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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第IV部 オッコク編

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第五十六章 願いと工場~依頼の報酬


 シャドーコンパスを手にしたまま、僕は、しばらく黙っていた。

 丸い神具の表面は、さっきより光っていない。

 けれど、完全に眠ってしまった感じではない。

 こちらが意識を向ければ、またすぐに何かを返してきそうな、妙な気配がある。

 たぶん、これはもうただの道具ではない。

 少なくとも、普通の意味での“便利な探知機”ではないのだろう。読む側の前提まで含めて、試してくる感じがある。

 僕が、そんな感覚を持て余していると、ブライアントが低い声で言った。

「……ひとつ、整理していいか」

 その声は、思考を前へ進める時の声だった。

 怒っている時とも、皮肉を言う時とも違う。

 無駄なものをいったん横へどけて、骨組みだけ見ようとする時の声だ。

「うん」

 僕が答えると、ブライアントは卓の上の表示を見たまま続けた。

「さっきからの話で、『雪の姫』の伝承を除いた『機械天国』の実際の働きを考えると、“願いを叶える星”って呼び方が、かなり誤解を招いている」

 ナルディアが、すぐに反応する。

「誤解?」

「少なくとも、人類の感覚だと、何でも願えば通る万能の奇跡の星、みたいに聞こえるだろ?」

「そう……たしかに」

 ナルディアは、頷いた。

「子どもの頃に読む、おとぎ話みたいな感じ」

「でも、実際のものとは違う」

 ブライアントは、表示の中の供物と贈物の図を指した。

 ギラが、横から雑にまとめる。

『要するに、天国云々はおいとくと、“なんでも好き放題叶う”んやなくて、“必要なもんが、神の判断で出てくる”感じですな』

「ギラのまとめ、微妙だけど分かりやすかった」

 僕が言うと、ギラは翼を広げた。

『ほめ言葉として受け取っときますわ』

 アラージは、そのやり取りを見ながらも、論点を崩さなかった。

『その理解は、おおむね正しいです。ただし、ひとつ補足します』

「うん」

『機怪天国が何を“必要”と判断するのかは、外部から完全には読めません。どのような要望が通り、欲しい贈物が得られるかは、長い年月での蓄積で経験的にしか分かっていません。そこに、神話性と政治性の両方が生まれます』

「ああ……」

 僕は、その一言で、少しだけ背筋が冷えた。

 必要なものが届く。

 でも、何が必要かを決めるのは、こちらではない。

 その判断がブラックボックスなら、確かに“神の気まぐれ”に見えるだろう。

 ブライアントも、その意味をすぐに掴んだらしい。

「だから、『大集会』と神殿が接触権を独占している」

『はい』

 アラージは頷く。

『機怪天国への接触権は、ただの交易権ではありません。“文明の供給判断へ誰が近づけるか”という問題でもあります』

 そこまで言われると、グィルディがそこへ食い込みたがった理由も、また別の輪郭で見えてくる。

 単に珍しいものを売りたいから、ではない。

 文明の心臓部へ、商人としての手を差し込みたかったのだ。

 考えれば考えるほど、ろくでもない。


***


 しばらく、その話の余韻が部屋に残った。

 ブライアントは卓に表示された図を見つめたまま、少し低い声で言う。

「……なら、カッシーナの件も、話が変わるな」

 僕は、横目で彼を見る。

 やっぱり、そこへ戻る。

 彼にとって、“願いを叶える星”は、最初からそこへ繋がっているのだ。

「どう変わるの?」

 ナルディアが聞くと、ブライアントは腕を組んだまま答えた。

「何でも好き放題を叶える魔法なら、むしろ望みは薄い。だが、高位の製造惑星なら、逆に“どういう願いなら通るか”を考えられる」

「……なるほど」

 僕は、小さく頷く。

 奇跡ではなく、極端に高度な手段――その方が、現実的な可能性としてはずっと掴みやすい。

 アラージが、その流れを拾った。

『ブライアント・ウォルデック。あなたが追っている願いは、神殿監察部も把握しています』

 その言葉に、ナルディアが一瞬だけ兄を見る。

 ブライアントは表情を変えなかったが、わずかに視線が動いた。

『そして、今回の件へ協力した地球人が存在することは、グラブール人社会に対して無視できない意味を持ちます』

「意味?」

 僕が聞くと、アラージは静かに言った。

『地球人が、この事案に協力してくれたら、地球と敵対する急進派の意欲を削ぎ、地球人との友好条約を締結する、かなりの手助けとなるでしょう』

 その一言は、ちょっと意外だった。

 いや、ちょっとではない。かなり意外だ。

 ガナドラやナヴーピで見てきた限り、グラブール人と地球人の関係は、せいぜい局地的な友好か、露骨な敵対か、そのどちらかに見えていた。

 それがいま、急進派を削ぎ、友好条約を助ける、という外交の言葉で語られた。

 ギラが、少しだけ真面目な顔で補足する。

『グラブール人社会、部族によって地球人への温度差が大きいんですわ。白兎族みたいに協力したいと考えるところもあれば、黒狼族みたいに“神のものを荒らす野蛮人”として敵視するところもある』

「それは、まあ、分かるよ」

 僕が言うと、ギラは頷いた。

『で、神子はんと『青葉』さんに、地球人の冒険者、いや山師やったな、が協力した、いう事実は、後者の連中にはかなり効くんです』

 ブライアントが、そこで少しだけ鼻を鳴らした。

「つまり、俺たちは外交カードにもなるわけか」

『なります』

 アラージは、そこを隠さない。

『そして、それは、悪いことばかりではありません』

 その返答は、いかにもオッコクらしかった。

 綺麗事だけではなく、でも露骨に使い捨てる感じでもない。

 利益も現実も、全部そのまま卓上へ載せてくる。

 ブライアントはしばらく黙っていたが、やがて低い声で言った。

「……それ自体は構わない」

 その声音は平坦だった。

 けれど、そこで終わらないことは分かった。

「ただし」

 やっぱり、そうくる。

「自分と妹の友人達が危機に陥っていることが明らかで、それは外交事案だ。そちらも、当然、対応してくれるんだろうな?」

 その言葉が部屋へ落ちた瞬間、空気が引き締まった。

 ナルディアも、まっすぐアラージを見る。

 真剣な顔つきだった。そう、これは、兄妹そろって一番大事な問いなのだ。

 アラージは、その視線を正面から受けた。

『当然です』

 即答だった。

『その捜索の過程で、グィルディ商会の摘発に繋がったのです。まだ、所在が不明なのですが』

 その答えを聞いて、僕は少しだけ息を吐いた。

 少なくとも、ここではっきり“優先順位の外です”とは言われなかった。

 ブライアントは、なおも視線を逸らさない。

「なら、依頼料としては、それを優先してくれ」

 その言い方は、かなり強かった。

 報酬とか謝礼とか、そういう柔らかい言い方ではない。

 依頼料だ。

 つまり、“こっちが協力する対価として、そこは絶対に外すな”という要求だった。

 アラージは、数秒だけ沈黙した。

 拒否の沈黙ではない。

 たぶん、どう言えば最も正確かを選んでいる。

『優先対象の一つとして、明確に扱います』

 そして、静かに頷いた。

『アーマッド、白石源一郎、美優、ならびに探査船シラトリ関連生存者の所在確認は、機怪天国案件と並行して優先照会します』

 ナルディアの肩から、少しだけ力が抜けるのが分かった。

「よかった……」

 そう呟いた声は、ほんの少しだけ震えていた。

 ブライアントも、それ以上は詰めなかった。

 たぶん、これ以上をいまここで押しても、監察部の返答は同じだろう。


***


 アラージは、その流れを受けて、今度は少しだけ表示を切り替えた。

『なお、機怪天国が正常化された場合、協力者に対しては、相応の権利を付与します』

「権利?」

 僕が聞くと、アラージは頷く。

『はい。正式に供物をこちらから捧げた上で、機怪天国に一つ、好きな願いをする権利です』

 その言葉に、部屋の空気が、今度は別の意味で動いた。

 ナルディアが、素で「うわ」と声を漏らす。

 ギラが羽を半分広げる。

 ジェプラは、息を呑む。

 そして、僕は一瞬、意味を飲み込みきれなかった。

「えっと……」

 僕は言葉を探しながら聞いた。

「それって、つまり、成功したら、本当に“願いを持ち込む権利”がもらえるってことですか?」

『そうです』

 アラージは平然と答える。

『神殿監察部名義で正規供物を捧げ、その返答として、個別の願いを一件通す権利を付与します』

「それ、だいぶ大きくない?」

 僕が言うと、ギラがすぐに頷いた。

『だいぶどころやないですわ。むちゃくちゃ大きいです』

 アラージは、そのまま続ける。

『お探しのイハァトパー機関も、得られるでしょう』

 その一言が、真っ直ぐ胸に刺さった。

 イハァトパー機関――ずっと探してきて、『青葉』の中枢に必要なものだ。

 市場にも、噂にもまともに乗らない高位機構――。

 それが、“機怪天国の正常化”と引き換えに、現実的な到達目標として目の前へ置かれた。

 僕は、一瞬だけ言葉を失った。

「……そこまで、はっきり言えるんですか?」

『イハァトパー機関ではありませんが、強力な魔法媒体を贈物として得た部族もいます』

 アラージは、静かに答えた。

『黒狼族です』

「え?」

『彼らの強襲魔法艦隊が、粗転送(バルクトランスファー)魔法を使えるのは、そのお陰です。今回の事案で、『大集会』の権限で取り上げと封印が確定する予定ですが』

「そうだったんですか……」

 意外な事実を知って、驚いた。

『いまや神話的な曖昧さで引っ張る段階ではありません。協力の対価は、明瞭であるべきです』

 その言い方が、すごくオッコクらしい、と思った。

 夢のある話を、ちゃんと契約と権利の形へ落とし込んでくる。

 ブライアントは、僕の横で黙っていた。

 でも、彼の目が少しだけ揺れたのが分かった。

 イハァトパー機関だけではない。

 “好きな願いをする権利”という言葉そのものが、彼にとっては他人事ではない。

 アラージは、今度は僕だけでなく、他の面々にも視線を向けた。

『ジェプラ、ブライアント・ウォルデック、ラギ・ギラにも、機怪巫女が“個人の願い”として許容する範囲で、願いをする権利を付与します』

 ジェプラが思わず目を見開いた。

「わ、私にも、ですか」

『はい』

 アラージは頷く。

『白兎族の立会いと継続協力の価値は小さくありません』

 ジェプラは、少し戸惑った顔で僕を見る。

 僕も、ちょっと驚いていた。

 彼女はきっと、自分が“そういう報酬を受け取る側”だとはあまり思っていなかったのだろう。

 ギラは、逆にちょっと面白そうに羽を揺らした。

『やー、えらい話になってきましたな。わてにも、ですか』

『はい。ガナドラ潜入捜査と内通者確保、裏帳簿押収への寄与を評価しています』

『ありがたい話ですわ』

 そう言いながらも、ギラの声には少しだけ本気の驚きも混じっていた。

 ナルディアが、そこで勢いよく言った。

「えっ、じゃあ、あたしは?」

 アラージは、ほんの少しだけ間を置いた。

 意地悪しているわけではなく、言葉を正確にするための間だと分かる。

『ナルディア。あなたは本件の保護対象であり、シラトリ関連案件の当事者です。したがって、別系統で扱います』

「別系統?」

「たぶん、“報酬”というより“助けるのが先”ってことだろ」

 ブライアントが言う。

 ナルディアは一瞬だけ口を尖らせ、それからすぐに理解した顔になった。

「……あ、そっか」

 たしかに、ナルディアにとって最優先は“好きな願い”ではないだろう。

 アーマッドたちの行方だ。

 そして、その件は、いまの段階で既に監察部の優先照会対象に入っている。

 アラージも、静かに続ける。

『あなたに関しては、先に保護と捜索の方が優先です』

「うん、まあ、それなら納得」

 ナルディアは、素直に頷いた。

 その切り替えの速さは、やっぱり強い子だなあ、と思った。


***


 しばらくして、太郎が、ぼそっと言った。

『太郎は?』

 一瞬、部屋の空気が止まった。

 いや、正確には、僕が止まった。

 太郎は、難しい話なのか、大分、静かだった。それが、急に発言したのだ。

「太郎、そこ訊くんだ?」

『当然だ』

 太郎はいつもの調子だった。

『護衛している。移動した。ぶつかった。役に立っている』

「うん、たしかに役に立ってる」

 むしろ、かなり役に立っている。

 でも、本人がこうも当たり前の顔で報酬の話へ入ってくると、ちょっと可笑しい。

 ギラが肩を震わせ、ナルディアが口元を押さえている。

 ジェプラまで、ほんの少しだけ困ったように笑っていた。

 アラージは、そういう反応にまったく動じなかった。

 むしろ、ほんの少しだけ口元をゆるめて言った。

『あなたには、神殿監察部で、何かお願いを聞いてあげます』

「ざっくりしてるなあ」

 思わず僕が言うと、アラージは平然としたままだ。

『太郎に対して、機怪天国へ個人願望権を持ち込むのは、やや形式が合いませんので』

「たしかに形式は合わないけど」

『神殿監察部として、相応の便宜を図ることは可能です』

 太郎は、数秒だけ黙って、それから短く言った。

『考えておく』

「いま決めないんだ」

『大事なお願いは、すぐに使わない方がよい』

 その返答が妙に太郎らしくて、僕は少しだけ笑ってしまった。

 ナルディアも吹き出す。

「太郎、意外と計画的ね」

『当然だ』

「いや、そこ当然なんだ」

 部屋の空気が、ほんの少しだけ和らいだ。

 ずっと重い話が続いていたから、こういう小さな抜けがあるだけで息がしやすい。


***


 でも、その和らぎは長くは続かなかった。

 ブライアントが、もう一度、静かに言ったからだ。

「条件は分かった。報酬の筋も通ってる」

 その声音は落ち着いている。

 けれど、その落ち着きの下に、まだ尖った感情が隠れているように思った。

「だが、ひとつ確認する」

 アラージは頷く。

『どうぞ』

「さっきも言ったが、アーマッド達の件は“好きな願い”の話とは別だ」

『ええ』

「俺たちが協力するなら、その捜索は外交案件として、ちゃんと優先するんだろうな?」

 さっきよりも、言葉が少しだけ鋭い。

 報酬としてではなく、義務として。

 そこをはっきり切り分けにきている。

 アラージは、その視線を正面から受けた。

『当然です』

 やはり、迷いなく答えた。

『その捜索の過程で、グィルディ商会の摘発に繋がったのです。機怪天国案件とシラトリ案件は、現段階で切り分けて扱えません』

「所在は、まだ不明なんだな」

『はい』

 アラージはそこだけは厳密に答える。

『まだ、所在は不明です。ただし、追う価値は非常に高い』

 ブライアントは数秒だけ黙っていた。

 それから、さっきより少しだけ低い声で言った。

「なら、やはり、依頼料としては、それを優先してくれ」

 やっぱり、その言い方だった。

 カッシーナの願いも、機怪天国の権利も、たぶん彼にとっては大きい。

 でも、それより先に、いま目の前で消えた仲間たちの件を外すつもりはない。

 その順番の付け方が、ひどくブライアントらしかった。

 太郎が、珍しくきっぱりと言った。

『よい要求だ。行方不明者の確認は、報酬ではなく先にやるべきだ』

 僕が少し驚いて見ると、太郎は続ける。

『整備でも、人命優先は基本だ』

 ブライアントは何も言わなかったが、少しだけ目を細めた。

 アラージは、今度は、ほんの少しだけ柔らかい表情になった気がした。

 もちろん、よく見ないと分からない程度だ。

 でも、たしかに、さっきまでより少しだけ“人の感情に対する理解”が表に出た。

『承知しました』

 そして、静かに頷く。

『アーマッド、白石源一郎、美優、ならびにシラトリ関連生存者の捜索と所在確認を、優先照会項目として明記します』

 ナルディアが、その言葉を聞いて小さく息を吐いた。

 ほっとしたのだと思う。

 たぶん、僕も同じだった。


***


 その後、しばらく誰もすぐには喋らなかった。

 機怪天国が正常化されたら、“好きな願いをする権利”が与えられる。

 イハァトパー機関も、得られるだろうとまで言われた。

 ブライアントとナルディアの友人たちの捜索も、優先照会として約束された。

 ジェプラやギラにまで、個人願望権が提示された。

 太郎は太郎で、“何かお願いを聞いてあげる”という、妙に太郎向けの報酬をもらった。

 話としては、かなり大きい。

 大きすぎて、すぐには飲み込めない。

 僕は、卓の上の表示を見ながら、小さく言った。

「……本当に、そこまで払う価値がある案件なんですね」

 アラージは、静かに頷いた。

『あります』

 その一言には、迷いがなかった。

『機怪天国の失踪は、信仰の問題ではなく、文明運用の問題です。神話ではなく、基盤です。したがって、正常化に成功するなら、それに見合う対価を提示するのは当然です』

「基盤、か」

 僕が繰り返すと、青葉が静かに補足した。

『適切な表現です。供給中枢が停止した文明は、すぐには崩れなくとも、やがて各所から綻びます』

 その言葉を聞いて、ジェプラが少しだけ目を伏せる。

「白兎族の神殿圏でも、きっと長くは持たないのですね」

『はい』

 青葉は平然と答える。

『表面化が遅いだけで、止まった供給は、必ずどこかを枯らします』

 ギラも、その言い方へ頷いた。

『ガナドラみたいな市場は、まだ誤魔化しが利きますけどな。地方神殿圏の方が、ほんまは先に困るんですわ』

 その一言は、ちょっと重かった。

 ナヴーピ、白兎族の神殿、ゲラバ、ジェプラ――。

 僕が見てきたあの場所も、このまま機怪天国が失われたままなら、いずれ確実に困る。

 つまり、この探索は僕やブライアントたち個人の事情だけではない。

 グラブール人の社会全体にとって必要な仕事なのだ。

 だからこそ、報酬がこれだけ大きい。

 そして、期待もこれだけ重い。


***


 アラージは、最後にひとつだけ静かに言った。

『今の段階で、約束できるものはすべて提示しました』

 その言葉は、妙に重かった。

 ごまかしはない。夢だけを餌にもしない。

 その代わり、ここから先は本当に命がけだと言外に伝えてくる。

『その上で、神子弓良。『青葉』。ブライアント・ウォルデック。ナルディア。ジェプラ。ラギ・ギラ。太郎。あなた方には、機怪天国探索への正式協力を求めます』

 僕は、そこでゆっくり息を吐いた。

 もう、話は全部つながっている。

 神子、機怪天国、イハァトパー機関、そしてシラトリと黒狼族にガラXFIザA――そして、“願いを叶える権利”。

 ここで止まるわけにはいかない。

「……やります」

 僕がそう言うと、ナルディアがすぐに続いた。

「あたしも」

 ブライアントは短く頷くだけだったが、それで十分だった。

 ジェプラも、静かに姿勢を正している。

 ギラは、もう最初から降りる気がない顔だ。

 太郎は、当然という顔で僕の足元にいた。

 アラージは、全員の顔を一度見たあと、小さく頷いた。

『結構です』

 その一言で、この話は“提案”から“正式な案件”へ変わった気がした。

 僕は、卓の上のシャドーコンパスをそっと手元へ引き寄せた。

 軽いけど、そこへ乗っている意味は、少しも軽くない。

 次に必要なのは、たぶん実際の出航準備だ。

 オッコクでの監察段階は、ここでようやく終わりに近づいた。

 ここから先は、静かな会議室ではなく、また宇宙へ出る。

 そう思った時、胸の奥に、ほんの少しだけ別の感覚が混じった。

 怖さだけではない。

 わくわく、というには重い。

 でも、未知の核心へ近づいていく時の、あの感じだ。

 機怪天国――そこに何があるのか。

 何が残っていて、何が壊れているのか。

 そして、僕はその中心で何を見せられるのか。

 そこはかとない不安を抱えたまま、僕はシャドーコンパスの縁を、もう一度だけ指でなぞった。


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