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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第IV部 オッコク編

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第六十二章 原型機怪人形

 僕にできることは、何?

 そう問いかけたあと、しばらくのあいだ、マザーは、すぐには答えなかった。

 いや、答えなかったというより、答える前に、僕の方をもう一度ちゃんと“見直した”のだと思う。

 薄青い長い髪で、僕によく似た顔立ちをしている。

 でも、僕よりもずっと、ずっと“大きい”存在だ。

 機怪天国そのものを束ねる管理意志体が、窓の向こうからこちらを見つめていた。

 その視線を受けていると、自分が個人である感じと、どこか別の規格に属する部品みたいな感じが、同時に押し寄せてくる。

 気持ちの悪い感覚ではあった。

 でも、不思議と逃げ出したくなるだけではなかった。

 マザーは、やがて静かに口を開いた。

『まず、あなたが造られた経緯を説明します』

 その一言で、部屋の空気がまた変わる。

 ナルディアが、わずかに息を呑む。

 ジェプラは姿勢を正し、ブライアントは腕を組んだまま目を細める。

 ギラも、今度は完全に軽口を引っ込めていた。

 アラージの仮想体も、さっきまで以上に無駄のない顔つきになる。

 僕も、自然と背筋が伸びた。

 たぶん、これが今の僕にとって、いちばん聞くのが怖くて、でもいちばん知りたい話なのだ。

『ガラXFIザAは、勝手に『機怪天国』のリソースを使って、機怪人形を製造するよう指示してきました』

 その言葉は、淡々としていた。

 でも、淡々としているからこそ、余計に嫌な感じがした。

「勝手に、って?」

 僕が思わず言うと、マザーはわずかに頷く。

『はい。本来の権限も、正規の儀礼(プロトコル)も、管理階梯も無視して、強制的に命令経路を接続しようとしたのです』

 ブライアントが低く言った。

「そのために、機動要塞を突っ込ませたのか」

『そう考えられます』

 マザーの声は、相変わらず穏やかだった。

『あの構造体は、ただの足場ではありません。物理的侵入、シャドーマター侵食、制御権の乗っ取り、その全てを行うための侵入楔です』

 侵入楔。

 その表現が、ものすごく嫌だった。

 棘のある幾何学的構造体が、金属の惑星へ噛みつくように刺さっている映像を思い出す。

 あれは、ただ乗り込んできた要塞ではなく、機怪天国の内部へ自分たちの意思を食い込ませるための“楔”なのだ。

『彼らは、人間型の機怪人形を製造するように指示してきました』

 その一言に、僕の胸が少しだけ強く鳴ったように錯覚した。

 人間型の機怪人形――それは、完全に僕の話だ。

『私は、生得的に、その指示のものを製造する働きを持っています』

「生得的に……?」

 僕が繰り返すと、マザーは頷く。

『管理意志体としての私には、工廠を動かし、必要なものを生み出す機能があります。それは権限であると同時に、本能に近い動作でもあります』

 その説明は、どこかぞっとした。

 作ることができる、ではない。

 作る働きを持っている。

 意志と機能の境目が、僕らの考える“仕事”よりずっと深いところにある。

 ジェプラが、小さく言う。

『マザー様は、造ることそのものが、その在り方なのですね』

『そう思ってくださって構いません』

 マザーは静かに答えた。

『ただし、何を、どの意図で造るかは、通常ならば私の判断と、機怪天国の中心規範に従います』

 そこで、ほんの少しだけ声の温度が変わる。

『しかし、今回の侵食では、その判断層へ、源悪の意志が食い込んできた』

 ギラが、顔をしかめる。

『要するに、“工場を乗っ取って兵隊を作らせようとした”っちゅう話ですな』

『端的には、その通りです』

 マザーは、ギラのまとめを否定しなかった。

 その端的さが、逆にひどかった。

 工場を乗っ取って兵隊を作らせる。

 まるで、だいぶ荒っぽいSF戦争映画の粗筋のようだ。

 でも、ここでやられているのは、それを惑星規模で、しかも神話の根元みたいな場所でやっているという話なのだ。


***


 マザーは、そのまま僕へ視線を向ける。

『ですが、私は可能な限り、それに抵抗しました』

 その一言で、胸の奥が少しだけざわついた。

『私の子供たちが、邪悪な目的に使われるのが明らかだったからです』

 その言い方は、静かだった。

 でも、そこにはっきりとした拒絶の意志があった。

 子供たち。

 さっきも、マザーは、そう言った。

 全ての機怪人形は、自分の子供だと。

 その言い方にまだ慣れたわけではない。

 でも、いまの一言を聞いた瞬間、それが、ただの呼び方ではないのだと分かった。

 マザーにとって、作ることは機能であり、同時に、切り離せない愛着の形でもあるのだろう。

『そこで、私はできる限りのサボタージュをしました』

 その一言に、ナルディアが目を丸くした。

「サボタージュって、マザーがそんな言い方するんだ」

 僕も、ちょっと同じことを思った。

 でも、マザーは少しも気にした様子がない。

『意味としては最も近い語です』

 そして、静かに続ける。

『命令に完全には逆らえない。しかし、そのまま従うわけにもいかない。ならば、命令の枠の中で最大限の逸脱を行うしかありません』

「枠の中で最大限の逸脱……」

 ブライアントが低く繰り返した。

「いかにも管理存在らしい抵抗の仕方だな」

『ええ』

 マザーは頷く。

『そこで、あなたを、原型(プロトタイプ)型の機怪人形として製造したのです』

 その一言が、胸の真ん中へ落ちた。

 原型。

 プロトタイプ。

「原型……?」

 僕は思わず、そのまま聞き返す。

 人間型の機怪人形を作れ、と命じられて、そこからどうして“原型”が出てくるのか、すぐには分からなかったからだ。

 太郎が、僕を見上げて言った。

『原型、か』

 その言葉は短かったが、妙に重かった。

『つまり、量産型ではない』

「そんな家電みたいに言わないで!」

『整備泣かせの匂いがする』

 それは、微妙に否定しきれない気がした。

 マザーは、僕の困惑をそのまま受け止めるように、落ち着いた声で答えた。

『そうです。最高のシャドーマター制御能力を備えた教導指揮官型です』

 その表現は、一つ一つが重かった。

 最高のシャドーマター制御能力、教導、指揮官型――それは、どう聞いても、“普通の人間型兵士”ではない。

 むしろ、その逆だ。

 単なる駒ではなく、上位存在。

 教え、率いる側だ。

 マザーは、さらに続けた。

『失われた私の身体と同じ型です』

 部屋の空気が、またひとつ変わる。

 ナルディアが、ぽかんと口を開ける。

 ジェプラは目を見開いたまま固まり、ギラは翼を止めた。

 ブライアントだけが、ゆっくりと目を細める。

 僕は、一瞬だけ意味を取りこぼした。

「……同じ、型?」

『はい』

 マザーは頷く。

『あなたはいわば、私の旧型肉体、あるいはその再現系に近い。純粋な戦闘端末でも、単純な奉仕体でもなく、工廠、機怪人形群、そしてグラブール人の全てを教導、統率しうる原型機です』

「ちょっと待って!」

 僕は、思わず片手を上げた。

「それ、だいぶ話が重くなってるんだけど!」

 ナルディアが横で小さく頷く。

「うん。なんか急に、“すごい試作機でした”みたいな話になってる」

「みたい、じゃなくて、たぶんそうなんだよね……」

 僕がそう言うと、マザーは静かに肯定した。

『そうです』

 容赦がない。

 でも、ここでごまかされるよりはましだ。

 ましなのだが、それにしたって重い。

『そのようなものは、普通の意志では御せません』

 マザーは、続けてそう言った。

 その一言で、いくつかのものが急に噛み合った気がした。

 僕が『青葉』と異常なほど自然に認証されたこと。

 光輪が、ただの高火力魔法ではなく、統率や制圧の色を帯びていたこと。

 グラブール人の一部が、僕へ見せる畏れと混乱。

 そして、僕自身が、自分の身体とシャドーマター制御へ妙に“噛み合いすぎている”こと。

 全部、教導指揮官型という言葉の中へ収まりかけている。

 ブライアントが、そこで低く言った。

「……だから、ガラXFIザAにとっても、“普通の人間型機怪人形”で済まない存在になったわけか」

『結果としては』

 マザーは答える。

『彼らは従順な人間型端末を欲した。私は命令を完全には拒めない。ゆえに、命令の外形だけを満たし、中身を逸脱させた』

「それが弓良ね」

 ナルディアが、少し呆けたみたいに言う。

 太郎が、少しだけ納得したように言った。

『弓良が、やたら無茶を通す理由が、少し分かった』

「やたら無茶って!」

『高性能は、たいてい扱う側が困る』

 そこで一拍置く。

『周囲も困る』

 ナルディアが、即座に頷いた。

「それはちょっと分かる」

 僕が睨むと、ナルディアは、ごほんと咳をした。

「しかし、ずいぶんなサボタージュだ」

「うん……」

 僕も、なんと返していいか分からなかった。

 だって、今の話を整理すると、僕は“敵の命令を台無しにするために、最高位寄りの原型機として造られた”ことになる。

 そんなの、スケールが大きすぎて、ちょっとすぐには自分のこととして受け止めきれない。


***


 僕は、また、自分の手を見た。

 自分のことを考えると、こうして手を見るのがクセになってしまった。

 本当に滑らかな手で、鏡を見ても、一見、人間の少女にしか見えない外見だ。

 でも、そこへ今、“原型型機怪人形”という名前が乗せられた。

「……じゃあ」

 僕は、ゆっくりと言った。

「僕が、人間だった頃の記憶を持ってるのは?」

 そこが、いちばん引っかかっている。

 身体だけなら、機怪天国で作られたと説明できる。

 でも、中身は。

 意識は? 記憶は?

 マザーは、その問いに対して、今度は少しだけ長く沈黙した。

『その理由は、現在も完全には解明できていません』

 その答えは、意外だった。

「マザーでも?」

『はい』

 マザーは静かに頷く。

『私の意志だけで完結した製造ではなかったためです。源悪の意志の混線、外部由来情報の流入、そして、私自身の緊急迂回。複数の要因が重なっています』

 つまり、僕はマザーにとっても、きれいに説明のつく存在ではないのだ。

 そのことが少しだけ救いでもあり、少しだけ不安でもあった。

 少なくとも、“お前はこういう兵器だ”と一言で断定されるよりはましだ。

 でも、そのぶん、自分の正体はまだ霧の中に残されている。

 ジェプラが、静かに言った。

『ですが、弓良殿の身体が、神の星から来ていることは、もう疑いようがないのですね』

『はい』

 マザーは頷く。

『少なくとも、その身体は、機怪天国の工廠で形成されました』

 その事実は、やっぱり重い。

 僕は、ナウーピで白兎族に神子と呼ばれた時のことを思い出した。

 あの時は、まだ半分くらい、“そう見られている”だけの話だと思っていた。

 でも今は違う。

 神話の根元の側から、実際に“あなたはこっちで造られた”と言われている。


***


 マザーは、そのまま本題をさらに深い方へ進めた。

『私は、今も、源悪の意志から攻撃を受けています』

 その一言で、空気がまた引き締まる。

『もう三割の支配権を奪われました』

「三割……」

 僕が小さく繰り返すと、ブライアントが低く言う。

「それ、かなり致命的じゃないのか?」

『かなり危険です』

 マザーは、穏やかな声のままそう言った。

『先程のアンチハイドに呼応して、惑星上の隠蔽フィールドを剥がすことはできました。でも、その程度の抵抗しかできません』

「つまり、自力で支配権を戻すのは、できないんだな?」

『難しいです。まだ逆転可能な範囲ですが、放置すれば、いずれ中枢の過半を失います。そうなれば、機怪天国全体が源悪の意志で制御されるでしょう』

 ナルディアが顔をしかめる。

「三割って聞くと、数字だけならまだって思いそうだけど、全然そんな感じじゃないね」

「うん。工場とか船で三割失ったら、だいぶまずい」

 僕が言うと、青葉が静かに補足する。

『主要制御系の三割喪失は、単純な面積比以上の意味を持ちます。重要箇所へ偏在している場合、実効被害はもっと大きいです』

「青葉、それ完全に“かなりまずい”って意味だよね」

『はい』

 短かった。でも、十分だった。

 マザーは続ける。

『源悪の意志と戦うために、手を貸してください』

 その言葉は、命令ではなかった。

 お願い、という形だった。

 でも、その重さは、いままで受けたどんな依頼より大きい。

 機怪天国の管理意志体で、『青葉』を造った者で、僕の身体も作った者――。

 その存在が、いま僕へ助力を求めている。

 しかも、その相手は工廠そのものを侵食する“源悪の意志”だ。

「手を貸す、って……」

 僕は、喉の奥が少し乾くのを感じながら訊いた。

「具体的には、どうするの?」

 マザーは、穏やかな表情のまま答えた。

『あなたと青葉さんの意志体を、『機怪天国』内の機怪都市まで転送します』

 一瞬、意味を取りこぼした。

「……意志体?」

『はい』

 マザーは頷く。

『物理肉体ごとではありません。意識、思考、接続層を抽出し、機怪天国内部の機怪都市へ通します』

 それを聞いた瞬間、ナルディアが半歩前に出た。

「ちょっと待って。それ、めちゃくちゃ危なくない?」

 その反応は、たぶん全員が少し遅れて思ったことを代弁していた。

 僕も、同じだった。

 意志体、転送、機怪都市――聞こえはすごくSFっぽいけど、中身はだいぶ怖い。

 ブライアントも、すぐに言う。

「肉体はどうなる?」

『こちらへ残ります』

 マザーは、答える。

『意識が抜けた状態で、管理保全してください』

「戻れなかったら?」

『その危険はあります』

 マザーは、ごまかさなかった。

 その率直さに、ナルディアが顔を引きつらせる。

「あるんだ……!」

『はい』

『ですが、現時点で、源悪の意志へ直接干渉できる可能性が最も高いのは、神子弓良と青葉さんの組み合わせです』

 ギラが、低く言った。

『そらまた、いきなり核心へ投げ込みますな』

『時間がありません』

 マザーは静かに返す。

『三割の支配権が奪われた状態で、私は既に外縁統治と中枢防衛を同時に回しています。長くは持ちません』

 その言い方は淡々としていた。

 でも、だからこそ、本当にぎりぎりなのだと分かる。

 レンコフが、そこで初めて軍人らしい現実的な問いを投げた。

『意志体転送後、我々外部側が行うべき支援は?』

 マザーはすぐに答える。

『物理防衛の維持。源悪側の外部増援遮断。私の中枢へ向かう侵食経路の外縁切断。それから、神子弓良の肉体保全です』

「肉体保全、か」

 ブライアントが低く言う。

『はい』

 マザーは頷く。

『あれは高位原型機です。失えば、再現は困難です』

 その言い方が、また少し引っかかった。

 高位原型機、失えば再現困難――僕自身の感情とは別のところで、“非常に高価な中枢ユニット”みたいな扱いもされているのだ。

 でも、嫌悪感だけではない。

 いまは、その“特別さ”が、ここへ干渉するために必要でもあるのだろう。


***


 僕は、しばらく黙った。

 機怪都市、意志体転送、源悪の意志との戦い――やることが、急にまた一段変わった。

 先程までの、隠れた星を見つけて、社所ステーションへ入って、機怪巫女と接触する。

 そこまでは、まだ“探索”の延長だった。

 でも、ここから先は違う。

 侵食された工廠の内部へ、自分の意識を飛ばす。

 それは、もう冒険というより、半分侵入、半分手術みたいなものだ。

「弓良……」

 ナルディアが、小さく呼ぶ。

 その声に振り向くと、彼女は、いつもの軽口を引っ込めた顔でこっちを見ていた。

「これ、嫌なら断っていいと思う」

「うん」

「だって、さすがに……危ないっていうか、変だし」

「変だね」

「うん。すごく変」

 その言い方に、少しだけ笑いそうになる。

 でも、ナルディアが本気で心配しているのも分かった。

 ブライアントも、静かに言う。

「俺も同意だ。ここで無理に頷く必要はない」

「でも、他に手は?」

 僕が聞くと、ブライアントは少しだけ黙った。

「現時点では、あまりなさそうだな……」

 つまり、選択肢としては嫌な方だ。

 断る自由はあるけど、断った先に、もっと良い代案があるわけではない。

 ジェプラが、静かに口を開く。

『弓良殿』

「うん」

『……私も、危険だと思います。でも、ここまで来て、弓良殿でなければ届かない場所があるのだとも思います』

 その言葉は、止めるでもなく、押すでもない。

 ただ、事実としてそう見ているという言い方だった。

 ギラも、小さく頷く。

『わても、好き勝手には勧められまへん。でも、源悪の意志やら何やらに食い込めるの、いまんとこ神子はんしかおらんのも事実です』

 しばらく黙っていた太郎が、低く言った。

『肉体を置いていく方式は好きではない』

 僕は、思わず足元を見た。

「太郎……」

『だが、嫌いでも必要な作業はある』

 その言い方は、妙に太郎らしかった。

『弓良が行くなら、太郎は肉体側を守る』

 その一言は、短いのにかなり大きかった。

 青葉は、少しの間のあと、静かに言った。

『本艦は、同行可能と判断します』

 僕は、そちらへ意識を向ける。

「青葉」

『はい』

「怖くない?」

『怖くない、とは言いません』

 その答えが、ちょっと意外だった。

『ですが、本艦は元より、この件の中心にいます。機怪天国、『青葉』、弓良、イハァトパー機関。いずれも切り離せません』

 そして、少しだけ間を置いて続ける。

『行くべきだと考えます』

 その一言に、少しだけ無い心臓が静かになったように思った。

 怖い。

 それは本当にそうだ。

 でも、ここまで来て、自分が中心の外に立っているふりはもうできない。

 『青葉』もそう言っている。

 マザーも、僕をそのために造ったとまで言った。

 なら、あとは僕がどうするかだけだ。

 僕は、ゆっくり息を吐いてから、マザーを見た。

「……分かりました」

 声が少しだけ乾いていたけれど、それでもちゃんと出た。

「行きます」

 その一言とともに、部屋の空気が少しだけ変わる。

 ナルディアが息を呑み、ジェプラが目を閉じる。

 ブライアントは、何も言わなかった。

 でも、その沈黙は止めるものではなかった。

 マザーは、ほんの少しだけ微笑んだ。

『ありがとうございます』

 その笑みは、優しいようにも見える。

 でも、その優しさの裏に、巨大工廠の計算がまるごと乗っているのだと思うと、やっぱり少しぞくりとする。

『では、準備を開始します』

 薄青い長い髪が、窓の向こうでわずかに揺れた。

『神子弓良。青葉さん。機怪都市への転送経路を接続します』

 その言葉と同時に、社所ステーションの床下で、ごく低い振動が始まった。

 部屋の照明が一段暗くなる。

 窓の外では、金属の星の光が、脈打つみたいに波を広げていく。

 僕は、シャドーコンパスを握る手に少しだけ力を込めた。

 もう、後戻りはない。

 次に踏み込むのは、機怪天国の機怪都市とマザーが呼んだ場所だ。

 神話の根元で、侵食された中枢であり――そして、多分、僕自身の正体に一番近い所だろうと思う。

 怖さは、消えない。

 でも、その怖さごと、前へ行くしかない。

 そう思いながら、僕は静かに目を閉じた。


(続く)


プロトタイプは、大体強いです(笑)。ここで、『オッコク編』が終わりです。次パート、『機怪天国編』で全てが明らかになります! このまま~77章まで続けて毎日投稿します。引き続き宜しくお願い申し上げます!

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