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宇宙船墓場で古代エイリアンのアンドロイドとして転生した件  作者: 謎村ノン
第III部 ガナドラ編

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第三十二章 ボイカシマーケットは迷宮だ

 『青葉』がガナドラの指定ドックへ接舷したあとも、しばらく僕は、前方表示から目を離せなかった。

 近づく前から巨大だとは思っていた。けれど、こうして実際にドックへ入ってみると、ガナドラ星系の人工構造物群は、巨大という言葉だけでは少し足りない。

 星系の中に都市があるというより、都市の概念そのものを星系規模へ押し広げたような感じがした。

 リング状のステーションが幾重にも重なり、そのあいだを細い交通光が流れ、搬送アームの列が骨のように伸びている。ほとんど、中心にある安定した赤色矮星が見えないほどだ。古い〈先住者〉由来の滑らかな構造物の上に、後世のグラブール人や他種族が継ぎ足したドック、倉庫、商館、管制塔が何層にも乗っていて、全体として一つの巨大な生き物みたいにも見える。

 整然としている部分もあるのに、見方を変えるとひどく雑多で、たぶんそれがこの場所の本質なのだろう。

「……見てるだけで疲れるよ」

 思わずそう呟くと、ブライアントが横で笑った。

「まだ歩いてもいないのにか?」

「歩いたら、もっと疲れそう」

「それは、多分、正しいね」

 そう言いながらも、彼の顔は楽しそうだった。

 ナヴーピにいた時の彼は、落ち着いた兄貴分の顔と、どこか内側で焦っている顔が半分ずつ混ざっていた。しかし、ガナドラへ来てからのブライアントは、それに加えて、掘る価値のある巨大鉱脈を見つけた山師の顔まで出てきている。

 彼にとって、この星系はたぶん危険であると同時に、ものすごく魅力的な場所なのだ。

『市場区画へ向かう準備が整いました』

 青葉が静かに告げる。

『ゼカタの接続許可を確認。ボイカシ市場(マーケット)までの移動ルートも取得済みです』

「仕事が早いなあ」

『ゾンゾ経由の情報ですので、利便性の高さと警戒の必要性は両立します』

「つまり、便利だけど信用するなってことだね」

『はい』

 その言い方があまりにも青葉らしくて、少しだけ笑ってしまった。

 今回の市場行きの顔ぶれは、前と同じだった。

 僕、ブライアント、ジェプラ、そして太郎だ。

 僕たちはゼカタ(シャトル)へ乗り換えるため、接続ブリッジへ向かった。ガナドラのドック区画は、ナヴーピの整った軌道上ドックとはかなり違っていた。

 白兎族のドックがきちんと整備された神殿附属施設だとすれば、こっちは巨大物流港と古代遺跡の混成物みたいな雰囲気だった。

 足元の金属床はきれいに磨かれている部分と、妙に古びた滑らかな材質の部分が混在していて――どこまでが最近の増設でどこからが〈先住者〉時代の基盤なのか、見慣れていない僕にはさっぱりわからない。

 それでも、青葉には分かるらしい。

『現在通過中の基部構造は、後代のグラブール系素材ではありません』

「じゃあ、これも?」

『〈先住者〉由来の可能性が高いです』

 ジェプラが、少しだけ緊張した顔で周囲を見ていた。

『このような場所で、日常的に商いが行われているのですね』

「ナヴーピからすると、だいぶ違う?」

『かなり違います』

 彼女は正直に答えた。

『白兎族にも市場はありますが、ここまで雑多ではありませんし、こんなふうに異種族が自然に行き交う場所も多くありません』

 その言葉を聞いて、僕は、少しだけ彼女の横顔を見た。

 ジェプラは同行すると決まってからも、必要以上に不安を口にはしなかった。しかし、こういう場所が完全に初体験に近いのだとすれば、緊張して当然だ。しかも、彼女は、ただの見学者ではなく、白兎族の案内役として、半分くらいは、僕たちの引率者の一人でもある。

 太郎は、そんな空気をまったく気にせず、別方向に忙しかった。

『配線が多い』

「そこ?」

『多い』

「市場へ行く前から整備視点なんだな」

『重要だからな』

 熊のぬいぐるみみたいな見た目のくせに、やたら職人気質なのは相変わらずだった。ジェプラが少しだけ肩の力を抜いて、太郎へ真面目に返す。

『この規模の市場ですから、物流制御や場制御の経路も多いのでしょう』

『うむ』

 太郎が偉そうにぴこんと鳴った。

『ジェプラは、話が分かる』

「太郎、また上から目線だよ」

『正しい評価』

 この二人のやり取りを見ていると、妙に気が楽になる。

 ナヴーピの頃から思っていたけれど――ジェプラは真面目すぎるくらい真面目で、太郎は太郎で妙に自信満々だから、噛み合っているようで噛み合っていない会話が、何故か成立するのだ。


***


 ゼカタへ乗り込み、ドック区画を離れると、ガナドラの内側がようやく本当の意味で見えてきた。

 ボイカシ市場(マーケット)は、単独の大きな市場というより、無数の市場通りを束ねた巨大な迷宮だった。

 ゼカタの窓越しに見える市場区画は、近づくほどに整理不能になっていった。

 外から見た時は、巨大な商業ブロックと搬送路の集合に見えた。

 でも、いざ近づくと、それぞれの区画が別の文化圏みたいな顔をしている。

 ある区画は、白と青の金属板で揃えた清潔そうな表通りを持っていた。

 別の区画は、赤茶けた骨組みに布みたいな膜を何重にも張っていて、露天と倉庫の中間みたいに見える。

 さらにその隣では、水の中に沈んでいるような半透明の商店ブロックがあり、そのまわりをカプセル状の移動体がゆっくり漂っていた。

 太い搬送路が何本も走り、その脇に大小さまざまな商業ブロックが貼りついている。ブロックの外装は統一されておらず、白いもの、青銅色のもの、赤いもの、半透明のもの、植物めいた外殻を持つものまであった。

 看板も、文字も、光の色も、匂いまで混ざり合って、まるで街が延々と自己主張しているみたいだった。

「これ……全部、市場?」

 僕が、思わず聞くと、ブライアントは頷いた。

「そのようだな」

 青葉が、僕の視界に地図をオーバーレイした。

『全部が市場の店舗ではないようですが、表通りの店舗の他に、見本展示場、契約区画、倉庫、搬送場等が、全て接続されている複合体(コンプレックス)になっているようです』

「市場っていうか、街を無理やり繋げたみたい」

 僕が、そう言うと、ブライアントが頷いた。

「たぶん、逆だろうね」

「逆?」

「もともと別々の街や拠点だったものが、儲かるからって増築と接続を繰り返した結果、今みたいな“市場がリング上を溢れるようにつながる姿”になったんだろう」

 その言い方が、妙にしっくりきた。

 きちんと設計された都市の拡張というより、商いと欲と物流が、あとからあとから遺跡の骨格へ貼りついて大きくなったように見える。

 それでも崩れずに動いているのは、さすがにグラブール人と、その下で働く無数の種族たちの技術なのだろう。

 ジェプラは、窓の向こうを真面目な顔で見つめながら、小さく言った。

『白兎族の神殿圏では、遺跡へのこのような継ぎ足し方は、あまり好まれません』

「やっぱり?」

『はい。補修や、許された区画での利用はしますが、ここまで露骨に“商業の都合で増やす”のは……少し落ち着きません』

 それは、ジェプラらしい感想だった。

 ナヴーピでは、〈先住者〉由来の設備も、神殿も、水路も、生活の中へ穏やかに溶け込んでいた。

 でも、ガナドラでは、遺跡も市場の流れに巻き込まれている。

 ブライアントは、そのジェプラの言葉を聞いて、少しだけ口元をゆがめた。

「逆に言えば、それだけ金と物が集まる場所ってことだ。信心だけじゃ、この規模は維持できない」

『それは理解します』

 ジェプラは、反発するというより、慎重に受け止めるように言った。

『ですが、理解と好感は別です』

「それは、正しい」

 ブライアントは、そこで変に否定しなかった。

 そういうところは、この人の良いところだと思う。軽く見える時もあるけれど、本当に大事なところでは、相手の感覚そのものを笑わない。

 太郎が、窓の向こうを見ながら唐突に言った。

『搬送路の補修痕が多い』

「そこなの?」

『市場は壊れながら動いている』

 その言い方に、僕は、少しだけ目を細めた。

 たしかにそうかもしれない。

 ガナドラは完成した市場ではなく、壊れ、継ぎ足し、取り替え、また流し込みながら、止まらずに動いているのだろう。


***


 ゼカタが小型艇用の係留区画へ滑り込み、僕たちはボイカシ市場の外縁に降り立った。

「へえ……」

 独特の雰囲気があった――匂いがあり、音があり、視線がある。

 焼いた油みたいな匂いに、甘い果実酒のような匂いに、機械の潤滑剤の匂いに、湿った水槽の匂い――何かよくわからない香辛料の刺激まで混ざっていた。

 建物の上空では、搬送ドローンが忙しく飛び交っている。通りの左右には、小さな店が本当に延々と並んでいた。

 開け放たれた店先には、機械や樹脂の部品、衣服、薬品、謎の置物、発光する石、半透明の液体、古びた金属板、ぬいぐるみみたいなドローン、金属製のドローン、乾燥した肉のようなものまで所狭しと並んでいた。

 ……ナヴーピの神殿は、静かな場所だった。草原の風の気配や人々の視線はあっても、どこか抑えられていて、整っていた。

 ここは違う。ボイカシ市場は、最初から、こちらへぶつかってくるようだ、と思った。

「……なんか、アメ横と秋葉原と香港の市場をごちゃ混ぜにしたみたいだ……」

「? ローカルな例えか?」

「うーん。まあ、そんなところ」

「そんな場所に行ったことがあるのか?」

「まあ、一部は。すごくごちゃごちゃしてて、しかもそのごちゃごちゃ自体が怪し楽そうな感じが近い、かも」

 そう言うと、ブライアントが少しだけ笑った。

「なら、お前も、大分、楽しんでいるな」

「半分くらいはね」

 残り半分は、圧倒されている。

 通りには、白兎族だけではないグラブール人が本当に大勢いた。大栗鼠族の、小柄で尾の大きい一団がいた。狸族よりも大きくて、青っぽい猫のような堂々とした体格の男たちもいた。河馬族のような、重そうな身体をしているのに妙に器用に歩く者たちもいた。

 ナヴーピで朝の応接に来ていた他部族たちを何倍も増やして、しかも誰もが自分の目的を持って忙しく動いている感じだった。

 ジェプラは、やや緊張した面持ちで、でも案内役らしく姿勢を崩していなかった。

『白兎族の地方神殿では、ここまで色々な部族が一同にいることは、ありません』

「やっぱり?」

『はい。ここは、まるで……』

 彼女は少し言葉を探した。

『ネットで見る大集会の外縁部が、そのまま商いの形になったようです』

「外縁部?」

『はい、部族の(おさ)以外でも、色々な議題を、集まって直接討論することがあります。部族間の調整以外のことは、そこで話し合われます』

「なるほど、VRネット集会だな。人類連邦も、基本はAIによる利害調整だが、そういうのもあるよ」

「へえ……」

 ある露店の前では、大栗鼠族の女が細い金属棒を束ねた工具セットを売っていた。

 別の店先には、狸族の男が、発光する球体を山のように積んでいた。

 河馬族の商人が扱うブロック状の食料材の前を通った時、ジェプラが少しだけ足を止めた。

『……これは』

「気になるの?」

『白兎族の保存食とはかなり違います』

「食べてみる?」

『い、いえ、今日は任務がありますので』

 真面目すぎる返しが、ちょっとだけ面白い。

『あとで食うか?』

 太郎が横から口を出すと、ジェプラは少し慌てた。

『食べるとは申しておりません』

『気にしていた』

『気にしていたのは、文化比較の意味であって』

「はいはい」

 僕が、笑いながら割って入ると、ブライアントも肩を揺らした。

「お前ら、だいぶ馴染んできたな」

『馴染んではいません』

『馴染んでいる』

 真逆の返答が同時に返ってきて、今度は僕まで吹き出しかけた。


 そんなことを話しながら通りを歩いているうちに、今度は明らかにグラブール人ではないものが視界へ入った。

 最初に見たのは、巨大な水槽だった。

 いや、水槽が歩いているように見えたというほうが近い。半透明の容器が自走していて、その中に、二mくらいはある、紫色の六角柱みたいなものが浮いていた。六角柱の表面はぴくぴくしていて、ときどき内側で何かが脈打つように明滅していた。

「……あれ、何ですか?」

 僕が、立ち止まって尋ねると、ブライアントが、直ぐに応えた。

「ガラXFIザAだ」

 その声が、ほんの少しだけ低くなる。

「人類と敵対してる異星人だ。俺の船、ザラスターを潰したのも、奴らの『打擲(ちょうちゃく)艦隊』さ。奴らは、人類連邦の影響領域を認めていない……いや、認識すらしていない――わざわざ入り込んで、冒険者を狩っている」

「そうなんだ……」

 青葉に色々な異星人のことを聞いていたけれど、そんな危険な連中がいたのか、と改めて思った。

「俺も、その小隊に囲まれて、やられた」

「……」

 僕は、もう一度、その“水槽の中の六角柱”を見た。見た目だけなら、どう考えても会話できる相手に見えない。コミュニケーションが取れるのだろうか?

「奴ら、グラブール人とも、あまり仲が良くはないらしいが……このガナドラには、いるんだな」

 ブライアントは、顎に手を当てた。

 さらに歩くと、今度は金属の棒が何本もねじくれて自律移動しているようなものが通り過ぎた。

 磨かれた金属光沢を持ちながら、まるで筋肉みたいにしなる動き方をするのが妙に気持ち悪かった。

「あれは?」

「ギムラーク」

「怖いね……」

「見た目ほど単純じゃないが、まあ、初見でそう思うのは普通だ」

 別の区画では、丸いカプセルの中を、柔らかい半透明の何かがふわふわ漂っていものが、くねくねと触手を動かして歩いていた。

 カプセルの中のモノの色は乳白色に近いが、内部で微細な発光が走るたびに、形が崩れるように見えた。

「あれも異星人?」

『アフアヒと推定します』

 青葉が応えた。

『臭素系生物です。グラブール人や地球型の酸素を含む大気では呼吸できないので、生体維持容器と一体化した移動様式です』

「色々な異星人がいるんだね……」

『同感だ』

 太郎が珍しく、少し疲れたような声を出した。

「太郎でもそう思うんだ」

『多すぎる。整備対象が散りすぎている』

 そこなのか。


***


 ゾンゾは、市場の入口から少し入った通りまで来ていた。

 そこには、丸太を組み合わせたような意匠の門があって、どうも待ち合わせ場所になっているようだった。

 僕たちが視界の情報量に押されているあいだ、狸族の商人は妙に楽しそうな顔でこちらの反応を観察していた。

『よう来ましたなあ、神子はん御一行』

「待っていたんですか?」

『案内料込みでっせ』

「案内料って、まだ何も払ってないけど……」

『せやから後でまとめてでよろし、いう話ですわ』

 この調子の良さは、本当に信用しづらい。けれど、こういう場所では案内役がいるだけでだいぶ違いそうなのも分かる。

 ゾンゾは、手慣れた様子で通りを歩き始め、僕たちはその後ろを追うことになった。

『ほな、まず基本からいきまひょ』

 彼は、歩きながら、ひらひらと右手を揺らした。グラブール人の基本と同じ六本指だけど、少しぽってりしていた。

『ボイカシ市場は、表通りで見えてるもんが全部やと思ったらあきまへん。ここは、小商いの顔をした巨大な中継所や。店先で話がついたら、現物は別倉庫、契約は別区画、本店はまた別ステーション、いうことがザラですわ』

「つまり、ここで見たものが全部ここにあるわけじゃない、ってことか」

 ブライアントが低く頷いた。

『せやせや。見本市であり、噂の交差点であり、値踏みの前哨戦でっせ』

「そういう場所だろうとは、思っていたさ」

 ブライアントは、肩をすくめた。

『せやけど、思ってるのと歩くのは違いまっしゃろ?』

「そうですね」

 僕は頷いた。言い方が妙に癪だったが、事実ではある。


 ゾンゾの後ろについて最初の通りを歩き始めてすぐ、僕は、この市場が単に広いだけではないのだと気づいた。

 通りの左右には、露店のような小店、半分だけシャッターが開いた怪しい店、奥へ長く続く商館風の店舗まで混在している。

 そして、通りごとに、流れている時間の速さみたいなものが違っていた。

 工具や部材を積み上げた通りでは、店主も客も話が早い。品を見て、値段を言って、首を振って、次へ行っていた。

 その次の通りでは、香料や織物や飲食の屋台が並び、こちらは逆に滞留していた。

 さらにその奥には、露店と祭具店と古物商がごちゃごちゃになった区画があって、そこでは、時間の進み方が妙に遅い感じだった。買うために来ているのか、眺めるために来ているのか、誰もはっきりしないまま居座っている感じだった。

「市場って、もっと全部ごっちゃだと思ってた」

 僕が言うと、ゾンゾが肩越しに笑った。

『ごっちゃではありまっせ。でも、ごっちゃにも流儀がありますんや』

「流儀」

『そらそうでっしゃろ。同じ“売る”でも、鉄屑売るんと、祈祷具売るんと、密輸品を横流しするんとでは、客の顔つきも、店の間合いも違いますわ』

 さらっと物騒なことを混ぜるな、と思ったが、ブライアントは妙に納得していた。

「店の空気を読まないと、値段を聞く前に追い払われそうだね」

『その通りでっせ』

 ゾンゾは、嬉しそうだった。

『神子はんは目立つから、なおさら空気読みが要りますな』

「そこは、嬉しくないなあ」

『でも、うまくやれば、相手から寄ってきまっせ』

 それはたしかに、もう起きていた。

 白兎族の神子、神の船の主、機怪人形。

 そういう噂がどの程度まで流れているのかは分からないけれど、通りの中には僕たちへ明らかに興味を示す視線がかなりあった。

 ただ、その視線も一色ではない。

 純粋に珍しいものを見る視線を感じた。

 商売に使えるか測る目も、宗教的な畏れを帯びた視線もあった。

 そして、ごく少数だが、値踏みよりもっと冷たい目もあった。

 ――ガナドラは歓迎だけの場所ではないのだと、その時点でもう分かってた。


***


 ゾンゾは、何軒かの通りを選びながら進んでいった――どうやら、最初から僕たちをどこへ連れていくか決めていたらしい。

『ここからが、まあ、それっぽい店筋でっせ』

 通りの雰囲気が、少し変わった。

 見た目は相変わらず雑多だが、店先に並ぶ品の“意味不明さ”が一段増していた。

 機械なのか祭具なのか判別しにくい金属片、薄く脈打つ水晶板、古代文字らしき刻印のある部品、そして、いかにも偽物っぽい秘宝まで混ざっていた……。

「……怪しい」

 僕が、言うと、ゾンゾが振り返って笑う。

『怪しない秘宝屋なんて、秘宝屋ちゃいますやろ』

「えー、なにそれ?」

『グラブール人は、〈先住者〉の遺跡からの出土物を、神々の起源に連なるものとして扱っています。つまり、人類圏の骨董市場やジャンク市場のように、出土品をそのまま“珍しい品”として表立って並べることはしないものと思われます』

『さいです』

 ゾンゾが、にこにこしながら頷いた。

「……そいつは盲点だったな。人類の領域なら、由来の怪しい遺物ほど、むしろ高値で裏表なく売り買いされる。少なくとも、何かが欲しければ、まずは市場の棚を見るという発想になる」

 ブライアントは、両手を広げた。

「でも、ここは、大市場とはいえ、グラブール人の信仰や敬意が先なんだろう」

 ジェプラの方を見ると、彼女は頷いていた。

「なるほど……」

 ……その上で、それでもなお流通してしまうものだけが、別の種族へのトレードや、表向きは用途不明の“古物”として、ようやく市場へ顔を出すのだろう。

 ゾンゾが、そのことを、いかにも事情通らしく両手を広げて説明した。

『せやからな、神子はん。〈先住者〉の高位遺物は、表へ堂々と並べるもんやないんですわ。グラブール人からしたら、神棚の御神体を値札つけて売るようなもんです』

「分かりやすいような、余計にわかりにくいような……」

 僕がそう言うと、ブライアントが横から補った。

「つまり、取引自体は、ある。でも、露骨に“売ってます”と宣伝することは、ない」

『その通りでっせ』

 ゾンゾは満足そうに尻尾を揺らした。

『ほな、まずは“そのへんをそれなりに扱える店”から回りましょか』

 そうして、僕たちはゾンゾの案内で、〈先住者〉系の“秘宝”を扱うという店を何軒か巡ることになった。


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