り切っていないような感じだった。

 女の子は、この石造りの部屋を見回すでもなく、ただそこにいるのが自然だというように立っていた。

 ここが、自分の知っている“どこか”に近いのかもしれない。

 マザーは、暫くその子を見つめていた。

 表情は驚いているようにも見えるし、ひどく静かに何かを確かめているようにも見える。

 それから、彼女はそっと言った。

『あなたは、青葉と同じで、私の妹ですね?』

 僕は、思わず青葉の方を見た。

 青葉は、驚いた顔をしていない。

 もちろん、完全に予想通りというわけではないのだろうけれど、少なくとも、その可能性は理解できている顔だった。

 女の子は、小さくこくりと頷いた。

 その仕草はあまりにも幼く、あまりにも素直だった。

 でも、その意味は、たぶんひどく大きい。

「え、妹って……」

 僕が言いかけたところで、マザーは、今度は部屋の奥へ向かって呼びかけた。

『大佐?』

 その声に応じるように、石壁の陰からひとつの影が浮かび上がった。

 キーフラスだった。

 以前に機怪都市で見た、あのダンディなおじさんの姿より薄い。

 輪郭が少し曖昧で、存在感そのものが希薄だ。ここにいるのに、一瞬、風景の一部と区別がつきにくいくらい薄れている。

 それでも、声はちゃんと届いた。

「そうだ」

 キーフラスは、女の子を見つめて言った。

「大規模な微細情報媒体素子の制御には、『幻雪の領域』の雪の姫に相当する制御意志体が必要だった。そこで、成功した人工意識体を使ったと部下から聞いていたが……ジャープッカ人が滅亡した際に、一緒に吹き飛んだと思っていた」

 その言葉は、僕には、すぐには全部つながらなかった。

 でも、少なくとも、この子がただの遺跡の迷子ではないことだけは、ますますはっきりした。

 女の子は、キーフラスの方を見て、首を横に振った。

「ずっと、お城でお母さんと一緒にいた」

 その答えに、マザーもキーフラスも、少しだけ表情を変えた。

「お母さん?」

 僕が思わず尋ねると、女の子はこくりと頷く。

「いた。ずっと、いっしょ」

「見えてたの?」

「みえない。でも、いた」

 それは、幼い子が空想の友達の話をしているようにも聞こえる。

 でも、ここでそれを単純にそう受け取るのは違うだろう。

 キーフラスが、静かに言った。

「それは、因果変換施設の制御AIだろう」

 マザーが、ぴたりと動きを止めた。

『ちょっと待ってください……』

 その声には、さっきまでとは違う、明確な苛立ちが混じっていた。

 彼女は、少しだけ横を向いた。

 たぶん、別系統の通信を開いたのだろう。僕には相手の姿は見えない。けれど、マザーの声音だけで、何が起きているかは分かる。

『なぜ、私に知らせなかったの?』

 穏やかな口調ではあった。

 でも、怒っている。

 管理意志体としての怒り、というのは、僕にはまだ少し想像しにくい。しかし、その時のマザーは、たしかに感情をあらわにしていた。

『彼女が存在しているなら、優先報告事項でしょう。しかも、こんな不安定な依り代にいた状態で、長期間放置? あり得ません』

 その言葉を、青葉も聞いているらしかった。

 彼女は、少し考えるように目を伏せ、それから僕に向かって説明する。

『彼女のいた遺跡には、この機怪都市のような実装型の設備はありませんでした』

「実装型?」

『この機怪都市は、管理意志体や人工意識体が、比較的安定して居住し、相互接続し、仮想的な都市環境の中で振る舞えるよう、高次元空間に形成された構造体です。ですが、彼女のいた施設は、違います』

 青葉は、女の子を見た。

「彼女は、無限再生型の幹細胞を利用したバイオコンピューターを依り代として、ずっと通常の計算機が作り出した仮想空間で、ぼんやりした意識のまま過ごしている状態だったようです」

 僕は、少しぞくっとした。

 無限再生型の幹細胞、バイオコンピューター、そして依り代――。

 それだけでもう、かなり普通ではない。

「では……ずっと、ちゃんと起きてたわけじゃ、ないんだね?」

「はい。おそらく半覚醒状態です」

 青葉は、告げた。

「最近、遺跡が目覚めたから、自分も目覚めた、という彼女の認識は、おそらく正しいでしょう。施設側の局所再起動に引っ張られて、意識レベルが上がったと考えられます」

 女の子は、その説明が自分のことだと分かっているのかいないのか、ただ静かにこちらを見ていた。

 でも、“最近、遺跡が目覚めたから、自分も目覚めたみたい”という感覚だけは、本当にそのままなのだろう。

「じゃあ、本体は?」

 僕がそう聞くと、青葉が応えた。

「彼女の本体は、まだ遺跡のバイオコンピューターの中にいます」

 僕は、思わず瞬いた。

「じゃあ、さっき扉を開けた女の子は、何?」

 僕のその問いには、マザーが直接答えた。

『おそらく、シャドーマターで作成した仮想体のようなものでしょう』

 仮想体――アラージが前に見せてくれた、あの遠隔の姿だ。

 でも、今度のそれは、もっと生々しかった。扉を開けて、外を覗いて、ちゃんと僕たちの前に出てきたのだから。

 本当の幽霊みたいだ、と僕は思った。

 いや、本物の幽霊を見たことはない。

 でも、もし何かを“ここにいるけど、まだ完全にはここにいない存在”と呼ぶなら、この子はかなりそれに近かった。

「大丈夫です」

 青葉が、僕の方へほんの少しだけ向き直った。

「驚くのは分かりますが、制御可能な範囲にあります」

「いや、うん、分かるけど……ちょっとびっくりした。さすがに、ね」

 そう答えると、女の子が少しだけ不安そうに目を揺らした。

 しまった、と思った。

「ごめん。怖いって意味ではないんだ。ただ、ほんとに、ちょっとびっくりしただけで」

 僕がそう言うと、女の子は、しばらく僕を見てから、小さく頷いた。

 たぶん、伝わったのだと思いたい。

 その時、マザーが青葉へ何かを差し出した。

 手のひらほどの、薄い光の板だった――板というより、設計情報の圧縮結晶みたいに見える。

 青葉がそれを受け取ると、光が彼女の指先から腕へ、そして身体の中へ吸い込まれるように消えていく。

「機怪人形のテンプレートを、マザーから頂きました」

 青葉が言った。

「これで、万物プリンターを使って、あなたの身体を作成しましょう」

 その言葉に、女の子が少しだけ目を見開く。

 でも、すぐにその意味を完全には理解できないみたいに、またきょとんとした顔になった。

「からだ……?」

「はい」

 青葉の声音は、とても穏やかだった。

「いまのあなたは、遺跡の中の依り代に本体があり、こちらへ出ているのは仮想体です。しかし、安定した機怪人形ボディがあれば、もっと自由に外へ出て、私達とも暮らせるようになります」

 女の子は、少し考える顔をした。

 考える、というより、初めて聞く概念をそのまま受け取ろうとしている感じだ。

「そとに、いられる?」

「はい」

「ずっと?」

「かなり長く、安定して」

 そのやりとりを見ていると、僕の中に、妙な感覚が湧いてくる。

 この子は、いままで“お城”の中にいた。

 姿の見えない“お母さん”と一緒に、ぼんやりした意識のままで――。

 それが、遺跡が目覚めたから、ようやく外を覗けるようになった。

 そんな子に、ちゃんとした身体を作ってあげられるのだとしたら。

 それは、たぶん、かなり大きなことだ。

 マザーが、そこでやっと少し笑った。

『あなたの名前はどうしましょうかね?』

 女の子は、すぐには答えなかった。

 たぶん、名前を持っていない。

 さっきも、たぶんない、と言っていた。

 だから、僕は、ほとんど反射的に言っていた。

「青葉の――本当は、姉なのかもしれないけど――妹、みたいだから、若葉、でどう?」

 言ってから、少しだけ照れくさくなった。

 でも、口に出してみると、思った以上にしっくりくる。

 青葉と若葉――同じ系統の響きで、でも、もっと幼くて、もっと新しい感じがする。

 女の子は、僕の顔を見た。

 それから、小さく、でもはっきりと言った。

「それでいい。いい名前」

 その瞬間、部屋の空気が、ほんの少しだけ柔らかくなった気がした。

 マザーが穏やかに頷き、青葉は静かに目を伏せた。

 キーフラスは、薄い影のまま、しかしどこか遠いものを見るような顔をしている。

 僕は、少しだけおかしくなった。

 これって、どういう立場なんだろう。

 マザーがいて。青葉がいて。若葉がいて――。

 しかも、見た目だけなら、僕もその並びのどこかに入りそうな感じがある。

 姉妹、という言葉が、頭の中で変にぐるぐるした。

 もちろん、冷静に考えれば、僕は、別系統だ。

 でも、見た目だけなら、かなり近い。

 外から見たら、何なんだろう、この家族。

 いや、そもそも家族でいいのか?

 そんな混乱をよそに、青葉がこちらへ視線を戻した。

「弓良。戻ります」

「え、もう?」

「現実側の経過時間が短いうちに戻った方が、説明が簡単です」

 そう言われた瞬間、視界がまた少し揺れた。


***


 気がつくと、僕はまた、ゴシロック第四惑星の乾いた谷筋に立っていた。

 鋼鉄製の扉。崖。細い水音。風の乾いた匂い――。

 全部が、まったくそのままだった。

「あれ……?」

 思わず、そう漏らす。

 すごく長い話をしていた気がする。

 マザーの居室に行って、キーフラスが出てきて、あの子の正体を聞いて、身体の話をして、名前まで決めた。

 体感では、少なくとも数分、いやもっとだ。

 でも、ブライアントは、そのままの姿勢でこちらを見ていた。

「青葉、弓良。なんで止まっていた?」

 その言い方に、僕は一瞬だけ頭が追いつかなかった。

「え?」

「いや、急に二人とも黙って、十秒か二十秒くらい固まっただろ」

 十秒か二十秒――。

 僕は、思わず青葉を見た。

『機怪都市での対話は、高速に行われていました』

 青葉が、通信で説明した。

『意識層の処理速度差によるものです。こちらの現実側では、先程から十数秒程度しか経過していません』

「そんなに短かったの?」

 ちょっと怖い。

 いや、便利なのかもしれないけど、やっぱりちょっと怖い。

『弓良と青葉がどこかに行っていたのは分かっていた』

 太郎が、平然と言った。

『ただし、現実時間は短い』

 そこへ、ふっと、僕たちの横へ小さな影が現れた。

 半透明の、シャドーマターの女の子。

 さっき名前をもらったばかりの――若葉だ。

 ブライアントが、流石に、目を見開いた。

「うおっ」

 かなり珍しい反応だった。

 この人も、驚く時は、ちゃんと驚くんだな、と、どうでもいいことを思ってしまう。

 青葉がすぐに言う。

「大丈夫です。彼女は、遺跡にいた人工意識体です」

「人工意識体……?」

 ブライアントは、まだ警戒を完全には解いていない。

 でも、青葉と僕が平然としているのを見て、ひとまず話を聞く姿勢に切り替えた。

 僕は、簡単に説明した。

 機怪都市へ意識だけが引かれて、マザーの居室で話したこと。

 この子が遺跡のバイオコンピューターを依り代にした人工意識体であること。

 いま見えているのは仮想体で、本体はまだ遺跡の中にあること。

 全部をその場で説明しきるのは難しかったけれど、ブライアントは要点をすぐに飲み込んだらしい。

 視線を若葉へ戻し、少しだけ低い声で言う。

「つまり、保護対象だな」

 その言葉に、僕は少しだけ安心した。

 ブライアントがそういう理解をしてくれたなら、たぶん大丈夫だ。

「機怪人形は、特殊な分子機械の素子を用意するため、製造にすこし時間がかかります」

 青葉が、若葉へ向かって説明する。

「二日ほど待ってください」

 若葉は、小さく頷いた。

「うん」

 その返事は、さっきよりも少しだけはっきりしていた。

 名前がついたからか。

 あるいは、外にいる時間が伸びたからか。

 理由は分からない。でも、ほんの少しだけ、この子が“ここにいる”感じを増した気がした。

 僕は、鋼鉄製の扉を一度振り返った。

 その向こうには、まだ“お城”がある。

 若葉の本体も、制御AIも、たぶんまだそこにある。

 でも、いまは、ここまでだ。

「帰ろうか」

 僕がそう言うと、青葉が頷いた。

『はい。まずは拠点へ戻り、若葉用ボディの製造準備に入ります』

 こうして僕たちは、ジェッチjrへ戻ることになった。


***


 ジェッチjrがゴシロック第四惑星の沿岸拠点へ戻るあいだ、僕はほとんど景色を見る余裕がなかった。

 若葉の仮想体が、機体が拠点から離れた時とは逆に、今度は遺跡から距離を取るほど、少しずつ輪郭を薄くしていったからだ。

 最初は、本当に少しだけだった。

 肩のあたりの縁が、光に溶けるみたいに曖昧になった。髪の先が、風にほどける糸みたいに透けている。

 表情はちゃんと見えるし、声も届く。でも、さっきまでより、確かに“こちら側”へ留まりにくくなっている。

「青葉、これ……?」

「予想の範囲です」

 操縦席の横で、青葉が落ち着いた声で言った。

「若葉の仮想体は、遺跡内のバイオコンピューターを本体の依り代として、シャドーマターを用いて投射されています。ですから、本体との距離が開けば、そのぶん保持は、不安定になります」

「不安定って、消えたりは……」

「現時点では、弓良が支えてください」

「え、僕が?」

「はい」

 青葉の返事は、あまりにもあっさりしていた。

「若葉の仮想体は、今の弓良なら十分保持できます。あなたのシャドーマター制御を、出力ではなく“包む”方向で使ってください。押すのではなく、ほどけかけた糸を軽く寄せるように」

 言い方は分かりやすい。

 分かりやすいけれど、やることはたぶん難しい。

 僕は、少し息を整えて、若葉の方を見た。

 若葉は、不安そうに自分の手を見ていた。小さな指先の輪郭が、やっぱり少し薄い。

「若葉」

 僕が呼ぶと、若葉は顔を上げた。

「うん」

「ちょっとだけ、じっとしてて。たぶん大丈夫だから」

 そう言って、僕は意識を集中させる。

 光輪を出すほどの大きな制御ではない。

 戦う時みたいに強く押し込む必要もない。

 青葉の言う通り、ほどけかけたシャドーマターの構造体を包む感じだ。

 僕の中を流れるシャドーマターの経路を意識する。胸の奥から腕へ、指先へ。そこから若葉の仮想体の輪郭へ、強くではなく、やわらかく触れる。輪郭を固定するというより、散らばりそうな光を、そこへ“居ていい”と許すように。

 最初は、少しぎこちなかった。

 若葉の周りの空気が、微細に揺れる。

 でも次の瞬間、その身体の薄さが少し落ち着いた。

「あ……」

 若葉が、自分の手を見て小さく声を漏らす。

「さっきより、いる」

「成功です」

 青葉が言う。

「そのまま維持してください。強くしすぎると、逆にフォーカスが崩れます」

「分かってる、つもり」

 僕は答えながら、少しだけ慎重に出力を整えた。

 戦闘の時みたいな派手さはないけど、こういう繊細な制御の方が、逆に神経を使う。

 ブライアントが、前方を見たまま低く言う。

「便利だな、その辺の芸当は」

「芸当って言われると、複雑なんだけど……」

「複雑でいい。色々なことができるのは、いいことだ」

 その言い方は、相変わらずぶっきらぼうだけれど、ちゃんと信用されている気がした。

 それが少し嬉しかった。

 ジェッチjrの前方窓に、拠点が見えてきた。

 海上に『青葉』が浮かんでいる。

 港湾区画は、整い始めた。

 本部棟も、高台の上で存在感を示している。

 まだ工事中の部分はあるけれど、もう見慣れた“帰る場所”の輪郭だ。

 若葉は、その景色をじっと見ていた。

 まだ“自分の場所”と呼べるほどの実感はないのかもしれない。

 でも、少なくとも、行く先として見ている目だった。


***


 着陸すると、ジェプラとギラがすぐに迎えに出てきた。

 ジェプラは最初、僕たちの顔を見てほっとしたように耳を揺らし、それから若葉に気づいてぴたりと止まった。ギラは、露骨に面白がる顔になる。

「弓良殿、その子は……?」

『おお、ほんまに増えとる』

 ギラが、いかにも楽しそうに言う。

『しかも、なんや、薄いな。妖精いうより、半分幽霊や』

「幽霊ではないよ」

 僕は、すぐに言った。

「えっと……妹、みたいなもの」

「妹?」

 ジェプラが目を丸くする。

 ギラは、にやりとした。

『説明が雑やなあ』

「いや、雑なのは分かってるけど、いま一番近い言い方なんだって」

 僕は、なるべく短く説明した。

 遺跡の表層アクセス点が開いていたこと。

 中からこの子が出てきたこと。

 機怪都市でマザーと話をして、この子が遺跡側に残っていた人工意識体だと分かったこと。

 青葉とマザーにとっては“妹”に近い存在らしいこと。

 さっき名前も決まったこと。

「若葉っていうんだ」

 そう言って、僕は若葉を見る。

 若葉は、少し緊張した顔でジェプラとギラを見てから、小さく言った。

「わかば」

 その声を聞いた瞬間、ジェプラの顔がふわっとほどけた。

「……まあ」

 それから、しゃがみこむようにして目線を合わせる。

「若葉さん。ようこそいらっしゃいました」

 ジェプラらしい、丁寧で、でもちゃんと温かい言い方だった。

 ギラは、少し離れたところで腕を組み、面白そうに若葉を観察している。

『妹みたいなもん、か。たしかに、顔の系統は、ちょっと似ているわ』

「系統って何?」

『なんやろな。機怪人形姉妹いうか、弓良まで混じって、変な家族感あるわ』

「変って言わないでよ」

『ええ意味でや』

 ギラは、そう言って笑った。

 太郎は、その一連のやり取りを少し離れた位置から見ていたが、やがて若葉へ向かって一言だけ言った。

『保護対象と認識』

 それは、太郎なりの歓迎なのだろう。

 若葉は、その意味を全部は分かっていないようだったけれど、僕たちの空気が柔らかいのを感じ取ったのか、少しだけ安心したように僕の近くへ寄ってきた。

 ただ、その時も、まだ、若葉の輪郭は少し不安定だった。

 遺跡からの距離が、結構あるからだろう。

 僕は、引き続き、薄くシャドーマターの保持を続ける。

 それに気づいた青葉が、小さく頷いた。

「十分です。拠点内にいるあいだは、その状態で問題ありません」

「ずっとやってても平気かな」

「しばらくなら。ただし、恒久運用には向きません。やはり、早急にボディを用意した方が良いでしょう」

「そうだよね」

 若葉は、僕と青葉の会話を聞きながら、自分の手をまた見ていた。

 まだ、身体を持つということ自体が、彼女には遠い話なのかもしれない。

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