第五十章 参考人の条件
深部区画へ入ってから、空気がさらに一段、静かになった気がした。
客室棟のあたりまでは、まだ“監察部の来客施設”という感じがあった。整っていて、落ち着いていて、でもどこか人を迎えるための柔らかさが残っていた。
けれど、今案内されているこの区画は違う。
壁面の意匠はより簡素で、通路も必要な幅だけを正確に取ってある。
装飾より機能重視、歓迎より運用が大事――そんな場所だと思った。
しかも、静かなのに、人が仕事をしている気配は、濃かった。
扉の向こうで、誰かが話しているらしい。
光が瞬き、記録装置がどこかで動いている。
目立つ存在感はないのに、「常に何かが解析され、判断されている」気配はあった。
「……さっきの会議室とは空気が違うかも」
僕が小さく言うと、ブライアントが隣で頷いた。
「本番の区画、ってことだろうね」
「さっきは本番じゃなかったの?」
「導入さ」
言い方が少し嫌だった。
でも、確かに、そうなのだろうと思わせる雰囲気だ。
アラージが最初に僕たちへ見せたのは、“いきなり潰しにはこない”という事実と、“それでも全部を把握しようとしている”という意志だった。
ここから先は、その意志がもっと具体的な形を持つのだ。
ナルディアが、前を歩く案内役の背中を見ながら言った。
「参考人って言われたけどさ、なんか普通にすごい場所に連れて行かれてない?」
「そんな感じだね」
僕が応えると、ナルディアは小さくため息をついた。
「“安心してね”って言われた直後に、“でも逃がしません”って感じするの、ずるくない?」
「ずるいというより、必用性の問題だな」
ブライアントが言う。
「俺たちは、どうやらグラブール人にとって重要な事案に関わっている。いまさら何も知らない一般人って顔は、できない」
それを言われると否定できない。
ガナドラの娯楽ステーションでナルディアを奪い返しただけなら、まだ局地的な騒ぎだったかもしれない。
でも、それが、“広域案件”として、大きな事件と関わっているらしい。
その核心的な関係者として、“巻き込まれました”だけでは済まないところまで来ている。
ギラは、翼を体へ沿わせながら小声で言った。
『この先、狐族の実務屋が何人か出てくるかもしれませんけど、びびらんでええですからな』
「びびらない方が難しくない?」
僕がそう聞くと、ギラは少しだけ笑った。
『びびっててもええんです。ただ、“びびってるから何でも喋ります”の顔さえせんかったら』
「それ、重要なんだ」
『めっちゃ重要ですわ』
その答えが妙に即答だったので、逆に説得力があった。
ジェプラは、さっきからかなり背筋を伸ばしている。
緊張しているのは見て取れる。
でも、白兎族の見習い神官として、“ここで縮こまるわけにはいかない”と思っているのだろう。
「ジェプラ、大丈夫?」
僕が小さく聞くと、彼女はすぐに頷いた。
『大丈夫です』
間髪入れずにそう答えてから、少しだけ正直に付け足す。
『緊張はしていますが』
「だよね」
『はい。ですが、白兎族の名がここでどう見られるのか、自分の目で見ておきたいとも思います』
その言葉を聞いて、ちょっとだけ頼もしく感じた。
ジェプラは優しくて真面目だけれど、必要な時にはちゃんと踏みとどまる強さがある。
太郎は、そんな僕たちとは少し違う関心で周囲を見ていた。
『扉の厚みが増えた』
「またそこなんだ」
『重要だ』
「どう重要なの?」
『重要区画ということだ』
「……それは、たしかにそうか」
雑なようでいて、わりと本質的なことを言うから困る。
***
次に通された部屋は、さっきよりやや狭かった。
ただ、狭いといっても圧迫感があるわけではない。
卓が一つと椅子が人数分あって、壁面には記録デバイスがある。
そして、部屋の中央へ向かって自然に意識が集まるような作りになっていた。
今度は、“話し合いのための部屋”ではなく、“確認のための部屋”という感じがした。
アラージは、既にそこにいた。
いや、正確に言うと、“すでにその仮想体を投射していた”。
でも、さっきより存在感が濃かった。
投影位置も固定され、空間とのなじみ方も深い。
僕の目には、もう、少しも映像のようには見えなくなっていた。
アラージは、僕たちが入ってきたことを確認すると、無駄なく言った。
『お待たせしました。では、ここからは、手順を簡略化せずに進めます』
「さっきまでは簡略化してたの?」
僕が思わず言うと、アラージは少しだけ首を傾げた。
『かなりしていましたよ』
「うわ」
ナルディアが小さく言った。
「全然そうは見えなかったんだけど!」
『あなた方の負荷を考慮しました』
言い方は事務的なのに、内容だけ聞くとちょっと親切なのが、逆にややこしい。
ブライアントは、席に着く前からもう切り込んでいた。
「なら、手順の最初は、もう一度、立場確認だ」
『承知しています』
「こっちが“参考人”というのはさっき聞いた。だが、その参考人の条件をはっきりさせたい」
アラージは、ごくわずかに目を細めた。
その表情には、面倒くさそうな色はない。
むしろ、そこを先に言うだろうと思っていた顔だ。
『条件、とは?』
「こっちは拘束対象ではない。任意協力でいいんだな」
『はい』
「質問に対して、答えない選択肢もある」
『あります』
「この場で不利な解釈をされない保証は?」
『一定範囲では、あります』
ブライアントは、そこで少しだけ息を吐いた。
「……一定範囲、ね」
『神殿監察部は、あなた方を“捜査対象”としては、扱っていません。ですが、“判断材料の不足した重要存在”としては、扱っています』
その言い方は、すごく嫌だった。
でも、変にごまかされるよりはよほどマシでもある。
「重要存在って?」
僕が口を挟むと、アラージは淡々と答えた。
『神子弓良。『青葉』。白兎族の後見。黒狼族との接触。光輪。ガナドラ事案。これだけの件に関係しているとなれば、重要な存在でないと考える方が難しいでしょう』
「……ですよね」
言い返せない。
ナルディアが、少しだけ身を縮めて聞いた。
「じゃあ、あたしもその“重要存在”ってやつなの?」
『あなたは、神子弓良に関係した“広域案件に接触した当事者”です』
アラージは、即答した。
『シラトリ撃沈から、黒狼族とガラXFIザAの接続点まで、あなたの証言は重要です』
ナルディアは、それを聞いて、ちょっと複雑そうな顔になった。
「なんか、嬉しくない意味で格上げされた感じする」
「多分、そうだね」
僕が言うと、ナルディアは眉を寄せた。
「弓良、そういうとこ、妙に正直だよね」
「ごめん」
「いや、いいんだけど!」
そのやり取りを見ながら、アラージはほんの少しだけ口元を動かした。
この人、たぶん本当に、こういう人間同士の会話を観察している。
ただ情報を集めるだけではなく、誰がどういう反応をするかも込みで見ているようだ。
***
ひと通り、法的立場と現在の扱いについての確認が終わったあと、アラージは卓の上に浮かんでいた記録表示をひとつ消した。
それまでの彼女は、こちらの発言を受けて整理し、必要な情報だけを正確に返してくる、いわば事務的な応答をしていた。
しかし、その表示を閉じた後の沈黙は、少しだけ質が違った。
単なる事務的確認ではなく、もう一段深い話へ入る前の間だと分かった。
僕は、自然と背筋を伸ばした。
ブライアントも、さっきまでより少しだけ視線を鋭くしている。
ジェプラは、静かに姿勢を正し、ナルディアはさすがにここでは軽口を差し挟まなかった。
ギラだけが、相変わらずどこか肩の力を抜いているように見えたが、その目はちゃんとアラージを見ていた。
アラージは、僕たちを順に見てから、静かな声で言った。
『ここで、ひとつ誤解のないようにしておきたいのですが』
「誤解?」
僕が聞き返すと、アラージは頷いた。
『神殿監察部が、あなた方に注目したのは、グィルディ商会の事件がきっかけではありません』
その一言で、部屋の空気が少し変わった。
ナルディアが、目を瞬かせる。
「え、そうなの?」
『ええ』
アラージは淡々と答えた。
『ガナドラでの事案は、確かに大きな契機でした。しかし、それ以前から、神殿監察部は神子弓良、『青葉』、そして地球人側の関係者については、継続観察していました』
僕は、思わず少しだけ眉をひそめた。
「継続観察って……いつから?」
アラージは、卓の上へ新しい記録を立体表示する。
それは、ナヴーピ、白兎族神殿、地球側の接触、そして銀河系開発株式会社についての記録の関係図だった。
いくつかの記録が、既に一つにまとまっていた。
『少なくとも、白兎族が神子弓良と『青葉』を確認した時点からです』
『やはり……』
ジェプラが、小さく呟いた。
白兎族としては、あの時点でかなり大きな出来事だったのだろう。
でも、監察部も同時に見ていたとなると、ナヴーピで起きていたことの意味がまた少し変わる、と思った。
アラージは、続けた。
『白兎族の神殿圏が、“神の船”と“神子”を確認した。その情報が上がった時点で、神殿監察部としては、見過ごせませんでした』
「それは、そうだろうな」
ブライアントが低い声で頷いた。
『しかも、その神子が、地球人由来の人格、記憶を保持している可能性がある。さらに、あなた――GDC登録の地球人と一緒にいた』
「つまり、最初から“白兎族だけの宗教案件”ではないと見ていた訳だな?」
『そうです』
アラージは、即座に肯定した。
『白兎族以外のグラブール人と地球人の関係だけでなく、神の遺産の正規管理権や神殿の信仰対象そのものまで関係する可能性がありました』
ギラが、小さく翼を鳴らす。
『そら、監察部さんが黙っとるわけないですわな』
『ええ』
アラージは視線だけで頷いた。
『ですから、あなた方は、最初から、グィルディの事件とは無関係に、重要観察対象でした』
その言い方に、僕は少しだけ複雑な気分になった。
白兎族に迎えられ、ナヴーピで神子として扱われた時、僕はまだ“その場で起きていること”としてしか受け止めきれていなかった。
でも、その時点で既に、もっと他のところ――狐族の監察部や、『大集会』とやらに近い筋からも見られていたのだ。
「……そっか」
僕は、小さく息を吐いた。
「思っていたより、最初から大事だったんだね」
『かなり』
アラージは、容赦なくそう言った。
『むしろ、白兎族に先行接触されたことの方が、神殿監察部にとっては想定外でした』
「それって、いわゆる官僚主義のせいか?」
ブライアントが少し皮肉っぽく言う。
アラージは、その言葉に対して目を細めた。
怒ったわけではなく、むしろ、言いづらい事実を先に口にされた時の顔だと思った。
『そう言えるでしょう』
あっさり認めた。
『元々、GDCとは、神殿監察部経由で接触する予定でした。我々は、GDCの少なくとも一部は、我々と同様の組織と見なしています』
その一言で、今度はブライアントがわずかに眉を上げた。
「GDCと、最初から?」
『はい』
アラージは、表示の一部を切り替えた。
『神殿監察部のいくつかの案件で地球人側を介して協力を得たい、と以前から接触の必要性が議論されていました。そのため、我々は元々、GDCの一部の筋と接触していました』
「なるほどな」
『特に、今回は、あなたについて、GDC側から通知された内容が、“神子”に従えられた“神の船”に当たる可能性が高かったので、最初の窓口は監察部が担うべきだと準備していたのです』
「じゃあ、本来なら、白兎族より先に、そっちが来るはずだったんだな?」
『理屈の上では』
アラージは、そこでほんの少しだけ口元を緩めた。
『ですが、理屈の上の話と、実際に動く話は違います』
ナルディアが、小さく首を傾げる。
「つまり、遅れたってこと」
『はい』
アラージは、実にあっさり頷いた。
『確認手続き、承認系統、部族間照会、対外窓口の調整……そういったものを丁寧に踏んでいるうちに、白兎族が先に現地接触へ成功しました』
『やー、狐族さんらしいですなあ』
ギラが、いかにも面白そうに言う。
『慎重すぎて、現場の白兎族に出し抜かれたわけですやろ』
『そういう言い方もできます』
アラージは、意外にも否定しなかった。
ジェプラは、ちょっとだけ誇らしそうな顔になっていた。
たぶん、白兎族の神殿見習いとしても、そこは少し嬉しいのだろう。
『白兎族の第三十五魔女ゲラバは、かなりの情報通のようです。神話的対象に対する初動が早かった』
アラージは、ジェプラの方へ一瞬視線を向けてから言う。
『それは、個人的な見解として、危うさもあると思いますが、今回に限っては上手く働いた。神殿監察部より先に現場へ届いた事実自体は認めるべきでしょう』
『ありがとうございます』
ジェプラが、少し緊張した顔で頭を下げる。
『礼を言われることではありません』
アラージは静かに返す。
『現に、その結果として、神子弓良と『青葉』は白兎族の神殿で保護され、黒狼族による早期奪取も避けられた。監察部としても、その点は評価しています』
その言葉は、意外とまっすぐだった。
白兎族のやり方は、狐族から見れば粗く見えるのだろう。
しかし、今回はその“粗さを含んだ早さ”が、結果的に僕たちを助けた。
アラージは、そのこと自体はちゃんと認めるらしい。
複雑な裏話を聞きながら、太郎が小さく言った。
『先に見つけた者が強い』
「単純だなあ」
『現場では、だいたいそうだ』
その一言は、妙に説得力があった。
ブライアントが、そこで腕を組んだまま言う。
「まとめると、我々は、最初から神殿監察部の観察対象で、なおかつ接触候補でもあった訳だな」
太郎が、短く言った。
『兄さんの整理はだいたい正しい』
ブライアントが少しだけ目を向ける。
「その呼び方、定着したのか?」
『定着しつつある』
アラージは、少し微笑んだように見えた。
『はい。ガナドラの件がなかったとしても、いずれ正式接触はしていました』
その言い方に、僕は少しだけ目を瞬かせた。
「……じゃあ、グィルディの事件って?」
『接触の予定を早め、同時に話を大きくした要因です』
アラージは、そう言った。
『本来なら、もっと整った手順と、もっと穏当な場所で、あなた方と話していたでしょう』
「ガナドラは、あんまり穏当じゃなかったね……」
僕が言うと、ナルディアが、すぐに頷く。
「それはそう。研修で色々、体験したけど、かなり大変な方だった!」
『あれは、かなり例外的です』
アラージは、平然とした顔でそう言った。
でも、さすがに少しは本音も混じっている気がした。
ギラが、肩をすくめる。
『いやあ、わてとしては、あの騒ぎのおかげで、監察部さんと神子はんらが一気につながったんやから、結果としては悪ない思いますけどな』
『それは、神殿監察部としても同意見です』
アラージは、ごく自然にそう返した。
『グィルディの摘発と合わせて接触できたのは、結果的には、良かった』
その一言で、話の輪郭がかなりはっきりした気がした。
僕たちは、グィルディの事件で偶然見つかっただけでなく、最初から注目されていた。
ただ、神殿監察部が官僚的に動いている間に、白兎族が先に手を伸ばした。
そこへガナドラの騒ぎが重なって、一気に正式接触の流れが前倒しになった――。
「なるほどね……」
そう思うけれど、監察部――これまでの感じだと、グラブール人の公安やFBIみたいな感じだろうか――に、ずっと見られていたのだと分かると、やっぱり少し落ち着かない。
「なんか安心するような、しないような……」
「しない方じゃない?」
ナルディアが小声で言う。
「ずっと注目されてたってことでしょ」
「そうなんだよね……」
僕がそう返すと、アラージの口元がほんの少しだけ緩んだ。
『監察部の視線は、慣れると便利ですよ』
「慣れたくはないかも」
『そう言うと思いました』
やっぱり、この人には少し調子が狂う。
でも、その軽さのあとで、アラージはきちんと本題へ戻った。
視線を僕と青葉へ向けて、静かな声で言う。
『さて』
部屋の空気が、もう一段だけ締まる。
『現在の段階では、あなた方は、参考人、重要存在であると同時に、将来的な協力者候補です』
ブライアントは、そこで本題を一段深くした。
「そうか。なら、逆に聞くが、どこまでこちらの協力を期待している?」
『良い質問です』
アラージは、今度は真正面から答えた。
『神子弓良と『青葉』に対して、二点、お願いしたいことがあります』
その一言で、僕は自然と姿勢を正した。
重要存在として、今ここで、正式にこちらへ頼みごとがある。
ということは、この先の話は、もっと重い。
アラージは、続けた。
『神殿監察部としては、神子弓良と『青葉』を、単なる事件の巻き込まれ当事者として処理することは不可能です。能力、立場、いずれも大きすぎる』
ギラが、小さく肩を揺らす。
『ほら、来ましたで』
アラージは続ける。
「つまり、自分達でも、その能力と立場を使いたいってことか?」
ブライアントの言い方はややきつかった。
でも、気持ちは分かる。
『いいえ、“便利な道具として使う”という意味ではありません。むしろ逆です。神子と神の船を、勝手に動く危険要素として放置しないためにも、正式な位置づけが必要なのです』
その言葉を聞いて、僕は少しだけ目を瞬いた。
危険要素――それはたぶん、酷く冷たい見方だ。
でも、監察部のような組織から見れば、そういう言葉になるのも理解できる。
白兎族から見れば、僕は神子だ。
ナウーピの人たちから見れば、神の船の主だ。
でも、監察部から見れば、まず“既存の枠に収まらない巨大な要素”なのだろう。ほとんど戦略兵器みたいに見えるのかもしれない。
アラージは、僕を見た。
『現状のままでは、あなた方は“礼をもって扱うべき重要参考人”です』
「それは、さっき聞いたよ」
『ええ。ですが、それだけでは足りません』
「足りない?」
『今後、より大きな案件へ踏み込むなら、立場が弱すぎます』
その言葉に、僕は、少しだけ嫌な予感を覚えた。
立場、弱い、大きな案件――これから何か、また大きい肩書きを渡されるのではないか。
そう思った瞬間、ブライアントが先に聞いた。
「何を用意する気だ?」
アラージは、ごくわずかに微笑んだ。
『それを、次に説明します』
その言い方は冷静なのに、妙に“ここからが本題だ”と感じさせるものだった。
ギラが小さく羽を鳴らす。
『やー、やっぱり来ましたな』
「ギラ、知ってたの?」
僕が聞くと、ギラは少しだけ嘴の端を上げた。
『そこまで確定ではなかったですけど、ガナドラで光輪まで公開された以上、ただの参考人のまま置いとくのは無理やろな、とは思っとりました』
「それは、そうだよね……」
『ええ。神子はんと『青葉』さん、もう“事件に巻き込まれた珍しい客”やあらへんですから』
その言い方は軽い。でも、言っていることはかなり重い。
ジェプラが、そこで静かに告げた。
『それは、神子弓良殿を敬うことと両立するのですか?』
その問いは、たぶんジェプラだからこそ出てきた。
信仰と制度が、彼女の中ではまだ綺麗につながっているからだ。
アラージは、少しだけ間を置いて答えた。
『両立させるべきです』
「べき、ですか」
『はい。敬意と立場は矛盾しません。むしろ、正しく扱うためには両方必要です』
その答えは、オッコクらしいと思った。
ナウーピなら、たぶん“敬う”が先に来る。
ガナドラなら、たぶん“利用する”が先に来る。
オッコクは、その両方を制度の中へ押し込もうとしている。
そして、それがたぶん、この惑星の怖さでもあるのだろう。
僕は、思わず小さく息を吐いた。
参考人、重要存在、監察の対象――そして、その先の立場。
オッコクへ来てからまだそれほど経っていないのに、もう“ただの事情聴取”では済まないところまで話が進み始めている。
でも、ここで引くわけにもいかない。
僕は卓の上で手を組みながら、アラージの次の言葉を待った。




