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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第V部 機怪天国編

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第六十九章 FMSプラズマ砲

 制御区画の中心へ置かれたアヒルのような鳥のオモチャは、まるでそこでようやく目を覚ましたみたいに、小さく首を震わせた。

 ぴかり、と光った両目が、今度は一度きりでは終わらない。

 青白い光が、その小さな身体の内側から脈打つように漏れ始める。

 無塗装の金属の玩具にしか見えなかった表面が、実は無数の微細な継ぎ目で構成されていたのだと、その時初めて分かった。

 玩具の腹、羽、嘴、足。そのすべてが、分子機械の精密な格納構造だったらしい。

「うそでしょ……?」

 僕が思わずそう呟いた瞬間、アヒルの玩具は制御区画の中央へ向かって、ふわりと浮き上がった。

 重力を無視するというより、そもそも“落ちる”という概念がそこだけ切れているみたいな動きだった。

 回転もしない。ぶれもしない。

 真っ直ぐ、ただ“そこへ行くべきもの”として、静かに滑っていく。

『封印鍵ユニット、機能を再開』

 青葉の声が、いつもよりさらに低い層で響く。

 その声音を聞いた瞬間、艦内の空気が少し変わった。

 照明が暗くなったわけではない。

 しかし、『青葉』そのものが、長い眠りから半身を起こしたような感じだった。

 艦の奥で、今まで沈黙していた回路が順に接続を取り戻している。床の下を走る振動が、さっきまでとは違うリズムを刻み始めた。

 アヒルの玩具は、制御区画中央の円形ソケットの上へ来ると、そこで一度だけ空中停止した。

 その小さな身体が、今度は内側からほどけるように開いていく。

 羽が左右へ展開する。

 嘴が中央で割れる。

 腹部の外装が薄い花弁みたいにひらき、その中から、金属質の何かが現れた。

 それはもう、玩具ではなかった。

 細長い結晶柱にも見える。

 折りたたまれた回路核にも見える。

 表面には、鳥の羽根のように薄い層が幾重にも重なり、その一枚一枚に極小の記号列が走っていた。

 シャドーマターの流れを制御する特殊な回路が、玩具の形へ偽装されていたのだと分かった。

『イハァトパー機関への権限接続を確認』

 青葉の報告と同時に、その結晶核は、すっとソケットへ吸い込まれた。

 かちり、という音はしなかった。

 でも、艦全体がその瞬間を“接続完了”として受け入れたのが分かった。

 次の瞬間、巡洋艦『青葉』の奥底から、重く低い唸りが立ち上がった。

 それは機関音というには深すぎる音だった。

 むしろ、艦そのものの骨格が、ずっと抑え込まれていた本来の出力を取り戻し、内部の空間構造を組み替え始めたとでも言うべき振動だと思った。

 壁面表示が、一斉に更新される。

 今まで灰色でロックされていた項目が、次々と青白く点灯していった。

 主砲、補助制御、場制御、熱交換、位相整合、全部の階層で新しい演算が走り始めた。

『主砲、FMSプラズマ砲――発射可能です』

 青葉のその一言で、制御区画の空気が変わった。

 先程まで、敵の要塞砲と監察部艦隊の防御、シラトリIIの裂け目づくり、機怪天国のフィールド保持、その全部が同時に押し寄せてきていた。

 焦りと緊張と、何かひとつでも間違えたら全部が崩れそうな圧迫感で、区画の中の誰もが息を詰めていた。

 しかし、主砲の発射準備完了が告げられた瞬間、その重さが少しだけ“形のある希望”へ変わったのが分かった。

 そこには明らかに“いつもより自信のありそうな青葉”がいた。

 巡洋艦としての彼女の本来の機能が、ようやく表面へ上がってきたと思った。

『チャージします』

 制御区画の全員が黙った。

 ブライアントは、壁面表示の変化を険しい顔で追っていた。

 ナルディアは、まだアーマッドの無事に浮き足立った感情を残しながらも、その凄まじい出力の立ち上がりに息を呑んでいた。

 ジェプラは、祈るように胸元で手を組んだまま、僕と青葉と制御区画を交互に見ていた。

 ギラでさえ、今は翼をたたみ、軽口を忘れている。

 太郎は、小さな身体でじっと制御表示を見上げていた。

 戦闘は、収まってはいない。

 機怪ビーストの群れは、さっき僕と美優と青葉の増幅光輪によってすべて分子機械の残骸へ分解された。

 前方宙域は、黒い獣の群れではなく、きらきらした金属の破片と細かな粒子が漂う異様な静けさに変わっている。

 しかし、要塞本体はまだ健在だった。

 青葉の戦術表示の中央で、要塞本体が赤く縁取られている。

 あのバズギャン型機動要塞の周囲には、依然として黒紫の重力磁場バリアーが波打っている。

 シラトリIIのC++カノンで歪み、ミサイルやC++魚雷で揺らぎ、監察部艦隊の集中砲火で削れてはいる。

 けれど、破れない。

 しかも、要塞砲はなお生きている。

 監察部艦隊の前衛では、アラージが重ねた魔法障壁がまだ展開されていた。

 狐火じみた光の幕が幾重にも重なり、艦隊全体を包み込んでいる。

 それでも、要塞から撃ち出される紫黒の砲光は、その防御へ食い込み続けていた。

 防ぎ切れない。

 アラージほどの魔女が、艦隊規模で術式を展開しても、完全には止められない。

 一発ごとに防御層が裂け、余波が後方の艦へ届く。

 いまも一隻、中型艦が舷側をえぐられて後退を余儀なくされていた。

 通信窓の一つに、アラージの艦橋が映る。

 彼女は、明らかにいつもより真剣な顔で前方を見据えていた。

 片手を前にかざし、もう片方の手で術式補助の印を切っている。

 背後では艦隊司令補佐のギースが、被害報告と再配置指示を一度に叫んでいた。

『あと二発まともに食らえば、この防御層は抜かれます』

 アラージが、歯を食いしばりながら言う。

『急いでください、青葉殿』

『承知しました』

 青葉は、短く返した。

 その返事は静かだったが、今や艦の奥底全体が応じているみたいだった。

 僕は、制御区画の中央表示を見つめた。

 FMSプラズマ砲。

 初めて聞く名前ではない。

 でも、ここまで具体的に“撃てる”段階へ来たのは初めてだ。

「青葉」

 僕は、壁面表示から目を離さずに訊いた。

「FMSプラズマ砲って、何なのかな?」

 青葉は一拍だけ沈黙した。

 その沈黙は、言葉を選んでいる時のものだ。

『弓良に理解しやすい形へ簡略化します』

「助かるよ」

『FMSとは、安定化された――Fモジュレーテッド――クォーク・グルーオンプラズマの、ストレンジクォークリッチ版を放射する砲です』

「……全然、理解しやすくないけど!」

 思わずそう返していた。

 ブライアントが横で苦笑するように鼻を鳴らした。

「そうなるよな」

 でも、青葉は気にした様子もなく続ける。

『通常の高温プラズマ兵器ではありません。物質を、さらに根源側の状態へ崩したうえで、安定化し、指向性を持たせて射出します』

「物質の、根源側……」

『はい。クォークとグルーオンの結びつきが通常とは異なる相へ移行した状態です』

 そこで、シラトリIIからアーマッドの低い声が割り込んだ。

『要するに、“物質としてそこにある”こと自体を嫌がる火だ』

 その表現は、技術説明として正しいのかどうかは分からない。

 でも、感覚としては一番しっくり来た。

 そこへ、美優も低く言葉を足した。

『アル・サファーのFLプラズマ砲より、ずっと、怖い』

 その名前に、僕は反応した。

「アル・サファー?」

 アーマッドが短く答える。

『私のもう一つの船だ。そちらは、FLプラズマ砲を積んでいる』

 青葉が、すぐに説明を継ぐ。

『FLプラズマ砲も高威力兵器ですが、FMSプラズマ砲とは安定性の段階が違います。特に、ストレンジクォーク相の保持時間と空間内での位相崩壊の制御精度が、何乗も上です』

「何乗もって……」

『比較対象として成立しにくい程度に上位です』

 あまりにも青葉らしい言い方だった。

 つまり、アーマッドのもう一つの船に積まれているFLプラズマ砲も十分に強力だが、FMSプラズマ砲は、それを“同じ兵器の系列”と呼んでいいのか怪しいくらい格が違うらしい。

 アーマッドが、通信越しに淡々と言う。

『その名は知っている。〈先住者〉の最終期に、マルモ人の大艦隊を殲滅した最終兵器の一つだ。真正面から受けて、生き残った艦は、ほぼなかったと伝えられている』

 その一言で、制御区画がまた静かになった。

 最終兵器、大艦隊殲滅――。

 さらっと言っているが、内容が重すぎる。

 ナルディアが、目を丸くしたまま呟く。

「そんなものを、いまから撃つの……?」

 青葉が、静かに肯定する。

『はい』

『ただし』

 マザーの声が、別回線から重なる。

『その時代のマルモ人も、黙って滅びるだけではありませんでした』

 僕は、はっとした。

「力業で、それを超える兵器を用意してたってこと?」

『その通りです』

 マザーの声音は、いつも通り穏やかなのに、その内容のせいで妙に冷える。

『ジャープッカ側が、安定化ストレンジクォーク相の指向兵器を完成させた時、マルモ人は、より粗暴で、より制御の荒い方法で、それを超える破壊を実現しようとした』

 キーフラスが、通信へ加わる。

 いつの間にか、彼もこちらの戦術回線へ接続していたらしい。

『美しくはない。理論としても粗い。だが、戦場では理論の美しさなど意味がない。向こうは、とにかく“上回る出力”を捻り出す方向へ行った』

 ブライアントが、壁面映像の中の要塞砲を見て、低く言った。

「それが、あの砲か」

『模倣だ』

 キーフラスはきっぱり言う。

『もちろん、チャチな、ごく小規模の模倣にすぎない。本来のマルモ側兵器は、あんな要塞砲一門に収まる規模ではなかった。だが、発想は同じだ』

 青葉が、即座に分析表示を重ねる。

『敵要塞砲は、出力の純度では劣ります。ですが、局所重力場とシャドーマター励起を乱暴に重ね、被弾側の構造安定そのものを押し潰す方向で設計されている』

『雑やけど、雑な分だけ防ぎにくいいうことか』

 ギラが、珍しく真面目な声で言った。

『そうです』

 青葉は頷く。

『こちらのFMSプラズマ砲は、極めて高精度な安定性と指向制御を前提にした兵器です。対して、敵要塞砲は、精密さよりも、強引に“場を壊す”ことを優先しています』

 アラージの通信窓で、彼女が苦い顔をした。

『だから、私の防御魔法でも、なかなか防ぎ切れないのですね』

『はい』

 青葉が、ためらいなく答える。

『防御に対して最適化された兵器ではありません。むしろ、“防御そのものを成立しにくくする”方向の兵器です』

 それで腑に落ちた。

 アラージほどの魔女が、艦隊規模の強力な障壁を重ねても、あの要塞砲は止まらない。

 貫通力の問題だけではない。

 向こうは、防御術式が“そこにある”こと自体を壊しにきているのだ。

「ということは……」

 僕は、要塞本体の表示を見つめた。

「向こうは、昔のマルモ人の兵器の、真似事みたいなものなんですね?」

『真似事、とは言えます』

 キーフラスの声が重なる。

『しかし、戦場にいる側からすれば、十分すぎるほど凶悪ですな』

 その通りだと思った。

 模倣だろうが劣化だろうが、いま機怪天国のフィールドを割りかけ、監察部艦隊に大損害を出し、『青葉』にすら緊張を強いている以上、それを侮る余地はない。

 そこで、マザーの声が入る。

『弓良。青葉さん。イハァトパー機関の封印解除により、空間エネルギー転換炉(SER)から艦体主砲へのフルチャージでの供給経路も接続されています』

「それって……」

『『青葉』は、本来の戦闘艦としての出力を、ほぼ取り戻したと考えてください』

 その一言で、背筋が少し震えた。

 つまり今、『青葉』はただの“古い巡洋艦”ではない。

 機怪天国の中枢技術と再接続し、封印されていた主砲を解放した、往年の〈先住者〉最終形態の巡洋艦に近い、本来の姿へ戻りつつあるのだ。

『『機怪天国』は、敵要塞に浸透された影響がまだ残っていて、これ以上のシールドも兵装も展開できない状態です。お願いします』

「分かりました」

 僕は、マザーに頷いた。

 すると、通信画面の向こうで、アーマッドが短く言った。

『こちらで要塞を攻撃するのに合わせて、照準を固定してくれ』

 シラトリIIが、鋭く旋回しながら前へ出る。

 細い艦体のあちこちから、今度はさらに別系統の武装が展開された。

 細長い誘導弾や、先端部が二重に折れた魚雷だった。

 そして、〈先住者〉艦らしい、直線とも曲線ともつかない“場のひずみ”を飛ばす武装も放射される。

 同時に放たれた、ミサイル群が要塞外装へ吸い込まれた。

 C++魚雷が、シールド外層の歪みを利用して突き刺さろうとした。

 その他の〈先住者〉武装が、重力磁場バリアーへ何本もの“裂け目”を走らせる。

 それを見たアラージが、また本気で目を見開いた。

『本当に……あの艦、我々の艦より高性能ではありませんか?』

 背後でギースが、呆れと羨望の混じった声を漏らす。

『否定しづらいです……』

 でも、その高性能のシラトリIIでも、要塞を撃ち抜く決定打にはまだ足りなかった。

 アーマッドは、それを理解した上で動いているのだろう。撃ち抜くのではなく、裂け目を作るためだ――『青葉』のFMSプラズマ砲が、そこへ届くように。

 その『青葉』の主砲チャージ表示が、壁面いっぱいに伸びていく。


 30%。

 42%。

 57%。


 艦内の振動が、じわじわ強くなった。

 制御区画の照明がわずかに明滅し、床の下を通る導線の一部が青白く光り始める。

 太郎は、艦内の低い唸りを聞きながら言った。

『青葉が本気だ』

『否定はしません』

 青葉は、一言だけ、応えた。

 熱というより、流れるエネルギーが高密度化しているような気配がした。

 普通の艦なら悲鳴を上げそうな状況なのに、『青葉』はむしろ静かになっていく。

 静かに、狙いを定めている。

『照準共有、継続』

 青葉の声が、僕の意識の深いところへ届く。

『弓良、シラトリIIが作る裂け目だけを見てください。他は私が処理します』

「うん」

 僕は、息を整えた。

 壁面映像の向こうで、シラトリIIが再び前へ出る。

 アーマッドは、〈先住者〉武装群とC++魚雷を時間差で撃ち込みながら、要塞シールドの歪みをさらに大きくしていた。

 ミサイルが外層を乱し、細長い魚雷がその乱れへ食い込み、散弾的な砲撃が局所のシールドの位相を引っ掻き回した。

 アラージの艦隊も、そこへ合わせて一斉砲撃を重ねる。

 狐火じみた魔法光が、要塞シールドの外縁へ何重にも突き立つ。

 完全に破れなくてもいい、と思った。青葉の一撃が通る“形”さえ作れれば……。

 ギースが、興奮と緊張の混じった声で叫ぶ。

『そこを押し込め! 裂け目を閉じさせるな!』

 そして、要塞砲がまた『機怪天国』へ向く。

 黒紫の砲光が、『機怪天国』のフィールドへ伸びた。

 マザーが、工廠惑星全体の表面に走る光のラインを一斉に明るくする。惑星そのものが呼吸するみたいに、フィールドが一度だけ膨らむ。

 だが、要塞砲の方が重い。

 アラージが、追加の防御魔法を重ねる。

 それでも、防ぎ切れない。

 フィールドの表層へ、大きなひびが走った。

『保持率、危険域』

 青葉が告げる。

 僕の胸が、どくりと重く鳴った。

 もう時間がない。

 青葉の表示で、FMSプラズマ砲のチャージ率がさらに上がる。


 70%。

 79%。

 85%。


 それと同時に、艦内の振動も強くなる。

 でも、不快ではない。むしろ『青葉』そのものが、ようやく自分の役目を思い出したような、静かな高揚があった。

『場固定、安定』

 青葉の声が、一段低くなる。

『熱負荷、許容範囲』

 その直後、要塞砲が再び咆哮した。

 紫黒の砲光が、今度は『機怪天国』へ真っ直ぐ向く。

 マザーの防御フィールドが、急いで位相を重ねる。惑星表面を走る光のラインが、一斉に明るく脈打った。

 だが、その防御を、砲光は無理やり押し込んでくる。

『フィールド保持率、危険域』

 青葉が告げる。

 僕の心臓が、どくりと重く鳴った気がした。

 もし、この一撃でフィールドが抜かれたら、『機怪天国』そのものが深刻な損傷を受ける。

 マザーも、源一郎も、美優も、アーマッドも、そして中にいる意志体たちも、全部が危ない。

 青葉が言う。

『アラージ殿、補助防御を』

『既に限界近いですが、やります!』

 アラージの声は鋭かった。

 監察部艦隊から、再び狐火じみた魔法障壁が何層も重なって飛ぶ。機怪天国のフィールドと外側で重なり合い、要塞砲をどうにか減衰させようとする。

 だが、なかなか防ぎ切れない。

 防御層の表面が裂ける。

 紫黒の光がそこを押し広げる。

 防げない。

 押し返せない。

 その瞬間、青葉の表示が、90%を超えた。

『FMSプラズマ砲、発射準備完了まで、残りわずか』

 青葉の声は、今や艦の奥底そのもののようだった。

 僕は、自然と息を止めていた。

 この一撃で、決まるかもしれない。

 いや、決めなければならない。

 制御区画の中央、さっきまでアヒルの玩具だった封印鍵ユニットが、今はすでに艦の中枢と完全に一体化していた。

 その光が、青葉の表示系と共鳴しながら脈打っている。まざに、あれが、イハァトパー機関へ至る封印鍵だったのだ。

 僕は、壁面映像の向こうにある要塞を睨みつけた。

 棘だらけの巨大構造体、黒紫の重力磁場バリアー、シャドーマターのフィールド――。

 機怪天国を侵し、魂なき獣を吐き出し、因果の路すら利用した異常な敵。

 でも、今は違う。

 因果の路は断ったし、美優ともつながった。

 イハァトパー機関の封印も解かれた。

 ここから先は、もう真正面から撃ち抜くしかない。

 その時、美優が、通信画面越しにまっすぐ僕を見た。

 言葉は、ない。

 でも、その目ははっきりと、「撃って」と言っていた。

 さっきまで残っていた、僕と美優のあいだのパスは、今は細くなっている。

 しかし、完全には消えていない。

 因果の路そのものではなく、事故の日の夕暮れを一度通ったことで残った高次接続の名残りだ。

 その名残りが、最後に少しだけ僕の意識を支えてくれている気がした。

『チャージ完了』

 全員が、息を止めた。

『主砲、FMSプラズマ砲――発射準備完了です』

 青葉の声には、もう迷いも揺らぎもなかった。

 僕の視界の中で、要塞シールドの裂け目が、赤く、細く、しかし決定的に浮かび上がっていた。

 そこへ撃ち込めばいい。

 そこへ、この艦が眠らせていた最終兵器を、まっすぐ通せばいい。

 僕は、壁面映像の向こうの棘だらけの要塞を睨みつけた。

 その向こうには、マルモ人の兵器の粗悪な模倣の流れがあり、そのさらに向こうには、キーフラスたちの時代の戦争の残響がある。

 でも今、その全部をひっくるめて、ここで終わらせなければならない。

 青葉が、静かに告げた。

『弓良』

「うん」

『照準権限を共有します』

 その一言と同時に、僕の視界の奥へ、新しい線が走った。

 要塞の中心。

 シールドの歪み。

 シラトリIIが作っている裂け目。

 監察部艦隊の砲撃で削られた層。

 全部が、一つの“撃ち抜くべき点”として、僕の中へ立ち上がる。

 アーマッドの声が、通信越しに低く響いた。

『裂け目をもう一度開く。次で決めろ』

 シラトリIIが、正面ではなく、やや下方から鋭く突っ込んだ。

 C++魚雷が二発、今度は時間差をつけて発射される。先行弾がシールド外層を歪め、遅れて入った二発目が、その歪みにねじ込まれるように爆ぜた。

 黒紫のバリアー表面に、細長い裂け目が走る。

 いま撃つべき場所は、もう一つしかない。

 でも、撃てると分かったからこそ、逆に恐ろしくもあった。

 さっきまで封印されていた主砲。

 イハァトパー機関の鍵と直結した兵器。

 しかも、青葉の声の奥にある緊張は、単に“強い砲を撃つ”時のものではない気がした。

『弓良』

 青葉が呼ぶ。

「うん」

『照準、最終固定。撃ちます』

 僕は、ゆっくり頷いた。

 そして、青葉は、静かに宣言した。

『主砲、FMSプラズマ砲――発射します』

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