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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第VI部 拠点開発編

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第八十四章 拠点、建設開始~神子本部神殿??

 会議のあと、作業はさらに慌ただしくなった。

 ここからの時間は、ひとつひとつの小さな場面が、まるで早回しの映像みたいにつながっていく。

 ブライアントは、やっぱり現場を回すのがうまかった。

 搬送コンテナの置き場一つ取っても、あとで運び直しが起きない位置を即座に決める。

 港湾仮設桟橋の角度も、波向きと母艦の位置を見てさっと修正する。

 搬送ラインの途中でも、立ち止まり、積み下ろし位置をその場で直した。

「そっちのコンテナは二十メートル南へ寄せろ。今そこに置くと、後で居住棟への資材搬入とぶつかる。いや、そっちは駄目だ、そっちは給水ラインの仮設ルートになる」

 誰に対しても、言葉が短い。

 でも、具体的だから、指示された側は迷わない。

 作業ドローンに指示を出しながら、僕たちにも「そこは後で通路になる」「そっちは資材を置くな」と的確に声を飛ばすので、気づけばみんながその指示に従って動いていた。

 そして太郎は、予想以上に厳しかった。

『そこ、危険』

 僕が仮設エネルギー塔の近くを横切ろうとしただけで、そう言われた。

 見ると、ちょうど上空で大型ドローンが資材を移送している。確かに危ない。

『導線は守る』

「はい」

『弓良が怪我すると、工程全体に悪影響』

「優しさの言い方が雑」

『事実』

 その短いやり取りを見て、近くにいたハチョキが、ぶう、と妙に得意げに鳴いた。

 どうやら、太郎の後ろをくっついて回りながら、自分も主任の補佐だと思っているらしい。

『ハチョキ、搬送ラインから離れる』

 太郎が言うと、ハチョキは一瞬だけしょんぼりしたように羽を垂らし、それから別の小型ドローンの後ろを追いかけていった。

 その様子に、僕は少し笑ってしまった。

 こういう時、ほんの少しだけ緩む空気があるのはありがたい。

 新しい土地で、やることが多くて、責任もあって、しかも相手は僕に期待している。そういう状況でずっと張り詰めていたら、たぶん息が詰まる。


***


 一日の終わりには、平地の風景が目に見えて変わっていた。

 その日の夕方、僕は高台の端に立って、作業用手袋を外しながら、できかけの拠点を見渡した。

 朝にはただの海辺の平地だった場所に、もう明確な輪郭ができている。

 朝には何もなかった海岸沿いに、仮設の揚陸デッキが伸びている。

 少し奥には資材中継庫が二棟並び、その横には気象観測塔が細く立ち上がっていた。

 仮設電源塔は、夕日に照らされて細く光っていた。

 倉庫棟は二棟とも外殻の大半ができていて、その前には資材コンテナがきれいに並んでいる。

 高台側には、まだ骨組みの多い居住区画が、でも確実に“建物の列”として見え始めていた。

 簡易港は海面へしっかり張り出している。海上の『青葉』からは、細い光のラインが陸へ延び、物資や小型機材が絶えず行き来していた。

 その全部が、夕方の橙色の光で、少しだけ柔らかく見える。

 風が少し冷えて、海の匂いが濃くなる。

 海から吹く風は、昼間より涼しかった。

 塩の匂いと、草の匂いと、まだ新しい資材の匂いが混ざっている。

「すごい……」

 口から出たのは、ひどく単純な言葉だった。

 でも、それしか出なかった。

 だって、本当にすごかったのだ。

 昨日まで、ここには何もなかった。

 それが、もう“何か”になっている。

 単なる構造物ではない。

 僕たちがこれから使い、歩き、暮らし、きっと何度も戻ってくる場所の輪郭が、もう見えている。

 その時、隣へブライアントが来た。

「悪くない出だしだな」

「うん」

「もっとも、ここからが面倒なんだが」

「そういうことを言うのが、ほんとブライアントらしいね」

「誰かが言わないと、浮かれすぎるからな」

 そう言ってから、彼は少しだけ表情を緩めた。

「だが、まあ……悪くない。本当に住めるかもしれん」

 その言葉は、僕にとって思った以上に重かった。

 ブライアントは、簡単にそういうことを言わない。

 この人が「住めるかもしれない」と言うなら、それはただの気休めではない。

 だから、その言葉が妙に嬉しかった。

 そこへ、ジェプラが小走りにやってきた。

 耳がぴんと立っている。顔が、嫌な意味で晴れやかだ。

「弓良殿」

「うん?」

「ひとつ、正式に提案があります」

 やっぱり来た。

「……何の?」

「神子本部神殿についてです」

 僕は、思わず空を見た。

 

 青葉は、すぐ後ろで黙っている。

 ギラは、少し離れたところで、いかにも面白そうな顔をしている。

 ブライアントは、もう面倒を予感している顔だ。

 太郎だけが、まったく動じていなかった。

 ジェプラは真剣だった。

 冗談ではなく、本気で、これが必要だと思っている目だった。

「ここは、ただの作業基地ではいけません。弓良殿の居所であり、皆が集まり、祈り、判断を共有する中心が必要です。つまり――」

 彼女は一拍置いて、はっきり言った。

「神子本部神殿を建てるべきです」

 夕暮れの風が、海から吹いてきた。

 できかけの拠点の骨組みの間を抜け、僕たちの服を揺らす。

 拠点の開発は、多分、まだ始まったばかりだった。


***


 僕たちは、会議をすることになった。

 本格的な拠点の建物とは別に建設用プリンターで造った事務所のような建物のミーティングルームに、僕達は集まった。

 青葉が立体図を中央へ出し、僕、ブライアント、ジェプラ、ギラ、太郎とハチョキがそれを囲む。

 ジェプラが「神子本部神殿についてです」と言い出した時、僕は、なんとなくそうなる気はしていた。

 気はしていたけれど、それはもっとこう、少し先の話だと思っていたのだ。

 仮設倉庫と居住棟がもう少し整って、港の足場が安定して、最低限ここで回る生活が見えてきたあとで、「そろそろ中心施設をどうするか考えましょうか」となるものだと。

 まさか、本格的な開発の最初の時点で、ジェプラの頭の中では、もうかなり具体的な“本部神殿”の完成予想図が出来上がっていたとは思わなかった。

「……いや、待って」

 僕は夕暮れの高台で、思わずそう言った。

「まだ、仮設基地の段階だよね?」

「はい」

 ジェプラは、まったく迷わず頷いた。

「ですからこそ、中心が必要です」

 その言い方が、すでに強い。

 しかも、悪気がない。

 この人は本気で、いまこの段階だからこそ必要だと思っているのだ。

 僕が、言葉を探しているあいだに、ブライアントが腕を組んだまま口を開いた。

「中心施設自体は、必要だ」

「ブライアントまで……」

「必要なのは必要だ。問題は、何を優先した中心にするかだな」

『せやなあ』

 ギラが、どこか面白がるような声で入ってきた。

『“神殿”いう言い方をすると大げさやけど、外から見て、ああここが拠点やって分かる顔は要る。あと、広場も要る』

「まだ広場の話してるの」

『するやろ。人が増えたらいるもんは、先に見といた方がええ』

『整備導線優先』

 太郎が短く言った。

『見栄えより搬送。神殿より保守。まず動く拠点』

 太郎が言うと、ハチョキも、ぶうぶうと頷いた。

「それは、そうなんだけど……」

 僕は、そう言いながら、青葉の方を見た。

 こういう時、一番最初に基準を出してくれるのは、たいてい青葉だ。

 青葉は、少しだけ目を細めてから、平坦な声で言った。

「合理性だけで言えば、中央管理棟、共用食堂、簡易集会所、宿直室、保安区画を兼ねた複合施設が最適です」

「うん」

「ただし、それではジェプラの言う“神子の居所としての象徴性”は不足します」

「うん?」

「ギラの言う“外部から見た時の顔”としても弱いです」

「……うん?」

「また、太郎の言う整備導線とブライアントの言う港湾、物流優先は、その複合施設が大きくなりすぎると逆に阻害されます」

「つまり?」

「全員の言っていることには一理あります」

 青葉はそこで一拍置いた。

「ゆえに、弓良が折衷案を決めてください」

 ひどい。

 いや、ひどくはないのか――たしかに正しいのかもしれないけど、急に最後のところだけ投げてくるのはひどい。

 ジェプラは、すっと一歩前へ出た。

「まず、わたしの考えを言います」

 その声音は、神官らしくきちんとしていた。

 でも、少しだけ熱もある。

「弓良殿の居所は、ただ寝起きするだけの部屋では困ります。ここは、ゴシロック第四惑星における最初の正式拠点です。グラブール人の目から見ても、神殿監察部の目から見ても、“誰のもとに皆が集まるのか”が明確である必要があります。ですから、中心には、祈りと判断と会合の場を兼ねた建物が必要です」

 そこまでは、まあ、分かる。

 問題は、この人の“必要”が、たまに妙な方向へ跳ねることだ。

「そして、その建物は、ただ四角い管理棟では駄目です」

 やっぱり来た。

「弓良殿の拠点だと、一目で分かる形でなければなりません」

『それやそれ』

 ギラが、嘴の端を上げるみたいに笑う。

『港から見上げて、“あれが本拠地や”って分からんと雰囲気出えへん』

「雰囲気で拠点を作るんではないだろ」

 ブライアントが眉をひそめた。

「俺が必要だと思うのは、まず現実的な機能だ。執務、会議、休憩、非常時の指揮、保安。それに生活区画と適度につながっていて、港や倉庫とも連絡が取りやすいこと。見た目で人は住めん」

『でも、見た目が悪いと来た人ががっかりするで』

「予定にない来客を基準にするな」

『予定にない来客ほど、あとで重要になったりするんや』

 この辺りの言い合いは、もう少しだけで漫才みたいだった。

 でも、言っていることは、それぞれ本気なのだ。

 太郎が、少しだけ間を置いて言った。

『中央施設を高台に置くのはよい。だが、港と整備区画への動線は最短であるべき。外見優先で階段や広場を大きく取りすぎると、搬送効率が落ちる』

「太郎の言うことも正しいですね」

 ジェプラが、珍しくすぐ同意した。

 そのあと、でも、と続ける。

「ただし、まったく象徴性のない建物では困ります」

『じゃあ、象徴性のある実用品を作ればええやん』

 ギラが軽く言う。

『実用品の顔を、派手にしとけばええ』

「その言い方だと、余計不安になるんだけど……」

 僕が言うと、青葉が立体投影を起動した。

 高台の地形をなぞるように、いくつもの半透明の建物案が重なって現れる。

 四角い管理棟、横に広い複合施設、大階段つきの神殿風建築、中庭を持つ回廊型、港側へ顔を向けた塔状案――どれも一長一短に見える。

「弓良。判断基準を整理します」

 青葉の声は、いつも通り静かだ。

「必要条件は四つ。第一に、執務、会議、居住の核であること。第二に、港湾、整備、倉庫との連絡が悪くないこと。第三に、共同体の中心として象徴性を持つこと。第四に、今後の拡張に対応可能であること」

「うん」

「そのうえで、ジェプラ案は第三に強く、ブライアント案は第一と第二に強く、ギラ案は第三と第四に強く、太郎案は第二に特化しています」

「すごい整理のされ方だ」

「整理しないと、話が長くなるので」

 もう十分長い気もするけれど、たしかに、これで見えてきた気はした。

 僕は、立体図の中央をじっと見つめた。

 必要なのは、見た目だけの神殿ではない。

 でも、ただの箱みたいな管理棟でも、たぶん違う。

 ここはゴシロック第四惑星に作る最初の拠点で、僕たちが何度も戻ってくる場所で、しかも外から人が来るなら、その人たちが“中心”だと認識する建物でもある。

「それじゃ……」

 僕は、指で立体図をなぞった。

「高台の中央に本部棟を置こう。執務と会議と共同体の中心を兼ねる建物で」

 僕は、頭を傾げた。

「……見た目は少し神殿っぽくしていいかな。でも、大階段とか、儀式だけの空間は削る。代わりに、前庭と共用広場を小さく取って、港との最短通路は別に確保したらいいんじゃないかな。背後には居住棟にして、横に共用食堂とラウンジ、とこれならどう?」

 少し沈黙があった。

 先に頷いたのは、ブライアントだった。

「悪くないな」

 ジェプラも、すぐに続く。

「神殿性は少し薄れますが……中心としての格は保てます。弓良殿の本部として、十分だと思います」

『広場があるならええわ』

 ギラは、だいぶ雑だった。

『搬送路が独立なら問題なし』

 太郎も短く言う。

「では、その折衷案を基準に設計を進めます」

 青葉がそう締めくくった時、僕は少しだけほっとした。

 管理者っぽいことをした気がする。

 でも、たぶん今は、それでいい。


***


 僕は、折衷案にした、つもりだった。

 ほんとうに、つもりだった。

 だからこそ、僕は少し甘く見ていたのかもしれない。

 次の日の朝、海霧の薄く残る台地に出て、建設用ドローン群が一斉に本部棟予定地へ集まっていくのを見た時点では、まだ、ちゃんとそのつもりだったのだ。

 僕は、せいぜい少し立派な集会所か、神棚のついた管理棟くらいを想像していたのだ。

 最初の一時間くらいは。

 問題は、そのあとだった。

 万物プリンターから出力された建材が、ものすごい勢いで積み上がり始めた。

 高台の中央部が、見る見るうちに削られ、均され、基礎が置かれ、壁面フレームが立ち上がった。

 細長いドローンが外郭をつなぎ、多脚型の大型ユニットが足場を組み、浮遊型ドローンが上空から装飾パネルらしきものまで張り始めた。

「ちょっと待って……?」

 僕は、建設用ドローンの群れが白い骨組みを高速で組み上げていき、神殿じみた大構造物の輪郭が立ち上がり始めるのを見上げながら、思わずそう言った。

「これ、ほんとに“本部”っていうレベル?」

「はい」

 ジェプラは、まったく悪びれずに答えた。

「本部です」

「これ、ちょっと立派すぎない?」

「そうですか?」

 ジェプラは、純粋に不思議そうな顔をした。

「いえ、あまりにも妥当な規模かと」

『妥当やないやろ』

 ギラが、珍しく僕寄りのツッコミを入れる。

『わいもそこそこ派手めでええと思っとったけど、なんかもう、“神子総本山”みたいになっとるで』

 僕は、半ば呆然として高台を見上げた。

 白灰色の壁面が、陽光を柔らかく反射している。

 正面にはゆるやかに広がる階段、その上に前庭、さらに奥に高い天井の中央ホールを持つ本部棟。その両側には回廊じみた通路が伸び、背後の居住棟と自然につながるようになっている。

 たしかに、ただ派手なだけではない。

 機能もありそうだ。

 でも、見た目の迫力が思った以上だ。

「僕、こんなに偉そうなところに住むの?」

「はい」

 ジェプラがきっぱり言う。

「弓良殿の居所ですから」

 言い方が、あまりにも当然だった。

『最初から本丸やな』

 横でギラが、翼を器用にたたみながら愉快そうに言う。

『まあ、ええやん。港から見上げた時に、ああ、あれが弓良の本拠地やなって分かるで』

「分かりすぎるでしょ」

 僕がそう返すと、ブライアントが、片手で額を押さえたまま低く唸った。

「……まあ、外向けの顔としては、間違ってはいないな」

「ブライアントまで」

「褒めては、いない。褒めてないが、グラブール人と付き合うこと、それに今後どこまで人類側にも開くかを考えると、中心施設はあった方がいい。問題は、どこまでやるかだ」

「もう、かなりやっています」

 青葉が淡々と言った。

 その言い方に、僕は、振り返る。

「青葉、止めなかったの?」

「止めました」

「止まってないけど」

「合理性のある部分までは採用しました。その先は、ジェプラとギラが強行しました」

「言い方に問題があります」

 ジェプラは真面目な顔で抗議した。

「強行ではありません。丁寧な説得の結果です!」

『途中から“ここに大階段があった方が絶対いいです”って言いながら、もう配置始めとったやろ』

 ギラが楽しそうに補足する。

『説得いうより、既成事実化や』

「ギラ殿は賛成していたではありませんか」

『そら、面白そうやからな』

 この二人、相性がいいのか悪いのか、いまだにちょっと分からない。たぶん、目的は違うのに、妙なところで意気投合してしまうのだろう。

 ジェプラは本気で“神子の居所”としてふさわしいものを作りたいし、ギラは単純に、顔になる建物とか、人が来た時に印象の強い場所とか、そういうものが好きだ。

 しかも困るのは、その建物が、実際にきれいだということだ。

 海から見上げた時の見栄えもいいし、高台の傾斜も利用しているので、周囲の景観とも妙に調和している。僕が文句を言いにくい絶妙な線で、しっかり立派だった。

 結果として、僕の拠点は、想定よりずっと大げさな方向へ進み始めていた。

『整備導線の確保を優先』

 太郎が、足元で短く言った。

『神殿でも本部でもいい。搬入口、整備口、緊急退避口、ドローン用通路は削れない』

「もちろんです」

 ジェプラが即答する。

『ほんまに? 大階段の下、かなり無駄空間できとるで』

『無駄ではありません。荘厳さです』

『それを無駄空間いうねん』

 ギラがくつくつ笑う。

 僕も、ちょっとだけ笑いそうになった。

 そこへ、青葉が補足するように言った。

「中央ホールの容積は、共同体規模が現在の四倍程度まで拡張しても耐えられます」

「四倍?」

「仮定の話です」

「いや、その仮定がもう怖いよ」

『また増えるやろ』

 ギラが軽く言う。

『弓良の周り、だいたいそういう感じやし』

 それは否定しづらかった。

 建設は止まらなかった。

 しかも、止める理由もだんだん薄くなっていく。

 中央ホールの天井は高いが、熱効率を考えて内側に調整層が入っている。

 正面前庭は広いが、来訪者の待機と簡易集会に使える。

 背後の住居棟は、本部と直結しつつ、私室側の静けさは確保される。

 左右の回廊は、緊急時の移動と通常時の分散導線を両立している。

 つまり、ちゃんと役に立つのだ。

 悔しいけれど。

「このような配置図で考えています」

 ジェプラが差し出してきた、最終的な立体配置図を見ると、彼女なりにかなり考えているのは分かる。

 台地の最も見晴らしのいい場所に中央施設があり、その背後に、住居区画と防護壁を兼ねた棟があった。

 海側には港湾と荷捌き場があり、居住区と整備区の間には、必ず共用の広場と食堂を挟んでいた。

 さらに、僕の執務空間は中心部へ置きつつ、完全に閉じず、誰かが相談に来やすい動線を確保する。

「これ、ちゃんと考えてるんだね……」

 僕がそう言うと、ジェプラは、ほんの少しだけ耳を揺らした。

「当然です」

 それから、少しだけ言葉を選んで続ける。

「弓良殿の居所は、ただ寝起きするだけの場所では困ります。神子である以上、そこは祈りの場でもあり、判断の場でもあり、共同体の心が戻ってくる場所でなければならないのです」

 その言い方は、ちょっと大げさだ。

 でも、ジェプラにとっては本気なのだろう。

 僕は、立体図の中心部を見つめた。

 中心施設、執務室、寝室、共用空間、神殿的機能――。

 正直、くすぐったい。

 僕は、そういう“中心に置かれる”立場に、まだ慣れていない。むしろ、今でも時々、自分がなぜこんなところにいるのかよく分からなくなる。

 日本の高校生だったはずの僕が、機怪人形になって、宇宙をふらふらして――。

 気づいたら、ひとつの星に拠点を作ろうとしていて、その中心施設の話をしている。

 人生って、いや、人生と呼んでいいのか分からないけど、ともかく、妙な方向へ曲がるものだ。


***


 実際、そんなふうに口では好き勝手言いながらも、工事は妙にきびきび進んでいった。

 青葉は全体構造の安定とインフラ配置を管理し、ブライアントは現場作業班の流れを整えた。

 太郎は、整備ドローンと搬送ドローンの動線を厳密にチェックし、ジェプラは生活区画の位置関係を、ギラは将来の拡張前提で広場や通りの幅を提案する。

 僕は、最初のうちは少しうろうろするばかりだったけれど、だんだんと、自分が見るべきポイントが分かってきた。

 たとえば、誰かの案が、別の誰かの作業を邪魔していないか。

 住む人のための便利さと、守るための配置がぶつかっていないか。

 見た目の良さが、あとで自分たちの首を絞めないか。

 それは、たぶん、青葉やブライアントほどの精度では見られていない。

 でも、最終的に「それでいこう」と言う役目は、やっぱり僕なのだ。

 午後のかなり早い段階で、中央施設の外郭はもうほとんど見えていた。

 白と灰を基調にした素材で組み上げられた壁面は、完全な石造でも金属造りでもない、不思議な質感があった。見る角度で、少しだけ光を柔らかく返す。

 階段は広く、中央の扉前には自然と人が集まりそうな前庭が取られていた。

 地形をうまく利用していて、海の方から見上げても目立つし、後ろ側の住居棟や整備区画へも移動しやすい。

 なるほど、と僕は思った。

 たしかに、これは“顔”だ。

 自分たちがここにいると、誰かに示すための。

 あるいは、自分たち自身が、ここへ戻ればいいと分かるための。

 そんなことを考えていると、ジェプラが、僕の腕を軽く引いた。

「弓良殿。こちらへ」

「え?」

「まだ完全ではありませんが、最低限、案内できます」

 半ば引きずられるようにして、僕は建物の中へ連れて行かれた。

 中は、まだ完全には仕上がっていなかった。壁面の一部は仮設パネルのままだし、照明も仮配線が多い。現在も、多数の作業ドローンが急ピッチで内装工事を進めている。

 けれど、構造そのものはもう分かる。

 中央ホールがあった。

 左右に伸びる通路があり、奥へ行くほど、少しずつ私的な空間になる。

 ジェプラは、その奥の一角で立ち止まった。

「ここが執務室です」

 ジェプラが案内したのは、本部棟の海側に面した広めの部屋だった。

 ここは、もうほぼ内装も完成しているようだった。

 大きな机、壁面スクリーン、来客用の低い椅子、端末群、記録棚がある。

 窓からは海上の『青葉』と港湾区画が見える。

「相談に来た方と話しやすいよう、閉じすぎない構造にしました」

 たしかに、完全な玉座の間みたいな感じではなく、ちゃんと“仕事ができそう”な空間にはなっている。そこは少し安心した。

「そこから少し離れて寝室区画があります」

 さらに奥へ進むと、確かに、半分独立したような静かな区画があった。

 案内されて入った瞬間、僕は足を止めた。

 広い。

 いや、広すぎる。

「これ、一人用……?」

「余裕があった方がよく眠れます」

 ジェプラが、なぜか少しだけ視線を逸らしながら答える。

 そして、ベッドが、でかかった。

 いや、巨大と言ってもいい。

 どう見ても、一人で寝る前提の大きさではない。

「なんでこんなに大きいの……?」

「余裕があった方が、よく眠れます」

 ジェプラは、すごく自然な顔で答えた。

 絶対に、今そこでとぼけている。

「わたしの部屋は、その隣です。きゃっ」

 最後に自分で照れたみたいな声を出すあたりが、またずるい。

 そう言って示された扉は、ほんとうにすぐ隣だった。

 近い。

 近すぎる。

 僕は、どう反応していいのか分からず、とりあえず部屋を見回した。

 内装は、驚くほど整っていた。

 まだ基地全体は仮設っぽさが残っているのに、ここだけは妙に生活感がある。

 収納、照明、手洗い用の区画、座る場所。しかも、どれも“使いやすそう”なのが腹立たしい。

「寂しかったら、一緒に添い寝しますね!」

 明るく、そしてわりと自然に、ジェプラは言った。

 僕は、危うくその場でむせそうになった。

「いや、えっと、その、ありがとう……?」

 何をどう返すのが正解なんだ。

 僕が戸惑っていると、後ろからギラの笑い声が聞こえた。

『あかんなあ、弓良。そこは、うろたえんと、考えとくよくらい言わんと』

「言えるわけないでしょ!」

『言えたら上級者やな』

「何の……」

『ところで、わいの部屋は?』

 ギラが嘴を鳴らすような声で聞くと、ジェプラは即答した。

「別棟です」

『差が露骨やなあ』

「当然です」

 迷いがなさすぎる。

 そんなくだらないやりとりをしているうちに、少しだけ緊張がほどけた。

 でも、その一方で、胸の奥には妙な実感もあった。

 ここが、僕の部屋になる。

 執務室があって、寝室があって、その隣にジェプラの部屋があって、みんながこの建物を“中心”として動く。

 青葉の区画は、本部棟から少し離れた、でもすぐ連絡の取れる位置に置かれていた。『青葉』本体とリンクしやすく、解析や指揮補助に集中できるように、少し静かな作りになっている。共用ラウンジは、本部棟と居住棟のあいだ。誰かが自然に集まり、食堂や外へも流れやすい位置にあった。

 僕は、その動線を歩きながら、少しずつ実感していた。

 これは、仮設の寄せ集めではない。

 ちゃんと、これからの生活を前提に組まれている。

 一緒に暮らす――同じ建物の中で。

 食事して、話して、寝て、起きて、また外へ出る。

 そういう日常の輪郭が、急に現実味を持って迫ってきた。

『共用空間は悪くない』

 太郎が、ラウンジの入口で短く言った。

『視認性、導線、保守、問題なし』

『主任のお墨付きやな』

 ギラが笑う。

『そのうち、ここで市場の打ち合わせもできるわ』

「まだ市場はできてません」

 ジェプラが律儀に訂正した。

 こうして見ると、みんな本当に、ここで暮らすつもりなのだ。

 そのことが、少し嬉しくて、少し怖い。


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